020枚目 VSハクトウパン その4
皆様、パンダの体重についてご存知だろうか。
全く存じ上げておりませんわと言わないで聞いて欲しい。だいたいオスが100〜150キロ、メスは80〜130キロあると言われている。
生まれたときは100グラム程度なのに……。
どうやったらそこまで大きくなれるのか。
全くでかくなったな小僧である。
さてさて今現在、四足歩行で琴花に向かってダッシュしてきているハクトウパンは、はたしてオスなのかメスなのか……。
たぶん子育てをしているのでメスか。
いや最近は育メンや育ジィまで流行っている昨今。
子供と一緒にいるからといってメスだと決めつけるのは些か乱暴過ぎではなかろうか。
疲れていても子供と触れ合うのは大事な事である。
『琴花ッ! 来るぞ』
「分かってる」
琴花にめがけて突撃してくるハクトウパン。
「うわぁーん怖いよぉー」
「あたしから離れて、危ないから」
危険なので子供を遠ざける。
あんな巨体で体当たりされた日にゃ骨折どころの話ではない。
素人と力士が本気で取っ組み合いをしたらどうなるか、まぁ綺麗な身体ではいられないであろう。
どうやら使うしかないようだ。
コインを……。
「ウリエル、あいつを倒して」
琴花はコインを取り出した。
現在コインの残数は2だ。
この2枚でカタをつけなくてはならない。
『あいともさ。で、どうするよ?』
「な、なんでもいいから早く」
迫り来るハクトウパン。
『ふむ、お任せを注文するとは腕が鳴るのぅ〜。見かけによらず通じゃの琴花よ』
「は……早くして。ハクトウパン怖いから。ほらもう早く早く」
迫り来るハクトウパン……。
奴の目や巨体から滲み出る不気味なオーラ。
正直怖くて仕方ない。
レストランの注文みたいなやり取りはいいので早くして欲しい。
シェフの気まぐれサラダとかはいらないのだ。そしてしつこいようだが、迫り来るハクトウパン。
琴花は目を閉じてコインを力一杯握りしめた。
正直ガクブル状態。
失禁しなかっただけでも御の字だ。
握りしめた手から光が溢れ出す。
ウリエルがスッと立ち上がる。
『そろそろ妾にも見せ場の一つくらい与えてもらおうぞ』
扇子を広げつつ、ニヒルな笑みを浮かべるウリエル。
「ごめん、見えてるのあたしだけだよ」
そこに容赦なく水を差す琴花。
『やかましいわッ! だったらお主が妾の大活躍をしかと見届けよッ!』
ウリエルの右手が光り輝く。
すると掌からドッチボールくらいの大きさの光の玉が現れる。
『そして語るが良いわッ! さぁ妾の力をとくと思い知れぇぃぃ』
邪悪な笑みを浮かべるウリエル。
そこに神々しい女神の姿はない。
『何をボケーっとしておるのじゃ琴花よ、ハクトウパンに向けて手を伸ばせぇい』
「え、あっはい」
言われるがまま手をハクトウパンに向けて伸ばす。
すると琴花の掌なら先程ウリエルが作り出した黄金の弾が現れる。
それに気づき、琴花とハクトウパンと同じ対角線上にいたエルとレイが動きを止めた。
『さぁーしっかりと手を伸ばせよ琴花よ』
「う、うん」
『喰らうが良いわッ!』
琴花の手より収束された光がハクトウパン向けて放たれる。それは美しく輝く金色の光。
コインを愛する女神が放つ至高の一撃。
『フレンドリィィィファイ……』
だが、それと同時にハクトウパンが雄叫びを上げる。
「ひぃッ!」
それにビビってしまい、前方に伸ばしていた手がわずかにズレる。
その結果、ハクトウパンの僅か数センチ程ズレて黄金の弾が飛んでいく。いわばミスである。
ウリエルの見せ場、終了のお知らせだ。
『な、こんのシャイニング馬鹿たれがぁぁぁぁぁッ! 初球をミスったではないかぁー』
「うわぁぁぁぁぁん」
ウリエルと琴花が同時に叫んだ。
それを好機と判断して迫ってくるハクトウパン…………。
もう琴花までの距離残りわずか。
このままでは全体重を載せた体当たりを喰らってしまう。万事休すだ。
「コイロちゃぁぁぁん」
エルが叫ぶ。
「畜生ォォ、期待外れじゃねぇかよ。間に合えぇぇぇい」
レイが渾身の力で加速する。
それよりもフレンドリーファイヤーって言いかけていなかったかと琴花は今更ながら恐怖を覚えた。
味方を巻き込むつもりでいたのか、この女神様。
倒せればいいのか、滅茶苦茶だ。
『ふ、ここで終わるわけがなかろう』
ウリエルがニタリと邪悪な笑みを浮かべる。
スッと軽やかにステップを踏んで踊り始める。
それは指揮者のように。
または踊り子のように。
琴花の手より放れた光の弾は軌道を修正し、ハクトウパンに向かっていく。
『当たるまでが遠足なのじゃ。フレンドリーファイヤー』
帰るまでが遠足。
帰るまでなら琴花の手に戻らなくてはならないが、この場合気にしたら負けだ。
そしてフレンドリーファイヤーということは仲間を巻き込……以下省略。
光の弾がハクトウパンに勢いよくぶち当たる。
攻撃を喰らったハクトウパンが吹き飛ぶ。
100キロ以上もある巨体が、簡単に吹き飛んでいく。
その光景に唖然としてしまう冒険者 のエルとレイ。
『今じゃ、琴花。最後のコインを使え』
「え」
『チンタラするでないわ、ほれ槍を構えろッ!』
「え、はいぃ」
言われるがまま琴花は槍を構える。
『投げろぉぉぉぉ、そして同時に願えぇぇい。当たれと』
「当たれぇぇぇぇぇ」
琴花は槍を投げつつ、最後の1枚であるコインに願った。ハクトウパンに当たれと願う。
投げた方向は滅茶苦茶なうえに普通なら距離は届かない。
だが、槍はそんなの関係なしに飛んでいく。
投げた槍はまるで誰かに操られたかのように飛んでいく。
そして……。
「グギャァァァァァ」
白い靄がかかった森に響くハクトウパンの断末魔。槍はハクトウパンの心臓を見事に貫いた。
ハクトウパン退治完了。
さてサーシャはどこにいったのか。
生きているのか、死んでいるのか?
次回へ続く。




