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アバンダンド(見捨てられた学校で)  作者: 一天草莽


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21 規則と罰(2)

 そして保健室。

 扉を開けて中に入った山原は意外な人物の姿に目を見開く。


「あれ? 綺羅富士君?」


「ん? そうだが、お前たちは?」


「いや、俺たちは……って、そこにいるのは真由じゃないか」


 宗谷が名前を呼ぶと、その真由はおっかなびっくり返事をした。


「あ、ど、どうも皆さん」


 わずかに遅れて入った朽木と佐波が、意外な組み合わせを見て驚く。


「もしかして、お前ら二人だけか? おいおい。休日の保健室で何やっているんだよ……」


「ま、まさか……」


 何かを言われる前に綺羅富士が否定する。


「あほか。こいつが俺の前でつまずいて膝をすりむきやがったから、面倒だが保健室に連れてきてやっただけだ。今まで俺は殴ること専門で、他人の怪我の治療なんてやったこともないが、きっともう大丈夫だろ」


「あ、うん、ありがと」


「礼をするほどのことでもないだろ。……で、お前らはなんの用だ?」


「あー、うん、そのことなんだけど……」


 邪魔だからどっか行けと言い出しそうな綺羅富士に鋭い目を向けられ、あっさり白状しようとした山原を宗谷が止める。


「待て、山原。言ってもいいのか?」


 え? と戸惑った山原の反応を待たずに朽木が口を挟む。


「いや、よくない。なるべく秘密にするべきだ。……くそ、オレたちも焦っていて慎重な行動ができてないな。リーダーに話がいくまでは他のやつらにも言わないほうがいいだろ。どこから話が広がるかわからないぞ」


「だな。悪いが二人とも、ここは何も聞かずに出て行ってくれないか?」


「ああ?」


 そんなわけにいくかと、退出するように求めてきた佐波をにらみ付ける綺羅富士。

 さすがの迫力なので、他の三人も臆してしまう。


「なわわっ!」


「相変わらず怖いな、お前。不良のオレがちびりそうだもん。不良同士で喧嘩するのは今後もやめよな? 勢力争いがしたくなったら、オレ以外のやつとやってくれよ?」


「それより、どうする? 御手洗会長がここに来るまで、もうそんなに時間もないぜ?」


 時間を気にする宗谷にせっつかれて、佐波は腹を決める。


「……仕方ないな。すべて話す。ただし、絶対に黙っていてくれよ?」


 綺羅富士の対応は堂々としたものだ。


「言われずとも、俺はお前らと違って無闇に騒ぎ立てるような馬鹿じゃない」


「だってよ、宗谷」


「否定はしないが、佐波、お前もだからな? あと朽木もな。ギリギリ山原もな」


 無駄話には付き合うつもりもないらしく、綺羅富士が話を促す。


「……で?」


「うん、でね、話なんだけど……。もう僕たちも隠すつもりはないけどさ、もう少ししたら御手洗会長が来ると思うから、そのときに話すよ」


「ほう、そうかい。じゃあそうしろ」


 ということで、たまたま居合わせた綺羅富士と真由の二人も御手洗の到着を一緒に待つことになった。





 数分後、保健室へと少年を背負って御手洗がやってきた。

 ただ、彼も一人ではなかった。


「お、いっぱいいるな」


「あれ、主任じゃない? どうしてここに?」


 問いかけた山原に御手洗が答える。


「ああ、主任にはここに来るまでにばったり会ってな。よく考えてみれば、保健室までの道中でリーダーに見つかる可能性もあったな」


 この言葉にあきれるのは主任だ。


「本当にそうだぞ。見つかったのが仕事熱心じゃない俺だったから別にいいが、規則に厳しいリーダーは絶対に見逃さないぞ。ほどほどに生きてればいいものを、こんなことを勝手にやりやがって」


 怒られてもしょうがない気分の佐波が気まずそうに答える。


「それはわかっている。だからまずお前たちに頼みたいんだ」


「その気持ちもわからなくはないけどな。学年主任として接している俺も最近のリーダーには焦りというか、苛立ちに近い感情があるように感じるからな……」


「それより、まずはこいつをベッドの上に寝かせてもいいか? 背負ったままだと会話がやりにくい」


「あ、うん。そうだね。僕も手伝うよ」


 御手洗が背負っていた少年を二人がかりでベッドの上に寝かせる。

 疲労のためか少年は眠っており、すぐに起きそうな気配はない。

 ひとまず落ち着いたと判断して、今まで静かに見守っていた綺羅富士が文句を言いそうな雰囲気で問いかける。


「おい貴様ら、そいつはどこの誰だ?」


「み、見かけない人みたいだけど……」


 前のめりになっている綺羅富士と腰が引けている真由の疑問に、ちょうど手を持て余していた宗谷が代表して答える。


「ああ、どうやら彼は外部の人間らしい。フェンスの外側で倒れているのを見つけた」


「フェンスの外側だと? まさかこいつ、こんなところまで逃げてきたのか?」


「そうだとは思うが……」


「うん。まだ事情はわからないけど、きっとそうだと思うよ」


「……だ、大丈夫かな?」


 真由が不安そうに、心配そうに尋ねる。

 御手洗もすぐには意味のあることを答えられない。


「わからないな。今は疲労で眠っているだけだろうが、詳しく話を聞いてみないことには……」


「それより、このことをリーダーにはなんて報告するんだ? 適当に生きてる俺とは違うんだ。いつまでも隠し通せるわけがないだろう」


「そうだな、今日の放課後に運営会議で話すことになるだろう」


「ちょっと待ってくれ、会長。リーダーに報告するなら、当事者である俺たちからも話をさせてもらいたい。一緒に行ってもいいか?」


「そうだな……って、佐波。お前こそ、ちょっと待て。俺たちって、俺もか?」


 佐波の発言に驚いたのは宗谷だ。

 しかしためらったのは宗谷だけらしい。


「オレは聞きたいこともあるし、一緒にいってもいいぜ」


「俺もリーダーの方針には興味がある。同席させてもらおう」


「あ、よかったら、私も」


「それじゃ、宗谷以外のみんなで行こう!」


 焦るのは一人だけ置き去りにされそうになった宗谷である。


「あー、すまん、悪かった! ちょっと待とうぜ、俺も行く!」


 反対する理由もないのか、御手洗がうなずく。


「わかったよ。それじゃあ、全員でリーダーのところに行くか。だったら、運営会議の前に行くのがいいだろうな。今からでも構わないか?」


「構わないぜ」


「じゃあ、そうしよう。……だが、そうだな。真由、お前はここに残っていてくれないか?」


 いきなり御手洗に名指しされた真由はびっくりした。


「え、え?」


「彼が目覚めたときに誰もいなかったら困るだろ? な、頼む」


「……あ、うん、私でよければ」


 自信がなさそうな真由の頭に綺羅富士が手を乗せる。


「真由、任せたぞ」


「う、うん」


「それじゃ行こう」


 こうして、かなりの大所帯となった彼らはリーダーが待つであろう校長室へと向かう。





 そして彼らは生徒会長である御手洗を先頭として校長室に入る。


「失礼します、リーダー」

 

 壁際に立って窓から外を眺めていたリーダーは振り向かずにつぶやく。


「なんだ? 休日だというのに、そろいもそろって騒がしいな……」


「すみません。リーダー、大事な報告があります」


「だろうな。……聞かせてもらおう。まずは全員座れ。席が足りるといいが」


「はい、失礼します。ほら、お前らも適当に座れ」


「おう」


 普通の教室に比べれば、ずいぶんと狭い校長室。

 適当に置かれているソファーや椅子など、思い思いの場所に座る一同。

 リーダーは一番奥、腰の高さくらいの窓枠に腰掛けている。


「想像はつく。余計な前置きはいらない。単刀直入に言ってみろ」


 そう言い終えるとリーダーは腕を組み言葉を待つ。


「あ、あのね……実は」


「待て、山原。たぶんそれは、お前の仕事じゃない」


 山原の負担を考慮して御手洗が制すると、生徒会長の責務として彼が何かを言うよりも前に、佐波が軽く手を上げた。


「ああ、ここは代表して俺がしゃべろう。ここまでついてくると言い出したのは俺だからな」


「そ、そっか。よかった。僕には荷が重いと思ったんだ」


 ほっとした山原。

 対照的に息をのんで緊張しているのは佐波だ。


「リーダー、俺たちは今日、フェンスの外側に倒れていた少年を見つけたんだ。だから、会長に頼んで保健室に寝かせてきた」


「はい、今は眠っている彼のことは保健室で真由が見ています」


「……で?」


「で? っていうか……オレたちは……」


 どこまで言っていいものか朽木が言葉を濁らせると、ここでためらっても意味がないと覚悟した佐波が口を開く。


「お願いがあるんです。彼をこのまま、ここでかくまうことはできませんか?」


 そう言って頭を下げた佐波。

 すぐには答えずにリーダーは背を向けて、窓から外を見下す。

 そのままの姿勢で、全員に聞こえるようにつぶやく。


「……俺はな、お前たちの勝手すぎる独断と行為について、すでに緒が切れ掛かっているんだ。そのことは、わかるのか?」


 リーダー、そこで振り返り一同を見渡す。


「つまり、俺からの答えはこうなる。――ふざけるな」


「えっ……」


 あまりの一言に沈黙が走った。

 ふざけるな。……つまり、少年を助けるわけにはいかない。

 その判断に対する討論は可能か、否か。

 御手洗が懇願する。


「しかしリーダー、今回ばかりは大目に見て考え直してはもらえませんか? 彼は外部から命からがら逃げてきたようですし」


「しかし、か……」


 感情をうかがわせぬままリーダーは小さくため息を漏らして、淡々と言葉を続ける。


「お前たちには言ってなかったか? このままでは、ここは逃げ場所にもならない。俺たちにとって、ここは逃げ場のない死に場所だ」


 それに答えるのは佐波だ。


「死に場所でも構いません。俺がサバイバル研究会をやってるからってわけじゃないんです。助けを求めてきた彼が望むのなら、客人としてもてなすことができない極貧状態の地獄でも、かくまってやるくらいは別に構わないでしょう?」


「残念だが、現在の状況を顧みれば構わずにはいられない。この空間で生活する人間が一人でも増えるということは、俺たち全員の死期が、それだけ早まる可能性が高まるということだ」


「で、ですが!」


「声を荒げても無駄だ。感情ごときで俺は動かない」


 その目、その声から、リーダーの意志は鋼のように思えた。

 実際の胸中はわからない。

 けれど簡単にはリーダーを翻意させることは難しく感じられ、それが佐波を焦らせた。

 敬語を忘れて、心からの叫びを訴えかける。


「だったら一度、きちんと話し合う機会をくれないか! できれば、今は気を失って寝ている”彼”も一緒にいるときがいいんだが!」


 思わずテーブルを叩いて立ち上がった佐波。

 その必死さに並々ならぬ熱量を感じ取ったのか、この場で話し合っても全員が納得する妥協点は見つからないと判断したリーダーは譲歩する姿勢を見せた。


「……そこまで言うのなら認めよう。一日だけ猶予をくれてやる。明朝、いつも使っている三年の教室で緊急運営会議を開く。そのときまでにお前たちの頭を十分冷やしておくことだ」


「……わかりました」


 誰よりも早く、素直にうなずいた御手洗に佐波が疑念を挟む。


「おい? いいのか? ここで決着を付けなくても!」


「落ち着けって、佐波。ここは一旦引くぞ」


「だが!」


 感情的になるあまり宗谷に食い掛りそうになった佐波の腕を引き、座らせるのは朽木だ。


「違うだろ、佐波。これはオレたちにとってもチャンスだ。リーダーを説き伏せる準備に、あと一日使えるんだぜ?」


「そうかもしれないが……。くそ、わかったよ」


 渋々ながら引き下がることを受け入れた佐波だった。

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