031枚目 トレーニングという名前の虐待
【ふむ、ボロボロじゃの。琴花よ。ノイッシュを回復してあげるのじゃ】
「えぇ、またコイン使うの〜」
琴花は嫌な顔をして、コインの枚数を数える。残りは2枚だ。つまり、2回しか使えない。
【ノイッシュは妾のお気に入りじゃぞ。回復せぬというのならば地獄の業火に焼かれても知らんぞ】
「わかったよ、これでもう残り1枚じゃんか」
今から魔物フライドフェザーを討伐しに行かなくてはならないのに。コインはたくさんあるに越したことはないのだが、ウリエル様のご機嫌を損ねると面倒なので仕方なく従う。
所有権は琴花でも、力の媒介などはウリエルなのでご機嫌を損なうわけにはいかない。
「えいや」
琴花はコインを握りしめて祈る。するとノイッシュに優しい光が溢れる。
「あ? なんだ。身体が動くぞ」
さっきまでボロボロだったノイッシュは、何事もなかったかのように飛び跳ねた。
「すごいね元気になっちゃった」
【当たり前じゃ、大森林でお前自身が回復してたじゃろ】
「あ、コイロとエルさん。助けてくれ。あいつ無茶苦茶なんだよ」
琴花達に気づいてノイッシュが近寄って来る。そして断りもなくテーブルに置いてあった飲み物をがぶ飲みした。
【良かったな、琴花よ。間接キッスじゃぞ】
「一体何があったの?」
【無視かッ! 間接キッスは青春の証じゃぞ】
「エルさん、俺、あいつに殺される」
【そういえば赤髪の武器はコインで力を与えたはずじゃったのぅ〜】
大森林でハクトウパンと戦う際、レイの武器にウリエルの力を付与させている。対獣系特化型ではあるが、刃全体が光り輝くため威圧感や恐怖心はそれなりに感じられる。何もない武器で光り輝く武器を相手するのだから、肉体的にも精神的にも疲労が溜まる。
「あんな光ってる武器をブンブン振り回してくるんだから怖いよね」
【まぁ、そのおかげでハクトウパンを倒すことができたわけじゃからのぅ〜】
「あら、ウリエル様。模擬訓練の時は木製および刃のかけた武器が基本ですわよ。同じ条件でやらなきゃトレーニングじゃないわ」
【ふむ、つまりそれでボロボロということは】
「実はノイッシュってすごく弱い?」
「おい、ちょっと待て。なんでウリエルがそんな同情したような顔になってるんだよ」
声は聞こえないがウリエルの姿が見えるノイッシュ。姿が見えていても声は聞こえない、それが余計に不安を煽る。
「その〜ウリエル様が、ノイッシュ君が、実はすごく弱いんじゃないかって心配されてるみたいよ」
「はぁ? んなわけねぇよ。俺Dだぞ。これでも強さには自信があるんだよ」
冒険者のRankに関して言うならば上位だからって強いとは限らない。総合的なステータスおよび試験を通過することによって得られる。ノイッシュに至っては上手いことDになったようなもので強さとは全く関係ない。戦闘班と素材回収班ではRankが同じでも戦闘力が違ってくる。
「でもボロボロじゃないノイッシュ」
「それは、あいつが滅茶苦茶な強さな……」
「ノイっちぃぃぃぃ。逃げたから降参かと思いきや、意外と元気じゃねぇぇかよ」
背後から笑顔100パーセントのレイが現れた。R ankがCでも強い奴はいるし、弱い奴もいる。この赤髪の青年レイはCにしては強い部類であった。
「はぁ? 元気なわけねぇだろもう満身創痍だよ。お前の暴走に付き合ってられるかよッ!!」
「の割には何回かは盾による弾きや受け流し、ありえない角度からの斬撃。盾を使った撹乱や打撃など楽しいことしてくれるじゃねぇかよ。俺っちついついハマってしまったぜぇい。まだまだまだ元気だろ? お互いの全力を尽くしてこそトレーニングだじぇい」
どうやらレイの何かに火がついたようだ。
「お前のはトレーニングじゃねぇよ。虐めだッ虐待だぁぁぁッ!!」
「しかし、まわりこまられてしまった。ノイっちは再び強くなるために一緒にトレーニングするんだじぇい」
【逃走に失敗したようじゃの】
「やめろ、俺はもう嫌だ。助けてくれ」
「トレーニングルーム追加で使用するぜぇい」
ノイッシュは問答無用でレイに連れて行かれた。そして無情にもトレーニングルームへと続くドアが閉められた。
それを見送ると、再び話に戻る。
「あら、指示書にまだ続きがあるわね。石碑の見守りまたは異変がないか調べよ……」
「石碑?」
「かつて世界が危機に陥った時、四女神様が降り立ち世界を救った最初の場所。その場所や時間や感謝を忘れないために石碑を建てたと言われているわね」
「へぇーそんなのがあるんだ」
「今の世界の基礎を創造されたのが四女神様なのよ。それまでは人にはとても過酷な世界が広がっていたと言われているわ」
「へぇー」
【しかし、巡礼に来るのは女神教の信者のみで、冒険者の大半は、ふーんなるほどこれがねーという程度しか思っておらぬ。あれはただのオブジェじゃないぞ。全く嘆かわしい話じゃ】
「へぇーそうなんだ」
【琴花さっきから、へぇへぇと。お前はヘェヘェボタンかッ! だったら賞金10万円を寄越すのじゃ】
「な、なんで頷いただけでお金取られなきゃならないのよ、それに10万円の意味もわかんないッ!」
【貴様、かの有名な泉のバラエティーの満ヘェーの賞金額を知ら……】
「はい、ストップストップ」
エルがパンパンと手を叩く。
「とにかく、喧嘩は後にして。先にフライドフェザーを倒しましょ」
★
琴花の冒険者登録の実技試験のために大森林へとやって来た琴花とエル、そしてウリエル。倒すべき魔物の名はフライドフェザーだ。
「そういえば、フライドフェザーってどんな見た目なの?」
「そうね、見た目は鳥タイプといったほうがいいかしら。首が少し長いけど羽根もあるし、クチバシもあるわよ」
「私でもやれるのかな〜」
大森林を進んでいく中、琴花は不安げな表情を見せる。それを見たエルは笑顔で大丈夫と励ます。
「昨日ちゃんと大森林の魔物相手にしっかりとやれていたから心配することないわよ」
【ハクビー程度の攻撃で身動き取れていなかったこやつに妾は心配しか感じぬぞエルよ】
ハクビーの種族スキルではある《すねごすり》。ハクビーの硬い頭が脛へと直撃するハクビーの得意な攻撃方法。琴花は防ぐこともできずに喰らってしまい、身動きが取れなくなったことがある。そしてあまりの痛さにコインを使用して回復したことも。
「エル手伝ってくれるよね?」
「ごめんなさい、飽くまで今回は私は見守りのみで、手伝いは禁止されてるみたいなの。コイロちゃん1人でやるしかないわ」
「そ、そんな〜」
戦ったこともない魔物をたった1人で倒せという無茶な話に琴花は絶望する。異世界に来るまで戦闘というものを経験していない一般人には酷な話である。だがこれは試験。嘆いても仕方ない話。
【大丈夫じゃ、そのためにコインがあるのじゃ。コインの力を使って倒せばフライドフェザーなんぞお茶の子さいさいよ】
「あ、そうか。そうだね。あたしにはコインがあった」
【そうじゃぞ。フライドフェザーなんぞハクトウパンと比べたら超がつくほどの雑魚じゃ。何の心配もいらぬ。コイン1枚で全て解決じゃ】
ウリエルは扇子を仰ぎながら高笑いをする。悪代官がしそうな笑みだが、今はそれがとても頼もしく思えた。
「うん、あたしでもやれる気がしてきたよ」
異世界に来てからの唯一のチートアイテム。何も力を持たない琴花にとってはなくてはならぬ存在。琴花は深呼吸をして、よしっと気合いを入れた。
「あ、ちょっといいかな」
そこでエルがおそるおそる手を挙げた。
「何? エル」
【トイレならそこの茂みにあるぞ】
「ウリエル様、そのトイレとかじゃなくて。実はコイロちゃんに言いたいことがあるのよ」
【ふむ、愛の告白とかなら妾は消えるぞ】
「えーと、告白とかじゃなくて」
「ちょっとウリエルは黙ってて。で、エル言いたいことって何?」
エルは琴花をじっと見つめた。
「今回のフライドフェザーなんだけど、コイロちゃんはコインを使わないで戦って欲しいのよ」
ブクマ、感想待ってるよ




