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男子だと思っていた幼馴染との新婚生活がうまくいきすぎる件について  作者: はむばね
SS

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53/158

SS8 愛してる

 観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空……。


「唯華……愛してる」


 空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得以無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多故心無罣礙無罣礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多呪即説呪曰羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶般若心経……!


「………………んふっ」


「あっ、今ちょっと笑ったろ!」


「笑ってない笑ってない」


「ホントかー……?」


「ホントホント」


 秀くんの追及を、どうにか涼しい顔を形作って躱す。


 今回の勝負は、愛してるゲーム……『愛してる』って言って、照れたり笑ったりした方が負けになっちゃうからね。


 ふぅ……それにしても、ギリギリだった。

 心の中で般若心経を唱えてたおかげで、凄くニヤけそうになっちゃうのをどうにか耐えきれたよ……。


「じゃ、次は私の番ね?」


「あ、おぅ……」


 まだ微妙に納得してない様子ながらも、秀くんは小さく頷く。


 そんな秀くんと正対し、私は真剣な表情を形作った。


「秀くん……愛してます」


「………………っ!」


「はい照れたー! 秀くんチョロすぎー!」


 一瞬だけ耐える様子を見せたものの、すぐに赤くなった顔を逸した秀くんを指差して煽る。


 ふふっ……すぐに照れちゃって、可愛いんだから。


「いや……唯華みたいな可愛い子に言われたら、嘘だってわかってても大抵の男は照れるって……!」


「あはっ、嬉しいお言葉ありがとう。だけど……嘘じゃ、ないんだけどね?」


「追撃してくんなよ……!?」


 ホント……嘘じゃ、ないんだけどなぁ。


「そ、それより、リベンジ! リベンジの機会をくれ! 今度こそ唯華を照れさせてみせるから!」


「ふふっ、負けず嫌いだよねー。いいよ、受けてあげる」


 さて……心の中に、般若心経をスタンバイ。


「愛してる」


 観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空……。


「うーん、さっきと同じじゃ芸がないよねぇ。もっとパッションを込めてみたらどうかな?」


「愛してる!」


 空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中……。


「おっ、いいねぇ。じゃあ、今度はもっと親しげに」


「愛してるよっ」


 無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽……


「時に、ちょっと切なく」


「愛して……いるんだ」


 乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得以無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多故……。


「崇拝するかのように!」


「嗚呼、愛していますっ……!」


 心無罣礙無罣礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故……。


「ちょっと、とぼけたみたいに?」


「え? 愛してるけど?」


 得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪……。


「外国人風にいってみよう!」

「ヘーイ、アイラーブユー! ……いや、もうこれ完全に遊んでるよな!?」


 能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多呪即説呪曰羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶般若心経……ふぅ。


 危なかった……般若心経がなかったらとてもじゃないけど耐えられなかった……ありがとう、般若心経……。

 ていうか秀くん、なんだかんだで全部のリクエスト受けてくれてサービス精神旺盛だよね。


「もういいよ、俺の負けで」


「ふふっ、拗ねない拗ねない」


 ちょっと悔しそうな秀くんの頭をナデナデしてあげる。


「あっ。唯華、そこ」


「うん?」


 秀くんは私の後ろを指差していて、そちらを振り向くと……秀くんが、口を私の顔のすぐ横にまで近づけてきて。


「……愛してる」


「っ!?!?!?」


 ちょっ……! いきなり耳元で囁く低音イケボは反則……!

 それ禁止カードだから……!


 完全に油断してたから、般若心経も間に合わなかったし……!

 いや、これはたぶん般若心経でもガードしきれなかったよね……!


「おっ、ようやく照れてくれたな」


「い、今のはいきなり耳に息を吹きかけられたから驚いただけだし……!」


「ははっ、そうだったか」


 強がってみるけど、秀くんにはお見通しみたい。


 私も、自分の顔が凄く熱くなってるのは自覚してるしね……。


「……いいでしょう、私の一敗は認めてあげる。だけど、総合成績で言うと一発で決めた私の勝ちでいいよねっ?」


 ちょっと悔しくて、そう言いながら秀くんに指を突きつけてやる。


「あぁ、そうだな。唯華には勝てなかったよ」


 と、秀くんはあっさり認めたけれど。

 なんかしてやった感があるというか、勝者の余裕を感じるというか。


 私の主張だって間違ってはないはずなのに、なんだか試合に勝って勝負に負けたような気分………………だけど。


 今回、私から提案して勝負に至ったこの愛してるゲーム。

 提案した本当の目的(・・・・・)は無事に達成出来たし、良しとしましょうか。



   ◆   ◆   ◆



 翌朝。


「んぅ……」


 瞼の向こうに朝日の眩しさを感じて、ゆっくりと意識が浮上していく。


 でも私、朝はちょっと苦手。

 このまま、二度寝に突入したい誘惑に駆られるけど……。


『愛してる』


「わひゃっ!?」


 耳元で秀くんに囁かれて、一気に意識が覚醒した。


『愛してる。愛してる! 愛してるよっ。愛して……いるんだ。嗚呼、愛して──』


 正確には、耳元に設置しておいたスマホから流れてくる音声だけどね。

 ふふっ……実は、愛してるゲームの最中に密かに録音しといた声を編集してアラーム音としてセットしておいたのだ……!


 これによって、これから私は毎朝秀くんの「愛してる」の声で起きれるってわけ。


 ふっ……これが、戦略的勝利ってやつですよっ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ページをめくるとそこには波羅蜜多心経が、 でも最後のほう笑ってますやん 一葉の気持ちがよく分かる!
[一言] 経験者は語るってやつっすか
[一言] どんなに好きな音でも目覚ましや電話の着信に設定していると嫌いになるから、やめたほうがいいっすよ・・・
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