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アバンダンド(見捨てられた学校で)  作者: 一天草莽


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14 告白とかラブレターだとか(3)

 昼休み。

 山原と宗谷、朽木と佐波の四人がウキウキで食堂へと向かっていた。


「さってと。昼休み、昼休み~。僕の大好きなご飯の時間~」


「あー。腹減ったなあ。お前らの馬鹿を毎度のごとく大声で訂正しないといけないから、余計に腹が減るんかもな」


 その言い分は完全に無視して、佐波が自分のお腹を手でさすりながら質問する。


「おい、宗谷。今、どれくらい空腹だ?」


「どれくらいって、かなり減ってるぜ。から揚げ一個で茶碗飯が三杯いけるくらい」


 自慢するように言えば、些細なことでも負けたくないのか朽木が張り合ってくる。


「ふうん、その程度か。オレはクジラを丸呑みできるくらいだな」


「え、クジラみたいに丸呑みできるくらいじゃなくて、クジラを丸呑みかよ。すげえな。お前海じゃん」


 当然の流れのように、山原も主張する。


「僕は食堂でカレーライスのカレールー抜きを頼めるくらいだよ」


「……ああ、空腹は最高のスパイスだけに? 白米だけでも全然いけるくらいだって? ボケるにしたって、ちょっとわかりにくいぜ」


「そうかなぁ? じゃあ、ゆで卵を塩なしでもおいしく食べられるくらい」


 これは一緒に歩いている三人に向けての発言ではあったが、最初のリアクションは全く別のところから返ってきた。

 たまたま近くを通りかかった千藤である。


「……む。ちょっと待て、山原。俺は今、実にさりげなくお前らを追い越して食堂に行こうとしていたが、どうにも聞き捨てならない台詞が聞こえてきたぞ。ゆで卵には塩じゃなくて、しょうゆだろ」


「えー、しょうゆ? ゆで卵に醤油を掛けたって、つるつるな白身の部分をたらーっと流れ落ちちゃってさ、結局味のないゆで卵を食べることになるじゃんか!」


「それは大いなる偏見だ。まずはこう、ゆで卵を箸で二つに割って、黄身の部分にじっくりとしょうゆをしみこませることが想像できないか、山原! ああ、今すぐにここで実演してやりたい! ショーユー!」


「僕だって、目玉焼きにしょうゆならわかるけどね。ゆで卵はやっぱり塩でしょ!」


「俺だってスイカに塩ならまだ許容できるが、ゆで卵に塩は無難すぎる!」


 などなど、歩きながら楽しく言い合う二人。

 身振り手振りなども加わって、さすがに元気過ぎる。

 周りに誰もいないとはいえ、通行の邪魔になりかねないくらいだ。


「……ったく、お前らさあ、不毛な争いもそこらへんにしておけよ」


「珍しく朽木が調停役に出たか」


「ゆで卵にはマヨネーズで決まりだろ?」


「参戦しやがった!」


 千藤の相手をするのに集中していた山原はびっくりして振り返る。


「マ、マヨネーズ?」


「そうだぜ。オレが考えるに、そもそも原材料として卵が使われているからな。ゆで卵に相性がいい。ほら、納豆にしょうゆを掛けるようなもんだろ?」


 なるほど相性かぁ……と考えた山原が納得させられそうになっているところへ、千藤が割って入る。


「納豆にしょうゆも怪しいぞ? 砂糖だろ。糖分は大事だ」


「納豆が甘いのは違う」


「それお前の偏見な?」


「とーにーかーくー、マヨネーズは調味料界で最強! 調味料界の神とする! 何かあったときのために製法を調べてるから異世界に行っても安心!」


「あはは、確かに以前は僕もマヨネーズさえかければ何でもおいしくなるんじゃない? なんて思っていた時期がありましたよ。でもね、それは所詮マヨラーのマヨネーズ依存症に他ならないって気がついたのさ!」


「山原の言うとおりだ。マヨネーズなんて単純に自己主張が強いだけだろ。だからマヨネーズ好きには何でもマヨネーズ味になっておいしく感じられるのさ。マヨネーズのごり押しなんて、もううんざりなんだよ!」


「お前らマヨネーズをなめんなよ? かつてこの日本には朝からマヨネーズにキスしてロックする一大ブームがあったんだぜ!」


 なかなか折れない千藤と山原に対してジェスチャー付きで朽木が言い張れば、今まで黙っていた佐波がようやく動いた。

 馬鹿どもの相手をしていられないと言わんばかりに、やれやれと大きく息を吐き出す。


「まったく、やめてくれよ、お前ら……」


「さ、佐波? もしかして、お前はこいつらを止めてくれるのか?」


「いいか、ゆで卵には味付けなんていらないだろ? そのままかぶりつくだけでおいしいんだよ! つーか、サバイバル生活ではそのまま食べるしかなかった!」


「心の叫びかよ!」


 期待した俺が馬鹿だった! と付け加えることを忘れない。

 当然、佐波は不満そうな顔を見せる。


「なんだよ? そういう宗谷はどうなんだよ?」


「俺か? 俺は別に、ゆで卵なんてそこにあるもんで適当に食べるから、味付けについては特にこだわりはないが……」


 瞬間、朽木がぴょんぴょん飛び上がって指摘する。


「最悪だな! こういう状況で最悪の答えだな! ジャンプが止まらねえぜ!」


「だよね! きっと宗谷みたいな人が、しょうゆだろうがソースだろうが結局かければおいしくなるんだろ? とか身も蓋もないことを言って、その場を盛り下げちゃうんだよ!」


「ひどい言われようだな、俺」


 いつものことながら。





 わいわい騒ぎながら食堂に来た彼らを出迎えたのは、二年の学年主任を務めている中津である。


「あ、先輩方。いつものお席にどうぞ」


「なわぁ、ありがとう。今日の当番は中津君たちなんだ?」


「はい、今日は僕ら二年生が責任を持って準備させていただきます」


 それを聞いていたのか、先に食堂についていた三年の学年主任、末広が肩を揺らして笑う。


「ははは! 俺らが当番のときはたいした食事も出せやしなかったけどな! だからお前たちも決して無理はせず、ほどほどでいいぞ!」


 黙って聞いていられなかったのか、近くにいたリオが会話に入ってくる。


「そうね、普通にやってくれるだけで大満足よ。三年の男子ったら料理がからっきしなんだもの。おかげで女子の当番日が多いこと、多いこと」


「リオちゃん、それは素直にごめんね。うーん、いつもは当番の時も皿洗いとか片付けばかりだったけど、次からは僕もちゃんと料理してみようかな?」


「それは本気でちょっと待とうぜ。貴重な食材を台無しにされるくらいなら、面倒でも当番を代わったほうがマシだ」


 宗谷の一言にリオも同意する。


「そうね。だから女子からも男子に対して不満が出ていないんでしょうね。娯楽が少ないこともあって料理好きだって多いから、当番になる日を楽しんでいる部分もあるし」


「そっか。それを聞いて安心したよ。今から料理を始めるにしても、覚えるのはちょっとずつで大丈夫そうだから」


「それとも、これからは基本的に俺主導でサバイバル食を提供していこうか?」


「おい佐波、それで誰が喜ぶんだよ?」


「主に俺が三百六十五日」


「はい、却下~」


 多数決を取るまでもなく山原の独断で却下された佐波は悔しがる。


「くそ、うまいことやりくりして余った食材は俺が頂こうと思ったのに」


「お前って本当に備蓄が好きだよな」


「何かと必要なんだよ、サバイバル生活には」


「サバイバル生活ねえ。何がお前をサバイバルにかき立てるのやら」


「まあ、しいて言うなら危機感かな……」


 危機感、と聞いて誰も何も思わなかったわけではないけれど、そこから話は広がらなかった。

 かといって他に話題もなく、なんとなく離れるきっかけを失って突っ立ていた中津に声がかかる。

 エミだ。


「本日の料理担当をされている二年生方、何か元気の出るものはありませんか?」


「あ、はい、ちょっと待ってください先輩。厨房のみんなに聞いてみます」


「ありがとうございます。素晴らしい対応で頭が下がってしまいますよ」


 小走りで厨房に駆けていく中津の姿を見ながら、彼女の話が気になった山原が声をかける。


「エミちゃん、どうかしたの? 元気が出るものとか何とかって……」


「おや、山原さんたちですか。いつものメンバーで、さすがの仲のよさで憧れますね。実は真由が今朝から落ち込んでいるようなので、なんとか励ましてあげたいんです」


 それは無視できない話だと宗谷も心配そうな顔をする。


「そうなのか? 大丈夫か?」


「わかりません。ですが、たとえ取り越し苦労であっても私は彼女のために何か力になってあげたいので」


「それなら僕らも力になってあげたいよ。ね?」


「おう。オレたちに任せてくれってばよ。オレが来た! ドン!」


「本当ですか? ありがとうございます。さすが、お優しい皆さんです」


 山原たちの好意を受け取り、頭を下げて喜ぶエミ。

 そこに料理当番の中津が戻ってきた。


「あのー、先輩。ちょっといいですか? 色々と考えてみたんですけど、何が元気の出るものなのか結論が出なくて。具体的には何がいいのでしょうか?」


「そうですね……」


 すぐには思いつかずエミが考え込んでしまうと、力になりたくて張り切っている男子たちが騒ぎ始める。


「オレ、知ってるよ! 元気が出るものと言ったら、ほうれん草に決まっているだろう! マキシマムなトマトとか、上手に焼けましたーな肉でもいいがな!」


「一本で満足できるような棒状の食べ物はないのか? 最強のサバイバル食だぜ」


「飛び切り甘いものじゃないか? 頭脳を使う人間は糖分を必要とするもんだ」


「僕、友達であるエミちゃんの手作りがいいと思うな」


 いっぺんに畳みかけられた中津はもちろん、そばで聞いていた宗谷も頭を抱える。


「お前らちゃんと考えてからしゃべれよ」


「あはは……ですが先輩方はさすがですね」


「ですです、さすがです。でしょう?」


 ごまをすったような中津の発言に誰かを褒めるのが趣味のエミが同意しつつ、自分たち三年の仲間を自慢している。お世辞とはいえ本心がゼロでもないので、同意を迫ってくるエミの対応に中津が困っているのを見かねてか、リオがエミを呼び止める。


「ねえ、普通に真由ちゃんの好物でいいんじゃない?」


「そうですね、さすがリオさん。参考になります。でも真由は基本的になんでもおいしく食べちゃいますね。一番が何かは……」


「じゃあ、本人がそこにいるから聞きにいこう」


 と、みんなの反応を待たずして山原は真由のテーブルへ向かう。

 やる気があっても、うまくできるとは限らない。空回りしがちな山原が一人だけで行っては何をしでかすかわからないので、宗谷たちもついていかざるを得ない。

 エミと一緒に食堂へ来たという彼女は少し離れた席に一人で座っていた。


「やっほー、真由ちゃん」


「あ、や、山原さん……。そ、宗谷たちさんも」


「どうした? 本当に元気がないみたいだな」


「ですよね」


 いつもに比べて何倍も心細そうな真由を心配そうに見つめるエミ。

 元気づけたい、という彼女の話も理解できる様子だ。

 とはいえ、本人を前にどう話を切り出したものか――と困る山原たちに対して、あまり気を遣うのが得意ではない朽木は悩まなかった。

 遠慮もデリカシーもなく、グッと身を寄せて尋ねる。


「好きな食べ物はなんだ?」


「え?」


 何を言われたのか理解できない、みたいな顔をする真由。

 それも無理はないと、佐波が朽木の背中を非難するように叩く。


「お前は馬鹿か? 聞くにしても唐突過ぎて、相手が困惑するに決まっているだろ」


「好きな……食べ物は……一体……なんですか……」


「ゆっくりしゃべればいいってものじゃない」


「あ、あの……?」


 佐波と朽木のやりとりについていけない真由がおどおどしていると、この二人のことは気にしなくてもいいとリオがなだめに入る。


「ごめんね、真由ちゃん。ちょっと私たち、真由ちゃんが元気なさそうに見えたから、元気を出してもらおうと思って」


「うん。それでね、好きな食べ物は何かなって」


「あ、そ、そうだったのですか」


 自分のためにすみませんと、うつむく真由。

 そんな彼女を見て、エミがそっと肩に手をのせる。


「好きな食べ物は何でしたっけ? 真由、味は保証できませんけど、よかったら私が振る舞ってあげますよ」


「私が好きなものは……オムレツだけど……」


 これを聞いた男子が大喜びする。


「やったぜ、比較的簡単な卵料理だ! ゆで卵じゃないから料理スキルゼロのオレには作れないけど! なあ、佐波、お前に任せた!」


「任せられたって俺には作れんぞ、なにしろ俺の得意なサバイバル料理は火を使わない卵かけごはんだったからな。しかし無駄な討論は避けられそうだ。オムレツなら異論なくケチャップだろうしな」


「うん、そうだね。じゃあみんなで作ってくるよ! まさかマヨネーズとか言わないよね!」


「あ、ま、待って! わざわざ私のために作ってくれるのは嬉しいけど、もうお腹いっぱいで食べられなくて……」


 放っておいたら自分が食べることになりそうだと察して慌てた真由が、厨房に走ろうとしていた三人を呼び止める。

 おいしいものを食べて元気を出してもらいたい、というエミの計画は、それを実行するには少し遅かったようだ。

 意図的ではなかったとしても宗谷たちを巻き込んでしまったこともあり、出鼻をくじかれたエミのほうが落ち込んでしまう。


「そうですか……ぜひ食べてもらいたかったんですけど」


「うーん、僕も残念だね。……ね、宗谷?」


「ん? ああ。……満腹で食べられないのなら仕方がない。こうなったら料理以外で励ますしかあるまい」


「はい、そうしましょうか。でも、どう励ましたらよいのでしょう?」


 自信がなくなっているエミはアドバイスを求めてみんなを見渡す。

 彼女たちの会話に混ざれず真由がきょとんとしている中、まず目が合ったのは山原だ。


「それじゃあ、いっそ僕たちのほうが深刻に落ち込んでみせるとか! 隣でとことんこの世の終わりみたいな顔をしてみせるのってどうだろう!」


「さすがですが、人によっては相乗効果でより一層ひどく落ち込んでしまいそうですね。ミイラ取りがミイラになるように、落ち込んだ振りをした私たちまで本当に落ち込んでしまう可能性があるので、ここは却下です」


 と言えば、朽木が目も合っていないのにしゃべりだす。


「熱くなれよう! と再三に渡って叫び続ける。気合だ! 気合いだ! 気合いだ!」


「悪くはないと思いますけれど、それだけで立ち直れる人はハートが引火しやすいのでしょうね。勢いだけで乗り切ろうとするのはさすがですが、残念ながら真由はそういうタイプではないと思うのです」


 続いて佐波が何かを言おうとしたのを見て、先んじてリオが口を挟む。


「あのさ、私は普通に相談に乗るのが一番だと思うけど? そこにいるんだから」


「なるほどですね。リオさんはさすがです」


 どもども、と軽く手を振っておいて、自分が言い出したことだからとリオが真由に優しく声をかける。


「ねえ、真由ちゃん。一体どうして元気がないの? 何か悩み? 言えること?」


「あ、ううん。悩みというわけではないのかもしれないけど、ちょっと考え事が……」


 そう聞いたエミが不安そうな顔をする。


「真由が考え事ですか? よかったら教えてください、どんなことでも力になりますよ。友達じゃないですか」


「あ、ありがとう。でも、迷惑じゃない?」


「まさか! 私が迷惑がるなんて」


「うんうん、迷惑なんてともんでもない。全然大丈夫だよ。僕たちに任せて」


 と、これはみんなを代表して答えた山原だ。

 頼れるかどうかはともかく、力になってくれるのは嬉しいのだろう。

 言えないことでもなかったのか、真由は隠すでもなくうなずく。


「う、うん。わかった」


「それで、考え事って?」


「あ、あのね、自分の思いを伝えるには、いったいどうしたらいいんだろうって……。この前からずっと、この胸がくすぶっているの」


 と、切なそうに自分の胸を抑える真由。


「思いを伝えるって、まさか……」


「こ、告白っ?」


 その場にいた全員がまさかの事態に驚愕するのであった。

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