032枚目 できること できないこと
「今回のフライドフェザーなんだけど、コイロちゃんはコインを使わないで戦って欲しいのよ」
今さっきあたしにはコインがあるから大丈夫だと意気込んだ琴花にそれを否定するかのようにエルが語る。今回の実技試験であるフライドフェザーの討伐は、エルの支援や援護は禁止されている。
だからこそコインに頼ろうと思っていた。しかし、そのコインすらも禁止にされて琴花はエルに詰め寄った。
「な、なんで? なんでコインを使ったらダメなのッ!」
「それはウリエル様の力であり、コイロちゃんの力じゃないからよ。仮にそのコインを使ってフライドフェザーを倒して冒険者になって、そこに何があるの? その力はコイロちゃんじゃない。ウリエル様の力だもの。コイロちゃんはズルしてでも冒険者になりたいの?」
【ふむ、エルの言いたいことは一理あるのぅ】
「あ、あたしは……」
たしかにエルの言う通りだ。コインを使えばフライドフェザーは倒せるだろう。しかし、コインの力を使って冒険者となった先に何があるのだろうか。
「私はハクトウパンと戦った時、コイロちゃんやウリエル様に助けてもらったわ。でもその力……その力が、かならず発動する保証はどこにあるの?」
「それは、このコインで……」
「そのコインだって無限じゃないでしょ? 無限だったらコイロちゃん、ハクビーとの戦闘時使ったでしょ。そうじゃなければ、ハクビーの攻撃を喰らう前に殲滅していたはずだよね? なぜそれをしなかったの? その気になれば私達が戦う前に、その力で殲滅できたはずよ」
「そ、それは」
エルの言う通りだった。コインが無限ならば間違いなく使用している。しかし現実はコインは無限ではなくて有限。枚数に制限がある。
「その辺りをはっきりして欲しいの。コイロちゃん……いえウリエル様の力は無限なの、それとも有限なの? どっちなの?」
改めてエルに問われて思う。この力は無限ではない。毎朝支給されるコインによるものだ。1枚ならば1回、2枚ならば2回。ウリエルによる奇跡という名の力はコインの枚数に比例している。
「…………この力は無限じゃない」
毎朝支給されるコイン。そのコインによる力が唯一の琴花……いや、ウリエルの力。
琴花だって使えるならば使いたいのが本音だ。だが、現実は使える枚数および回数が限られている。ここぞという時に使うべきだと思っている。しかし、使うべき時が残念ながら琴花には分からない。
異世界に転送されて何も分からない。
コインがなければ琴花は何もできない。なぜここに呼ばれたかすら分からない。
「だったら、その力は本当に必要な時に使うべきじゃないかしら。ハクトウパンみたいな強大な敵には使うべきだわ。でもフライドフェザーや弱い魔物と遭遇した場合どうするの? 倒せる程度の弱い敵にもその力を使うの? コイロちゃんはウリエル様の力を使えるのよ。その力は魔物を倒すためのものではないはずよ」
「うー」
「今持ってるコイン。本当に大事な時に使ってね」
エルは琴花の頭をポンポンと優しく叩いた。
「あと、コイロちゃんは今使える力の威力とかは把握しているの?」
「え? 威力……?」
「そうよ。どれくらいの威力なのか、またはどこまでの距離までなら有効なのかその辺の検証とかしてる?」
「え、えーと全然」
願ったらウリエルがやってくれるので、そこまで細かい部分について琴花は考えていない。いや、考えたことがなかった。コインを綺麗に磨かないとウリエルの力が使えない。その程度の認識。
【ふむ、今の琴花だと歩数で言うと約25歩圏内じゃな。ノイッシュを回復させた時に妾が距離の把握をしておいたわ】
「さすがウリエル様ね」
【こやつは、ただ雑にコインを磨いてえいやっと言うてるだけじゃ。馬鹿ではないがそこまで頭が回るようには思えぬ。まぁ馬鹿ではないがな】
「何で二回も言ったのよ」
こう見えても琴花はそれなりに偏差値が高い学校を卒業している。だが、現実偏差値だけではどうにもならないことがある。
【ふふん、そう思われたくないならこれから自分の力とやらをよくよく理解することじゃな。となると妾が昨日説明したコインの制約についても覚えておらんのじゃろ】
「ば、馬鹿にしないでよ。それくらい覚えてるよ」
琴花はムキになって言い返す。昨夜、ギルドの地下牢に入れられた時にウリエルが説明していた女神のコインを使う上での注意点のことだ。ただ初日は慣れない土地での探索などで精神的疲労があり、途中でそのまま寝落ちをしてしまったため全部は聞けていない可能性もあった。
「えーと……たしか。願い事を2つにして欲しいはダメで……殺しと蘇りがダメで……えーとあとは……何だっけ?」
【ふむ、途中でバタっと寝てしまったから話は聞いてないと思ったが。まぁー仕方ないのぅ。念のためにおさらいじゃ。2度は言わんぞ。妾ができないのは殺し、心理操作を含めた恋愛、死者の蘇生、 叶える願いの数を増やすなどはまぁーできぬな】
「あれ、でもそれおかしくない」
【何がじゃ】
「殺しができないってところだよ。ハクトウパンのトドメを刺したとき、あたしが槍を投げて倒したじゃん。当たれぇぇとウリエルの力を使ってさ。あれ殺しじゃん。それはどう説明するの?」
【あれは人ではなく魔物じゃ。魔物は制限になっておらぬ。飽くまでも妾ができぬ殺しは人間または人間タイプに限定されるのじゃ】
「へぇー」
【どうしても殺したい、ぶち殺したい奴がいる場合はコインで何かしらの力で相手を油断させて、武器でドスっと刺せば良い。そうすれば制限に引っかからぬぞ】
「女神が人殺しを勧めてくるのはおかしい話だけど、だいたい分かったよ」
ウリエルの説明に納得する琴花に、エルがそーっと挙手した。
「ウリエル様、ではご加護のついた武器での殺生はどうなるのかしら?」
【ふむ、良い質問じゃな。残念ながら加護のついた武器では生命までは取れぬ。ダメージは与えられるがな】
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