026枚目 2日目の朝はなんて目覚めがわるいのか
ガラクシアース大陸にあるオクジェイト村。
異世界生活二日目の朝。
チャンチャカチャチャ、チャンチャカチャチャ……と、どこかで聞いたような曲に琴花は目をパチリと開けた。
『起きたか琴花よ』
「おはようウリエル、何をしてるの?」
『見れば分かるじゃろ? ラジオ体操に決まっておろう』
「……ラジオ体操」
『6時半になるといつもラジオから流れてくるじゃろうに。新しい朝が来た、希望の朝が〜』
「えーとラジオ聞かないから分かんない……」
聞き覚えがあるはずである。
夏休みになると近所の公園でよく流れているラジオ体操の曲である。
夏休みの風物詩と言っても過言ではない。
ラジオ体操と聞くと子供が夏休みにやるイメージがあるが、大人になってからもしたほうが良いとされている。
昔から伝わるエクササイズで、ラ◯ライ体操とは比べ物にならないほどの燃焼効果があるのだ。
スタンプシートについているポテトSサイズサービス券があって、いつハンバーガーが食べられるのか子供ながらワクワクしたものである。
今はどうか知らないが……。
『ラジオはテレビと違った面白さがあるから今度聞いてみると良いぞ。ちなみに妾のお気に入りはラジオで野球中継を聞くことじゃぞ』
「へぇ〜。ちなみにどこの球団を贔屓にしてるの?」
『そうじゃの〜妾は……◯◯◯(お好きな球団名)じゃ』
「へぇ〜」
『ちなみに琴花はどこ贔屓じゃ?』
「あたしは特にないよ。だって興味ないもん。優勝セールで今年はここが勝ったんだという感じ」
『貴様ァ、昨今はドームに女子達が集う時代だと言うのに罰当たりめ』
ラジオ体操はすでに後半に入っており、現在ウリエルはピョンピョンと元気に跳ねている。
開いて閉じて開いて閉じて……。
「てかさ、テレビでやってるのにわざわざドームに行かなくてもいいと思うんだけどな〜」
『ふ、愚か者め』
ニヤリと悪どい笑みを浮かべる女神。
『良いか琴花よ。一度ドームに行ってその臨場感を味わってみろぃ。テレビやラジオとはまた違った味わいがあるのじゃ。勝ち試合やホームラン打ったときの高揚感や選手とファンの一体感は癖になるぞ』
野球に全く興味がなかった人間がドームに足を運んでハマるケースもある。
『さてといい加減に身体くらい起こせ琴花よ。なぜ女神が寝てる人間と会話を続けねばならぬのじゃ。ほれ起きろぉいッ!』
ラジオ体操第一を終えたウリエルは腰に両手を当てて琴花を睨みつけた。
たしかに話をしている体制ではない。
だが起きない理由がある。
いや、起きないではなく起きれない。
そう、起きれない理由が……。
「うんわかってるんだけどさ。痛いんだもん身体が……あいたた」
琴花が渋々と身体を起こすと全身にわずかながら痛みが走った。いや寝ていても身体はすでに痛かった。
移動手段に車や電車を使って、あまり歩かない人間が足場の悪い森の中を歩き回ったのだから筋肉痛の一つや二つできていてもおかしくない。
ふくらはぎあたりがパンパンである。
しかし、問題なのは筋肉痛だけではなかった。それは寝不足による疲労感だ。
普段、快適な睡眠器具を使って快適な睡眠を貪る琴花にはゴツゴツとした冷たい床は苦痛でしかなかった。
何度も夜中に目を覚ましては眠れるように身体の位置を調整したりしていた。
だが一向に深く眠ることができなかった。
眠れないのは仕方ないが、そのすぐ近くでウリエルがグースカと寝ていることに琴花が僅かながらの殺意を抱いたりした。
ご丁寧に耳栓をしており、琴花がどんなに呼びかけても返事は返ってこなかった。
窓がないし、時間を確認したくても手荷物は没取されていて何も分からない。
かくして琴花は1人寂しく痛みや眠気と戦いながら朝を迎えた。
目覚めは21年間生きてきた中で一番最悪だったのは言うまでもない。
『何度も何度も寝返りを打ったり、身体の位置を微調整したりと大変じゃったの』
「見てたの?」
『そりゃー横であんだけバタバタ動いておったら気づくわい。そういえば琴花よ羊を数えておったのではあるまいな?』
「うん、羊を数えたけど全く」
『ありゃ実は逆効果らしいぞ琴花よ』
「え?」
『琴花みたいな日本人だと羊はどちらかというと馴染みのない動物じゃ。それを思い浮かべて、そこから律儀に 1匹ずつ数えていくわけじゃから眠れるわけがない。むしろ目と頭が冴える』
「でも古来より存在する入眠方法なんだけど……」
眠れないときは羊を数えなさいと親に教えられていたので、眠れないときは琴花もよく羊を数えたものである。
『それはたぶん英語で羊と眠るの発音が似てるから唱えていくうちに眠くなってしまうということではないかのぅ』
「シープとスリープ……」
sheep(羊)
sleep(眠る)
たしかに発音はよく似ている。
『あとは暗示にかかりやすい体質だったか、琴花はどことなく騙されやすい顔をしておるからのぅ』
「それはどうも悪ぅございましたね」
ウリエルの含みのある笑みに琴花はプイっと顔を背けた。
『まぁそう怒るでない。ほれご機嫌うかがいではないが、本日のログインボーナスのお時間じゃ』
「昨日サイコロしてたアレね」
『うむ、そうなんじゃか実は昨日はサイコロの目をメモるのを忘れておってのぅ、だから振り直しじゃ』
ウリエルは大きな欠伸をしながら、どこから欠けたお茶碗を取り出して、その中に3つのサイコロを放り込む。
だが、そのうちのひとつが欠けたお茶碗に収まらず外へ弾き出される。
『ありゃしょんべんじゃ』
「……」
『そんな目をするでない。そういう役があるのじゃ。本当じゃぞ』
白い目を向ける琴花にウリエルは否定をし、再度お茶碗にサイコロを放り込んだ。
3つのうち1つだけ色は違うも、他のサイコロと同じようにお茶碗の中で踊る。
「その色が違うサイコロだけ目の細工とかしてない?」
『むむ、そんな馬鹿なことをして誰が得をするのじゃッ! このたわけがッ!』
カ◯ジみたいな賭博ものではよくある光景なので念のため突っ込んでみるも、たしかにウリエルの言う通り誰も得をしないのも事実。
だって勝負をしているわけではないのだから。
『ふむ、そうきたか』
ウリエルは欠けたお茶碗の中身に入っているサイコロを琴花に見せる。
白い2つのサイコロは4と3
色の違うサイコロは5
「……12だね」
『普通に数えればそうじゃろうな。だがこの色の違うサイコロはプラスではないぞ。こいつはカケルなのじゃ』
「カケル? え、てことは35枚ッ!」
思わず身を乗り出す琴花。
同時に2人の頭上に光が大きく輝く。
二日目にして35枚確保。
これはなんたるバランスの崩壊。
ワクワクしながら琴花は輝く光を受け止めようと両手を差し出した。




