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平民宰相の世界大戦 ~原敬兄弟転生~  作者: 巽未頼
明治六(1873)年
98/109

第98話 インディアナポリス 未来のプレジデント

遅くなり申し訳ございません。

少しずつ投稿時間を本来の水曜に戻せるよう頑張ります。

 アメリカ ワシントン


 10日間の仕事を終え、岩倉使節団と別れた。季節はもうすぐ6月。そろそろアメリカで恐慌の兆しも見える頃だ。アメリカに戻ろうということで、途中ロンドンに寄ってからワシントンに戻ることにした。

 渡航前にもらい受けたブルドックとクリスタルパレスFCというサッカークラブからもらったサッカーボールと金属のコップを持っての帰還だ。麻子様には出迎えた瞬間に微妙な顔をされた。


「その球は蹴鞠用ですか?」

「いや、サッカーという今少しずつ流行りつつあるスポーツで使う物ですね」

「そちらの犬は?」

「ブルドックという犬の品種です」

「盛岡の御屋敷で飼っていた犬とは、随分風貌が違いますね」


 まぁ、ブルドックは『ぶさかわ』のはしりだ。反応が微妙なのは仕方ない。


「イギリスの犬です。世話の仕方は変わりませんから、帰国する時に連れて行きましょう」

「旦那様がそう決めたのなら」


 麻子様の後ろで頭を下げていた水木も少し頭をなでながら「ただいま」と伝える。まぁ、今はこれくらいで許してほしい。


「それで、旦那様は当分こちらに?」

「一応、ウイリアムに頼んでいる人と会えればその時会いに行くかんじですね」


 7月初めにインディアナポリスでベンジャミン・ハリソンに会う約束をしている。この家の主でもあるフォスター氏と同じ共和党員のため、アポをとってくれたのだ。他にも数人と会う予定を立てている。


「まぁでも、普段は市内の公使館で勤務予定ですので、ここには毎日顔を出しますよ」

「そうですか」


 麻子様の返事はいつもより機嫌の良さそうなものだった。屋敷内ではフォスター夫人やエディス・エレノア姉妹も出迎えてくれた。

 夜には仕事を終えたフォスター氏も交えての夕食だった。泊まっていかないかと誘われたが、明日の朝に公使館に行くのが遅くなるのはまずいので丁重に断った。


 ♢


 翌日。

 公使館で日本から届いた電信を確認した。森有礼殿が代表者のため、かなり自由に動ける。公使館では電信の内容確認と森殿への報告を主としていた。


「森殿、小学校が4月から一部で動き出したそうで」

「清からの賠償金は使われましたか?」

「そこまでは書かれていませんが、公費援助をもってとのことです」

「それは何より。まずは国が支援して学校を創り、人を集めねば」


 ちなみに、盛岡藩内では廃藩置県前に藩の費用で八戸藩とともに14か所の小学校が既に設立されていた。これに藩校と日新堂を利剛様が校長となる私立小学校・私立中学校として別枠で運営していた。国から得られる公費は5年間の教科書普及支援費・給食補助費として利用しているはずだ。そういう青写真を予め大島高任殿と協力して準備してある。盛岡藩内では廃仏毀釈をほぼ防げたおかげで仏教関係者や一部士族が協力的に小学校の教師をしている。他府県で寺を焼かれ居場所を失った人も就職しているようだ。このあたりは今年初めに麻子様宛で南部利恭様から届いた手紙に、端っこの端っこで俺宛に書かれていた。手紙の大半は麻子様の体を心配する内容だった。シスコンェ……。


「実はウィーンで西洋音楽を学んだ人物を数名勧誘出来まして」

「それは素晴らしい!我が国の音楽も大事ですが、西洋の音楽も学ばねばなりますまい」

「1人は万博博覧会で和楽器にも興味を持っておられましたし、和楽器もぞんざいには扱わぬでしょう」

「和楽器の教師は大奥などで女中をしていた者の仕事としてある程度大事ですからな」


 大奥の女性は江戸城明け渡しで大半が市井に戻っている。彼女たちが結婚していればまだいいのだが、人によっては独身のまま華道や茶道、行儀作法の先生などで暮らしている場合がある。そういう人物も学校教育に参加する形を森殿は模索していた。


「女子教育の場はまずは私立からと敬殿は申しておりましたな」

「ええ。最初から女子教育の土台を用意する余裕はないので」


 公立の女子小学校以上の教育機関を国が用意する余裕はないだろう。だから、きちんと段階を踏んで進める方がいいと森殿は説得していた。そうした教育機関で教師役をできる女子の先駆者に、今こちらに来ている女性陣がなるのだから。


「他にはありますか?」

「特にないですね。朝鮮の問題はアメリカと協議しているので向こうでも議論は一旦停止しているとの事です」

「シャーマン号の問題を朝鮮側はまだ正しく認識していないのかい?」

「ええ。ハミルトン・フィッシュ国務長官と話した際のやり取りが西郷様に伝わっているので、留守政府はとにかくアメリカに謝罪すべしと伝えているようですが」

「こちらの使者もほぼ門前払い、か。イギリスも状況は共有できているのだろう?」

「ええ。イギリスでは山口正使がイギリスのグランヴィル伯爵に説明しています」

「フランスにも鮫島公使から連絡がいっていると聞いたから、フランスの返答を待って、国際社会の代弁者として派兵となるだろうね」


 本来、明治初頭の日本に朝鮮半島へ出兵している余裕はない。だが、多少資金的に余裕が生まれた政府と英米仏の損害に対する賠償を要求しつつ開国させるという方向ならば外交の一部として扱える。どの道朝鮮半島の処遇について日清露は揉めるのだ。少しでも欧米諸国から見映え良くすることが大事と言える。


 何はともあれ、西南戦争を防いで散発的な士族反乱で収めるのが理想だ。西南戦争は出費が凄まじく、インフレを発生させたという経済的な問題がある。士族の不満をどこまで吸収できるかは政策の進め方次第だけれど、強力なリーダーになる西郷隆盛の下野を防ぐのはとても大事なことだ。


 ♢


 アメリカ インディアナポリス


 共和党の紹介でベンジャミン・ハリソンと話ができた。彼はグラント大統領に裁判所の報告官に任命された人物で、インディアナ州では最も有名な弁護士の1人となっている。ウイリアムに依頼して調べた限り、昨年のインディアナ州知事選の予備選挙で敗れたそうだが、史実では日清戦争前後の時期にアメリカ合衆国大統領になっている人物だ。


『フォスターから話は聞いているよ。国際裁判について勉強したいと』

『はい。フォスター氏には妻がお世話になっています』

『日本が憲法の制定や刑法の整備を進めているのはとても良いことだ。正しい法律が整備されれば、我が国も領事裁判権を撤廃することに批判は出ないだろう』


 逆に言えば、憲法もなしに領事裁判権の撤廃とか夢を見るなよということだろう。


『国際法や条約をまずは順守する姿勢を諸外国に示すことだ。真摯で誠実であることが信頼の第一歩になる』

『おっしゃる通りです』


 お前の国にはまだ信頼が足りないからまずは不平等条約をきちんと守れと。


『清国人より礼儀正しいと評判の日本人なら、正規の手続きでアメリカに夢を求めてくることもできる。人種差別的な行動は厳に慎まねばならない』

『ありがたい話です』


 脱法的にアメリカで働いている清国人は嫌いだから、日本人は手続きをきちんとしてから来てくれ、という感じかな。


『ではこれまでの国境画定について、アメリカとメキシコの事例を基に教えよう』


 そんなかんじで、くぎを刺された後で色々と教えてもらった。色々言ってはいたが教え方は丁寧だったし、3日間の勉強会の後は毎日食事も一緒にしてくれる程度には偏見の少ない人物だった。清についてはあまりいいイメージがない様子だった。


『アメリカに来るのはいいが、彼らはアメリカの中に清を創ろうとする。それはダメだ。アメリカに来るならアメリカにならないと』

『清国人はサンフランシスコで中華街を作り、固まって生活しているようですね』

『困ったものだ。あれは一種の侵略だ。植民地と何が違うのか』

『アメリカ人になるならば、やはり教会に通うべきですか?』

『教会に来ても、リトル・イタリーを作るイタリア人のようでも困るがね』


 この時代、イタリアは統一国家になるため内戦を含む様々な動きがあり、そこから排除される人間も多数いた。彼らはアメリカに渡る場合が多く、イタリア系アメリカ人は徐々にアメリカ人でも一大勢力になっていく。彼らがアメリカに持ちこんだ文化がピザだ。


『そうした問題が起こらないよう、我々も努力しますので』

『正しい外交官の姿勢だ。君とはまた機会があれば話したいね』


 シャーマン号事件に進展があればぜひ教えてほしいと言われ、握手で国際法の講義は終わった。

 忙しい中3日間、本人だけではないとはいえ色々と教えてもらえたのは収穫になった。


 明日は隣のオハイオ州にあるシンシナシティの高等裁判所見学だ。調べてもらった限り、ここにはウィリアム・タフトの父親が務めている。

 今は私立のウッドウォード高校に在籍しているらしく、野球のクラブに所属しているとか。日本で作ったバットのお土産でうまく友好関係を築いていこう。

ベンジャミン・ハリソンもタフトも史実通りなら後に大統領になる人物。うまいことコネを作ろうと調査していた結果です。どうしても共和党系の人材に偏りますので、ウィルソンあたりとのコネはちょっと作れないかなという感じです。

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