027枚目 2日目のコインとカミングアウト
新元号 令和になってからの再スタート。
誰も待ってはいないが、これだけ言わせてくれ。
「ただいま」
今、キャラデザの依頼中
どんなのが来るのかワクワクです。
「おはようございます。だいぶ顔が怖いようですが、昨晩はよく眠れましたか?」
「……」
快適な睡眠器具を使う生活をずっとしてきた琴花。
昨晩はかなり質の悪い睡眠だった。
おかげさまで疲れは取れていないし、なにより眠かった。
慣れない環境による精神的疲労もあるが、この場合は森の中を歩いたり走ったりした肉体的疲労のほうが割合が多い。そんな状態で出てきた朝食が実にお粗末だった。
何の栄養素も旨味すら感じられない固いパンと大昔の給食に出てきた牛乳っぽい飲み物を何とか胃に流し込んだ琴花は、食後のデザートも食休みも全くなくギルドの職員に促されるまま一室へと案内された。
その部屋は昨日いた部屋より狭く、低いテーブルを挟む様に木製の椅子が置かれていた。
そのうちの一つに足を組んだままオルガンが座っている。琴花は睨みつけるような目でオルガンを見つめる。
「顔が怖いのは昨夜よく寝れなかったからです」
「……そうですか」
「ところで、あたしの手錠はいつ外してくれるんですか?」
琴花の両手には未だに手錠がある。見た目と違い、それなりに重さがあるので、食事の時など不便だったりする。もちろん薔薇のお花を積みに行ったり薔薇の木を見にいくときも不便である。
「それを今からご説明しますよ。どうぞ、おかけになってください」
着席を促されたので琴花はオルガンと向かい合うように着席した。
「で、あたしの手錠早く外してくれませんか?」
「まぁ焦らないでください。まずはこの紙をご覧ください」
机の下からオルガンが一枚の紙を琴花に見せるように置いた。
何やら細かい文字が書かれている。
文字は残念ながら琴花の世界の文字ではない。だが、ウリエルのおかげで書くことはできなくても読むことはできる。
だが、今は読む気にはなれない。
書いてあることは予想できるからだ。
「ナヴァナ=ノサトが請求してきた金額です。目潰しをされてクエスト達成に支障をきたした精神的な苦痛が……」
「ちょっと待ってよ。あたし襲われそうになったんだよッ! 精神的な苦痛じゃなくて肉体的にもッ!」
琴花は立ち上がり、両手でバンと机を叩く。
その数秒後、琴花はくぅーと唸る。
「……痛いでしょ?」
「は、はい……ものすごく」
手錠の重さもあってか、重さと痛みが琴花の手首に響く。涙目になるのも無理はない。
「やれやれ……ですね」
オルガンは大きくため息をついた。
やれやれではない。
この手錠の軽量化を希望したい。
いやそれよりも早く外して欲しい。
コインの力を使えば外すことはできるが、昨夜牢を出て帰っていくエルに「手錠を外すとギルドへの反逆行為に当たり、出るのが遅くなるからダメよ」と助言されたため外せずいる。
「ちなみに奴が請求してきた金額は15万グェン。まぁ金貨15枚ほどですね」
「き、金貨15枚ッ!!」
琴花は思わず声をあげてしまった。
そんな大金なんかあるわけがない。
さらに言わせてもらうならば、この世界における物価事情も分かっていない。
だが、通貨の単位は違えど15万。
地下帝国に流通しているペリカならともかく、そうやすやすと支払える金額ではない。
税金やら何やらでぶん盗ら……もとい支払われた給料一ヶ月分に相当する。人はそれを手取りという。
「そ、そんな大金払えないよ」
「もちろん、そんな請求額を認めるわけにはいきません。ちゃんと断っておきました」
「はぁ、びっくりした」
琴花はホッと息をついた。多額の借金は免れたようで安堵する。異世界生活が危うく借金生活へと変貌するのを阻止した。
★
「コイロちゃーん、おはよう」
「コイロっちぃー。やっと出てきたかー待ちくたびれたぜぇい」
ギルドのドアを開けると、エルフの美少年が手を振って歩いてきた。その隣には赤髪の青年も一緒だ。
エルフの名前はエル。見た目は美少年で数々の女性をメロメロにしてしまうくらいなのだが、口調がオネェのためその外見を無駄にしているエルフである。その隣にいる赤髪の青年の名前はレイ。額に付けられた傷が歴戦の勇士の雰囲気を醸し出している。見た目は悪者っぽく見えるが、中身は気さくな人間である。
「おはようエル、レイもおはよう」
「コイロっち、ギルドの地下の寝心地はどうだったんだよ」
「サイアク」
「ガハハハ、だろうな。俺っちも何度もお世話になったけどよ、あんな所じゃオチオチ寝てらんねぇよなぁー」
下品な笑い声を上げながら、レイは琴花の頭をガシガシと撫でる。
「レイはどこでも寝れるでしょ、こないだの王都ギルド地下でもよく寝てたじゃない」
「そりゃー、飲んだ上に暴漢から暴力振るわれて疲れて寝てしまったやつかー」
「よく言うわね、返り討ちにしたくせに」
「おいおい、それじゃ俺っちが乱暴者みたいじゃねぇか。俺っちは店員の子が絡まれていたから」
琴花を待っていたはずの2名が盛り上がっている。琴花は疎外感を感じた。仲間はずれに感じた琴花は唯一通じ合える仲間と会話するために眼鏡を外した。すると、そこには浅葱色の着物を着崩した美少女が姿を現わす。彼女の名前はウリエル。4女神が一人、コインを司る女神であり、琴花を異世界に連れてきた人物である。しかし、今は琴花に背中を向けている。
「ウリエル」
『……』
「ねぇ、ウリエルってば」
『…………』
しかし、ウリエルは琴花の声を無視して背中を向けている。頭からはプシューっと湯気が出ている。かなりお怒りのご様子だ。
「ちょっとまだ怒ってるのッ! 謝ったじゃんか」
『妾はあの暴挙を死んでも許さん。あれは謝っても許されることではないぞコイロよ。心の底から反省するまで妾はお前とは永久に絶交じゃッ!』
「だから、それは悪かったって何度も謝っ……」
「コイロちゃん、どうしたの? 今日はウリエル様かなりご機嫌斜めみたいだけど」
ウリエルの声を聞くことができる【ウリエルの耳】のスキルを持つエルは、レイとの会話を中断して琴花に語りかける。
『おー聞いてくれエルよ。こやつがやった悪逆非道の話を』
「う、うん分かった聞くから話してもらえるウリエル様」
時は少し遡る。琴花がオルガンと会話を始める前に。それは本日のログインボーナスの時に起こった。
『まぁそう怒るでない。ほれご機嫌うかがいではないが、本日のログインボーナスのお時間じゃ』
「昨日サイコロしてたアレね」
『うむ、そうなんじゃか実は昨日はサイコロの目をメモるのを忘れておってのぅ、だから振り直しじゃ』
ウリエルは大きな欠伸をしながら、どこから欠けたお茶碗を取り出して、その中に3つのサイコロを放り込む。
だが、そのうちのひとつが欠けたお茶碗に収まらず外へ弾き出される。
『ありゃしょんべんじゃ』
「……」
『そんな目をするでない。そういう役があるのじゃ。本当じゃぞ』
白い目を向ける琴花にウリエルは否定をし、再度お茶碗にサイコロを放り込んだ。
3つのうち1つだけ色は違うも、他のサイコロと同じようにお茶碗の中で踊る。
「その色が違うサイコロだけ目の細工とかしてない?」
『むむ、そんな馬鹿なことをして誰が得をするのじゃッ! このたわけがッ!』
カ◯ジみたいな賭博ものではよくある光景なので念のため突っ込んでみるも、たしかにウリエルの言う通り誰も得をしないのも事実。
だって勝負をしているわけではないのだから。
『ふむ、そうきたか』
ウリエルは欠けたお茶碗の中身に入っているサイコロを琴花に見せる。
白い2つのサイコロは4と3
色の違うサイコロは5
「……12だね」
『普通に数えればそうじゃろうな。だがこの色の違うサイコロはプラスではないぞ。こいつはカケルなのじゃ』
「カケル? え、てことは35枚ッ!」
思わず身を乗り出す琴花。
同時に2人の頭上に光が大きく輝く。
二日目にして35枚確保。
これはなんたるバランスの崩壊。
ワクワクしながら琴花は輝く光を受け止めようと両手を差し出した。光はどんどん小さくなり、コインが生成される。光が消えてふわふわっと浮いていたコインが琴花の手のひらへと落ちてゆく。
だが、そのコインは琴花の手のひらへと落ちてゆくことはなかった。土壇場で琴花はその手を引っ込めた。本来着地すべきだった場所を失ったコインは暗くて冷たい床へ音を立てて散らばった。
『ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、妾のコインがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
ウリエルは絶叫した。
「あーやっぱ。汚れてる」
琴花はその声を無視してポケットからハンカチを取り出す。そして床に散乱とした汚れたコインを掴む。
『こ、琴花ぉぉぉぉ、妾のコインに何をしてるんじゃぁぁぁぁッ!! こら、そんな汚そうにコインを掴むなぁぁぁぁ』
ウリエルの叫び声を無視しながら琴花は汚れたコインを回収していく。
散乱したコインを無事に回収した琴花は枚数を数える。そこで素直に謝っていれば、まだウリエルもそんなに怒らなかった。仮にも4女神の一人であるウリエル様。心は寛大なのだ。しかし、
「ひぃーふーみー、なんだたったの4枚じゃん。35枚って期待して損した」
とそこ琴花の一言にウリエルは激怒した。そこからウリエルは終始激怒したままであり、さすがにヤバイと思った琴花は慌てて謝るも時はすでに遅し。
2日目のログインボーナスは35ではなく3.5。コインは四捨五入され。4枚支給された。
『というわけなんじゃエルよ』
「あらあら、それはそれは」
泣き叫ぶように語りかけるウリエルにエルは頷く。残念ながら声しか聞こえないためウリエルの表情はエルにはわからないが、声のトーンでだいたいの状況を把握しているようだ。
「んで、エルっちよ。ウリエル様は何て言ってるんでぇい?」
昨晩、琴花がギルド地下に入れられた後、事情を聞いたレイがエルに問いかける。事情を聞いたレイも最初は驚いたが、そうでもしなければ、準備もろくにできていないのにハクトウパンを倒すことはできなかったと納得した。エルは今聞いた話をレイに説明する。レイはふむふむと頷き、琴花に視線を向けて一言。
「そりゃコイロっちが悪いな」
「さすがにウリエル様からのプレゼントをそんな風にしたらダメよ」
「もしかしてコイロっちは、人からの贈り物を無言で捨ててしまう冷酷な奴かってやつか?」
「いや、ちょっと待って、違う」
「いやいや違わないぜ、ウリエル様のプレゼントがどんなものか知らないがそういう態度は…………………んぁ? なんでぇい、その汚物は?」
会話の途中に琴花はレイに1枚のコインを見せた。それはとてつもなく汚れており、素手で触るには抵抗がある代物だ。磨けば輝くウリエル様のコインだ。
『赤髪の貴様ぁぁぁぁ、今 汚物とぬかしたかぁぁぁぁぁ、おのれぇぇぇいブチ殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!』
「ストップストップ、これ以上火に油を注がないで」
エルが待ったをかける。このままではジリ貧である。
「ウリエル様、私達の数々の失礼をお許しください」
エルは膝をついて頭を下げた。額をしっかりと地面につけた土下座というスタイルだ。
「ちょ……エル」
「我々が犯した罪を、どうかそのご寛大なお心でお許し願います」
一度頭を上げて再度下げる。それは立派な謝罪の姿。しかしエルが土下座しているその先にはウリエルはいない。姿が見えないエルには仕方ない話だが、ウリエルそこにはいません眠ってなんかいませんと水を指すわけにもいかない。
『本気で、心からそう思っているのか?』
「はい、4女神様が1人ウリエル様に私エルは嘘偽りはございません」
『なら4女神の名の下命ずる。お主が隠していることを1つ述べよ』
「え……」と戸惑うエル。しばし沈黙。
『どうしたのじゃ? 妾はお主という人間……いやエルフが何を秘密にしているのか知りたいのじゃ』
「え……えーと」
それを見た琴花がウリエルの前に躍り出る。
「ウリエル、あたしが悪かった。本気で反省してる。だからあたしも土下座するから」
『いやだね、妾はエルが秘密していることを1つ知りたいのじゃ。むしろそれで妾の機嫌が良くなるのじゃ。安いもんじゃろ』
ウリエルは扇子を広げてニヤリと笑みを浮かべた。それは女神の微笑みではなく、悪徳代官が何かを企んでいるような悪い笑み。
「わかったわ、ウリエル様。私はお……」
と言いかけてエルは深呼吸。そして一気に吐き出した。
「私は女の子が好き、特に小さい女の子が」
『ほぉー同性愛者か。なかなか素晴らしいカミングアウトじゃな。エルよお前は小さい子が大好きなのか』
「はい、特に可愛くて小さい女の子が好きです」
『まぁー可愛いは正義じゃからのぅ〜』
と頷くウリエル。
エルの台詞だけを聞いたレイは「エルっち、お前さんロリコンだったのか。理解できん」と呟く。
だが、ウリエルとエルの会話を全部聞いていた琴花は待ったをかける。ウリエルとエルの会話の流れに違和感を覚えたからだ。
「あの、ウリエル」
『なんじゃ、人に土下座をさせてぼーっとしていた小娘の琴花よ』
「あ、あの同性愛って?」
『んぁ? なんじゃお主気づいておらなんだか。エルはエルフの女性じゃぞ。だから同性愛と言ったんじゃ』
「へぇ〜……」
『男性の服着てるし、見た目が美少年じゃからのぅ〜』
「……」
「この事は秘密でお願いね。ところでコイロちゃん、今日は眉毛が薄過ぎるから、お顔が怖く見えるわよ」
「…………」
しばしの沈黙後、琴花は驚きのあまり声を上げた。
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