雪かき
雪かき
私の実家は毎年冬になると五~十メートルの雪が積もる豪雪地帯なんです。
これは私が高校生の時に、お父さんと二人で家の周りの雪かきをしていた時の話。
その日は一段と冷え込んで、私は布団にくるまりながら嘆きました。
冬になると、雪かきは毎朝の日課となります。そうしなければ家の周囲を出入りも出来なくなるし、毎日欠かさず積み上がっていく屋根の雪はしっかり下ろさないと屋根が落ちて来るそうです。
こんな土地に住んでいなければこんな気苦労は無かったろうに、と思いながらため息をついていると、私の部屋の前でお父さんの声がしました。
「加奈子。雪かき」
私は返事もそこそこに、その辺に投げ出されたウェアの上下を着てニット帽を深く被りました。
扉を開けると、お父さんは目出し帽姿で立っていました。
「わるいなぁ」
「うんいいよ」
私はお父さんについて玄関に向かうと、二人して長靴を履いて外に出ました。
何時にも増して深く積もった雪景色が私を迎えます。空は曇天で、未だに大粒のボタン雪が降り注いでいました。
「お父さんは屋根の上やるから、加奈子は家の周り頼む」
お父さんは軒下に並べられた赤い雪スコップを私に渡すと、そそくさと屋根にかかる梯子を登って行きました。
平屋と云えど、屋根の上は中々に高く、落ちたら怪我をするので心配でしたが、お父さんは馴れた感じで屋根の縁の雪を下ろし始めました。
私は雪スコップを肩に担いで、周囲一面の白景色に落胆しながらも玄関の方から雪をかき分け始めます。
極寒の寒さに耳を赤くしながらも、ある程度雪かきが終わって、私は屋根の上に立って雪を下ろすお父さんの方を見上げました。
「お父さん、大丈夫?」
「おお、今日は一段と積もっとるでな、もう少し」
お父さんが屋根の上で手こずっているのを見て、私も屋根へと続く梯子に足をかけました。
屋根の上にひょっこり顔を出すと、がに股になってしっかりと足場を固めたお父さんが黙々と雪スコップを奮っています。
すると、雪をかくお父さんの数メートル先の真っ白な雪の上に、とても目立つ黒い物体が私の目に映ったのです。
「お父さん、なにそれ?」
私が目を凝らすと、その雪の上にポツンと置かれた黒い物体の全貌が次第に明らかになっていきました。
それは、長い髪を携えた真っ白い肌の女の生首でした。真っ白い雪のキャンバスの上に、同じくらい真っ白い顔をしているので、始めは髪が浮いていると思ったのですが、それは確かに女の顔で、口をぽっかりと開けてぼんやりと前を見ているのです。
「ひっ」
「加奈子、何か言ったか?」
お父さんにはそれが見えていないのか、次第にその女の生首に近付いていきました。女は雪の上に長く落ちた黒髪を風になびかせながら、次第に赤くなった目でお父さんを睨み、見上げています。
「お父さん! 戻ってきて! 何かある」
「何を訳のわからん――アッ!」
お父さんが白い雪の上に落ちる髪を踏んで、足を滑らせたのです。
「お父さんッ!」
お父さんは屋根から滑落していきました。私は状況を整理できず戦慄いていると、女の生首がぐるりと捻り私の方を見ました。
女は瞳をニタリと歪ませながら、私に向かって顔の半分にもなりそうな位の大口を開けました。
幸いお父さんは私が雪を積み上げていた所に落下して、軽傷で済みました。
私はお父さんにその時の事を全て話しました。お父さんは何か思い当たる節があるのか、神妙に頷いてそれを信じてくれたようです。
けれど雪かきをしない訳にはいかず、冬になると私は同じように雪かきをしています。




