021枚目 1日目の夜 オクジェイト村
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緊急クエスト終了報告書
作成者 オルガン=アッシェ
ギルドオクジェイト支部所属
ギルド権限により緊急クエスト発令。
ギルドマスターより許可を得たため発令。
報告内容
ギルド職員が夜勤業務中に村の北側にあるオクジェイト大森林にて謎の光が発生。
数分後、アワノ=イセがその光に興味を持ち、単身で森の中へ行ったと村人スィマ=イセより報告あり。なおはアワノはイセ夫妻の御子息。
現在のオクジェイト大森林は周期的に白い靄が発生していて危険であり、村人による探索は困難を極める。大至急保護をすべきであると判断し、緊急クエストを発令す。
参加した冒険者 はB級からE級(スキル森の詩を持っていたのでギルド職員の権限にて特別に参加)を含めて36名参加。
負傷者(軽傷重傷関係なし)7名
行方不明者(死亡の確認とれずを含め)10名
死亡者3名
身元不明者1名
追記
保護された身元不明者については、今後の動向により判断していく予定。報告書は後日作成。
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「で、この少女がハクトウパンを倒したと?」
カウンターに肘をつきながら琴花を見る蝶ネクタイと黒いスーツの男性。
空いている方の手には自ら作成した書類がある。
お忘れの方もおられると思うので念の為に紹介をしておこうと思う。こんな奴いたかといちいち確認するのも大変であろう。
オルガン=アッシェ。
ギルドオクジェイト支部の職員だ。
002枚目に登場して以降、全く出番がないギャラ泥棒である。
そして緊急クエスト発令したのはこの男である。
ギルド職員は緊急時は緊急クエストを発令することができる。もちろん実行するにはギルドマスターの承認は必要であるが……。
何はともあれ緊急クエスト発令が発令そして承認されたおかげで見知らぬ森で彷徨っていていた琴花は冒険者のエルとレイに救助される形となった。緊急クエストがなければ今頃まだ森の中を彷徨っていてかもしれないし、もしかしたら死亡していたかもしれない。間接的ではあるがオルガンも琴花を助けてくれた人物の1人であるといえる。
今、琴花達はギルドの小部屋にいる。
「嘘じゃねぇってオルガっち。ちゃんとハクトウパン退治したからよ。ほれ素材と魔核が……」
赤い髪の青年がカウンターに身を乗り出して、キラキラと光る物体をちらつかせる。
彼の名前はレイ=トレファスナー。
額に大きな傷跡があるのが特徴の冒険者だ。
「はぁー。そんなのはこの魔核を見れば分かりますよ。僕が言いたいのはハクトウパンをこんな少女がどうやって倒したかということです」
オルガンは座っていた椅子から立ち上がり、琴花の周辺を歩き回る。眼鏡をグイッと指で押し上げ、琴花を観察していく。
それはまるで品定めをしているようで、あまり良いものではない。
「あのエル、魔核って?」
オルガンの視線に耐えきれず、琴花は隣でのほほんとしているエルに語りかける。
「魔核は、魔物を倒した時に現れる結晶石よ。その結晶石にはトドメをさした人の情報が登録されるのよ」
倒した人間の情報が登録されるということはズルはできないということだ。
「でもいつそんなのを拾ったんですか?」
「私は盗賊よ。手癖の悪さならこの中の誰よりも悪いわよ。うふふふふ」
エルは悪戯に近い笑みを浮かべた。
「あ、あははは」
その笑みに苦笑いをして一歩引いてしまう琴花。
見た目は金髪の美少年。
ただし口調が残念な美少年。
こう見えて人間ではなくエルフである。
「やはり納得いきませんね。こんな少女が槍一本でトドメを刺したということが……」
オルガンはしかめっ面を浮かべて、槍を眺める。
ハクトウパンの心臓を貫いた槍。
特に変哲もない槍だ。
特徴をあげるならば名前が書いてあるくらいだ。
サーシャ=クレスト。
琴花を助けてくれた冒険者の1人だ。
RankはEで、まだ新米であった。
彼女が持つ固有スキル≪森の詩 ≫は森林での戦闘で本領発揮するスキルで、森の動物や魔物が所持していることが多いと言われている。
人間で所持しているのは非常に珍しいことである。
しかし、その姿は現在ここにはない。
琴花をハクトウパンから遠ざけるために、自ら囮となった。
《弱き者を守るため》
サーシャ=クレストは、冒険者として教えを守り、恐怖に耐えて琴花のために戦った。
しかし、ハクトウパンを退治したものの未だに所在不明である。村へ帰る道中にエル達は探索したが遺体はおろかサーシャの姿を発見することはできなかった。
「納得できませんね。ハクトウパンの身体の頑丈さは君達がよく分かっているでしょう。それを弱っていたとはいえ……」
オルガンは琴花の腕をそっと掴んだ。
そして力こぶを作るように促す。
言われるがまま、腕に力を入れてみるも力こぶができるわけもなく……。
「こんな細腕で心臓を貫けるなら、赤子でも倒せますよ」
オルガンは琴花の尻をバーンと叩く。
「ひゃうッ!」
「オルガンッ!」
いつの間にか背後に回っていたエルがオルガンの腕を掴んだ。しばし睨み合いが続く。
「……すまない、悪かった」
そしてオルガンが折れた。
事情はどうあれ女性の尻を触ったのだ。
悪いのは誰が見てもオルガンだ。
「うふふ、分かればいいのよ」
エルはのほほんと笑みを浮かべて、オルガンの腕を離した。
「ふむ、証人が2人もいますし、認めるしかなさそうですね。では改めて……ようこそギルドオクジェイト支部へ。君を歓迎しよう」
オルガンがスッと手を伸ばしてくる。
「あ、ありがとうございます」
握手をしようと琴花も手を伸ばす。
これで手打ちだ。
仲直りである。
だが握手はできなかった。
伸ばした方の手首にカチャリと音がなった。
そのまま流れるようにもう片方の手首にもカチャリ。
「え……」
「ちょっとコイロちゃんに何を」
「動くなよ冒険者エルとレイ」
エルが飛びかかろうとするよりも早くオルガンが制す。同時にレイがエルの肩に手を置く。
こんな狭いギルドの一室で一悶着起こしては今後の冒険者稼業に支障をきたす。
「おいおい、その手錠は何の冗談なんでぇい?」
「冗談でこんな馬鹿なことはしませんよ」
「じゃあなんでコイロちゃんに手錠を? 何も悪いことしていないじゃない」
「しているんだよ、残念ながらね」
「え……」
「苦情が来てるんですよ。探索をしていたD級の冒険者からね」
「なんでそこでD級 冒険者が出てくるんでぇい。コイロっちが何かしたってのか? 逆じゃねぇの?」
「ずっと一緒にいたけど危害を加えようだなんて考えられる子じゃないわッ!」
「あたし何も悪いことしてないよ」
いくらなんでも非力な琴花が冒険者に危害を加えるわけがな……。
「あ……」
突如琴花は心当たりがあったことを思い出してしまった。たぶんこれだろうなと確信に近い答えが脳裏にて導き出された。
たぶんこれしかない。
琴花はおそるおそる心当たりな出来事を呟いた。
「め、目潰し……?」と。




