第52話 読み合う二人
図書館にて、お互いオススメの小説を交換し合って借りてきて。
帰って早々、俺たちはソファに並んで座ってそれを読み始めた。
「………………」
「………………」
お互いのページを捲る音と、開けた窓の外から僅かに届く街の喧騒が集中するのにちょうど良い。
「……ふぅ」
隣から、パタンと本を閉じる音と満足げな吐息が聞こえてきた。
それだけで、どうやらの俺のオススメはお気に召していただけたようだととわかる。
もちろん、俺も唯華のオススメしてくれた本を凄く楽しんでいた。
基本は骨太なファンタジーなんだけど、キャラ同士の掛け合いが軽妙でついつい笑ってしまう。
けどメリハリが効いてて、熱いシーンはとことん熱い。
いやぁ、ホントに俺好みだわ。
流石唯華、良いのをオススメしてくれた。
ただ結構分厚いんで、俺の方は読み終わるまでまだ時間がかかりそうだ。
「ふぁ……」
唯華はしばらくスマホをいじっていたかと思えば、小さくあくび。
もしかすると、昨晩も夜更ししていたのかもしれない。
うつらうつらと船を漕ぎ始めるのが視界の端に映ったので、ふと目を向けると……。
「っと、危ねっ……!?」
向こう側に倒れ込みそうになっていて、慌てて肩に手を回して抱き止める。
「んぅ……」
少しだけ身じろぎした唯華は、今度は反対側……俺の方へとゆったり倒れてきて、コテンと俺の肩の上に頭が載った。
まぁ、下手にフラフラされるよりこっちの方が安全か……と、このまま放置することにする。
この距離は、ちょっと緊張するけど……。
「……ははっ」
なんて思って寝顔を眺めていたら、ふと笑ってしまった。
その顔は、勿論綺麗な女性なものだけど。
眠っていると、いつもより随分とあどけない印象で……当たり前ではあるんだけど、『ゆーくん』にそっくりだったから。
これなら、変に緊張もせずに済みそうかな……、
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
パタン。
近くで生じた本を閉じる気配をきっかけに、私の意識はゆっくりと浮上していった。
「……ふにゃっ」
自分でも謎の声と共に目を開けて、初めて自分が寝ていたことを自覚する。
でも、ベッドじゃない……?
えーと、ここどこだっけ……?
「おはよう」
「ふにゃ……?」
間近から聞き慣れた声が聞こえて、私は何とは無しに目を向ける……と。
「ふにゃっ!?」
すぐそこに秀くんの顔があって、三度目の奇声と共に仰け反ってしまった。
「っと、危ない」
そのままソファからずり落ちそうになったのを、私の肩を抱く形で秀くんが支えてくれる。
「あ、ありがと……」
それはありがたいんだけど、目覚めて一秒でこの距離は刺激が強すぎるってぇ……!
……うん? あれ?
ていうか……私、秀くんにもたれかかって寝ちゃってた……よね……?
「あ、ごめんね? 肩、重かったでしょ……?」
「いやいや、全然軽いもんだったよ。それに……」
徐々に現状を認識してきて謝る私に、秀くんはなんだかイタズラっぽく笑う。
「可愛い寝顔を間近で見れて、眼福だった」
「っ……!?」
いつもは天然でクリティカルを放ってくる秀くんだけど、今回は完全に狙ってるよねぇ……!?
あぁもう私ったら、変な寝言とか言ってなかったよね……!?
あれっ、ちょっとヨダレ垂れてない!?
うぅ……こないだ油断しないようにって気を引き締め直したとこなのに、また変なとこ見られちゃったなぁ……!
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
唯華は奔放に見えて……そういう側面があるのも事実だけど、一緒に生活するに当たって実はかなり『ちゃんと』している。
でも、最近はこうしてちょっと油断してるようなところも見せてくれるようになって。
野生の動物が気を許してくれたみたいな気分で、なんだか少し嬉しくなる俺なのだった。
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2巻は夏頃発売の予定ですので、2巻もどうぞよろしくお願い致します。







