SS Extra バレンタインを控えて
今回はバレンタイン記念SSということで、番外編的なお話です(色んな意味で)。
色々と間に合っておらず、申し訳ございません……。
「やっぱりさー、手作りのチョコって男の人は重く感じるものかな?」
バレンタインを数日後に控えたある日、お嬢に呼び出されたオレはそんな相談を受けていた。
「相手と状況によるとしか言えねぇ気はするが……まぁ、秀一っちゃんはお嬢からの手作りチョコを重いとは思わないんじゃねぇの?」
「やだもぅ、誰にあげるか言ってないのになんでわかっちゃったのぉっ?」
「このくだり、必要か……?」
わざとらしく照れ照れした調子で頬に手を当て茶番を演じるお嬢に対して、オレが向ける視線は冷めたもんである。
「でも、そっか。それじゃこれ、無駄にならずに済みそうだね」
表情を改めたお嬢は、手元の箱に目をやって口元を綻ばせた。
どうやら、国際便で送られてきた荷物みたいだが……。
「ほーん? わざわざ国外から材料のチョコまで取り寄せるたぁ気合い入ってんねぇ」
まぁ秀一っちゃんも言うて一流を知る的な育ちだろうし? ちょうどいいんじゃねぇかな……知らんけど。
「うん? まぁ材料だけど、これはアフリカの方からお取り寄せしたカカオ豆だよ?」
「そっかー、カカオかぁ……」
まぁ、お嬢だしな。
これはオレの見込みが甘かったと素直に認めよう。
「ホントはカカオの栽培から手掛けられたらベストなんだけど、それは流石に厳しいもんね。あははっ」
……今のは、冗談ってことでいいんだよな?
笑ってたし、きっと冗談だと思っておこう。
「日本じゃ、気候の条件が厳しくて個人じゃちょっとね。とはいえ事業計画書もようやくお父様のチェックを通ったし、何年か後には……」
後半の呟きは、小さすぎて聞こえなかった……ということにしておく。
そういや社長……お嬢の父君のアフリカ方面出張が前に比べて増えてるって話をなんか小耳に挟んだような気もするが……この件とは無関係に違いない。
「ところでさー、衛太って薬とかに詳しかったよね?」
「うん? うんまぁ、一般の人より多少はな……?」
一応、毒対策的なものも兼ねてそれなりには仕込まれてるわけだが……急にどうした?
「実際のとこ、媚薬って効果あるものなのかな?」
いや、ホント急にどうした……?
まぁ、いずれにせよ……だ。
「んなもん、ぶっちゃけプラシーボレベルじゃね?」
少なくとも、エロ漫画みたいに乱れるような『媚薬』なんてのは都市伝説だろう。
「ふーん、まぁそうだよねー」
オレの答えに、お嬢はさほど興味もなさそうに頷くけれど。
「……ところでお嬢、さっきから眺めてるその小瓶は何なんだ?」
あまり造りがよろしくなさそうなガラス越しに、やや粘度のある透明な液体が見えるのがちょっと気になってはしまうよな……。
「これ? これはね、なんかカカオ豆と一緒に入ってたやつ。オマケってことでサービスしてくれたみたいなんだけど」
「おぅ」
「現地のシャーマンの人が調合した媚薬なんだって」
「oh……」
おっとぅ? ワンチャン、マジで効果ありそうなやつ来たな?
つーかそれ、日本に持ち込んでホントに大丈夫なやつかい?
「秀くんってさー、普段凄く紳士じゃない?」
「うん? うん、まぁ、そうかな……」
「そういう人が、おクスリで本人の意思とは無関係に乱れちゃう姿とか想像しちゃうとさ……なんだか、ちょっとエッチだと思わない?」
これ、何て答えるのが正解なんだろうな?
誰か、正解を教えてくれ。
ただ……とにもかくにも、一つ言えることは。
「お嬢……秀一っちゃんに贈るチョコを作る時は、オレが全面的に監視……もとい、見守りに入るからな」
オレに出来るのは、それくらいしかなさそうだってことだった。
「ふふっ、心配性だなぁ。流石にこの歳になって、チョコ作りで火傷したりなんてしないよ?」
「そういうとこを心配してるんじゃねぇんだよなぁ……」
「それじゃ、まさか……私のこと、バレンタインのチョコに異物を混入するような重い女だと思ってたり?」
「いや、うーん……」
「あはっ、全部冗談に決まってるでしょ? 秀くん口の入るものに、正体もわからないような変なの入れるわけないじゃない」
「うん、まぁ、うーん……」
オレも、さっきまでは流石にないと思ってたんだけどね。
なんかこう、今の物言いも正体さえわかればみたいな風に聞こえちまうのはきっとオレの心が汚れてるからなんだろうな。
◆ ◆ ◆
なお。
流石にこの件はマジのガチで冗談であり、異物混入はなかったとお嬢の名誉のために付け加えておく。
三日間かけてカカオ豆をすり潰す間もその後の厳密に衛生管理された環境での調理過程も全て監視していたオレが言うんだから間違いない。
ふぅ、お嬢が重い女じゃなくて良かったぜ……。







