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アバンダンド(見捨てられた学校で)  作者: 一天草莽


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19/41

19 文化祭とか体育祭(3)

 また次の日、校庭。


「さて、今日も体育祭で行う種目を考えるんだが……主任」


「はいよ」


 御手洗に名前を呼ばれ、一歩前に出る主任。


「ほら、このプリントは俺が職員室で見つけたものなんだが、一昔前の学校の運動会でよくやっていた種目の一覧らしいぜ。残念ながらプログラムの名前だけで内容について詳しくは書かれてないから、それとなく種目名から想像するしかないんだが」


 パチンと宗谷が指を鳴らした。


「いいじゃないか。それを参考にして考えてみようぜ」


「そうだな、そのつもりで持ってきた。うーん、お前らでも徒競走とかリレーはわかるよな。今もやられている競技だからな」


 佐波が自信を持って答える。


「ああ、結局どれも走るんだろ?」


「違うよ、佐波君。バカみたいに走るんだよ。順位付けるくらいだもん」


「こら山原、身も蓋もないことを言うなって。それより主任、何かいいのがあるか?」


「そうだな。とりあえずこの資料に目を通すとだな……えーっと、この『綱引き』っていう種目は、なんだ?」


 聞き慣れない競技の名前を目にして首をかしげる主任。

 山原がパチンと指を鳴らそうとして鳴らなかった。


「あれじゃない? ツナマヨネーズからツナを引いて、マヨネーズにするやつ」


 と言えば、そばで聞いていた朽木が大喜びする。


「すげえ競技もあったもんだ! やっぱり昔はみんなマヨラーだったんだ!」


「絶対に違うと思うぜ」


 パチンパチンと無駄に指を鳴らして否定する宗谷。

 朽木も真似して指を鳴らし、山原は二人をうらやましそうに見ている。

 それはともかく、どんなことが書かれているのか興味を持った佐波が主任の横から資料をのぞき込んだ。綱引き、と書かれている部分に指をさす。


「綱と書かれているが実は網の間違いで、やりたいことは漁なんじゃないか? つな引きではなくて、あみ引き……魚のかかった網を引き込むんだろ? サバイバルの血が騒ぐぜ」


「騒いでどうする。海沿いの学校ならともかく、土のグラウンドじゃ漁をするのは無理だろ。生徒を魚役にして一網打尽にすんのか。やりたくないだろ、そんな雑で荒っぽい競技」


 と宗谷が言えば、隣で朽木がスイスイと魚の真似をする。


「きっと目には見えない風の魚だぜ! いや、スカイフィッシュか!」


 あのさあ……と千藤だ。


「誰の目にも見えない獲物を捕まえても盛り上がらないし、簡単には捕まらんだろうから下手をすると一日がかりだろうし、そんな気の長い競技があったら場がしらけるだろ。今日はすごいしけだなってか?」


「はい、却下~」


「うむ、それが無難だな。ほどほどに生きるための知恵として、危ないものには手を出さないに限る……ん? この『玉入れ』っていう競技はなんだろうな?」


 きゃっ、と甲高い声を上げた朽木が顔を赤くした。


「た、玉入れ! どんな玉を、何に入れるって言うんだよ!」


「ちょっと落ち着こうぜ。普通に考えればサッカーみたいなもんじゃないのか?」


「いや、宗谷。サッカーはボールだろ? 野球だってバスケだってボールだ。わざわざ玉と言うからには、それなりの理由があるに違いない。あいにく俺のサバイバル知識にはないが」


「確かに、気になる表現ではあるな。……ただ、卓球の場合はピンポン玉というから、小さいボールは玉と呼んだりするんじゃないか? 知らんけど」


 根拠もなく適当に言った千藤に対し、主任が資料を眺めながら言う。


「小さいボールが玉……。いや、違うみたいだ。ほら、大きくなったのに玉と呼んでいる『大玉ころがし』って種目もあるぞ」


 朽木がヒエーっと声を出す。


「普通の玉じゃ満足できないからって、大玉! どれほどの大玉を転がすってんだ! 転がしているうちに何でも巻き込んで塊の魂になるだろ!」


 巻き込まれそうになった宗谷が身を引く。


「つーか、お前はテンション上がりすぎだろ」


「うむ。よくわからないが、危険な香りがするからこの二つは避けておこう」


「へい、却下~」


 主任と山原が手でバツを作ってうなずき合っている。

 仲間に入りたいのか、宗谷は御手洗にバツを作って見せる。


「却下が続いてしまったが、他に何かあるか?」


「えっと、どれどれ……。ん、このマスゲームってなんだ?」


「何それ、面白そう」


「うーん、たぶんチェスとか将棋じゃないか? あれ、マス目にコマを置いて遊ぶやつだろ?」


 宗谷がジェスチャーをしながら言えば、佐波が鼻で笑う。


「体育祭で? グラウンドで? 盤面が小さすぎて観客から見えるか?」


「……あ、オレわかったぞ。きっとグラウンドに白線ででっかい盤面を描いて、その上で生徒が駒になるんだよ!」


「なわぁ! なんかそれ、派手そうに見えるけど地味だよね! 斬新さを狙っといて平凡な盛り上がりだよ、きっと!」


 珍しい種目を想像して朽木と山原は盛り上がるものの、千藤と主任はそれほどだ。


「というか、実際にやろうものなら勝ち負けが決まるまで無駄に時間かかりそうだな。ラインを引く必要もあるし、効率が悪い」


「だよな、俺もそう思う」


「うん、じゃあ却下~」


 別にやりたかったわけでもないらしく、却下にためらいがない。

 生真面目な御手洗が違う競技に目を付けた。


「お、パン食い競争なんて競技があるぞ?」


 サバイバル精神がうずくのか、佐波が身を乗り出した。


「なんだって? パンを食い放題か? それならやろうぜ!」


 冷静に宗谷が諭す。


「だが待ってくれ。食べたいだけ食べられるのは幸せに思えるが、その競技の後は誰も動けないんじゃないか?」


 朽木と主任もうんうんと同意する。


「その競技の後に走る羽目になったら吐くよな、絶対」


「そもそも体育祭ってイメージじゃないよな、大食いは」


 意外にもやりたい気分があったのか御手洗が残念がる。


「そもそも大食い大会を開けるほどパンがない」


「はは、却下~」


 どんどん却下される会議である。

 朽木が主任に肩を寄せて資料をのぞき込む。

 くっつかれて主任が嫌な顔をするが、その主任に朽木が声をかけた。


「おいおい、こいつを見てくれ。ここに『騎馬戦』なんてものがあるぜ。体育祭ごときで戦争やろうってのか、今の体育と変わらないことを当時の学校でもやっていたのか?」


「ほどほどに……ってノリにもできなそうだな、それは」


 サバイバルは好きでも戦争は嫌いなので、ぶるぶると佐波が怖がる。


「何が学生を騎馬戦にまで駆り立てたというのか。そして誰も疑問に思わなかったのか?」


「だが、ここに馬は一頭もいないぞ。昔はどこの学校にも馬小屋があったのかもしれないが」


「何かを馬代わりにしたんでは?」


「何かって、何をだ?」


「人間を」


「おいおい、人間を馬車馬のように扱うのか……」


 話を聞いていた千藤が腕を組む。


「ふむ、昔の体育は心身の健やかな成長を目的としたスポーツやレクリエーション的な授業をやるものだと思っていたが、これは意外と当時からスタンダードだったのかもしれん。そもそも体育という授業科目は大昔に近代的な戦争に備えて始まったという説もあるらしいし、その後の自由で民主的な時代が特殊だっただけで、今の政府もその軍国主義的な面を強調してスパルタ式の授業をだな……」


 話が長くなりそうだったので御手洗が強引に納得して打ち切る。


「わかるぞ、つまり体育で実践訓練ってことだろ。体罰とか、しごきとか、そういう」


 物騒な単語を耳にした宗谷がつらそうにする。


「嫌な時代だよな。今も、昔も」


「へへ、僕たちは新しい平和な時代を作りたいから却下~」


 会話を聞いている全員が暗くなりかけていたからか、あえて明るく却下を告げる山原。

 ざっと資料に目を通し直して、めぼしい競技が残っていないことを見た御手洗が話をまとめにかかる。


「さて、結局は全部ほいほいと却下してしまったわけだが……どうする?」


 これに主任が答える。


「うむ、もうこうなったらオリジナル種目でせめるか、それとも徒競走やリレーを飽きるまで繰り返すか、だな」


「そう考えると体育祭ってきついよな。あえて祭りって言うほどじゃないだろ」


「ねえ、宗谷。それとも却下したのを却下して、とりあえず形だけでも体育祭やる?」


「うーん……」


 山原の提案は考慮に値するものかもしれない。

 が、宗谷が悩んでいる間に御手洗はひとまず保留にした。


「いや、とにかくもう一度、明日考えることにしよう」


「……だな」


 ということで、この日は何も決まらなかった。





 さらに翌日。三年教室。


「さてと。今日はいい加減に文化祭の内容を決めさせてもらうぞ」


「さすがに準備が間に合わなくなるからな。こうなったら適当な意見でもいい、とにかく誰か名案はないか?」


 議論を急いでいる主任が意見を求めると、手を上げるまでもなく朽木が提案する。


「やはりここは文化祭っぽく、絵画や彫刻などの芸術作品を展示すればいいだろう。ぜひともオレに任せろ!」


「そのハイテンションな反応を見る限り、お前が一人で暴走しそうですでに後悔なんだが」


「ふ、よかろう。芸術というものは、批判や否定的発言を受けてこそ花開く」


「そうなのか?」


 あまり信用していない主任の反応は芳しくないが、そろそろ何をやるか決めたい宗谷が一応は朽木に一票を投じる。


「まあ、反骨精神ってものが大切っていうのはわかる気もするけど」


「ふむ。芸術に限らず、若者にとって反抗する精神や立ち向かう意志は重要なのだろう。たとえ方々から叩かれようと、決してくじけず、むしろ批判は逆手に取るべきだ」


「よく言ったな、御手洗。それでこそ生徒会長だ。オレの上に立つにふさわしい」


「はは、こいつはリーダーの受け売りさ。あと、お前の上になら誰でも立てるだろ」


「その件に関しては禁足事項です。……ともかく、社会的な風当たりが強まり、表現者も鑑賞者も含めて、その業界に関わる全員が失速や閉塞感に覆われたときこそ、新しい機軸を打ち出す絶好のチャンスかもしれない。出る杭は打たれるというが、その衝撃をやわらかく受け止めれば横に広がっていけるだろ? つまり俺たちは釘ではなく粘土になって、振るわれた金槌を逆に取り込んでしまおうぜってことが言いたい」


「よくわかんなかったけど、なんていうか前向きな意見って気がする!」


「よく言った、山原! たとえば、こんな作品群だ!」


 ダダダーっと、すさまじい速度で朽木が絵を描いていく。

 写実的な作品ではなく、子供の落書きレベルのイラストである。

 だが、今の政府基準で考慮するとすべてモザイクが必要とされるものばかりだ。

 刺激的なわけでもないが、見慣れていないせいで山原がやんわりと頬を赤らめる。


「……なんだかさ、これって批判どころか規制されそうな作品ばっかりだよね」


「そうだなよな。実際に文化祭で披露しようって思ったら、どっかから規制されて回収されて展示どころじゃないだろうな」


 宗谷たちの感想を聞いた朽木がぷんすかと頬を膨らませる。


「何を言っているんだ? これらは規制される必要も理由もない」


 こぶしを握り締めて力強く主張する朽木ではあったけれど、素直に受け入れられなかった佐波が横から口を出す。


「だが、実際には歴史的に規制されちまったんだろ? この程度のデフォルメされたイラストでも、公序良俗に反するとか教育的に不適切だって理由で」


「聞いてあきれるな。……いいか? 理想の姿を自分で示せない奴は、他人の悪い部分を攻撃的に否定することで満足するんだ。無策で無力な人間ほど、自分以外の誰かを悪者扱いすることで自分の正義を認めたがっているに過ぎない」


「え、そうなの?」


「オレがそう考えるから世界もそうなんです。オレの中ではな」


「とんでもねえこと言ってんな」


「なんにせよ、そういう意味でもサブカルチャーは人身御供の槍玉に挙げられたのさ。何もできない大人たちの自己満足のために、すべては犠牲になったのだ……」


 おいおいと泣いた振りをして、ひざを折る朽木。演技派だ。

 全員がぼんやりと見守る中、朽木の演説を脳内で繰り返していた御手洗がポンと手を打った。


「……おい、いいことを思いついたぞ。なんたって祭りだろ? いいか、いっそのこと文化祭と体育祭を組み合わせて、文化的体育祭をやるんだ。つまり文化的な反抗作戦だ」


 朽木が涙をぬぐって立ち上がる。


「なるほど、規制や批判に真っ向から立ち向かう芸術運動か……そいつは祭りだな。奇跡のカーニバル、ついに開幕するのか」


「なわわ。なんか面白そうだからいいんじゃない?」


「うっし、とにかくやってみるか! 俺たちの文化的体育祭をな!」


「うん、絶対当日は盛り上げようね!」


「おー!」


 と、全員が掛け声を上げるのだった。





 後日、放課後、校長室。

 他に生徒がいない二人だけの静かな空間で、リーダーが御手洗に尋ねる。


「さて。こうして週末は過ぎ去ったわけだが、結局、予行練習はどうなった?」


「申し訳ありません。あれを予行練習と言えるかどうか……。文化祭と体育祭を合体させた文化的体育祭の名の下に、よくわからない騒ぎが巻き起こっただけでした」


「そうなのか。……ふ、俺も見に行くべきだったかもしれないな」


「観覧席なら用意はしていましたよ、あまりお勧めはできませんが。……ですが、たまには祭りのようなイベントもいいものですね」


「彼らの息抜きにはなったか?」


「はい。おそらくなりました。だから安心してください、リーダー」


「そうか。それはよかったよ……」


 学生帽を深くかぶり直し、ほっとした様子を見せるリーダーであった。

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