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世界の果てへ 11

「トコマ!!」


 叫び、駆け寄ろうと足を踏み出す。しかしそんな俺の行動を、小田留は手を取り引き止めた。


「いきましょう! 出口は、もうすぐそこですから!」

「駄目だ! トコマを、トコマをおいてはゆけない! このままじゃあいつ、死んじまう!」

「彼女は大丈夫です! 彼女はおいていっても、大丈夫ですから!」


 小田留は腕をグイグイ引きながら訴えかけるような表情を向ける。


「大丈夫じゃないだろ! トコマは俺たちの大切な仲間だろ!」

「獏に近づけば、きっと将陽だってやられてしまいます。トコマは私たちを助けるために戦っているんですよ? それなのに将陽がトコマを助けるために死んでしまっては、彼女はきっと報われないです」


 俺は振り向き、呆然と小田留の顔を見た。そこには心配そうに俺を見つめる、いつも通りの優しい小田留の顔があった。

 その言葉を小田留自身の口から聞くことになるとは、なんて皮肉なんだ、と俺は心の中で呟く。

 突然、突風のようなものを感じた。俺はすかさずトコマたちの方に顔を向ける。

 獏が空高くに飛び上がっていた。

 天に掲げた右手には光る玉のような物が輝いている。

 その玉は電気がショートしたかのようなバチバチという音を発しており、白く眩しく光っていた。


「トコマ!! 逃げろ!!」俺は叫んだ。


 ほぼ同時に、獏は思いっきり振りかぶり、トコマに向かって光る玉を投げた。

 トコマは上空斜め上から飛んでくるその光の玉を避けるため、前方に飛び出し走り出した。

 だがしかし、残念ながら獏の方が一枚上手であった。

 獏はその光の玉がトコマの頭上を通過する辺りで指をパチンと鳴らした。その瞬間に光の玉は、そのどうにか保てていたであろう均衡を崩し、物凄い爆発を起こした。

 爆発により生じた岩の破片は刃となりトコマを外側から損傷。爆風は衝撃波となり彼女を内側から破壊。傷だらけになったトコマは石畳の地面に叩きつけられ、ゴロゴロと何度か転がった。

 トコマはなんとか上体を起こすが立ち上がることはできない。そのまま力なく地面へとへたり込み、ぜいぜいと苦しそうな息を漏らす。

 そんなトコマに獏は近づき、目前で俯瞰。悠然と口を開いた。


「決して勝てない。お前は我に。決して覆らない。確かなる力の差。勢いや意地では」


 獏はトコマの髪をつかむとそのまま上に持ち上げた。

 トコマは悲痛に満ちた表情を浮かべ、獏の手をつかんだ。


「マスターじゃない。お前は。故に、問題ではない。ここで殺してしまっても。我にとっては」


 これを聞いた俺は、「お前舐めてんじゃねーぞ!! トコマを殺させるわけねーだろ!!」と言い、走り出そうとする。

 しかしそんな俺に対しトコマは叫ぶ。


「くるな! 将陽! 行け! 走れ! 小田留を連れて、エクジットへ走れ!」


 俺はとっさに足を止め、小田留の方に振り向く。彼女は不安そうな表情で俺を見つめ、こちらに対し腕を伸ばしている。


「無駄だ。殺してやる。あいつもすぐに。お前を殺してから」


 獏が淡々と言う。声に抑揚がないため、どのような感情をもってして言われたものなのかは分からない。

 この時、トコマの全身から力が抜けた。それから彼女は表情を和らげ、獏に対し次のような質問をした。


「獏よ、君には名前があるのか?」

「ない。名前など」

「そうか……」トコマは一瞬うつむき、そして今一度顔を上げる。「長年絵十清水でナビゲーターをしてきたが、君みたいに圧倒的な獏は初めてだったよ。人の夢でこれほどまでの世界を構築できるなんて、正直思わなかった。素直に凄いと思うし、尊敬に値するといってもいいだろう」


 獏はこれに対し軽く首をひねった。もしかしたらトコマの賛辞に対する反応であったのかもしれない。

 トコマは小さく震える手で獏の頭を両側から持つと、自分の顔の方へと引き寄せた。顔と顔の距離はかなり近い。

 そして彼女は仮面と思われる山羊の頭蓋骨の黒く沈んだ双眸に対し、力なき視線を注ぐ。


「たくさん会ってきた獏の中で、間違いなく君がトップだったよ。私の負けだ。君の勝ちだ」


 言い終えた次の瞬間であった――。


 一本の刀がトコマを、


 そしてトコマを通し獏を、


 貫いたのだ。

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