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世界の果てへ 3

 目覚めると、まず初めに目に飛び込んできたのは一面の青い空だ。そしてどこまでも果てしなく続く真っ白な雲海。頭上に眩しく太陽が輝いていたため、目が慣れるまではしばらく、俺は薄目のままじっとたえなければならなかった。

 目が光に慣れ、まわりの光景が見られるようになった頃、ここで初めてトコマが、俺の膝を枕に、もたれかかるように眠っていることに気付いた。確かに座席は硬く、後ろに倒すこともままならないが、いくらなんでも無防備過ぎるだろ、と俺は思った。

 携帯電話を取り出し時間を確認すると、時刻は午前十一時三十分であった。眠ったのが五時ぐらいだったので、大体六時間半ほど眠っていたことになる。

 俺の動作のせいか、トコマがもぞもぞと身じろぎをして目を覚ました。俺はそんなトコマに目覚めの典型的な挨拶をする。


「おはよう。よく眠れたか?」

「うむ。将陽はどうだ?」

「悪夢を見たけど、睡眠は取れたよ。夢の中で夢を見るってのも、また可笑しなもんだな」

「安心しろ。私なんか夢の中で夢を見て、その夢の中で夢を見たことさえある。そして目覚めた現実が一番夢であってほしいと思ったのは、ここだけの話だ」


 ふとトコマの顔を見ると、昨日ついたであろう血痕がまだ残っていた。俺はウェットティッシュを取り出し優しく拭いてやる。その間トコマは黙って目を閉じ、されるがままにしていた。そして拭き終わるとやはりこの台詞である。


「将陽よ、やっぱり君はお節介だな」

「おうよ、俺はやっぱりお節介だぜ」俺はドヤ顔でそう言った。


 トコマは手で目を軽く擦ると、またもや俺の膝を枕にもたれかかってくる。そして細めた目でチラリとこちらを見ると聞いた。


「将陽よ。私はしばらくこうしていても大丈夫だろうか? 君の膝は、どうも私の首に合っているようだ。とても心地がいい」

「ああ、俺は別に問題ないけど」

「まあ、それに、寒いしな」

「俺は別に大丈夫だけど」

「馬鹿たれ。私が、だ」


 俺は床にずり落ちた毛布を腕を伸ばして取ると、トコマにかけてやった。


「ところで、もう高いのは大丈夫なのか?」


 ペットボトルの蓋をあけ、トコマに渡しながら聞く。


「ああ、下を見なければな。高低差を感じなければ、とりあえずはたえられる」


 トコマは俺からペットボトルを受け取ると、軽く上体を起こし、ちびちびと飲んだ。風がトコマの髪を揺らすたびに、初秋の軒先に漂う金木犀のような香りが、かすかではあるが流れてきた。

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