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アバンダンド(見捨てられた学校で)  作者: 一天草莽


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27/41

27 スパルタ

 校長室にて、窓から外を眺めるリーダー。

 誰に聞かせるわけでもなく、独り言をつぶやく。


「少なくともあの日、俺たちは立ち上がったはずだ。いや、俺がみんなを立ち上がらせてしまったのか……。その責任は重いな。重すぎて、背負いきれない」


 コンコンと、ノックの音が響いた。


「すみません、リーダー。失礼してもよろしいですか?」


「ああ、入ってくれ」


「失礼します」


 おずおずと部屋に入ってくるなり、姿勢を正した御手洗は頭を下げる。


「この前はすみませんでした。感情のままに、つまらないことを言ってしまって」


「気にするな。言わせた俺が悪い」


 責める気はないという意思表示のつもりなのか、目を閉じるリーダー。

 タイミングをうかがいながら御手洗は慎重に話しかける。


「リーダー、これからのことですが……」


「ああ。やはりお前は規則の強化や厳罰化には反対するつもりだな?」


「申し訳ありません。ですが、その理由はあえて言わずとも、わかっていただけますよね?」


「当然だな。なにしろ俺たちはそのやり方にこそ、反抗したのだから……」


 リーダーは遠い目をして、窓から空を見上げる。


「三年前、ここで反抗を誓った俺たちは、確かにこんなやり方が大嫌いだった」



(中略)



 20XX年、旧時代の政府は度重なる政権交代、汚職、混乱の時代を経て、すべての責任をふがいない若者に転嫁した。

 自分たちを骨抜きにしたゆとり教育を反面教師にして、スパルタ制度を強行採決したのだ。

 若者に対する懲罰的な教育システムをはじめ、ネットやメディアの規制、過度な私的財産の没収、老若男女すべてを対象とした社会保障の停止など、いくつかの制度や法案をまとめて称したものである。

 国策の行き詰まりに対する場当たり的な対処として始められたスパルタ関連法は俗に「弱肉強食法」と呼ばれているが、強者を選りすぐるスパルタ国家に夢を見る政府は国内外の批判的意見に耳を傾けなかった。



(中略)



 あくまでも平和的な手段でスパルタ制度に反対を表明した少年たち、すなわちリーダーたちは全員が政府に反逆した罪で死刑判決が出されている。

 圧倒的な暴力の前に戦うすべを持たず、時間稼ぎのため山奥の学校に立てこもった彼らに対して、世間から隔離して猶予期間を与えている状態だ。

 本来、政府は軍や警察の機動隊による突入を計画したが、多数の未成年者を対象とした作戦は人道の観点から大きな問題があり、近隣諸国からの内政干渉や軍事侵攻の口実となりかねため、実行を断念した経緯がある。

 現在、表面上は平和的にリーダーたちへ投降を呼びかけつつ、周囲に壁を作って隔離するにとどめている。時代錯誤のスパルタ制度に厳しい目を向ける他国への言い訳として、人道を理由に最小限の物資の搬入は認めているが、正門の外に監視所を作って人の出入りは禁止している状態だ。

 つまり彼らは、国家によって見捨てられた少年たちである。



(中略)





 校長室。


「ここで俺たちが学生の振りを続けるのも、もはや不可能なのかもしれない」


 無力感を抱えて自嘲するようにつぶやくリーダー。

 そこへ、血相を変えた御手洗が勢いよく扉を開けて駆け込んでくる。


「リーダー、大変です! 政府が動きました! リーダーの祖父、天文谷てもやさんが警察に捕縛されました。俺たちに関連してではなく、冤罪をふっかけて別件で逮捕したんです」


「時期的に考えると、なにやら理由がありそうだな」


「はい。先日発生した大規模なデモや暴動を受けて、政府は彼ら反政府主義者が理想像としている俺たちのことを本気でつぶしにかかっているみたいです」


「直接的に手を出せないからこそ、支援者である俺の祖父に手を出したのか」


「そういうことになります」


「しかし、それこそ俺たちの命綱だったものだ。思惑がどうであれ、どうやら上手く断ち切られてしまったようだな」


「……どうされますか?」


「……苦しいな。だが、逃げるわけにはいかないだろう」

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