幕間003枚目 フードマント 漆黒色の回想録
「少シは、この身体ニ馴染ンできたカナ」
漆黒の者こと偽サーシャが琴花達と遭遇する数時間前。疲労困憊だったサーシャの肉体に乗り移ることに成功した偽サーシャは視界の悪い大森林を歩き回っていた。何体か魔物が現れたが、いずれも撃退に成功している。
途中で白骨化していた冒険者から漆黒色のフード付マントを奪い取る。結んでいた髪は戦っているうちにいつの間にか解けてしまっていた。
「素晴ラしイ。元々あっタスキルの<森の詩>。動キやスイ」
サーシャ=クレストが所持している固有スキルである森の詩は森林というフィールド内においてステータスが向上するものであり、どちらかというと魔物が所持している事が多い。
このスキルのおかげで本来ならば参加できなかった緊急クエストに特別参加できた。サーシャはこれを皮切りに冒険者のRankを上げていく予定だったが、今は囚われの身となっている。
「エクストラスキルの発動条件が、ヨク分かラナい」
なおエクストラスキルについては何なのか偽サーシャも分かっていない。ただ皮膚が固いハクトウパンに一撃を加えられたので強力なスキルである事に変わりない。
「まァいいカ。トリあえズ、ここカラ出たい。森ノ中はウンザリダ。…………しカシ、ココはドコだ?」
森から出るために歩き始めたはいいが、偽サーシャは長く封印されていたせいか道が全く分からない。
サーシャの記憶を頼りにしようにも、ハクトウパンから逃げるために我武者羅に走って来たせいか道が全く分からない。
「なんテコッた。出口が分かラナいとは想定外ダ」
途方に暮れる。だが、こんな所で突っ立ってるわけにもいかない。当てもなく歩くと分かれ道に行き着く。
「倒レた方向へ行クか」
槍を棒に見立てて立てる。
槍は分かれ道のほうではなく、偽サーシャが来た方向に倒れた。
「モウ一度やり直すか……」
大きくため息をつき、もう一度槍を立てる。今度はちゃんと前の方へと倒れたので、その方向へと足を進めていく。
「本当ニこっチで合っテいるンダロうか」
呟いた独語は大森林の中へと消えていく。誰も答えは分からない。
「ん?」
前方にキラリと光るものが見えた。近寄っていくと、そこには1枚のコインが落ちていた。
「こンナ視界の悪い森の中デ、一際光る。コれはタダのコインではナイナ」
レアアイテムかもしれない。幸先が良いぞと偽サーシャは満面の笑みを浮かべる。
しゃがんでそれを拾うと
「ナッ!! コレは」
突如、偽サーシャの脳裏にあるものが過ぎる。
セミロングで前髪を少し斜めに分けた髪型と黒縁の眼鏡をかけている。
小柄な体型のせいか、女性というよりか少女に見えた。
みんなはご存知。今作のヒロイン 東海林琴花 21歳である。
「ぬ、コイツは……」
偽サーシャはこめかみをいじる。
コインを手にした瞬間に脳裏を駆け抜けた人物に舌打ちをする。全く心当たりがない。会ったことすらない。だが……。
「く、ナンだ。この女は? イライラする」
突然脳裏に流れた少女に偽サーシャは舌打ちをする。見たこともない少女がなぜ脳裏に浮かんだのか、残念ながら偽サーシャには分からない。
「くソ、気分が悪イ」
偽サーシャは吐き捨てるように呟き、再び歩き出した。
その時、もう一枚コインを確保した。
そしで同時に乗っ取られたはずのサーシャの精神にもその人物が脳裏を駆け巡る。
「………………こ、…………コイロ」
乗っ取られていたはずのサーシャが気づいた意識。
後にこれが生殺与奪の権利を左右するとは、偽サーシャは思ってもいなかった。
コロナウィルス、気をつけるんだよ




