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男子だと思っていた幼馴染との新婚生活がうまくいきすぎる件について  作者: はむばね
第1章

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第36話 理由

「九条くん、随分と酷い顔ですよぅ? もしかして、徹夜明けですか?」


「え……? あ、あぁ……うん……」


 九割方働いていない脳から、どうにか高橋さんへの返答を絞り出す。


「ダメですよー? 健康は睡眠から! 睡眠不足はお肌にも悪いんですからっ」


「ははっ……そうだね……」


 ぎこちない笑みを返しながらも、考えているのは別のこと。


 昨日……唯華の書き置きを見つけた後、朝まで待っても結局唯華が帰宅することはなかった。


 どういうことか事情を尋ねようと、唯華の実家に電話も掛けてみたんだけど……。


『お嬢様にお繋ぎすることは出来ません』


『こちらからお伝え出来ることはございません』


 何を聞いても、事務的にそんな言葉を返してくるだけだった。


 それでも、学校に行けば唯華と顔を合わせることも出来るかもしれないと徹夜明けの重い身体を引きずって登校してみれば……。


「にしても、唯華さんがお休みなんて珍しいですね」


「そう……だね……」


 というわけである。


「……秀一っちゃん」


「うん……?」


 ノロノロと衛太の方へと視線を向ける。


 呼びかけられたから見ただけで、特に意味はない。


「………………や、すまねぇ。なんでもない」


 意味深に首を横に振る衛太だけど、今はどうでも良かった。



   ◆   ◆   ◆



「ふぅ……」


 授業の内容なんて一つも頭に入ってこないまま、ぼんやりと一日を過ごして帰宅。


 頭も身体も重かったけど眠気は訪れず、リビングのソファに沈み込むように座る。


 昨日から、ずっとグルグルと考えていることは一つ。


「俺は、何をやらかしてしまったんだ……?」


 唯華を怒らせた?

 唯華に嫌われた?


 だとすれば、一体何がきっかけだったんだろう……それさえわからない俺だから、呆れられて、愛想を尽かされたのかな……。


 ──ガチャ


「っ!? 唯華!?」


 玄関の扉の開く音が聞こえて、半ば以上反射的に跳ね起きて玄関へと駆ける。


「唯……」


「悪ぃな、ご期待に添えねぇで」


 だけどそこにいたのは、ドアに背を預けている姿の衛太だった。


「無用心だな。カギ、空いてたぜ?」


「……そう」


 身体から力が抜けて、思わずその場に座り込んで項垂れる。


「おいおい、なんだよ大将。女一人いなくなっただけでこの有り様か? オレの見込んだ男がよー」


「……悪い、今そういうノリに付き合えない」


 軽い調子で肩を叩いてくる衛太の手を、思わず振り払ってしまった。


「……やっぱ、本格的に参っちまってるみたいだな」


 と、衛太は小さく溜め息を吐く。


 視界の端に、何かを苦慮しているような顔が見えるが……それも、どうでもいい。


「……お嬢が実家に戻った原因に、心当たりがある」


「っ!?」


 だけど続いた言葉に、自然と顔が跳ね上がる。


「ホントか!? 俺のどこが悪かった!? 何をやらかしちまったんだ!? 教えてくれ!」


「まぁ……状況を鑑みて、ネガティブになるのもある程度は仕方ねぇって理解はするけどよ」


 縋り付く俺を見て、衛太はもう一度溜め息を吐いた。


「本当に、そんなこと(・・・・・)でお嬢がこの家を出ていくと思うのか?」


「えっ……?」


 思わぬ言葉に、呆けた声が漏れる。


「アンタらの培ってきた絆ってのは、その程度だったのかよ」


「何を……言って……」


 俺がやらかしたんじゃないなら、何が……と。

 昨日からグルグルと空回り続けている頭に、突如一つの可能性が思い浮かんだ。


「……出ていったのは、唯華の本意じゃない?」


 そう……考えてみれば。


 あの、唯華が。

 何があったにせよ、何の対話もなく姿を消すとは思えない。


 こんなことにも気付いてなかったなんて、馬鹿か俺は……! いや、馬鹿そのものだぞマジで……!

 唯華の実家からの返答で、完全に唯華自身から拒絶されてると思い込んでた……!


「教えてくれ、何があった?」


 自分で思ったより、随分とハッキリとした声が出た。


「オッケー、ようやく目に生気が戻ってきたな?」


 そんな俺を見て、衛太はニッと笑う。


「つっても、オレも現場を見たわけじゃねぇ。あくまでも状況から推測される仮説ってことで聞いてくれ」


「あぁ、構わない。今は少しでも情報が欲しい」


「あと今から言う話、オレから聞いたとか言うなよ? 下手こくと懲罰モンだ」


「……ありがとう、恩に着る」


 冗談めかしてるけど、たぶんホントに俺のために危ない橋を渡ってくれてるんだと思う。


「昨日、大奥様が諸国漫遊から数年ぶりに帰国された」


 そして、衛太はそんな風に話を切り出した。


「……大奥様って、唯華の婆ちゃんか?」


「あぁ」


 確か、女の子は女の子らしくあれって教育方針で小さい頃の唯華とはよくぶつかってたって話だ。


 ……早くも、話の輪郭が見え始めたような気がする。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



「実は今回の秀一っちゃんとお嬢の結婚の件、烏丸家の伝統的に本来は大奥様の『許可』を貰わなきゃならねぇんだが……」


「貰ってないと?」


「あぁ」


 お嬢から、この話を秀一っちゃんにするのは禁止されてんだが……状況的に、前提から話しちまった方がいいだろう。


「鬼の居ぬ間にっつーことで、大奥様には内密に進めてた案件だ。あと数年は海外にいると思ってたから、その間に地盤固めをするはずだった……つーか、ぶっちゃけ結婚してそんだけ経ってりゃ流石になんか有耶無耶になるだろっつー計画だったっつーか」


「割とフワッとしてんな……」


「お嬢には時間がなかったからな……」


「……?」


「や、なんでもない」


 秀一っちゃんが他の女との結婚を決める前に、何がなんでも自分との結婚を推し進める必要があった……ってのは、お嬢的にトップシークレットだ。

 これは流石に伝えるわけにもいくめぇ。


「とにかく今回、予想外に早い大奥様のご帰国によってその計画が崩れたことになる」


「そして唯華は、俺たちの結婚を認めない婆ちゃんによって実家に連れ戻された……と?」


「可能性はある、っつーだけの話だ。それくらいやりかねない人だからな」


「……そうか」


 俺の話に何を思ったか、秀一っちゃんは顔を俯ける。


「今じゃ引退して海外を遊び歩いちゃいるが、長年烏丸の本家を取り仕切ってきたのはあの人だ。未だに各方面への影響力はガチだし、怒らせるとどっから何が飛んでくるかわからねぇ。マジであの人がお嬢を軟禁とかしてるっつーなら、ぶっちゃけ攻略は相当ハードだぜ?」


「……ふっ」


 おおっ?


 俺の親切心からの忠告を、鼻で笑いやがったかい?


「ふふっ」


 ……んんっ?

 と思ったら、なんか様子がおかしいような……。


「ふははははははははははははははははははははっ!」


 ……種類こそ違えど急に笑い出すこの感じ、どっかで見たことあんなー。


「なんだ、状況は至ってシンプルじゃないか! つまり俺は、唯華の婆ちゃんから喧嘩を売られていたんだな!?」


 えぇ……? そうかな……?

 まぁ、秀一っちゃんの立場からすればそうなる……の、か……?


「なら話は早ぇ! この九条秀一が、言い値で買ってやるよ!」


 ……つーか、秀一っちゃん。

 お嬢の意思じゃない可能性が高いことに気付いたってのと、あとたぶん徹夜明けのテンションのせいでさ……。


「ふははははははははははははははっ! いやぁ、なんだか楽しくなってきたなぁ!」


 なんか、変なスイッチ入っちゃってね?

またも体調不良が続き、更新が滞ってしまい申し訳ございませんでした……!

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