SS Extra2 ホワイトな日に
「ただいまー」
「おかえりー」
ちょっと実家に行ってくるって出掛けてた秀くんが帰ってきたのを、リビングで迎える。
目を向けると、その手にはケーキボックスが。
「唯華、これ……バレンタインのお返し。チョコ、ありがとな」
と、秀くんがそれを差し出してくれる。
「……あっ、今日ホワイトデーかっ」
一瞬遅れて、ようやく私はその事実を思い出した。
チョコを渡した時点で私的にはイベント終了で、お返しのことなんてすっかり頭から抜けてたよね。
「わーっ、美味しそうっ」
箱を開けると、小さめのホールケーキが顔を覗かせた。
沢山のイチゴに彩られて、なんだか宝石みたい。
「わざわざ買ってきてくれたんだ、ありがと……あれっ?」
ケーキを眺めているうちに、ふと気付く。
「これ……もしかして、秀くんの手作りだったり?」
売り物にしては、びっみょーにクリームの塗りとかにムラがあるように見えるんだよね。
「ははっ、やっぱりバレるか」
秀くんは、ちょっと恥ずかしそうに頬を掻く。
「初めて挑戦してみたんだけど、やっぱ作りが甘くなっちゃってるよな」
「いやいや、全然上手だよ? でも、大変だったでしょ? 適当にコンビニで買った飴とかで良かったのに」
「や、バレンタインにくれたチョコは手作りだったろ? 手間の問題でもないとは思うけど、出来るだけ同じ気持ちを返したくて」
「えっ、じゃあ小麦栽培や酪農から検討をっ!?」
「栽培……? 酪農……?」
「あ、や、ごめん、なんでもない」
うん、一応私もね?
原材料の生産から入ろうとするのは、ほんのちょっとだけ重いかも? っていう認識くらいはあるのですよ。
「一応、スポンジから作ってはみたけど……」
「凄いねっ! 初心者とは思えない出来だよ!」
そうだよね、普通は『そこ』からだよね。
「つっても、一葉に教わりながらだし」
「それでも十分だと思うけど……一葉ちゃん、ケーキ作り得意なの?」
「なんか、毎年決まった日にケーキ作るんだよな。それが、結構凝ったやつでさ」
「へー? 家族の誕生日とか?」
「や、そういうわけじゃなくて」
「あっ、じゃあ彼氏さんにだ!」
「そういうわけでもなさそうっつーか、彼氏がいそうな気配もないというか……なんか結局、パソコンのモニタの前で一人で食べてるっぽいんだよ」
「なんだろう、毎年その日にケーキを食べたくなるのかな?」
「そんな日ある……?」
「わかんないけど……」
というか正直、一葉ちゃんについては未だによくわからないことが多い気がする。
「まぁそれはともかく、唯華に手作りケーキを作ってみようと思うんだけど……って相談したら、『ついに兄さんにも推しにケーキを捧げる文化が!』とか言ってなんかめっちゃ乗り気な感じで協力してくれたんだよ」
「そうなんだ……? よくわかんないけど、一葉ちゃんにも後でお礼言っとくねっ」
「ん、そうしてやってくれ」
まぁ、一葉ちゃん関連はともかくとして。
「それじゃ、食べよ食べよっ♪」
鼻歌交じりに、早速お皿を持ってきて切り分ける。
「いっただっきまーす」
「……なんか、ちょっと緊張すんな」
微苦笑を浮かべる秀くんを前に、まずは一口。
「んんっ、美味しーっ!」
自然と、本音が溢れた。
「ははっ、大げさなりアクションだな」
と、秀くんは私がリアクションを盛ってると思ってるみたいだけれど。
「いや、ホントにホントに」
特別に変わった味がするとかってわけじゃないんだけど、そうそう私こういうのが好きなのって感じで、凄く丁寧に作ってくれてるのが伝わってきて、なんだろう、つまりはそう……。
「愛情を感じる味だよっ!」
「愛っ……!?」
私の総評に、秀くんは驚いたように目を見開いて頬を赤らめる。
けれど。
「いや、まぁ、その……込めたかどうかで言えば、込めたつもりではいるけども……」
視線を外して、頬を掻きながら照れくさそうにそう付け加えてくれた。
「んふっ」
そっかそっか、愛情を込めて作ってくれたのかー。
「んーっ、美味しいなぁ秀くんの愛! 秀くんの愛、無限にいける! 秀くんの愛、サイコーッ!」
「あんま連呼しないでくれる……!?」
なんて、恥ずかしそうな秀くんをからかってはみるけれど。
それは、私なりの照れ隠し。
だって、私もバレンタインのチョコにはありったけの愛情を詰め込んだつもりだったから。
私の愛も……伝わってると、いいなっ。
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