019枚目 VSハクトウパン その3
琴花はハクトウパン再び相見える。
背後から悲鳴が聞こえた。
それと同時にハクトウパンの低い鳴き声が響き渡る。
レイとエルが瞬時に振り返った。
悲鳴が聞こえたのは、間違いなくハクトウパンがいた方向だ。
「ちょっと見てくるわ」
「あぁ頼むぜ」
盗賊であるエルは足音を消して駆け出していく。
レイは「まいったなー」と呟きながら大剣を抜く。
出来ることならば戦いたくない。
抜き足差し足でレイもエルの後を追いかける。
もちろん琴花も追いかける。
こんな所で1人にされたくない。
★
ハクトウパンの所まで戻ると、そこには小さな子供を庇うように武器を構えるエルがいた。
「なんてこった、よりにもよって村の子供が一緒か」
レイはエルの横に並ぶ。
「コイロちゃん、この子をお願い」
近づいてきた琴花に子供を託す。
「さーて子供保護したし、これでクエストは達成なんだけどな」
「そうね〜その前にこいつがどうにかなってくれることを四女神様に祈りましょう」
ニヤリと笑うレイと微笑むエル。
レイとエルはハクトウパンと対峙する。
泣きじゃくる子供の手をギュっと握る琴花。
機は熟した。
ハクトウパンが咆哮する。
戦闘開始だ。
「どぇりゃぁぁぁぁぁぁ」
レイが大剣を振るう。
ハクトウパンはそれを爪で弾く。
少しでもダメージを与えたいと思い、大剣を振っていくもハクトウパンはそれを巧みに爪で弾いていく。
「くらぇぇいッ」
後方へ飛びつつ、何本かナイフを投げていく。
だがそれは刺さることなく、爪で弾かれていく。
レイが駆け出す。
「こなくそぉぉぉ」
大きく大剣を振るうも今度は両方の爪で受け止められる。
大剣と爪によるつばぜり合い。
ゲームならボタンを連打したいところだが……。
つばぜり合いをしながらも、ジリジリと後退していくレイ。額に玉のような汗が浮かんでは流れていく。
力では残念ながらハクトウパンのほうが強いようだ。
わずか数回の攻撃で、もうすでに力関係がはっきりしている。
「やぁぁ」
その隙間を狙ってエルがナイフを振るう。
脇腹を斬りつけることに成功するが、致命的なダメージを与えるまではいかない。
ハクトウパンの攻撃を避けつつ、エルとレイが交互に攻撃をしかけていく。
一閃、二閃。
そして三閃。
今はかろうじてハクトウパンの攻撃を避けてはいるが、いずれスタミナや体力が尽きてしまう。
それまでに倒せれば良いが、現状のままではジリ貧だ。
『ふむ、翼がうまく広げられんようじゃ。どうやらサーシャの攻撃が予想以上に効いておるようじゃ』
「えーと、翼が使えていたらどうなるの?」
『そりゃ自由に飛ぶに決まっておろう。翼があるんじゃから』
何を当たり前の事を聞いておるのじゃと言いたげな顔。でも翼はあってもペンギンやドードーは飛べない。やはりこの世界では女の子ではなくパンダが空から降ってくるようだ。
「いや、あたしが聞きたいのは翼で攻げ……」
『琴花よ。ハクトウパンにハンデがあろうが、このままでは全滅するぞ。今こそコインを使うのじゃ』
「う、うん」
現状を打破するためには一石投じる必要がある。
静かな池に波紋を起こす。
オーバードライブ。
それがウリエルの力だ。
琴花は鞄からコインを取り出す。
コインは残り3枚。
ギュッと握りしめる。
しかし、何を願えばいいか。
考えなくてはならない。
だがそんなに時間は残されていない。
ゲームの世界ならばドラゴン系にはドラゴンキラーという対特攻武器が存在する。
ならば……。
「ウリエルお願い」
コインに願いを込める。
ハクトウパンを倒すために必要な力を。
『あいともさー』
琴花のコインを持つ手から淡い光が放たれる。
それは光り輝く黄金の光。
その光は収束し、レイの大剣に降り注いでいく。
「な、なんでぇい変な光が俺っちの大剣にぃぃぃ」
突然、大剣から黄金の光が溢れ出したのだからそりゃー驚くであろう。
「一時的だけどレイの武器に力を与えたよ。これでよく斬れると思う、たぶん」
琴花はハクトウパンと向かい合う二人の背中に向かって声をあげる。
『たぶんじゃなくて、よう斬れるわシャイニング馬鹿たれぇい。動物や獣系特効の付与がついておるのじゃ、斬れて当然じゃ』
「なにぃーそんな馬鹿な話があるわけねぇだろう。コイロっち、お前は一体な……」
「まぁまぁこの際、理由は後で聞くとして今は目の前のハクトウパンをどうにかしたほうがいいんじゃないかしら?」
「ぐぬぬ、えぇーい今はこいつを先に仕留める。その後、ちゃんと説明してもらうからなッ!」
レイとエルはふたたび武器を構えなおした。
ハクトウパンは、突如現れた謎の光に困惑して一時的だが攻撃を止めていた。
だが、すぐに思い出したかのように咆哮した。
そして目の前にいるレイに鋭い爪を振るう。
だが、レイはそれを光り輝く大剣を用いて受け流す。
受け流したところをレイが大剣で
「どぅるぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぉぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
渾身の一撃を放つ。
黄金の光を放つ大剣がハクトウパンの身体を切り裂く。
強烈な一撃にハクトウパンがよろける。
斬られた箇所から大量の血が噴き出す。
「おほぉーすげぇ斬れ味じゃねぇか。まるで俺っちの武器じゃねぇみたいだ」
「これは勝機ね」
よろけているハクトウパンを狙ってエルが飛び上がり、ハクトウパンの顔をナイフで斬りつけていく。
さらに続けてレイが光り輝く大剣でハクトウパンの背後に回って斬りつける。
ハクトウパンがわずかながら後退する。
予想以上に効いているようだ。
「これはもしかしたらイケるんじゃないか」
「でも油断は禁物よ、体力だけならこの森の魔物の誰よりもあるから」
ハクトウパンの攻撃を巧みに回避しながらエルが叫ぶ。回避しながらも少しずつナイフで斬りつけていく。盗賊ならではの素早さを活かしている。
「ウリエル、そういえばハクトウパンのスキルって何?」
『んぁ? 説明してなかったか?』
「うん」
『それはな……』
その時、甲高い鳴き声が響き渡る。
戦いに夢中ですっかりその存在を忘れていたが、琴花達やハクトウパンのほかにまだいたのだ。
「あ、そういえば子ハクトウパンいたっけ」
子ハクトウパンがさらに鳴き声をあげる。
よく見ると子ハクトウパンがやられている親に向けて鳴いている。それはまるで負けるなー頑張れと応援しているように見えた。
『まずい、子ハクトウパンが親のピンチに気づきおった』
子煩悩であるハクトウパン。
我が子が鳴く時、本領発揮する。
ハクトウパンの目がキュピーンと光る。
自らピンチに陥った時、子ハクトウパンの鳴き声を聞くと我が子を守られねばならぬと気合を入れるのだ。
『ちぃ、種族スキル《 子を想う親心 》が発動してしまいおった』
「そのスキル名、なんかひどくない」
仮にも我が子を思う親の気持ちを親バカと表記るのは如何なものか……。
ハクトウパンの身体から不気味なオーラが現れる。
「おっと、奴さんとうとう本気になりやがったな」
光輝かく大剣を肩に乗せてニヤリと笑うレイ。
「気をつけてレイ。向こうも死に物狂いで来るわ」
その隣で苦笑するエル。
エルとレイは距離を置き、ハクトウパンの様子を見る。
アニメならば第二形態と説明すれば良いのだろうか。
「さーてとっとと終わらせてやるぜぃ」
レイは大剣をハクトウパンに向けた。
第二ラウンドの開始だ。
『あやつは本気を出した時、二足歩行から四足歩行になってダッシュするのじゃ。そして全体重ごと相手にブチかます体当たりを得意としておる。さらに翼が使えれば、上空から全体重を乗せてヒップドロップも仕掛けてくる』
「もうなりふり構わずって感じなんだね」
『あぁ、我が子を守る親の力を舐めてはならぬぞ』
相手も相当ピンチなのであろう。やらなければやられるのは人間も魔物も同じだ。
弱肉強食。
世界は残酷……。
ハクトウパンが咆哮し、四足で駆け出す。
駆け出した先にいたのはエル。
まずは、チョロチョロと周りをウロついているエルフに的を決めたようだ。
だが、エルは瞬時に判断して回避行動に移る。
素早さと判断力ならばこの場にいる誰よりも負けない自信がある。
このままUターンしてくると思い、武器を構えるもハクトウパンはそのまま駆け出していく。
「しまった、またしても」
「おいおい、またかよ」
エルとレイも駆け出す。
その先には……。
『ハクトウパンがこっちへ突っ込んでくるぞ』
琴花と村の子供がそこにいた。
またもや魔物が迫ってきた。




