世界の果てへ 2
ひと時の休息が訪れ、心に余裕が生まれたのか、とたんに空腹を感じた。俺はトコマを起こさないように袋の中を漁り、ビニールに包まれたBLTサンドを取り出す。
サンドイッチを食べ終え、やかましいエンジンの音にも慣れた頃、俺は遠方に飛行する二つの何かを視認する。それは大きな翼を優雅に羽ばたかせる白い鳥であった。鳥は雲海の表面ギリギリの所をかすめるように飛んでおり、その様はどことなく雅やかな風格があった。
鳥たちはしばらく飛行機と平行するように飛んでいたが、徐々に南の方へと逸れてゆき、ある地点で雲に埋もれ見えなくなった。
――とある夢を見た。
暗く陰鬱な部屋に俺は一人うずくまっている。
部屋には物という物はほとんどなく、生活に必要と思われる家具が数点あるだけだ。
部屋全体はがらんとしており淡白であるが、なぜか空気はそれに反比例し陰湿な重みがあった。俺はそんな部屋の空気を吸うと、胃がムカムカし、大きな声をあげたいという衝動に駆られた。
ベッドに座ったり、目的なく部屋の中をぐるぐると歩き回ったり、簡素な木のドアを手のひらではたくように閉めたりと、しばらくはわけの分からない行動を取る。だがそれから間もなくして、この部屋に蔓延るこの陰湿な空気、陰鬱な雰囲気が、自身の体から、自身の心から発生しているのだと気付いた。
ここから出なければと思う。しかしその思いとは裏腹に出ることができない。出方が分からない。方法を見つけられない。
俺は否応なく元の場所へ、ベッドの上へと踵を返す。
ふと窓の方に視線を送ると、カーテンの一部がフックからはずれており、そこから一筋の光がまるで光線のようにさし込んでいた。光線は空気中の埃を映し出し、終着点として質素な木の床に、五十センチほどの儚い線を引いている。
空中を漂う、それら日の光をちらちらと反射する埃を、俺は濁った目でただただ見つめ続けた。ずっと見ていると、次第にそれらは腐った沼に漂う微生物のように見えてきた。俺は精神が喪失するような感覚にとらわれる。この部屋と腐った沼の違いが分からなくなり、死人と自分との違いが分からなくなった。
俺は今どこにいるのだろう?
どうしてこの場所にいるのだろう?
どうしてこの場所にい続けなければならないのだろう?
どうして……どうして……どうして……。
俺はゆっくりと静かに、幾らか水分を含み過ぎた息をはくと、しみ一つない真っ白な壁を見つめた。




