12 告白とかラブレターだとか(1)
校長室にて、朝の運営会議が開かれていた。
リーダーと生徒会長を中心に、一年から三年までの三人の学年主任だ。
「さて、今回の運営会議の議題だが……」
椅子に座っている四人を前に何かを言おうとしたリーダーだったが、それを最後まで言う必要はなかった。
リーダーの副官として、議会を進行する役目を担っている御手洗が先んじて答えたからだ。
「はい、先日のテストの結果ですよね、リーダー。授業の内容ややり方を考え直してみるということでしたが――」
と、これまた何かを言おうとした御手洗だったが、彼も最後まで言えなかった。
自分の発言が後回しになって、言うことがなくなっても困ると思った主任が先んじて答えたからだ。
「三年の学年主任として色々と報告したくはありますが、正直なところ、あまり成功したとは言い切れませんね」
「それは……」
これに対して御手洗が何かを言い返す前に、一年の学年主任である下級生の高宮が声を挟む。
「失礼ですが、先輩方。僕ら一年生も同じように授業の改善には挑戦してみましたけれど、結果は散々と言うしかありません。こんなことを早朝から運営会議で話し合う必要性があるのかどうか、それすら僕は疑問に思います」
「まあまあ、高宮君。落ち着いて」
そうなだめるのは、最近は上にも下にも気を遣う中間管理職のような立場になりつつある二年の学年主任である中津だ。
しかしこれには三年の学年主任である末広が自嘲気味に答える。
「いや、高宮の言い分ももっともだ。俺たち三年としても問題があるように思えてならない。付け焼刃程度に授業の改善を図っても意味はないだろう」
「そんなことありませんよ。先輩方が我々のことを思ってのことだと、僕ら二年生はわかっていますから」
「中津、自分より年上だからって俺たちに気を遣わなくてもいいぞ。どうせ三年は馬鹿ばっかりなんだ。俺だってちゃんと生徒会長がやれているかは怪しい」
「い、いえいえ……御手洗生徒会長はみんな尊敬してますよ」
謙遜や遠慮だけでなく中津は本心からもそう言うが、思うところのあった高宮はそうもいかない様子だ。
特定の誰かというわけではなく、三人の三年生をそれぞれ眺めながら言う。
「なら僕からはっきり言わせてもらいますが、先輩方はいったい何をどうしたいのですか? 僕は一年生の学年主任として、みんなにどう説明しなければならないのでしょうか? せめて今後の指針くらいきっちりと示していただかないと困ります」
そして高宮は言葉に重きを置いて自分の意見を伝える。
「このままでは未来が見えません」
「……未来か」
「はい、未来です。僕らはリーダーを信じてきたのですから、せめてリーダーにはしっかりしていただかないと。僕を含めて、みんなが不安に陥るのも当然です」
「まあまあ、高宮君。一年生が不安になるのもわかるけど、リーダー方も一生懸命僕らのことを考えてくれているんだから、ね?」
なだめる中津だったが、それをやめさせたのは高宮本人ではなくリーダーだ。
怒ってはいない、と表明するために表情をやわらげながら尋ねる。
「いや、一年の代表である君に聞きたい。現状では、何もなせないと思うか?」
「僕はそんなことないと思いますが。えっと高宮君、どう……なのかな?」
なぜか間に挟まっている中津のほうが緊張してパスを出す。
先輩ばかりに囲まれた下級生である高宮は堂々としたものだ。
「正直、かつてあった希望や信頼が徐々に薄れつつあるように思います」
「まあ、さすがにこの生活も三年目になるとなぁ……」
ほどほどに生きることを是とする主任は怒るでもなく納得して苦笑している。
御手洗は彼ほど気楽になることもできず、少なくない不満や不安を抱えている高宮に意識を向けながら答える。
「俺たちが頑張らなきゃいけないのは当然として、希望や信頼が薄れてしまうのは無視できない問題だな。そのせいで団結力や統率がなくなってしまっては生活が成り立たない。未来が見えないという高宮の意見もわかる」
「そうですが、それは先輩方だけの責任というわけでは……僕ら二年も一年生を引っ張っていけるようにならないと駄目ですし」
話を聞いていたリーダーは御手洗に問いかける。
「統率か。今一度、全員の前に出て俺が言葉で引き締める必要はあるか?」
「どうでしょう? そこまで、という気もしますが」
御手洗が明言を避けたので、学年主任として高宮がリーダーに伝える。
「一年生の立場から言わせてもらえば、少なくとも、何も終わっていない現時点でリーダーが隠居するには早すぎます。……それに、それじゃ無責任ですよ」
「まあまあ、高宮君。ですが、僕らはリーダーを軸に集まっているのですから、リーダーが率先して何かしていただければ、物事はより円滑に進むのではないかと」
それを聞いた主任が笑顔になった。
「ははっ、この際、全校集会でも開きますか?」
あくまでも場を和ませる目的があったのかもしれないが、何に対しても生真面目な御手洗は真面目に答える。
「いや、その必要はないだろう。全校集会でリーダーが団結を促すように言えば、かえって不安感を煽ってしまいそうだ。それよりもまず、動揺が広がらないように今まで通りの生活を送ろうじゃないか。ねえ、リーダー?」
問われたリーダーは学生帽を深くかぶり直して答える。
「……各自の判断に任せる」
そしてそれが本日の会議の結論となるのだった。
「わかりました。そういうことでしたら、これからも今まで通りの方針であると、一年のみんなには言っておきましょう」
「すまないな。君ら学年主任には迷惑を掛ける」
「いえいえ、会長。僕ら二年は何も気にしていませんから」
中津の言葉を聞いて、三年の主任である末広は椅子の背に体重をかけた。
「そうか、二年はすごいな。この生活も三年目に入って、正直なところ俺はもう疲れてきているんだが。ついでだから御手洗会長に聞いておくが、こんな感じで無気力になっている俺は主任の座を他の人間に譲らなくてもいいのか?」
「お前には二年間の実績があるからな。それに、三年の中で他に主任を任せられそうなのって思いつくか? 男子は馬鹿ばっかりだし、女子は運営委員会に入るのを嫌がるだろ」
「……あの中では千藤が一番しっかりしていそうだが、あいつはあいつで問題あるしな」
そんな二人の会話にリーダーが結論を付ける。
「そういうことだ。俺はお前を信頼している」
「なはは、ほどほどに生きると決めたつもりでも、いざリーダーにそう言われると弱いですな」
そしてリーダーは二年と一年の学年主任二人にも顔を向ける。
「お前たちも同様だ。信頼している」
「なんと、それはそれは。ありがとうございます!」
「……はい。それはとても嬉しく受け取っておきますよ」
二人のテンションに差は見られたものの、どちらもリーダーの信頼を嬉しく思っているのは事実なのだろう。中津はあからさまに、高宮は控えめに笑顔を漏らしていた。
ひとまずは安心した御手洗が胸をなでおろす。
「ということだ。今日の運営会議はここまでとしよう。何かあれば放課後にまた招集がかかるかもしれないから、そのつもりで」
そしてリーダー以外の人間は校長室を後にするのだった。




