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男子だと思っていた幼馴染との新婚生活がうまくいきすぎる件について  作者: はむばね
第3章

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第97話 水面下のすれ違い

 とある夜。


「秀くん、入っていいー?」


 自室で勉強してたところ、そんな声と共にドアがノックされた。


「あぁ、大丈夫だよ」


「お邪魔しまーす」


 俺の返事を受けて、唯華が中に入ってくる。


「これ、続きも借りていーい?」


 と、唯華が自身の顔の横に持ってきたのはさっき俺が貸した漫画の一巻だ。


「全巻そこにあるから、好きに持っていってくれていいよ」


「りょーかーい」


 本棚を指差すと、唯華はおどけて敬礼のポーズを取って本棚へと歩み寄る。


「気に入ってくれた感じかな?」


「ドはまりの予感! ていうか、一巻の時点でこの展開はヤバすぎでしょ!」


「ははっ、それな」


 人にオススメしたものを気に入ってもらえると、こっちまで嬉しくなるよな。


 特に……それが、好きな子相手なら。

 同じものを、好きになってくれたんだって……嬉しいけれど、なんだか胸がちょっとむず痒いような気分にもなってしまう。


「よっ、っと……むむっ……」


 って、しまったな。


 件のマンガを並べてあるのは、本棚の一番上。

 唯華の身長じゃ、ちょっと取るのがしんどそうだ。


「ほい、これ」


 唯華の後ろに立って、続刊一式を抜き出して差し出す……ついでに。

 ふと、思いついたことがあって。


 ちょっと、実行してみることにする。



   ♥   ♥   ♥



「ありがとねーっ」


 漫画を取ってくれた秀くんに、顔だけ振り返ってお礼を言う。

 すぐ後ろに立ってるもんだから、それだけでちょっとドキドキしちゃうよねっ……!


 まぁでも秀くんのことだから、このドキドキイベントもどうせすぐに……。


「一巻時点だと、どのキャラが一番お気に入り?」


 ……んんっ!?


 えっ、この体勢ままで話すの!?


「……私的にはこの、最後に登場したライバルっぽい子が気になるかもー」


「ははっ、いかにも唯華好みのビジュアルだもんなー」


 声に動揺を乗せないよう、気をつけながら会話する……けども。

 秀くんは本棚に肘をついて、私の手元にある漫画を覗き込んでいて……ほぼ、密着状態で。


 これはいわゆる、壁ドンというやつでは……!?


 えっえっ、何これ何これボーナスタイム!?

 私、なんか知らない間にイベント発生条件とか満たした感じなのっ!?


「そーそーっ! わっ、二巻の表紙その子じゃん! 絶対大活躍するやつーっ!」


 私も、漫画に視線を落とす……ことで、赤くなってきてるだろう顔を誤魔化した。


「ネタバレになるから具体的な言及は避けるけど……二巻も、お楽しみに」

「わーっ、超気になるーっ」


 せ、背中越しで良かった……!

 正面からの壁ドンにも憧れるけど、今の私の耐久力じゃ絶対真っ赤になっちゃうの回避出来ないもん……!


 ……にしても、秀くんったらさー。

 こんなこと、平気でしちゃうのは……やっぱり、私のこと異性として意識してないからだよねー?


 勿論女の子として大切に扱ってくれてるのはわかってるし、ドキドキしてくれることもあるとは思うけど……それはあくまで、男の子としての正常な反応でしかないというか?


 なーんか、ここらでさー。


 秀くんの意識が、ガラッと変わてくれるような?

 劇的なイベントでも、起こってくれないかなー?


 なんて。

 そんな私にばっかり都合の良い展開、あるわけないよねー。



   ♠   ♠   ♠



 唯華が漫画に目を落としてくれていて、助かった。


「ちなみに横に並んでるのは外伝だけど、それも一緒に持ってくか?」


「へー、そうなんだ? タイトル違うから気付かなかった……って、あれっ? 表紙を見る限り、もしかしてこっちはライバルくんが主人公な感じっ?」


「そうそう、彼の過去編を描いたスピンオフ」


「絶対読まないとなやつじゃんっ」


「ちょっと本編のネタバレもあるから、順番にな」


「オッケーでーっす」


 きっと今の俺の顔は、真っ赤に染まっているだろうから。


 戯れに……いわゆる『壁ドン』なんてのを、試してみたわけだけど。

 慣れないことはするもんじゃないな……現在進行系で、めちゃめちゃ恥ずかしい。


 それに……。


「そうだ、秀くんって少女漫画もアリだったよね?」


「あぁ、全然読むよ」


「じゃあねじゃあね、私からもオススメがあるのっ! 昨日見つけたやつなんだけど、なんでまだ話題になってるのかわからないくらいでーっ」


 やっぱこのくらいじゃ、異性として意識してなんてくれないよな……と心中で反省する。

 流石にちょっと、浅知恵過ぎた。


 そもそも俺からここまで近づくのがレアなだけで、唯華はこのくらいの距離まで平気で近づいてくるわけだし……。


 俺と唯華の絆は、強固なものだと自負している。

 でも……強固すぎて、別の形に変わるのはきっと難しいんだろう。


 だったら……唯華の意識が変わってくれる、きっかけとなるような。


 もっと大きな、『何か』が必要なのかもしれない。

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