039枚目 石碑前での戦闘 その3
僕っ娘ことサーシャ 再登場。
漆黒のフードマントが剥がれて出てきたのはサーシャ=クレスト。E級 冒険者の少女。
得意な武器は槍。一人称は僕、通称僕っ娘である。トレードマークであったポニーテールは、今は解かれておりロングヘアーとなっている。
襲ってきた漆黒の者がサーシャだという衝撃的な事実にしばし琴花達は時間を奪われた。
「……サーシャちゃん」
最初に口火を切ったのはエルだった。
「これは一体どういうこと? とてもじゃないけど冗談にしては……………………笑えないわよ」
いつもの優しい声ではなく、冷たい声。
ナヴァナ=ノサトは槍で突かれて今や瀕死の状態。冗談や笑い事では済まない状況となっている。なぜこのような事態になったのかエルはそれが知りたかった。
だが当の本人であるサーシャは何も語らない。語りかけてくるエルには全く興味を持たず、ナヴァナの腹に突き刺さった槍を引き抜いた。引き抜いた際にナヴァナの身体がビクンと跳ね上がる。だが、そこからナヴァナはピクリとも動かない。その様子を見て理解できたものの、琴花は確認のためにウリエルに問う。
「ねぇウリエル……な、ナヴァナが動かないんだけど」
【ぐ、琴花よ。残念ながらあやつから魂の光が感じられん】
「こ、コインの力で……」
【馬鹿言うな。最初に言うたじゃろうに。こればかりはコインではどうにもできぬ】
「そ、そんな……」
平和な現代社会で21年生きてきた琴花にとって、初めての死。すでに亡くなっているのではない。さっきまで動いていた人間が目の前で動かなくなったというリアルな死。琴花はしゃがみ込み口元を抑えた。吐き気だけがこみ上げてきた。死んでしまっては女神のコインの力は全く使えない。
【く、気をしっかり持つのじゃ琴花よ】
「わかってるけど……きもぢ悪い」
だが、そんな状況でも時は止まってくれるわけもなく、サーシャは血で汚れた槍の刃を琴花達に向けた。
「コイロちゃんしっかりしてッ! つらいよね。でも今はここをどうにかしないと……サーシャちゃんいい加減にその槍を引っ込めてちょうだい」
サーシャに戦闘を辞めるよう説得するも、残念ながら敵意あり。仕方なくエルは再度サーシャに向けて槍を構える。大人しく引き下がってくれれば良いのだが、現実はそんなに甘くない。
いつでも駆け出せるように身体を前傾にしたところで
【あいや待てエルよ。どうもあの僕っ娘の様子がおかしい気がするぞぃ】
攻撃に転じようとしていたエルにウリエルが待ったをかけた。
【もちろん、妾はサーシャとそんなに付き合いは長くないから本性は分からぬ。だがあの時、勝てないハクトウパンから琴花を守るために我が身を犠牲にしたサーシャを妾は知っている。おかげで琴花は救われた。目の前のサーシャは姿形は同じに見えるが、明らかに中身は別物じゃ】
「ウリエルの言う通りだよ。サーシャちゃんは人を平気で殺すような人間じゃない……」
ウリエルの言葉に琴花は呟く。
琴花が子ハクトウパンに触るのを阻止しようとして、うっかり子ハクトウパン踏んでしまい、うわーんと泣き叫ぶような少女である。それが琴花の知るサーシャという人間だ。
そんな少女が、簡単に人を殺せるわけがない。
あいつはサーシャの姿をした別の何かだと琴花はそう認識する。
すると、先程までの気分の悪さが嘘のように引いてゆく。琴花は大きく深呼吸をした。
琴花はゆっくりと立ち上がり、「エル、遠慮しちゃダメだ。あいつはサーシャちゃんの偽物だ」と叫んだ。その言葉にエルは決意する。
あの偽物を全力で倒すと……。
「コインはもう1枚しかない。エル、あたしに願いを言ってッ!! あいつを一緒にやっつけよう」
「えぇ、了解よ」
【あいつを倒して、今夜はパーティーじゃ】
目の前にいるサーシャの偽物を全力で倒す。琴花とエル、そしてウリエルの気持ちが今一緒になる。
こいつを倒してオクジェイトの村へ帰るのだ。




