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アバンダンド(見捨てられた学校で)  作者: 一天草莽


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34 釘を刺す(4)

 怪我をした山原を運んだ保健室で、彼の眠るベッドの横にリオが座っていた。


「……私、山原に合わせる顔ないよ……」


 苦しそうにつぶやいて、うつむくリオ。

 無力感に包まれたまま宗谷は首を振る。


「リオのせいじゃない。俺のせいだ。あのとき俺が山原から距離をとるように言っちまったからだ……。今回は殴られて気を失っただけで、骨折なんかはしてないらしいけど……。俺も、山原に合わせる顔がない……」


「ねえ、これから本当にどうしたらいいの? 私たち、本当に大丈夫なの? 不安で仕方がないよ。どうにかなりそう」


「……わかるよ、不安なの。当たり前だよな。でもさ、そうやってリオが落ち込んでいると俺だってどうしていいかわからなくなるし、なによりも山原は俺たちが笑っていないと駄目だと思うんだ。だから、すぐには無理かもしれないけど、元気を出そうぜ?」


「それはわかってる。でも、もう笑えないわよ、こんな状況じゃ……」


「……なあ、リオ。俺じゃ駄目かな? こんな時に言う台詞じゃないかもしれないけど、こんな時だからこそ言わなきゃいけない気もする」


 眠っている山原に気を遣いながらも、覚悟を決めた宗谷はリオを見る。


「リオ、俺はお前が……お前のことが、好きなんだ」


「……忘れたの? ここ、男女間での不純異性交遊は校則で禁止されているはずでしょ? みんなを見回る仕事を任されている宗谷が、何を言っているのよ」


「違うんだ、リオ。これは規則とか不純な動機は関係ない話なんだ。真面目な、本気の、本当の話なんだ。なあ、リオ、俺はお前を支えてやりたいんだよ」


「……何度も言わせないで。ここ、恋愛禁止なのよ」


「だから俺が言いたいのは規則のことじゃなくてさ!」


「違うの、ごめん、宗谷のほうこそわかってよ。私だってそんなこと言いたいんじゃなくてね。こんなの、あなたからの告白を遠回しに断るための口実に決まっているじゃない……」


 宗谷はうつむく。


「……そうだよな、ごめん。忘れてくれ。俺が馬鹿だった」


「ううん、忘れたりはしないわよ。その気持ちは私も嬉しいから。……そうね、ちょっとだけ力が出た。あなたの望むようには答えてあげられないけど、感謝するね、宗谷」


「そうか。それならよかった。思い切って言ってみてよかったぜ……」


「……よし。私、ちょっとリーダーに思ってること言ってくる。宗谷、ついてきてくれる?」


「当たり前だろ。お前の支えになりたいって言ったばっかりだ」


 そうして、リオと宗谷は二人で校長室を訪れた。

 そこには会議中のリーダーと御手洗がいた。

 簡単にあいさつをして、リオが口を開く。


「ねえ、リーダー。私から言いたいことがあるんだけど」


「珍しいな。ぜひ聞かせてもらおうじゃないか」


「ありがとう。……リーダーは嫌がるかもしれないけど、私はちゃんと綺羅富士と話し合ってみたいと思うの。みんなを代表して、女子の数人でね」


 これに驚いたのは御手洗だ。


「女子数人でって、まさか女子だけで綺羅富士のところへか?」


「そうよ」


「しかし、それは……」


 あまりにも危険な行為だと心配しているのか、リーダーが問いかける。


「山原のことを知らないわけではないだろう?」


「ええ、知ってる。そりゃあ危険かもしれないわ。でもね、私たちには力なんてないけど、あなたたちみたいに馬鹿なプライドもないの。それにね、腕力ならともかく気持ちで簡単に負けたりしないわ。ひどい目にあわされた山原のこともあるけど、本当は許せないし悔しいけど、今は冷静に話し合う必要があるもの」


「だが……」


 と言い淀む御手洗にリオが言い返す。


「でも、このまま綺羅富士の思い通りにことが運ぶのも納得いかないんでしょ? だったら私たちにかけてみるのもいいんじゃないかしら。ね、リーダー?」


「……もしものとき、俺たちは助けに行けないかもしれないぞ?」


「構いはしないわ。心配してくれれば、それで十分よ。じゃ、ちょっと行ってくるわね」


 ひらひらと手を振ってリオは校長室を出た。


「本当にいいのか?」


 そう尋ねたのは黙ってそばにいた宗谷だ。


「ええ。あなたも心配してくれるのよね?」


「当たり前だろ」


「だったら願っててよ。私たちの無事を」


「……ああ」


 さりげなく手の甲をぶつけ合う二人だった。





 寮へと訪れた三年の女子数名を、一年の高宮が綺羅富士のもとへと案内してきた。


「綺羅富士先輩、あれほど丁寧に釘を刺したばかりだというのに、早速三年の先輩方がお会いしたいそうですよ」


「ほう……?」


 身構えた綺羅富士が意外そうな顔をする。


「誰が来たかと思えば、女子ばかりか。男子は一人もいないようだが、そんなに連れ立ってどうした? まさか復讐ではあるまい」


 怒りや恨みなど、ネガティブな感情をすべて飲み込み、リオが答える。


「ええ、あなたたちに復讐をするつもりはないわ。あえて言うのなら、これは頼みね」


「……頼み?」


「そうよ、お願いをしに来たの。意固地になっているリーダーの代わりに私たちが頭を下げるから、せめて少しだけでも寮を解放してくれない?」


 リオに続いて、エミが頭を下げる。


「そのために必要な条件などがあれば、そちらが決めていただいてもいいのです」


「まさかお前らが俺に頭を下げに来るとはな……」


「お願い、お願いだよ、綺羅富士君……」


 手を組み合わせて、祈るように綺羅富士を見つめるのは真由だ。

 山原への蛮行で釘を刺した手前、後戻りはできないつもりでいたが……。

 その友達であるリオが怒りを収めて、綺羅富士たちを責めるでもなく頭を下げに来ている。

 今さら仲直りするわけにもいかないだろうが、かといって追い返してしまうのは自らの器の小ささを証明してしまうようなものだ。

 今後の展開を想像して、綺羅富士は考えた末に口を開く。


「ところで、お前らのところに女子は何人いる?」


「えっと……ええっと……」


 焦って何も言えないでいる真由に代わり、数えもしないでリオが答える。


「あなたのところにいない女子は、みんなこっちにいるわ。そっちだって、自分のところにいる生徒の数を把握していないわけでもないんでしょ?」


 まあな、とうなずいて綺羅富士。


「……男どもがどうなろうと知ったことではないが、その道連れに女子を巻き込むわけにはいかないか……」


「き、綺羅富士君……」


 やはり懇願するように見上げてきている真由をちらりと見て綺羅富士は続ける。


「……よかろう。ならば女子寮は解放してやる。そして、もう一つだけ譲歩だ。これから一時的に物資は折半してやってもいい」


「あ、ありがとう、綺羅富士君!」


「ただし、これは女子に免じた妥協案だ。男子寮と女子寮は互いに不可侵であり、いつかお前たちには最後の答えを求める」


「うん、それでもいいの。ありがとう」


「礼を言う必要はない」


「それでも言うわよ。ありがとう」





 その後、校長室に戻ったリオは綺羅富士とのやり取りをリーダーに報告した。


「そうか、交渉は成功したのか」


「ええ、ひとまずわね。女子寮の解放と、物資も半分だけ分けてくれるって」


「……世話をかけたな」


 頭を下げたリーダーはしばらく思案してから、顔を上げる。


「よし、これからは生活拠点を女子寮に移すことにしよう。ただし、こればかりは俺の一存で決めてしまうわけにはいかない。最初に女子の許可を求めたい。頼めるか?」


 リオは笑顔で答える。


「私はいいわ。部屋割りさえちゃんとしてくれたら、普通に生活できるでしょう」


「そうか、助かる。上手く言えないが……よくやってくれた。感謝する」


「お礼を言ってくれる必要はないわよ」


「それでも――」


「言わないで、って言ったの。リーダーが私に頭を下げ過ぎると、私の立場が変に持ち上げられてしまうかもしれないでしょ? 今まで通り、リーダーにはリーダーでいてもらわないと。感謝するなら心の中でたっぷりして」


 あまり感情を出さないなりに感謝と申し訳なさから頭を下げていたリーダーだったが、顔を正面に戻すと学帽へと手をかけてズレを直した。


「ああ……。それでは今後の寮生活だが、詳しい規則は後日改めて決定するとしよう。当面は基本的な規則に従って、各々で考えて行動してくれ。それから、部屋割りは……」


 どうするべきか、と考えて黙ったリーダー。リオたち女子に気を遣っているのかもしれない。

 誰も言わないなら自分の役目だろうと千藤が提案する。


「男女が別れるのは当然として、さしあたり俺たち側にいる生徒の総数を部屋数で割って、一部屋あたりの人数を均等に割り当てよう。希望がなければ五十音順に組み合わせていくとすれば、リーダー勢力にいる生徒たちの名簿も作らなくては」


「そうだな。一度、リーダー陣営と綺羅富士陣営のどちらにどれだけの人数がいるのかを確認したほうがいい。環境が変われば不満や問題も出てくるかもしれないが、それについては我慢してもらうしかないだろうな」


 少しは希望が見えてきたのか、これからの展開を前向きに考え始めた御手洗であった。

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