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パノプティコン突入作戦 4

 左右にあった高い防護壁が低くなったため、視界が一気に開けた。左斜め前方にはとりあえずの目的地、パノプティコン刑務所だ。月の光を浴び、闇の中に浮かび上がるその姿は、とても幻想的であった。

 刑務所はこの世界でいう『1階』部分が屋上になっているため、まるで地上のような様相を呈していた。形は五芒星であり、外周には高い、三十メートルはあるのではないかと思われるコンクリートの壁がそびえている。壁から建物までの間には広い空白地帯が見受けられるが、おそらくは脱獄防止の意味合いもあるのだろう。

 周囲に建物がないことからも、龍之介の言った通り絶壁により隔絶された陸の孤島のような状態になっている。外界との繋がりは、ちょうど星の尖った先端部分から外界に向かってのびている三つの大きな橋だ。

 まだ全体を見渡せるこの地点で、俺は一番大きい正面入り口へと向かう道を確認した。どうやらこの道はパノプティコン刑務所に向かう専用道路らしく、このまま道なりに進めば正面の方へと回れるようだ。


 ――『直ちに停車せよ』


 けたたましい音声と共に、眩しい光が俺たちを照らした。周囲にはバタバタと、ヘリのローター音が響いている。

 突然の出来事に、俺は何が起きたのかを即座に理解できなかった。


『繰り返す。直ちに停車せよ。車両を道路脇に寄せて停車し、我々の指示に従え』


 トコマは一度運転席から外に出ると、手すりから乗り出すように後方を確認した。


「ヘリだ! ヘリが二機、追ってきてる!!」

『ここはマザーコンピュータが管理する指定車両専用道路である。直ちに停車せよ』ヘリからの警告は続く。

「――ちょ、ナビ、後ろの様子確認したいんだけど! 後方にカメラとかってついてる?!」俺は車に話しかける。

『バックモニターを出力します』


 するとフロントガラスに映っていた地図がコーナーワイプとなり、空いたスペースに現在の後方の映像が投影された。

 トコマの言った通りそこには二機の黒いヘリが飛んでいた。しかしその形は現実世界の物とはかなり違った。まるで滞空飛行するスズメバチだ。ちょうどお尻の針の部分にガトリングがついており、頭の部分が操縦席といった感じだ。ただし操縦席と思しき部分は黒い頑丈そうな素材で覆われている。もしかしたら中核となるコンピュータが入っているのかもしれない。無人なのだろう、人が乗っている気配はなく、時折警告を促すかのごとく要所要所が仄かに赤く点滅する。


「どういうこと?! Mコンサードが停止したら警備無効化されるんじゃないの?! 飛行機飛ばないんじゃないの?!」

「おそらくは、緊急時の自家発電装置かなにかがあるのだろう」

「それってやば過ぎでしょ! トコマは何でそんなに冷静なんだよ??」

「よく考えてみろ。停電は起きた。つまり海水は発電所に到達した。それから既に十数分が経過している。Mコンサードも発電所同様太平洋岸にあるんだ。つまり高低差に多少の誤差はあるにせよ、海水がMコンサードを飲み込むのも時間の問題だ。そうなれば自家発電に関係なく、Mコンサードの機能はダウンする」

「じゃああのヘリも、あと数分で機能停止するってことか?!」


 トコマは俺の質問には答えず、「私が時間を稼ぐ」と言い残し、和傘銃を手に再び手すりの方へと飛び出した。

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