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男子だと思っていた幼馴染との新婚生活がうまくいきすぎる件について  作者: はむばね
SS

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SS14 女の子になろう

 その日、俺は辱めを受けていた。


「ヒュゥ! 可愛いよ秀くん! ホントに女の子みたーい!」


「うぅ……もうお婿に行けない……」


「大丈夫、私の可愛いお婿さんだよ!」


「くっ、殺せ……!」


 ──パシャァパシャァパシャァ!!


 そんな会話を交わす間にもシャッター音が鳴り響き、フラッシュの光が唯華の制服を着た(・・・・・・・・)俺の姿を眩しく照らす。


「兄さん、なんですかその足の開き方は! 女の子なのですからもっと恥じらいを持ってください兄さん! 兄さん、エッチな女の子が過ぎます!」


「お前はその文中に存在する矛盾に気付かないのか……?」


「『兄は姉を兼ね姉もまた兄を兼ねる』と言うではありませんか!」


「うわぁ、初めて聞く格言だぁ……一つ賢くなれたよ……」


 ──パシャァパシャァパシャァ!!


 謎の情念がこもった瞳で、一葉がファインダー越しに唯華の制服を着た(・・・・・・・・)俺の姿を捉えて連続でシャッターを切る。




 斯様な地獄の釜の蓋が、なぜ開かれることになったのか。


 話は、一時間ほど前に遡る。



   ◆   ◆   ◆



 それは、とある平和な金曜の夕刻のことだった。


「秀くん、女装してみないっ?」


 ……平和ってやつは、いつも思いもよらないところから終焉に向かい始めるよな。


「えっと……しない、けど……」


 とりあえず、普通に断ってみる。


「秀くん、女装してみないっ?」


「おっとぅ? 『はい』を選ぶまで無限ループする会話かな?」


「秀くん、女装してみないっ?」


「『はい』を選ぶまで無限ループする会話らしい。現実でも遭遇することってあるんだね」


「秀くん、女装してみないっ?」


「てか、なんで急にそんな話になったんだよ……?」


「秀くん、女装してみないっ?」


「嘘だろ、俺には経緯を確認する権利すら与えられてないっていうのか……!?」


「秀くん、女装してみないっ?」


「ずっと満面の笑みが一ミリも崩れない……」


「秀くん、女装してみないっ?」


「いや……」


「秀くん、女装してみないっ?」


「あの……」


「秀くん、女装してみないっ?」


「わかった、やるよ! やればいいんだろ!」


 このままじゃマジで無限ループが続くとみて……というか機械的に質問を繰り返す唯華がなんか怖くて、ついに白旗を挙げる。

 俺は、無力だった。

 

「ありがとー!」


 だけどおかげで、ようやくループから脱出出来たみたいだ。

 ただ、犠牲になったものはあまりに大きい……。


「それで、どういう経緯かっていうとね?」」


「一応、俺の話も聞いてくれてはいたんだね……」


「話せば長くなるんだけど、昨日の晩に一葉ちゃんと通話してる時にさ……」



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



『義姉さん、今度兄さんに女そ』


「いいね!」



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



「というわけなの」


「あまりに短い回想、長くなる要素がどこにもなかった」


「その後、秀くんの女装がどれだけいいか一晩中語り明かしたから」


「それは、『話せば長くなる話』じゃなくて『長く話した話』なのでは……? えっ、ていうか俺が女装してない段階で何を語るっていうんだ……?」


「エア秀くん女装談義」


「エア秀くん女装談義」


 思わずそのまま繰り返してしまった。


 オーケーオーケー、これ以上ここを掘り下げるのはやめておこうか。

 何が出てきても俺に損しかない気がするからね。


 ていうか唯華、なんか一葉から変な影響受けてない……?

 徹夜明けらしいし、その影響でちょっとおかしくなっているだけだと信じたい……。


「そもそもの話なんだけど、なんでそんな俺に女装させたいんだよ……?」


「え? 見たいからだけど」


「あ、はい……」


 人間、あまりにストレートな感情を向けられると頷く以外の選択肢がなくなるものなんだね……。


「じゃあもう女装するのはいいとして……俺は、何を着ればいいんだ?」


「それは、もっちろん……!」


 唯華は、踊るような足取りで自分の部屋に入っていき。


 すぐに戻ってきた、その手にあるのは……。


「これ!」


 唯華の、制服一式だった。


「えっ、と……」


 何から話せばいいんだろうね? と、思わずこめかみに指を当てて唸ってしまった。


「秀くん、『男に二言はねぇ、潔く女装してやるよ!』だったよね?」


「そんなことを言った覚えはないけど……」


「『制服でもビキニでも何でも持って来い!』って言ってたよね?」


「その声が本当に聞こえていたんだとしたら耳か脳の病院に行った方がいい」


 ……や、じゃなくて。


「一応、確認なんだけど……それ、唯華が今日着てた制服一式だよな?」


「そうだよ?」


 唯華は、何を当然のことを? とばかりの態度だけれど。


「それは、流石にマズいというか……よくないんじゃないかなーって……思うんだけど……思わない……?」


「思わない」


 嘘だろ、この案件においてこんな曇りなき眼で断言されることある……!?


「えーと……俺がこの制服着るの、唯華は嫌じゃないの……?」


「嫌じゃない」


 ダメだ、この方向の攻め手はたぶん全部即詰みだ……!


「あっ、ていうかそもそもさ! 唯華のじゃサイズが合わないだろ!? 破れちゃうと困るしさ!」


「大丈夫、こんなこともあろうか(・・・・・・・・・・)()用意してあった大きいサイズのを今日は着てたから」


「成長期を見越してとかじゃなくて……!?」


 そういや確かに、なんか今日はやけにダボっとしてる気がするな? とは思ってたけども……!


 なんだろうね、このどんどん後がなくなってきてるような感じ……!

 だが、これを受け入れるわけにはいかないというか……!


「いや、だから、その、流石に唯華が今日着てたのをそのままっていうのはね? なんか……」


 もう、すっかり暑くなってきてる昨今なわけでね?


 なんていうか、その……色々(・・)、染み込んでいると思われると申しますか……それを俺が着用するというのは、些かですね……。


「変態性が高すぎるというか……」


「は? だからこそいいんだが?」


「なんて?」


 真顔で何を言ってんだ……!?

 ていうかなんか唯華の目、据わってきてないか……!?


「んん゛っ、失礼」


 と思ったら、ニコリと微笑んでくれてホッとする。


「確かに、そこはちょっと良くないかもしれないね? でも、他に女装で着れるようなのないから仕方ないじゃない?」


「いや、洗濯済みの私服とか……」


「ダメ。初めての女装は制服でなければならないって、憲法で定められてるから」


 なんでそうやって、すぐスンッて真顔になんの……!?


「じゃあ、クリーニングに出して日を改めるとか……」


「ダメ。女装時の制服にクリーニング済みのものを用いてはならないって、憲法で定められてるから」


 目がキマってて怖ぇんだって……!


「へぇ、そうなんだ……俺、この部屋に日本国憲法以外の憲法が施行されていたっていう事実を今初めて知ったよ……」


 こうして結局、唯華の謎の圧に屈して俺はなし崩し的に承諾することになってしまったのだった。

 外圧って、怖いですね……。

すみません、長くなったので分けます。

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