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アバンダンド(見捨てられた学校で)  作者: 一天草莽


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04 三年目(4)

 時は放課後、三年の教室。


「さて、それじゃホームルームというか、今日の反省会を始めるぞ」


 生徒会長である御手洗の合図に、教壇に立っていた主任が頭を下げる。


「最初に主任の俺から謝罪がある。新学期早々、俺が組んだ時間割に不備があったことは認めよう。この春休みで休みすぎた。さすがにちょっと、どうかしていたかもしれない」


 これでちょっとなら、本当におかしくなったときどうなるのか。

 あまり深刻に考えていないのか、能天気な山原が励ますように反応した。


「まあまあ、主任。今日はレクリエーションだったと思って、明日からがんばろうよ」


 それに隣の席の宗谷が、ぼそりと付け加える。


「そんなこと言う人間ほど明日になっても頑張らないけどな」


「だね、それは同感。……明日の僕、大丈夫かな?」


 明日の我が身に不安たっぷりな山原が頭を抱えたとき、静かなタイミングになったのを見てリオが言いにくそうに手を上げた。


「あのさ、その前に私からみんなに聞いてもいい?」


「どうしたんだよ、リオ。改まってさ?」


 宗谷の言葉にクラスの注目が集まったことを確認して、ごくりとつばを飲み込んだリオは教室の全員に聞こえるように答える。

 それが今日の反省会より、ずっと大事なことであるように。


「うん。……明日から頑張るって言うけど、一体何を、どう頑張るって言うの? もっと具体的にさ、これから私たちがどうしていくのかとか、そろそろ本格的に考え直していかないと駄目なんじゃない?」


 これに対して、宗谷を含めたクラスの全員が誰も答えられずに沈黙が続いた。

 このまま放置すれば長くなりそうな深刻な雰囲気を嫌って、三十秒と経たずに生徒会長の御手洗が重くない声を意識して沈黙を破る。


「……お前たちが不安に思うのもわかる。だが、そのことに関しては俺たち運営委員会で、この春休みの間もずっと話し合ってきた。明日からも今まで通り、俺たちにやれることをやっていこうじゃないか」


 その言葉に明るく続けるのは、リオに気遣わしげな視線を送る山原である。


「そうだよ。こうして無事に三年目を迎えられたことだし、ね?」


 その声は気丈で、優しくもある。

 真っ直ぐ過ぎる山原の目を正面から見ていられなくなって、ちょっと伸び始めている黒髪を垂らしたリオは目を伏せ、ゆっくりと問いかけた。


「だけど、ここを卒業する年齢になったらどうするのよ?」


「それは……」


「もちろん、私だって偉そうに言える立場じゃないことはわかっているの。ごめんなさい。でもね、その、ちょっと不安になってきたというか、心配というか、みんながどう考えているのか気になって……」


 そこまで言ってようやく顔を上げるリオ。答えるのは宗谷である。


「大丈夫だって。俺たちが力を合わせれば、どうにかなるさ」


「宗谷はおきらくすぎるのよ……」


 喧嘩ではないにしても二人の間に気まずい空気が流れ始めたとき、それを察したのか無頓着なのか、どちらともとれる声色で山原が口を開いた。


「あのさ、きっと宗谷もリオちゃんも、どっちも正しいことを言っていると思うよ。頼りない僕が言うのもなんだけどさ、これから僕らがどうなるかは、これからの僕ら次第だから……。だからみんなでさ、今を楽しみつつ明日のためがんばろうよ。ね?」


「山原……」


「まさか山原に言われるとはなぁ……」


 リオも宗谷も、山原にそう言われては黙るしかなかった。

 さすがに誰も何も言わないのでは元の木阿弥と思ったのか、ここは生徒会長の役目だとばかり御手洗が代表した。


「すまんな、山原。そしてリオや、他のみんなも。今日はこれから緊急の運営委員会を開いて、リーダーと俺たちで今後のことをもう一度話し合ってみるぜ」


「……まあ、三年主任の俺は、とにかく明日の時間割だがね」


「よし、というところで、ホームルームは終わりだな。解散してくれ」


 御手洗がそう締めると、もう誰も異を唱えなかった。

 ホームルームが終了して、教室を去っていく生徒たち。

 一日分の疲れがたまったのか、大きく伸びをした山原は隣の席の宗谷に顔を向ける。


「宗谷は今日って、これからどうする?」


「何も考えてなかったけど……。今日はもう疲れたから寮に帰って休むぜ」


「あっそ。宗谷は考えても考えなくても、いつもそんなんだよね。リオちゃんは?」


「私も……そうするかな」


「そっか、ゆっくり休んできてね。うん、じゃあまた、夕食のときに」


「ええ、山原も無理はしないでね」


 他のクラスメイトに遅れず、教室を出る宗谷たちだった。





 一段と濃ゆい茜色に染まった放課後。

 校舎の外周をぐるりと囲むように立てられた高いフェンスにも、血のように赤く強い光が容赦なく突き刺さっていた。

 その頑強なフェンスに手をかけ、寂しそうに外を見つめるのはリオだ。

 彼女は一人になれる空間で、誰に邪魔されることなく物思いにふけっていた。


「こんなところにいたんだ、リオちゃん」


 そっと後ろから声を掛けたのは山原だ。


「山原……」


「そろそろ時間だから一緒に食堂に行きたいなぁと思って。ごめん、探しちゃった」


「そう……」


 振り向かずに答えるリオ。少しうつむくのは、山原から顔を隠すためかもしれない。


「もしかして、泣いているの?」


「ううん、そんなことないけど」


 否定するものの、力なく首を横に振るリオは顔を上げないでいる。


「そう? でも今のリオちゃん、寂しそうな背中に見えるけど」


「気のせいよ」


「不安なの? ……違うな。きっと怖いんだよね?」


「そんなことないわよ」


 突き放すように言ったリオは決して山原の顔を見ないように、視線を下げて振り返って、そのまま歩き去ろうとする。


「夕食はいいわ。また明日、さよなら」


「あ、待って」


 山原は立ち去ろうとするリオの腕をそっと掴む。


「ねえ、僕じゃ力になれないかな?」


「山原……」


「僕、やっぱり頼りない? ねえ、もっと頼ってくれてもいいのに」


「そういう山原こそ、泣いているじゃない」


 やわらかい声でリオは言い、山原は涙ぐみながら気丈に笑った。


「だって、なんだかリオちゃんの悲しみが伝わってくるんだよ……。そしたら僕だって不安にもなっちゃうよ……」


「私は大丈夫。せめて私は強くありたいから。山原、あなたの前で泣きたくないの」


「無理しないでよ。僕の胸を借りて、たまには泣いてもいいと思うよ? ほら」


「優しさは嬉しいけど、泣いている山原に格好つけたセリフなんて言われたくないわよ……」


「おかしいね、涙が、あれ……?」


「もう、山原ったら。泣きたいなら私の胸、借りてもいいんだからね?」


 我慢したくても自然と涙が漏れてしまい、あきらめて笑顔を見せるリオ。


「う、うん。……よかったらだけど、ねえ、お互いに支えあおうよ」


「山原……」


 相手に胸を貸す代わりに、ゆっくりと正面から抱き締め合って、そのまま一緒に気が済むまで泣くことにした二人。

 その姿は、どこか慰めあうように見えた。

 お互いの不安を打ち消す合うように。

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