24 俺たちが嫌っていたやり方(2)
佐波の妹の件で力になってくれる援軍を探すため、山原は教室に戻ってきた。
何をやっていたのか、たまたま教室には宗谷が一人でいた。
「なわー! とか言いつつ、僕にはすぐに頼れる人間が宗谷しか思いつかない!」
「だったら素直に俺に頼れよ。目の前で叫ばなくていいからさ。さっきは喧嘩別れみたいになったから気にしてんのか? 俺は気にしてないぜ」
「それはありがとう。でも、馬鹿なんだよ? 宗谷ったら馬鹿の中の馬鹿だよ?」
「よくそんなことを本人の前で言えるよな、お前。類は友を呼ぶって知ってるか? 馬鹿と言ったほうが馬鹿なんだって言葉もあるぜ」
「うーん、でも困ったな。僕が今のところ一番に信頼できるのは、なんだかんだ言って宗谷なんだよなぁ……」
「さっぱり話が見えないけど、なんか嬉しいな。一番に信頼できるってマジ? それについては素直に喜んでいい?」
「あーもー、やっぱり馬鹿だよ、宗谷! こんなときに何をのんびりしているのさ!」
「いやいや、これ俺が悪いか? こんなときも何も、さっきから俺はお前に罵倒されているだけにしか思えない……」
「くー、もういい! 説明するのも面倒だからついてきて!」
「わかった、わかった。そんなに強く手を引っ張るなって!」
ほとんど引きずるように宗谷を連れて走り、佐波の妹が待っている小屋へ戻る山原。
急ぐあまり、途中で何度も転びそうになる。
「ほら、こっち、こっち!」
「こっちって、こっちは校舎裏だろ? 誰もいない静かなところに俺を連れてきて、お前は俺に何をするつもりだよ」
「間違っても告白なんかじゃないからね! 期待しないでよ、馬鹿!」
「そうだろうと思っていたよ、馬鹿!」
「はいはい、馬鹿に馬鹿って言われても説得力ないからいいですよーっと」
「それ俺も使える武器だからな。つうか、相変わらず俺の扱いひどいな。これでも一番に信頼されてるってマジ? 素直に喜んじゃったけど大丈夫?」
「扱いが悪いのは自業自得だから悔い改めるといいと思うよ」
「それについてはちょっと自覚あるから、そうしようかな……」
今後の身の振り方を考えているうちに、目指していた佐波の隠れ家についた。
山原は宗谷から手を放し、おとなしく座ってご飯を食べていた少女に手を振る。
「あ、ごめん、待たせちゃったかな?」
「あ、いえ。大丈夫です」
「そっか、よかった。急いで来たから、そんなに時間もかかってないもんね」
「……おい、山原、ちょっと待とうぜ? この子、誰?」
すっかり驚愕中の内面を隠して宗谷としては穏やかに尋ねたつもりだったが、自分を見る目つきが怖く感じたのか、少女は身を震わせる。
「うう……」
「ああ、んもう! 怖がってるから、宗谷はもっと下がって!」
「何気にショックだ。知らない女の子に怖がられてショックだぜ」
「宗谷の心の動揺なんて今はどうでもいいんだよ。もはや有史以来の地球の回転数くらいどうでもいいんだから」
「いや、もし太陽系の惑星がみんなで独楽回し大会を開いてたら回転数は大事だろ。俺たちの地球が勝てるかどうかがかかってんだぜ」
「それよりこの子ね、佐波君の妹さんなんだって」
「あ、うん……え? 佐波の妹?」
先ほどに増して驚き、これでもかと見開いた目を少女に向ける宗谷。
ここにいることを責められるとでも思ったのか、縮こまりながら彼女は頷く。
「はい。妹です……」
かばうように動いた山原が宗谷の目を自分に向けさせる。
「だけどね、ほら、リーダーに見つかるとこの前みたいに追い出されちゃうからね、僕たちで何とかしてあげられないかなって」
「あ、ああ。まあ、そうだろうな。リーダーなら例外は許さないだろうが……」
「すみません、ご迷惑をおかけして」
宗谷が困っているのを察した少女はますます恐縮してしまったようだ。
山原があえて明るく笑いかける。
「あはは、大丈夫だよ。迷惑なんて宗谷にかけられ過ぎて慣れちゃってるから、それに比べれば君のことを迷惑なんて思わないしね」
「あのさ、こんなときに聞くのもなんだけど、俺ってそんなに迷惑か?」
「あのね、自覚ないのが一番迷惑なの。それに今は宗谷のことじゃなくて、佐波君の妹さんのことだよ! どんだけ自意識過剰なの!」
「へいへい、すみませんでしたーっと。……しかし、さすがに俺たち二人だけじゃ何をするにも大変だよな。ここは俺たちの他に誰かもう一人くらい、頼れそうな人間がいればいいんだが」
「そうだよね。なるべくぼろを出さないで、しかもリーダーたちから遠い存在」
「加えて、なにしろ佐波の妹のことだからな、女性に優しく出来るやつがいい」
「……あ。一人だけ思いついたよ」
「まさか、綺羅富士?」
「うん、そのまさか。あはは、やっぱり宗谷も綺羅富士君が思いついたんだ」
「まあな。でもな、最大の問題があるぜ。あいつが俺たちの頼みを聞いてくれるか?」
「大丈夫だよ。僕らのことは無視しても、彼女の言葉はきっと無視しないと思うよ」
「なるほどね。いたいけな女子の頼みなら断らないだろうね、あいつ」
そう言って宗谷は彼女を見つめる。
じっと見られた彼女は不審げに首をかしげる。
「……あの、何か?」
「ごめんね。また新しい助っ人を呼んでくるから、ここで待っていてくれる?」
「あ、はい。わかりました」
「今度はこんなのより、もっと頼りになる人だから期待していいよ」
宗谷が不敵に笑う。
「ほっほう。こんなのときましたか」
「拗ねてないで行くよ、宗谷」
「わかってやすよ~っと」
拗ねたように歩く宗谷であった。
二人が向かった先は、寮にある綺羅富士の部屋だ。
遠慮がちにノックされて顔を出した彼は見るからに不機嫌そうだ。
「いきなり何の用だ? わざわざ貴様ら二人が俺を尋ねてくるなんて、また新しい悪巧みでもしているのか?」
「ううん、そんなんじゃないよ。実は僕たち、綺羅富士君の手を借りたくて」
言った瞬間、迷う素振りもなく綺羅富士は即答する。
「断る」
「はは、だと思ったよ。実は厳密に言うと俺たちの頼みじゃない。とある女子がお前の力を必要としているんだ。その子は今、とても困っている。誰かが助けになってあげなけりゃ、死んじまいそうなくらいだ」
「……よかろう。話だけなら聞いてやる」
「なわわ、思ったとおりの綺羅富士君だ」
「あん?」
期待通りの反応だと褒めたつもりの山原だったが、突然の訪問者を警戒している綺羅富士はいい意味で受け取らなかったようだ。
にわかに目つきが鋭くなり、問答無用で二人を追い返す寸前だったものの、これには宗谷が慌てて対応した。
「い、いや! なんでもないから、とりあえず俺たちについてきてくれ! 大事な用事だ! 困っているのは女子だぞ、女子!」
「……ふん。さっさと案内しろ」
そして、寮を出た三人は余計な寄り道をせずに佐波の隠れ家へと向かう。
当然、まだ事情を説明されていない綺羅富士の足取りは重い。
「こんな校舎の外れに俺を連れてきて、お前たちは一体何をたくらんでいるんだ?」
「何度も言うが、俺たちは何か悪さをしようっていうんじゃない。もうすぐ彼女のところにつくから、そこまではついてきてくれ」
「彼女ねえ……本当に困っている人間がいるんだろうな? こんなところにか?」
「うん、ほら!」
「……見かけない顔だな」
見て見て! と山原が指さした先に少女の姿を発見して、いぶかしがる綺羅富士。
そのまま無遠慮に近寄った綺羅富士であったが、宗谷の時と同じように警戒した少女は身がすくむ。
「は、はじめまして……」
その声を聞き、恐怖心を与えていたことに気づいた綺羅富士はわずかに表情を緩める。
「……念のために言っておく。俺のことを怖がる必要はない」
「……え?」
「意外か? こいつら二人に比べれば怖い顔をしているだろうから無理もないが、そう警戒されたままではお前の力になれないぞ」
「私の、力に……?」
やはり理解できず不思議がる少女。山原が間に入る。
「大丈夫、安心して。綺羅富士君って、どういうわけか女性には優しいから」
「……綺羅富士さん、ですか」
「そうだ。俺は綺羅富士だ。……どういうわけか?」
ギロ、と山原をにらんだ瞬間、慌てて宗谷が話を進める。
「そ、それより綺羅富士、彼女は佐波の妹らしい」
「……佐波の?」
「ああ。どうやらリーダーには内緒で、今までずっと佐波が一人でかくまっていたらしい。つい先日のこともあるし、肝心の兄である佐波が謹慎中の状態だし、今のタイミングで彼女の存在が露呈するとまずい」
「そうそう、大変なんだよ。でないと彼女も追放されちゃうかもしれないから!」
「とまあ、つまりそういうわけでさ、リーダーたち運営委員の人間には気付かれず、どうにか彼女のことをかくまってやりたいんだ。なあ、お前も力になってくれるか?」
少しだけ考える時間があった後、綺羅富士は頷く。
「……いいだろう、力になってやる。お前たちの、というよりは彼女のな」
「すまん、助かる。どんな理由であれ助かるぜ」
感謝を伝える宗谷に続き、少女も頭を下げる。
「あ、あの、ありがとうございます」
「気にするな、礼なんていらない。困っている女子を助けるのは当然だ。男子は自分でどうにかしろと思うがな。それより聞きたいが、お前らはどうするつもりだ?」
顔を向けられた山原が答える。
「えーっと、どうしたらいいと思う? 僕的には、とりあえずリーダーにだけは見つからないように注意しながら、そっと彼女を守っていくしかないと思うんだけど」
「妥当だな。つまり、今までやっていた佐波のやり方を引き継ぐわけか。……サバイバルねえ」
馬鹿なやつだな、と言いたげな口ぶりではあるが、妹のためにバカをやるやつを嫌いにはなれない綺羅富士である。
「そうなるんだけどさ、さすがにこのまま彼女をここでかくまうわけにはいかないだろ? その、やっぱり女子だし、色々と問題がありそうだしさ……」
「ねえ、宗谷。思ったんだけど、とにかくさ、まずは佐波君に話を聞いてみようよ。そうしないと僕らがどうしていいのかわからないよ」
「……それもそうだな。佐波がどう思っているのか、一度ちゃんと確認したい」
山原と宗谷がそう結論を付けたところで、綺羅富士は少女に目を向ける。
「よし。佐波妹、お前はここで待っていてくれるか? いいか、何があっても俺たちの声が聞こえるまで扉を開けるんじゃないぞ。じっと隠れていろ」
「あ、はい。わかりました」
「素直で感心だ。馬鹿な男子たちも全員がそうならここも過ごしやすくなるんだがな」
「よし、じゃあ行こうぜ」
最後の一言は聞こえないふりをして歩き出す宗谷であった。




