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アバンダンド(見捨てられた学校で)  作者: 一天草莽


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18/41

18 文化祭とか体育祭(2)

 次の日。

 ふう……と、大きなため息をついた御手洗が彼なりの気合を入れて会議をスタートさせる。


「さてと、今日は体育祭に向けた練習をしよう」


「ねえ、会長。練習と言っても具体的には何をするの?」


「そうだな、まずは体育祭の競技種目を決めていく必要がある。何をするのか、スケジュールがないと練習のしようがないからな」


 山原の疑問にそう答えた御手洗に対して、宗谷が冷たい目を向ける。


「本当に運営委員会では何も決めていないんだな」


「う、それは生徒の自主性をだなあ……」


「なるほど、つまり何も思いつかなかったんだね」


 直球の指摘である山原の言葉に御手洗は反論できなかった。


「……リーダーの前では言うなよ? あの人、落ち込むと厄介だから」


「そんなことより、何をするんだ? 体育祭、だろ? 別に俺はなんでもいいんだが、ほどほどの運動で済むと助かる」


 やる気よりも体力がないのか、主任は練習をする前から疲れている様子だ。


「そうさなぁ、ここはお前らにもできる野球を提案する。野球なんてボールを投げて、打って、走ればいいんだし、とりあえず何とかなると思うんだが、どうだ?」


 紅組と白組に分かれて試合もできて、スコア制でわかりやすく盛り上がるからいいだろうと千藤が提案すると、ムムムと眉間にしわを寄せた朽木が異議を呈する。


「野球だと? まさかお前、ひょっとして野球をなめているんじゃないだろうな? 廃部寸前で不良ばかりの部活動とか、試合を邪魔する秘密結社とか未来人とかロボットとか、命を掛けたゲームとか強制労働とか、野球をするだけでも大変なんだぞ!」


「お前、絶対に何か勘違いしているだろ」


 呆れ気味に発した宗谷の言葉も朽木には聞こえていない。

 ずっと一人で盛り上がっている。


「大丈夫って言ったじゃないですかぁ! それなのに手術が失敗だなんて! 博士ぇ!」


「じゃあサッカー」


「お前それはもっと怖いぞ! オーバーヘッドキックが初歩で、超次元だったり、少林寺だったり、エゴむき出しだったり、とてもじゃないが!」


「じゃあテニス」


「終わった……みんな死ぬかも……」


「そんなか?」


 何を言っているのか理解するには彼と最低限の知識と感覚を共有する必要があるので、一人で相手をしている間にくたびれた宗谷である。

 主任がどちらを擁護するわけでもなく言う。


「まあ、普通のスポーツをやるってのはちょっと体育祭っぽくはないかもしれないな」


「……そうだな。考え直してみるか」


 御手洗は議論を振り出しに戻す決断をした。

 結果、この日は何も決まらなかったことは言うまでもない。





 さらに翌日、教室。

 さすがに焦りを覚え始めている御手洗が全員の前に立つ。


「そろそろ文化祭でやることを決めて、今日あたりには本格的な準備に入りたいんだが」


「どうせ適当にやるんで俺はどうでもいいが、そろそろ決めないと準備が間に合わないからな。ほどほどに楽しむつもりなら余裕を持って決めていくのがいい」


「というわけで、誰かいい案ないか?」


 全員を見渡す御手洗。

 誰もすぐには手を上げないので、仕方なく千藤が意見を発する。


「そうだな、たとえば喫茶店みたいな、食事処はどうだ?」


「女子のほうは問題ないと思うけど……」


 というリオの言葉に続けるのは主任だ。


「問題は料理が全くできない俺たち男子と、圧倒的に足りない食材だろう。普通にやろうとすれば女子の負担が大きくなるしな」


「僕ら男子の存在意義を疑うよね」


 少なくない不満がたまっているのか、女子の誰もフォローをしなかった。

 気まずさを咳払いで誤魔化して、千藤が会議を仕切る。


「でも、ま、ひとまず喫茶店をやるものとして議論を進めていくことにしよう。どうせ予行練習だからな。問題点は見つかるごとに対策を考えればいい」


「しかし一口に喫茶店と言っても、どんな喫茶店にするんだ? 色々あるだろ」


 この宗谷の疑問に朽木が答える。


「そこはもちろんメイド喫茶とかコスプレ喫茶みたいなコンセプトカフェでいこうぜ。提供する料理そのものじゃなくてウェイトレスを見せるという、論点や観点のすり替えを利用した問題解決法だ。これなら堂々とメニューの質を落とせる」


 嘘つけ、女子に衣装を着せたいだけだろ。

 とは、正直なところ見てみたい気持ちが強い宗谷も言わなかった。

 代わりにリオが朽木のプランの実現が難しい理由を伝える。


「気持ち的にはやったっていいけど、どちらにせよ衣装がないわよ」


 これに朽木が反論する。


「リオ、接客業で大事なのは心だろ! お・も・て・な・し、おもてなしだろ! 衣装なんて飾りです! 見てくれで人を判断するんですか!」


「だとしても、喫茶店のホールスタッフには飾りも欲しい気もするが……ここは朽木の言うとおりだ。ずばり心で攻めよう。衣装や内装じゃなくて気持ちを大事にするんだ」


 そうすれば準備も簡単だしな、と思う千藤である。

 御手洗も同じことを思ったようだ。


「それ、すべてのメニューに“心温まる”とか書き足せば解決しそうだな」


「ああ」


 御手洗と千藤がうなずき合い、これで決まりか……と思われたとき、そうはさせるかと朽木が早口でまくし立てる。


「ただし、ティータイムは放課後限定で。メニュー表には結束バンドを使って、その辺の虫かごでトゲアリトゲナシトゲトゲを飼っておくか。ついでに石鹸も置いとく。あ、価格は765円とか876円とかで統一しておこうぜ。ちなみに閉店時間は二十五時」


「……なんで?」


「あとは地下にステージを作って、ゾンビとか極道とか――」


「ああもう! 馬鹿なこと言ってないで、ちゃんと考えろよ!」


 言いたいことがたくさんあるのか、まだまだ続きそうな朽木を止めたのは宗谷だ。

 ちゃんと考えろよ、と大声で言われて、まるで自分が怒られたような気持になった御手洗は方針転換する。


「だな。心で攻めるとか抽象的なんだよ。コンセプトくらいはもっと明確にしたほうがいい」


「そうだな……お前らに最適なコンセプトがあるぞ。へりくだり喫茶だ」


 考える時間を稼ぐためだけに千藤がほとんど冗談でそう言うと、元気のいい反応が次々と返ってくる。


「お客様は神様です! 僕たちは蛆虫うじむしです!」


「代金など滅相もございませぬ! こちらはサバイバル生活の身の上なので、どうぞ、無料でお受け取りくださいまし!」


「ご注文を聞くのもおこがましいので、とりあえずオレの独断で全メニューをお持ちいたします。もちろん御代は頂きません!」


「ご、ごめんなさい。わざわざこんな汚い店まで足を運ばせてしまって……。ああ、本来なら、私たちが移動喫茶店となるべきところを!」


「……お前らさ、それを本気でやりたいと思うか?」


 あきれて頭を抱えた宗谷である。

 長瀬やエミも苦笑している。


「なんだかとても居心地が悪そうだよ。へりくだられているのにね」


「ですね。へりくだるのも度が過ぎては、相手を不愉快にしてしまいます。……私も褒め過ぎに注意しなきゃですか?」


「なわわ~。やっぱり難しいね」


「そもそも喫茶店のメニューで俺たちに用意できるものがあるのか? ここには材料もないし、料理もできないだろうし……」


 願望や理想論はともかく、喫茶店を出店する上での根本的な問題に言及する宗谷。

 難しいことを考えるのが苦手なのか、山原の頭は混乱する。


「なわわっ。やばいよ、宗谷。ケーキがなかったら何を食べればいいのかな!」


「うん、差し当たってはケーキ以外だな。……で、本当にどうする?」


 自分でも解決策が思いつかない宗谷はヘルプを求める。

 アンサーは朽木から返ってきた。


「よし。じゃあ、ここはエア喫茶でいかないか? 実際には何もないのに、料理があるものとして振る舞う喫茶店。幻術喫茶とでも名乗ろうか」


「ほほう、ままごとみたいなものか。食材を必要としない喫茶店というのは、サバイバル的には実に興味深い。それで腹が膨れるのならな」


「ちっちっち、腹を膨らませる必要はないんだよ。経費がかからず、客から一方的に巻き上げる最高の業務モデルだろ?」


 誰も何も言おうとしないので、しょうがなく宗谷が口にする。


「そもそも客が来ないだろ。もし来たとしても、馬鹿正直に代金を払わないだろ」


「なるほど、それじゃ客からは事前に入店料を取るべきか」


「あくどいから止めろ!」


 本気で言っていたわけではないにしても、自身が考える最強の経営戦略を否定され悔しがって唇をかむ朽木。なんだかんだと面白がっているようだ。


「……ぐぬぬ。仕方がない、客が宗谷みたいなクレーマーばかりだったら破綻してしまう。ここはエアで攻めるのを諦めよう」


「でもさあ、そうするとやっぱりメニューが問題だよね」


「自分たちで食べる分ならともかく、客に出せるような料理となると難しいな」


 山原と御手洗がそろってうーんと頭をひねる。

 静かになるタイミングを待っていたのか、すっと佐波が手を上げた。


「ここで俺はサバイバル精神が満載なセルフ喫茶を提案するぜ。喫茶店の場所だけを提供して、あとは食材の調達から料理まで客任せ」


「そこまでいったら他の商売やれよ! 喫茶店にこだわるなよ!」


「うわ、宗谷みたいなクレーマーが来たら終わりだな。提案してはみたものの残念だ」


「却下、却下~」


 まるで歌うように却下する山原は両腕でバツマークを作って踊っている。それに影響されたのか、宗谷や朽木たちまで全身を揺らして却下ダンスを始めてしまう。

 思わず女子の何人かも踊りそうになったところで、いつもなら一番に流されていそうな長瀬が流れを止めた。


「ところで君たち、どうしても喫茶店がやりたいなら受動喫茶なんてどうだろう? 多くの選択肢から自分の意思で何かを選ぶことに疲れた人間をメインターゲットに据えた、次世代の喫茶店だよ。お客には入店してから何かを食べて帰るまで、すべて決められた手順を踏ませるんだ。これならメニューが少なくても対処できるだろう」


 どんなもんだろうと宗谷が頭の中でちょっと考えてから問いかける。


「それ需要あるか?」


「あるにはあると思うがね……欠点としては、そういう人間はそもそも店に来ない可能性が高いというところか。外出するのが億劫だからね」


「おいおい」


「困ったね。何か名案があればいいんだけど」


 あまり自信がないのか、朽木が控えめに手を上げる。


「メニューは何でもいいからさ、定価を隠して割引セール開催中ってことにすればいいんじゃないか? 営業はその日だけなのにさ、普段の半額とか言っちまおうぜ。ほら、お得とか限定って言葉に弱いだろ、みんな」


 まさにお得とか限定という言葉に反応した佐波が納得する。


「なるほど、割引喫茶か。ついでに料理のカロリーとかも引いて、注文の手順も引いて、何もかも簡素にしちまうか」


「最終的には客足が割り引かれそうだな。誰も来ないだろ」


 論じるまでもない宗谷の指摘に主任と御手洗も賛同する。


「……ふむ、上手くいかないものだな」


「俺たち、喫茶店はやめたほうがいいかもな」


 結局、この日は何も決まらないのであった。

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