マジ勘弁!無理!
無事、婚約破棄できました。
ハラショー!
無事に婚約破棄まで泳ぎ切った私たちは、そっと気配を消し端に寄った。
いちおう婚約破棄された一家なので、俯いて神妙な顔をしておく。
エランシオは打って変わって恭しくコーネリアに跪き、右手を差し出した。
「愛しいコーネリア・レシャールカ嬢、どうか王太子たる私の妃に」
「まあ……光栄ですわ」
コーネリアは、それはそれは美しく微笑み……キレッキレに扇子を閉じ右斜め30度に傾け薬指を立て、次に扇子の上部を両手で持ちクルリと扇子を逆さにして軸を上に立てた。
" このクズ"
"マジ勘弁!無理!"
さすがに某王太子とは違って自称王太子はしっかり扇子言語が理解できたようだ。
頬を引き攣らせ、右手を差し出したまま固まった。
周りにいた人達は、いちおうエランシオに話しかけようと集まるものの、踊りに誘ったのを断られるのと、プロポーズを断られるのは違いすぎる。
何かを言いかけては諦めるのを繰り返し、結局みんなで肩をたたくのに止まった。
ドンマイ!
ドルリチェが庇うようにコーネリアを抱き寄せ2人が微笑み合うのを見て、エランシオはギリと奥歯を噛み締めた。
「ミリアムー!」
さあ、どうするのかと他人事で見てたのに、ここでまさかの私の名が呼ばれた。
王族に呼ばれたら行かない訳にはいかない。
私は渋々エランシオの前に行く。
「仕方がないから貴様で我慢してやる。再度、婚約するぞ」
コーネリアから私に向きを変え、エランシオは立ち上がりながら言った。
「殿下……文官様が先程おっしゃったではありませんか。いかなる者も、この、婚約破棄を、覆す事は、で、き、な、い。本当に、残念ですわ……」
エランシオの配慮の行き届いた婚約破棄よ、ありがとう!
私は悲しげに眉を下げ、扇子を閉じ、両手で扇子の上部を持ってクルリと軸を上にした。
"マジ勘弁!無理!"
「この!」
激昂したエランシオは私に拳を振り上げた。
扇子言語は全て許されるお約束なのに、貴族社会で最も蔑まれ忌避されるルール違反だ。
「キャア」
私は驚いて、持っていたまま扇子をエランシオに突きつけた。
ズボ!
篭るような嫌な音がした。
そこには……鼻に扇子が刺さったエランシオがいた。
エランシオと目が合う。
ダメよミリアム!笑ってはダメ!!
堪える私のどこか近くで誰かがプッと吹き出した……。
「……プフッ」
会場中で笑い声の爆発が起こった。
エランシオは、どうにか扇子を抜こうとするも奇跡の角度で刺さっているのか抜けないようで、扇子を引くたびに様々な愉快な顔を披露する。
「お、お願い、で、ございます。殿下、私の方を見ないで、く、ください、ませ……」
私はもうダメだ。
引き攣った笑い声しか出ない。
エランシオに笑い殺される。
「王命である!第二王子エランシオ・ソルリディア!王太子を騙った罪で捕縛する!」
「何!?」
鋭い声にエランシオは振り返った、扇子を鼻に生やして。
「な!?」
さすが王城の騎士達である。
そこで堪えた。
鍛えられた腹筋が素晴らしい。
エランシオは速やかに騎士達に捕縛され連れて行かれた。
卒業パーティーの会場には、エランシオに笑い殺されかけた這々の体の人々が死屍累々………。
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せっかくの扇子言語の世界、こんなざまぁも良いかなと笑
ちなみにエランシオの鼻には扇子の軸から刺さっており、いい塩梅に引っかかって抜けない仕様です。





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