Episode 032
夏休みまであと1週間となった今日。
文化祭の準備も本格的に進めなくてはいけない。
ここ最近は頻繁に文化祭実行委員の集まりがあり、毎日のように作業している。
だけど、
「センパイ、今日も来てないんですか?」
どこか心配そうに三方さんが訊いてくる。
「うん。どうやら風邪っぽいんだけど」
「それにしては長くないですか?センパイというか、班長がいないとあたしたちも動きづらいんですよね」
「僕も連絡はしてるんだけど、大丈夫としか返ってこないんだよね」
正直、何かあったとしか思えない。
「一応、大まかなやることなんかの指示はLI○Eでくれるんですけど」
それでもちゃんとなったからには班長としての仕事はしてる。
それも未亜らしい。
「それならまだ良かったよ」
今日もつつがなく会議は終わり、作業に取り掛かる。
明日になれば未亜は学校に来るようになるだろうか、そんなことを思った。
しかし翌日、思いもしなかったことを担任の杉野先生から告げられた。
その日の朝、杉野先生は神妙な面持ちで教室に入ってきた。
何かを察してクラスの皆んなはすぐに静かになった。
「あー、そうだな。一応、皆んなに報告することがある。昨日、桑田が病院へ搬送された」
クラスが少しざわめき出すのが分かる。
だけど僕はそれ以上に衝撃だった。
「詳しいことは俺もまだ分からない。だが命に別状はないみたいだ。本人は嫌がってるみたいだが、街の大きな総合病院あるだろ?そこに入院してるみたいだから、見舞いに行くやつは事前に俺に言ってくれ。こちらから親御さんに連絡しておく。とりあえずこの話は終わりだ」
未亜が病院へ搬送されるだなんて、あの時以来じゃないか。
「怜、海斗。今日は部活休むぞ」
諒平が僕たちを未亜のお見舞いに誘ってくる。
「うん」
「そうだね」
僕と海斗は迷うことなく頷いた。
放課後。
僕は文化祭実行委員に少しだけ顔を出した後、諒平と海斗とともに未亜のいる病院へと向かった。
受付の方から入院している病室を教えてもらい、その扉の前まで来た。
僕がコンコンとノックする。
だけど何の返事も返ってこない。
僕たちは首を傾げながらも扉を開けた。
「おい、勝手に入ってくんなっての」
「未亜……」
そこには顔にはアザや擦り傷、さらには頭に包帯を巻き、腕に点滴を打っている未亜の姿があった。
「一体何があったんだい?」
「あぁ、病院に搬送されるぐらいだとは思ってたけどよ」
未亜はまるで何もなかったかのように笑う。
「ちょっくらコンビニまで自転車で行ってきたんだが、その帰りに車に轢かれたんだよ。情け無い話だ」
「逆によくそれで済んだね……」
「運が良かったんだよ。奇跡的に骨も折れてない」
「未亜、風邪で休んでたのにコンビニ行ったの?」
たしかに、海斗の言う通りだ。
「仮病に決まってるだろ。シーズン最速プレ○ターになりたくてだな」
「ん?何の話だい?」
「お前、ペクってないの?勿体ない、人生の三分の一が勿体ない」
「僕があまりゲームをやらないのは知ってるだろ」
「そうだな。まぁ安心しろよ、3日で退院できるみたいだし」
「そうか。元気そうで何よりだ!」
諒平は手の平で未亜の背中を叩く。
「イテーよバカ!ったく、本当は見舞いに来させないようにするつもりだったのによ」
「そいつは残念だったな」
「さっさと帰れバカども」
「あ、これ良かったら食べて」
僕はフルーツの詰め合わせを未亜に渡す。
「わざわざ悪いな。テキトーにそこ置いといてくれ」
「うん」
このあと、僕たちは他愛もない雑談をした。
「それじゃあ僕たちはそろそろお暇するよ」
「あぁ、じゃあな」
「お大事にね、未亜」
「あぁ」
「そんじゃあな」
「お前らも気をつけてな」
そして僕たちは未亜のいる病室から出た。
病院の廊下を歩いていると、海斗が話し始める。
「車に轢かれたって、あれ嘘だよね?」
「ん?そうなのか?」
「僕もそう思う。事故に遭って骨が1つも折れてなかったのと、不自然に拳にだけ包帯が巻かれてた。正直、これだけで確証はないけど」
「言われてみれば、まぁそうかもな」
僕たち3人は病院を出るまで黙り込んでしまう。
そう、どうしても思い出してしまう。
「中学のときみたいなことに、ならなきゃいいな」
「僕たちが知らないところで、何かが起こってるのかもしれない」
「………」
未亜はずっとそうだ。
未亜は、僕たちだけには絶対に頼らない。
怜たちが帰ったあとの病室。
若い女性の看護師が扉をノックして入る。
「お友達は帰ったの?」
「えぇ、まぁ」
「いいの?あんな嘘ついちゃって」
「聞いてたんですか?」
「偶々ね。入ろうとしたときに声が聞こえてきたから」
「盗み聞きは性格悪いですよ」
「そうかもね。それで、ホントのこと言わなくてよかったの?」
「言えるはずないじゃないですか。鉄パイプで後ろから殴られたなんて」
「どうしたらそんな目に遭うのよ……」
「完全に油断しましたね」
「頭に血を流して道端で倒れてるところを助けてくれたのよ?その人に感謝しないとね」
「見つけた人はさぞかし驚いたでしょうね」
「あなたが言わないの。全く、聞いたわよ?あなた前にもヤンチャしてたんだって?」
「誰から聞いたんですか?」
「あなたの担当の先生」
「あぁ、なるほど」
「目を離さないようにって、念押しされたわ」
「余計なことを……」
「誰だってそう言うわよ。何せあなたは」
「あ、グレープフルーツいります?」
「話を逸らさないの。あと少しで夕食持ってくるわね。それまでおとなしくしてるように」
「子どもじゃないんですから」
「私達からしたらまだまだ子どもよ。そう言われたくなかったらヤンチャするのはこれっきりにしなさい」
そう言って看護師は病室を出る。
「そうもいかないんですよ……。ん?三方から何か来てるな。えーっと」
『次の集まりは姫ヶ崎の人と一緒ですからね。絶対に来てくださいよ!』
「次は出ようかなとか思ったけど、やっぱやめるか」
ピコンッ
『次の会議は楽しみですね。まさか来ないとかありませんよね?そうですよね。お大事に』
「こっわ。てか何でお大事に?翔子が知ってるわけないよな?怜が言ったのか?頼むからそうであってくれ」
ちなみにこの後すぐ怜に連絡を取ったところ、例の彼女にはまだ言ってなかったらしい。
この日の夕食、あまり喉が通らなかったそう。




