26 俺たちが嫌っていたやり方(4)
だが、佐波の妹をかくまい始めた数日後には噂が広がり、すべてはリーダーに知られてしまうこととなった。
そして、今回の件に関係している生徒は全員、今は使われていない空き教室に呼び出された。
「さすがに限られた空間だと、人間一人でも隠し通すのは難しかったか」
誰にともなくつぶやいた宗谷だったが、自分たちがうまくやれなかったせいだと責任を感じているらしいエミが申し訳なさそうにする。
「すみません。私たちがもっとうまくやれていれば……」
綺羅富士が即座に否定する。
「お前たちは悪くない。気に病むな。それより彼女の存在が明るみに出てしまった以上、今度はリーダーへの対処が問題だ」
「くそう、よりにもよってリーダーに感づかれちまったとはなぁ……」
「誰かが気付けば、リーダーに報告がいくようになっている。当たり前のことだ」
「そもそもリーダーは鋭いからな……」
宗谷と綺羅富士が話していると、ガラガラと音を立てて教室の扉が開かれた。
生徒会長の御手洗だ。
「リーダー、彼女が例の少女です」
「そのようだな」
一歩だけ足を踏み入れた教室の入り口で、集まっているメンバーを見渡すリーダー。
廊下に振り返り、後ろに立っている人間を呼ぶ。
「佐波、お前も入れ」
「ああ……」
その顔を見た瞬間、少女が立ち上がる。
「……兄さん!」
「……ああ、無事だったか?」
「うん、みんなが優しくしてくれたから、大丈夫」
「そうか、よかった。本当によかった」
数週間ぶりに顔を見合わせて再会を喜ぶ兄妹。
宗谷たちはもちろん、御手洗たちも邪魔をしなかった。
しばらく待って、リーダーが声をかける。
「まずは佐波、しっかり説明する気があるのなら、一から順を追って説明してみろ。黙秘することで守れるのはお前の身だけだからな」
「わかっている。わかっているんだ、そんなこと」
「ごめん、兄さん。私のせいで……」
「いいんだ。お前はしゃべらなくていい。俺が言う。俺が言うから」
「ああ、聞こう」
そして佐波はリーダーへの説明を開始した。
厳しいスパルタ教育から逃げてきた妹をかくまうため、リーダーにも内緒で学校の中に彼女を引き入れたことを。
今までずっと一人で世話していたことを。
本当なら、ずっと隠し続けるつもりであったことを。
すべてを聞き終えたリーダーは佐波に問いかける。
「……佐波、それ相応の罰を受ける覚悟はあるか?」
「……ああ」
すでに妹の存在が露見してしまったからか、もう佐波は声を荒げるようなことをしなかった。
反論や抵抗を口にする意思もなくなっていた。
だから、言う。
「覚悟はできている。妹と一緒になら、追放されてもいい」
「おい、佐波!」
「そんな!」
安易な判断を思いとどまるようにと、次々に声上げる生徒たち。
しかし、佐波の決意はすでに定まっている。
妹と一緒でなければ、ここに残る意味などないのだ。
そんな彼の気持ちを理解しているのか、リーダーは処罰を伝える。
「佐波、外部の人間を受け入れないと決めている以上は例外を認めるつもりはないが、お前が名簿の一員であることは事実だ。お前が反省して心を変える可能性がある以上、しばらくは生徒指導室にて謹慎処分とする」
「……俺、一人でか? だったら俺は……」
「出ていくという気か? なら、そこにいる妹と二人で入っておけ」
「……妹と?」
「ああ。反省するまで、という条件がある以上、謹慎期間は未定だ。お前が妹と離れたくないと意地を張り続けるなら、数か月以上の長期になることも覚悟しておけ。以上だ」
「リーダー……」
それが追放までの時間稼ぎに過ぎなかったとしても、無慈悲に二人が追放されることがないとわかった宗谷たちはひとまず安堵した。
リーダーの意思や決定を翻すのは難しいかもしれない。
それでも佐波と妹が二人で一緒にいられる時間が一時的であれ与えられたのだ。
とはいえ、当然ながら素直には喜べないでいる少女が兄に泣きながら頭を寄せる。
「ごめんね、兄さん。私がここに来てしまったせいで」
「いいんだ。お前と一緒なら、俺はもう、いいんだ」
「兄さん、ごめん。私がわがままを言ったから……」
「だから、いいんだ。もう、いいんだ……」
涙する妹を自分の胸に抱き寄せる佐波。
しばらくは何も言わずに二人を見守っていたリーダーではあったが、落ち着いたころ御手洗に指示を出した。
「御手洗、二人を連れて行け」
「……わかりました。さあ、行くぞ。自分たちで歩けるな?」
教室を出た御手洗に連れられて、佐波と妹は生徒指導室へ向かった。
あとに残ったリーダーは、同じく残っている他の生徒たちを見渡す。
「さて、改めてもう一度、はっきりと言っておこう。現状を維持するためにも、規則は絶対だ。守れない者には容赦なく罰を与える」
多くの者は言葉もなく静かにうなずくにとどめたが、納得しかねる綺羅富士だけは冷たく言い返した。
「言ってろ、クズが」
「ああ、何度でも言ってやる。今後とも、無論、一切の例外はなしだ」
そう言って、リーダーは教室を出た。
その後、校長室。
寂しげにたたずんでいたリーダーに御手洗が声をかけた。
「……リーダー」
「なあ、御手洗。お前もついに愛想が尽きたか?」
力なくではあったが、それでも御手洗は首を横に振る。
「俺は愛想だけでリーダーのそばにいるわけじゃありません。死の果てまでだろうと、たとえリーダーのことを憎んでいたって追いかけていきますよ」
「そうか。……だがこんなことを続けていれば、いつか俺も、みんなに見捨てられて一人になるのかもしれないな」
「それがわかっていて、どうしてあんなことを言ってしまうんですか?」
「悲しいかな、すべてに責任を負う立場になると、どうしてもきつく当たってしまうものだ。守りたい人間の全員を守りたいと思ったら、厳しくなってしまう」
「……ですが最近のあなたは、いくらなんでも度が過ぎていますよ。もっとみんなの話を聞いてやってもいいんじゃないですか?」
「こんな状況に陥った俺たちを救う方法は、彼らを強く育てることだけだと悟ったんだ。厳しいとののしられようが、非情だと憎まれようが、たとえスパルタ的だとしても、あいつらを強くして守りたい」
「その気持ちは、その思いは俺だってわかります。ですが、ですが……」
リーダーは無感情のまま御手洗に目を向けている。
感情の読めない表情を見て、御手洗は思わず叫ぶ。
「いいですか、リーダー! それは俺たちが嫌っていたやり方ですよ!」
その言葉を受けてリーダーは目をつぶり、弱々しくつぶやく。
ただの一人の少年となったかのように。
「……そうだな。俺自身、そのやり方を一番嫌っていたはずだ。嫌っていた、はずなんだ」




