ギョロギョロちゃん
ギョロギョロちゃん
俺の隣の席にはギョロギョロちゃんと呼ばれる不気味な女がいる。
ギョロギョロちゃんは今時あまり見ないようなおかっぱ頭で、その名の通りに大きな両の瞳をギョロギョロとあちらこちらに向かわせる事がある事から、いつしかそんな風に呼ばれるようになったらしい。
クラスメイトからは完全に浮いていて、けれどその不気味な様子から、虐められたりもしていなかった。
ある日三限の国語の授業を受けている時の事だ。
退屈な授業に飽き飽きしてペンを咥えていた俺は、頬杖をついて教室を眺めていた。
もうすぐ高校受験が控えているからか、皆必至に先生の話に耳をそばだて、手元のノートに蛍光ペンを走らせていた。
ボーッとしていると、俺の隣の席の女が、天井を見上げていることに気が付いた。
見ると、ギョロギョロちゃんは大きな出目金の様な目を見開いて、楽しそうに視線を泳がせている。
「……ふふ」
口元からギョロギョロちゃんの声が漏れたのを聞いて、俺は気持ち悪く思って顔をしかめた。
けれどギョロギョロちゃんは俺の視線なんかには気が付かずに、よっぽど楽しいことがあるのか真上の天井を見上げ続けてニヤけている。
何が楽しいのか知らんと思いながらも、怖いもの見たさに俺もギョロギョロちゃんが眺めている天井を見上げみた。
「……うわ…………ッ!!」
俺のすぐ頭上には、逆さになった女の首が、髪を垂らしてギョロギョロちゃんを見ていた。真っ白い肌で、落ち窪んだ目が黒くなって目立っている。
「どうした川上?」
教壇の先生が俺に声をかける。クラスメイトたちも一斉に振り返った。
「いや……なんでも……すいません」
「受験も近いんだからしゃんとしろよー」
先生は黒板に向き直り、クラスメイトも前を向いた。
しかし隣のギョロギョロちゃんだけは未だに天井を見上げていた。
俺がそーっと見ていると、その視線はギョロギョロとあちらこちらに激しく動き回って、最後に何故か俺の頭上で止まった。
そしてそれまでニヤリとしていたギョロギョロちゃんは、途端に真顔になった。
俺は怖くなって机に突っ伏した。
あの時俺の頭上に何が居たのかはわからない。




