表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/59

世界の果てへ 2

 ひと時の休息が訪れ、心に余裕が生まれたのか、とたんに空腹を感じた。俺はトコマを起こさないように袋の中を漁り、ビニールに包まれたBLTサンドを取り出す。

 サンドイッチを食べ終え、やかましいエンジンの音にも慣れた頃、俺は遠方に飛行する二つの何かを視認する。それは大きな翼を優雅に羽ばたかせる白い鳥であった。鳥は雲海の表面ギリギリの所をかすめるように飛んでおり、その様はどことなく雅やかな風格があった。

 鳥たちはしばらく飛行機と平行するように飛んでいたが、徐々に南の方へと逸れてゆき、ある地点で雲に埋もれ見えなくなった。


 ――とある夢を見た。

 暗く陰鬱な部屋に俺は一人うずくまっている。

 部屋には物という物はほとんどなく、生活に必要と思われる家具が数点あるだけだ。

 部屋全体はがらんとしており淡白であるが、なぜか空気はそれに反比例し陰湿な重みがあった。俺はそんな部屋の空気を吸うと、胃がムカムカし、大きな声をあげたいという衝動に駆られた。

 ベッドに座ったり、目的なく部屋の中をぐるぐると歩き回ったり、簡素な木のドアを手のひらではたくように閉めたりと、しばらくはわけの分からない行動を取る。だがそれから間もなくして、この部屋に蔓延るこの陰湿な空気、陰鬱な雰囲気が、自身の体から、自身の心から発生しているのだと気付いた。

 ここから出なければと思う。しかしその思いとは裏腹に出ることができない。出方が分からない。方法を見つけられない。

 俺は否応なく元の場所へ、ベッドの上へと踵を返す。

 ふと窓の方に視線を送ると、カーテンの一部がフックからはずれており、そこから一筋の光がまるで光線のようにさし込んでいた。光線は空気中の埃を映し出し、終着点として質素な木の床に、五十センチほどの儚い線を引いている。

 空中を漂う、それら日の光をちらちらと反射する埃を、俺は濁った目でただただ見つめ続けた。ずっと見ていると、次第にそれらは腐った沼に漂う微生物のように見えてきた。俺は精神が喪失するような感覚にとらわれる。この部屋と腐った沼の違いが分からなくなり、死人と自分との違いが分からなくなった。


 俺は今どこにいるのだろう?


 どうしてこの場所にいるのだろう?


 どうしてこの場所にい続けなければならないのだろう?


 どうして……どうして……どうして……。


 俺はゆっくりと静かに、幾らか水分を含み過ぎた息をはくと、しみ一つない真っ白な壁を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ