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アバンダンド(見捨てられた学校で)  作者: 一天草莽


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33/41

33 釘を刺す(3)

 翌日の夕方、校長室での運営会議。

 いなくなった一年主任の代役として、もはや黙っていられなくなった朽木が特別に参加を許されていた。

 その朽木が口を開く。


「で、結局のところ今日も物資は届かなかったわけだが」


「わかっている」


「御手洗、本当にわかっているのかよ? このまま何も届かなかったら、オレたちはみんな飢えて死んじまうんだぞ? 家庭科室に最低限の調味料があって助かったが、あとは水と野草だけだ。野生動物はフェンスを越えて入ってこないし、鳥なんて捕まえられない」


「聞こえなかったか? わかっていると言っている」


「今はまだ水道が生きているから空腹も紛らわせているが、この学校に通じる上下水道が封鎖されないのは政府の恩情と国際的な批判を避けるための言い訳でしかない。もし水まで出なくなったらどうするんだよ?」


「……わかってくれ、朽木。ここで綺羅富士に降参するわけにはいかないんだ。あいつの思う壺だろ」


「確かに綺羅富士は問題だが……」


 綺羅富士の危険さを理解している朽木に代わって、二年の中津が恐る恐る口を開く。


「ですが先輩、そろそろ何とかしていただかないと、僕ら二年生も我慢の限界といいますか、弱者を切り捨てると宣言している綺羅富士先輩に不安を覚えていても、目先の空腹を我慢できずにあちら側に行ってしまう生徒だっているみたいです」


 それは確かに問題だ。

 手の打ちようがないまま御手洗は苦渋に満ちた表情を浮かべる。


「このままじゃ、俺たちリーダー陣営に残ってくれるのは半数を大きく下回るかもしれないな」


「大丈夫だ。目先の暴力で動かされるような人間は、大局が動けばすぐに身を翻す。核である俺たちが折れなければ、敵に屈する必要はない」


「そういうことだ」


 千藤の言葉にリーダーがうなずく。


「し、しかしですね……」


 気まずそうに視線を泳がせる中津が何かを言おうとして、重苦しい雰囲気に負けて最後まで言えずにいると、朽木がその肩を叩いた。


「なあ。なにも相手に屈服しなくても、リーダーが直接、綺羅富士と交渉することならできるだろ? 仲良くするのが無理でも、もっと別のやり方があるかもしれないだろ」


 叩かれたついでに肩に手を置かれたままの中津は朽木にも気を遣いながら言う。


「そ、そうですよ、リーダー。リーダーであれば綺羅富士先輩とも対等に話し合えるはずです」


「そんなことをしても自分が対等な立場になったと勘違いして、相手を図に乗らせるだけだ。いよいよ敵を調子付かせることになる」


「で、ですが、このままでは……」


「ならば中津、そして一年の主任を代行している朽木」


 自分の名を呼ばれた朽木は目を細める。


「……なんだ?」


「お前ら二人が綺羅富士と交渉してみるがいい。それができないなら、これ以上俺に意見をする資格はない」


「わかったよ、リーダー。うかつには動けないリーダーの事情だってわからんわけじゃないからな。オレらの覚悟をなめてもらっちゃ困る。な、中津!」


「え、あ、はい……!」


 自分たちでなんとかするしかないと息まいた朽木と、それに巻き込まれて拒否できない中津は綺羅富士のもとへ向かう。

 動くなら早いほうがいい。

 そう考えた二人はバリケードでふさがれた寮の入り口へとやってきた。

 その後、わざわざ奥から出てきた綺羅富士は朽木と中津の呼びかけに一言で答えた。


「当然、断る」


 それを受け入れるわけにもいかない朽木はギリギリまで近づいて呼びかける。


「断るって、おい! 別に話くらい聞いてくれてもいいだろ!」


「聞く義理も、理由も、価値もない。俺に異を唱えるのなら、それも構わない。構わないゆえ、知りもしない。くたばるのならば勝手に野晒しにでもなれ」


 緊張感と持ち前の臆病さから、当初は黙っているつもりだった中津も綺羅富士に訴えかける。


「で、ですが綺羅富士先輩、いくらなんでもこんなやり方はっ!」


「許されないとでも言うつもりか?」


「え、ええ……!」


 それが実際には許されるんだがな……と小さくつぶやいた綺羅富士は肩をすくめる。


「きっかけは暴力による恐怖政治であったとしても、なびいてきた生徒たちによって半数の支持は俺にある。お前らの好きな民主主義でも、俺の信じる実力主義でも、このやり方を否定することは出来ないだろ」


「主義なんて関係ない! お前は力ずくで、いろんなものを見殺しにするつもりかよ!」


「なあ、朽木。それをまず、リーダーにこそ訴えるべきだったな」


「それは……」


「時間の無駄になる。次にこの場に来るときは、リーダーのもとを去る覚悟で来い。そのときは迎え入れてやる」


 それだけを言い残して立ち去る綺羅富士。


「朽木先輩……」


「すまん、中津……」


 これ以上ここに残っても成果は得られないと、無力感を抱えて寮を離れる二人だった。





 翌日の朝。


「あ、もう朝かぁ……。結局、昨日は何も食べられなかったな……」


 布団代わりに布などを敷いた教室の床で目が覚めて、無視できない空腹を感じたのは山原だ。


「そもそも綺羅富士君がいけないんだよ。今までちゃんと学校に来てなかったから、こんな風にみんなの溝を広げちゃうんだ。そうだよ。綺羅富士君がちゃんとしてくれないとね?」


 寝起きの頭でそう結論付けた山原は一人で寮へ向かう。


「こんなもので守られなきゃ気がすまないなんて、綺羅富士君かわいそう」


 通行の邪魔になっているバリケードを乗り越えて寮に入り、綺羅富士たちの目から隠れるでもなく堂々と廊下を歩く山原。

 その姿を発見した高宮は目を見開いて驚いた。


「あれ、山原先輩? どうしてこんなところにいるんです?」


「あ、高宮君。僕ね、綺羅富士君に会いにきたんだ。どこにいるかわかる?」


「山原先輩が、ですか? 意外ですね。……ですが、はい。ご案内しましょう」


 興味深そうな様子を見せる高宮は、訪問客となった山原を案内する。

 向かう先は綺羅富士の部屋だ。


「それで、山原。こんな朝から俺に何の用事だ?」


「もちろん話があってきたんだよ」


「聞いてください、綺羅富士先輩。なんと山原先輩は一人でもぐりこんできたんですよ? さすがに驚きました」


「ほう。つまり、あいつらを裏切るってわけか。いいぜ、迎え入れてやる」


 しかし山原の返答は彼らにとって予想外のものだった。


「いや、綺羅富士君。その逆だよ。綺羅富士君を、みんなのところに迎え入れてあげるんだ」


 言った瞬間、そばで聞いていた高宮が素っ頓狂な声を出した。


「ええっ? 山原先輩、あなた一体何を言い出すんですか?」


「そんなに意外かな? とても簡単なことだよ。綺羅富士君、今までみんなの輪の中に入れなかったからって、こんな風に自分を祭り上げてもらうしかなかったんでしょ? 力しか信じられないから、こんなことして友達ごっこをしちゃうんだ。ふふ、まるで子供みたい」


「山原……?」


 綺羅富士の反応も山原には見えていない。


「リーダーもリーダーなら、綺羅富士君も綺羅富士君だよ。本当に馬鹿。本当にびっくりするくらい馬鹿だよ。こんな大変なときにつまらない意地を張っちゃって」


「……黙れ、山原。それ以上ふざけたことを抜かすな」


「ねえ、ふざけているのはどっちさ? もうね、いちいち言動が子供っぽいよ。そのくせ子供として一番大事なこと、みんな仲良くってことを忘れちゃってるんだから」


「みんな仲良くだって?」


「そうだよ。みんな仲良く。一番簡単で、一番大事なこと。きっと綺羅富士君は気がつかないだけだよ」


「……そんなことを言いに来たのか、山原」


 しばらく見守っていた高宮が綺羅富士の耳に口寄せる。


「それより綺羅富士先輩。昨日の朽木先輩と中津先輩、それから今日の山原先輩といい、こんなにも気軽に接触してくるなんて、僕らの本気を彼らが本当に理解しているとは思えませんね」


「確かにそうだな。リーダーのもとを立ち去らない生徒が残っているのも、あいつらに物資がなくなっても俺たちが手を差し伸ばすはずだと、甘い考えを持っているからかもしれないな」


「最悪、うやむやに境界線を越えてきて、そのまま寮を解放させられてしまうかもしれません。リーダーたちではなく、生徒の一人ひとりにこそ、これが簡単に立場を変えられるほど単純な問題ではないと示すべきではありませんか?」


 山原が不満そうに口を挟む。


「ちょっと、二人とも何を言っているのさ?」


「……山原、お前には自覚がないのかもしれないが、お前は男女問わず、三年だけではなく後輩からも好かれているらしいな。それも、争いとは無縁の優しい存在として、だ」


 声を抑えた綺羅富士が何を言いたのかわからず、きょとんと山原は首をかしげる。


「うん? 少なくとも僕はみんなが好きだよ」


「それはよかった。それなら山原、お前はその体を使って馬鹿どもに警告をならせ」


「……だから、何を言っているの? 何を言いたいのかよくわからないんだけど」


 高宮がくすくすと笑う。


「山原先輩、まさか綺羅富士先輩の前に、お遊びで来たわけじゃないですよね?」


「……どういうこと?」


「山原、お前をリーダーへ送る警告文の代わりに使ってやる。つまり、やつらへの見せしめだ」


「……え?」


「反乱しようと考えている人間すべてに釘を刺す。お前の体を通してな」


「それでは綺羅富士先輩、僕は血気盛んなやつを何人か呼んできます。中途半端な釘じゃ、リーダーみたいな堅物には刺さりませんもんね?」


「……だな」


 綺羅富士は不敵に笑う。





 ぼろぼろの状態で地面に投げ出され、気を失っている山原。

 そこに通りかかったのは朽木と中津の二人だ。


「そろそろ昼になるか……。なんとか昼食だけでも分けてもらえないか、もう一度交渉してみる価値はあるかもしれないな」


「でも、朽木先輩。僕ら二人だけで大丈夫でしょうか? 前回は追い返されましたからね。リーダーたちは負けを認めたくないのか、頑なな態度ですし……」


「リーダーの立場もわかっちゃいるけどな……って、や、山原! お前、どうした!」


 倒れている山原を発見して、慌てて駆け寄る朽木と中津。


「ほ、保健室に運びましょう! それからリーダーたちにも報告を!」

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