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世界の真実 1

 扉を開けると、そこにはとある女の子が立っていた。トコマだ。トコマは白の着物を着ており、変わらない黒のおかっぱ頭であった。赤い和傘を正面で、まるで杖を地面に突き立てるかのように両手で持っている。


「おめでとう」トコマが言った。「将陽、君はこの世界の真理にたどり着いた。確かに現実においての出来事ではないのかもしれないが、これは非常に偉大で、革新的なことなんだ。言うなれば、世界で初めて、唯一、人知を越えたといっても過言ではない」

「ここはまだドルーフィムーリド内、そしてトコマの正体は漠、そういうことなんだな?」俺は言葉を選ぶように、ゆっくりと質問をした。


 トコマは頷きこれに答える。そしてさらに言葉を継ぐ。


「両親の死という将陽にとっては致命的過ぎた心的絶望、そして将陽に向けられた小田留の献身的な愛、この二つが真実への手助けをしたというのは否定できない。しかしそれでもなお、世界の真実にたどり着いた将陽は偉大であると言える。見てみろ」


 トコマは片方の腕を横に広げ、和傘を軸にクルリとその場を一周する。


「この世界の様相が、その証拠だ。将陽がこの限りなく現実に近いドルーフィムーリドにおいて、ここは現実ではないと、百パーセント心で信じた。だから世界は崩壊を始めたんだ。本当に、ここが現実でなくてよかったよ」


 俺は小田留と共に二歩、トコマの方へと近づいた。


「俺と小田留はこれからこのドルーフィムーリドにおけるエクジットへと向かう」


 トコマは静かに頷く。

 俺はそんな彼女の顔を見ながら聞いた。


「トコマがここにきた目的は?」


 トコマはうつむき、どこか言いにくそうな表情を浮かべる。そしてその後に顔を上げると、思い切ったように言った。


「私は、謝りにきたんだ。将陽に、そして小田留に」

「謝る? じゃあトコマはもう俺たちにとっての敵じゃない、そういうことでいいんだな?」

「そういうことで、いい」

「じゃあ話してくれるのか? 説明してくれるのか? 何を起こしたのか。何が目的だったのか。あらかた全てを」

「もちろん全て話す。贖罪の意味合いも込めて」


 そう言うとトコマは、すっとどこか彼方を指さす。


「エクジットへ向かいながらでいいか? 私が案内する」

「いや、俺が連れて行ってやるよ。場所は分かってるんだ」

「分かってる? なぜ?」

「約束しただろ? 海に連れて行ってやるって。俺は約束を絶対にやぶらない」


 トコマは一瞬驚いたような顔をする。そして小さく笑みを浮かべた。


「君は本当に、優しいんだな」

「ですが」ここで小田留が小首を傾げながら言った。「海ってどうやって行けばいいんでしょうか。これでは電車などは動いていないだろうし、なぜか人っ子一人見当たりませんし」

「この自転車でいいだろ。頑張れば三人ぐらい乗れる」トコマは玄関脇に置いてあった龍之介の自転車を示し、パンパンと二度サドルを叩いた。「ここは現実じゃないんだから、例え三人乗りしたところで誰も咎めない」

「自転車じゃなくても、多分今の俺なら空も飛べるぜ」俺は玄関から出ると自転車を見ながら言った。

「わ、私はだね、高い所が苦手なんだっ!」膨れっ面をしたトコマが、俺の意見を否定した。


 結局は俺が自転車をこぎ、海へと、エクジットへと向かうことになった。

 後ろの荷台に小田留が座り、一番小さいトコマが前のカゴに尻から座るという格好だ。

 俺はイメージした。この自転車はバイクであると。するとペダルがグルグルと自動的に回り始め、原付並みのスピードで走り出した。

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