表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アバンダンド(見捨てられた学校で)  作者: 一天草莽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/41

25 俺たちが嫌っていたやり方(3)

 リーダーから与えられた罰として佐波が閉じ込められている生徒指導室の前まで来た三人。

 山原が軽くノックをしてから、扉越しに呼びかける。


「やあ、佐波君!」


「……ん? その声、山原か?」


「そうだよ!」


「ああ、よかった。……それで、俺の頼みは聞いてくれたのか? もしそうなら、ありがとう。礼を言うよ」


「あ、どういたしまして~って、それどころじゃない!」


 タイミングをうかがっていた宗谷が山原の横に立つ。


「そうだぜ。それどころじゃないぞ、佐波」


「なんだ、そこに宗谷もいるのか? ……まあ、お前たちはいつも一緒にいるから山原が宗谷を連れてくるのも当然か」


「俺もだ」


 意外な声が聞こえて息をのむ佐波。


「き、綺羅富士? 珍しい組み合わせだな。一体なんだよ、三人そろって」


 綺羅富士は前置きを抜きにして本題に入る。


「……お前の妹の件だ」


「なっ! それは……!」


 彼にとって最大の秘密である妹のことを口にされ、言葉に詰まる佐波。

 本人としては誤魔化すつもりだったろうが、急いでいる綺羅富士は話を促す。


「大体の事情は把握している。余計な言い訳をするつもりなら時間の無駄だ。彼女のことについて、兄であるお前の口から説明してもらおうか」


「せ、説明って言われてもさ……」


 どこまで話していいものかわからず、説明をためらう佐波に綺羅富士が詰め寄る。

 あくまで扉越しではあるが、最悪の場合には無理にでも壊しそうな勢いだ。


「いいから話せ。今すぐだ。彼女がどうなってもいいってわけじゃないんだろ?」


「……もちろんだ。どうなってもいいわけじゃない」


 綺羅富士の気迫にビビりながらも、遠慮がちに宗谷が問いかける。


「えっとさ、話を聞く前に最初に確認していいか? お前の隠れ家に一人でいた少女だけど、あいつはお前の妹で間違いないのか?」


「間違いない。あいつは俺の大切な妹だ」


「どうしてあんなところに?」


「リーダーに見つかったら問答無用で追い出されるからだ。だから俺はサバイバル生活と称して、あの小屋で暮らしていた。……すまない。ずっとお前たちにも隠していて。このままじゃ駄目なことくらい、わかっていたつもりなんだ。わかってはいたんだ」


「まあ、別に誰も怒ってはいないけど……」


 そう答えた山原の声は浮かない。

 ここにいる僕たちは、という条件付きだからだ。

 宗谷は問う。


「でもさ、お前はどうするつもりなんだよ? お前というか……その、彼女のことをさ」


「……どんなことだってしてやりたいさ。兄としてできることなら何だって。でもさ、今の俺に何ができるよ? あいつのために何をしてやれるって言うんだよ?」


 答えるのは綺羅富士だ。


「お前がそこに閉じ込められている限り、お前にできることはない。できることといえば、彼女の無事を願うことと祈ることくらいなものだろう」


「……だよな。やっぱり俺にはどうしようもないよな」


 絶望に染まる佐波の泣き言を聞かされた綺羅富士は深いため息を漏らす。


「……いいか、物分りが悪いお前のために、これだけは言ってやる。別に俺はお前を助けたいとは思わない。だがな、お前の馬鹿のせいで、あの少女が苦しむことだけは見逃すつもりもない。だから言うんだ。俺は特別に願いを聞いてやる」


 そこまで言った綺羅富士は扉にダン! と手を押し付ける。


「おい。お前は俺に、俺たちにどうして欲しい?」


 佐波は内側から扉に手を当てて答える。


「……できることなら、あいつのことを助けてやってくれないか」


「ああっ? 小さすぎて聞こえないぞ!」


 ふう、と一度息を吐きだしてから、大きく息を吸って叫ぶ。


「……すまない、あいつを助けてやってくれ!」


 その答えを聞いた綺羅富士は扉から手を放す。


「ふん、お前に言われなくても勝手に助けるつもりだ。お前はそこで兄として悔しがれ」


 どうやら、そう決まったらしい。

 ハラハラしながら見守っていた宗谷は安心しつつも苦笑する。


「もはや優しいのか、ひねくれているのかわからないな、お前」


「何を言ってんのさ、綺羅富士君は頼れる男に決まっているじゃん!」


「いいから早く戻るぞ」


 元の場所に帰ろうとした三人に、部屋の内側から声が響いてくる。


「すまない。本当に、ありがとう」


「お前の感謝などいらん。……いいか、お前はそこで何事もないように普段通りに振る舞っていろ。間違ってもリーダーたちに勘付かれるような泣き言を漏らすんじゃないぞ?」


「……ああ。わかってる。気を付けるよ」


「ま、後は願わずとも祈らずとも、彼女のことは俺が何とかしてみせるさ」


 そう言った綺羅富士に山原が声をかける。


「俺たちだよ、綺羅富士君!」


「……ふん」


 ともかく、こうして佐波の妹を助けるため三人が協力して動くことが決まったのであった。





 佐波の隠れ家に戻ってきた三人は隠れて待っていた佐波の妹と合流して、今後の方針を決めかねていた。


「で、どうしようか? リーダーに見つからないように僕ら三人で彼女をかくまうのはいいけど、こんな小屋にずっと一人でいてもらうのは大変だよね。だからといって僕らがここに頻繁に来るのも難しいだろうし……」


「そりゃそうだろう。どんな理由をでっちあげようが、こんなところに何度も行き来していれば、さすがに怪しまれる。当然、彼女が校舎をうろうろするのも絶対にダメだ」


「……あ、はい」


 宗谷と山原、そして佐波の妹が顔を見合わせる。

 そんな彼らに綺羅富士が提案した。 


「そうだな、それなら彼女と同じ女子……たとえば真由に頼んでみたらどうだ? あいつなら、こいつのことも受け入れてくれる可能性があるだろ?」


 言われて、それもありかもしれないと考え込む山原。


「真由ちゃんは確か……エミちゃんと同室だったかな?」


「うむ、エミと真由なら大丈夫そうだな。あの二人はしっかりしているし、俺たちの言葉を聞いてくれるし、口が堅いし信用できるし、それでいて優しい。俺たちで頼める女子は、あいつらしかいないだろ」


 リオは変なところで真面目だから、リーダーに秘密にするのを問題視するかもしれないしな、と続ける宗谷。

 綺羅富士も難しい顔をする。


「とはいえ、事情を知らない二人にいきなり頼むのは申し訳ないが……」


「す、すみません……」


「いや、お前は気にするな。もしも下げる必要があれば、俺たちが何度だってあいつらに頭を下げるさ」


 少女を助けるために用意された綺羅富士の覚悟に山原が同調する。


「だね! 僕らが頑張るよ!」


「それより、最初の問題があるだろ。あいつらの部屋まで見つからずに移動できるか?」


「心配するな、宗谷。寮まで俺が彼女を背負って運ぶ。お前ら二人は俺の前後で人払いをしろ」


 言うのは簡単だが、やるとなると難しい。

 けれど山原は迷うでもなく元気に答える。


「わかった。綺羅富士君には誰も近寄らせないよ!」


「ふん。初めてお前らを信頼してやる。だからしくじるなよ」


「うっし、じゃあ行くか!」


 そして少女を綺羅富士が背負い、山原と宗谷が前後で挟んで誰にも見つからないように警戒しながら、無事に真由たちの部屋へとたどり着いた四人。

 ようやく安心した綺羅富士が少女を廊下に降ろす。


「ここか」


「エミちゃん、真由ちゃん、いる? いたら開けてくれない?」


 突然の訪問なので遠慮気味にノックをして呼びかけて、そっと反応を待つ。

 返事はすぐに来た。


「はい、なんでしょう?」


 言いながら、扉を開けて顔を見せたのはエミだ。


「……おや、山原さんだけじゃなくて宗谷さんと綺羅富士さんもご一緒でしたか。それに、そのお方は?」


 問われた綺羅富士が周囲を気にしながら控えめに声を出す。


「すまない、詳しい説明は中でさせてくれないか?」


「訳があって急いでいるんだ。ばれちゃまずいことだから、部屋の外ではちょっと」


「あ、はい。わかりました。どうぞ、入ってください」


「すまない、突然で悪いが失礼する」


 そして三人は佐波の妹を連れてエミたちの部屋に入った。

 中にはエミと同室の真由もいた。

 説明やお願いをするならちょうどいいタイミングだったようだ。


「それで、そちらの方は……?」


「ああ、実は――」


 と、宗谷が代表して簡単に事情を説明する。

 彼女が佐波の妹で、今まで兄の佐波が一人で面倒を見ていたこと。

 学校の生徒名簿には名前が載っていないので、リーダーに見つかったら追放されてしまう可能性が高いこと。

 そのため、できれば同じ女子であるエミと真由に彼女をかくまってほしいこと、など。

 宗谷たちからの説明が終わった後、少女が語る。


「もともと体が強くなくて、厳しい体罰に耐えられなくて逃げ出してきた私を兄さんは優しく抱きしめてくれて……。ですが、そのときにはすでにリーダーの名簿は完成した後だったみたいで、見つかったら追い出されると、兄さんは私をかくまってくれたんです」


「なるほど……理解はできます。家族であっても、普通であればこの中に招き入れることはできないでしょうから」


「兄さんは私のために、いつも食事を準備してくれて、お風呂に入れない私の体をタオルで拭いてくれて、髪が伸びたらはさみで器用に切ってくれて、他のことも嫌な顔せずに世話してくれて。あの小屋から出ることのできない私を、二年間も大切にしてくれたんです」


「そうだったんですね」


 しかし、その佐波が今は生徒指導室に閉じ込められている。

 かといって、まさか妹の世話をさせるために佐波の開放を頼みに行くわけにはいかない。リーダーたち運営委員会の人間に、学校の名簿に載っていない妹の存在がばれてはいけないのだ。

 ここにいる自分たちでどうにかするしかないと、綺羅富士が頭を下げる。


「ということで頼む。彼女をこの部屋でかくまってくれないか? 問題があれば俺たちも協力する。だから……」


 何でもする、と言いかけた綺羅富士が最後まで口にする必要はなく、状況を理解したエミは笑顔で答える。


「いいですよ、彼女のことなら任せてください。どこまでできるかわかりませんが、可能な限り私たちで善処してみます」


「うん、だね」


 心細い少女を助けるのに、ためらう二人ではない。

 真由も一緒にうなずいたのを見て、顔を上げた綺羅富士は胸をなでおろす。


「そうか、それを聞いて安心した。基本的にこの部屋にいてもらうことになるから、いろいろと大変だろうが、どうか頼む」


 すっかり小さくなって、申し訳なさがっている少女も頭を下げる。


「本当に、私のことで、すみません。ですが、すごく、助かります。……それから、その、どうぞよろしくお願いいたします」


「こ、こちらこそ……」


 年下相手とはいえ、同じくらいに恐縮し返す真由であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ