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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
24章 そこに願いがあるのなら――4度目も勇者になるしかない

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第348話 闇にあってこそ闇を照らせ、真に黒曜の勇者たれ!



 ――俺は、闇の中に倒れていた。

 どこまでも暗く、果ての無い……闇の中に。



 目は開いている……はずなんだが、まるで何も見えやしない。



 ついでに言えば、ひどく寒かった。

 身体の感覚もほとんど無いのに、ただひたすらに、寒い。


 クソ暑い真夏だってのに……凍えそうなぐらいに。



「……ま、だ……だっ……!」



 そんな中でも唯一、わずかながら残っている……手の感覚。

 それに縋るように、俺は――。


 目に見えずとも、その手に土を、草を掴み、引っ張って……。



 あるかどうかも分からない、でも重さだけは感じる自分の身体を……何とかして、引き上げようとする。

 踏ん張って、立ち上がろうとする。



 だけど、当然のように、上手くいかず……。

 俺は何度も何度も、土を草を、むなしく引っ掻くだけに終わる。


 そしてそれだけで……ただでさえツラい呼吸が、ますますツラくなる。

 今にも止まりそうなぐらいに……息が、詰まる。



「……ま、だ……っ……!」


『……もう、諦めてはどうだ……?』



 なおも愚直に、手になけなしの力を込めようとしたところで……誰かの声が聞こえた。


 いや、これは……俺の頭に、直接響いてる――のか?



『……そうだ、諦めてしまえば良いではないか……?』



 たった一人のような、何人もの声が重なっているような――さらに男とも女ともつかない『声』が、そう囁きかけてくる。



(…………そうか、お前か…………)



 瞬間――俺はその『声』の主が何者かを理解した。

 声質から……とかじゃなく、感覚的に。


 ……この間から聞こえてはいたが、ここまではっきりと意思の疎通を図ってくるのは初めてだな――。



(……なあ? 〈クローリヒト変身セット〉さんよ……?)



 俺の心の中での問いかけに……さざめくような笑い声が応じた。


 ……やっぱり、間違いないらしい。



(……で、なんだって? 諦めろ、って?

 こうして、生死の境をさまようぐらいになっちまってるんだから……もうジタバタするのはやめて、大人しくお前らの仲間になれ――ってか?)



 続けてさらに、俺がそう尋ねると――。

 倒れた俺を包む、この果てない闇の中に……一つ、一つ、また一つ――と、いくつもの人影が浮かび上がり始めた。


 それは、はっきりとした姿は分からないが……男も女もいるようだ。



『……そうだ……。

 お前は、真の〈勇者〉になどなれず、このまま命を落とす……。

 我らと同じ……同じだ……』



 ――そう。


 この間、柿ノ宮(かきのみや)でエクサリオと戦ったとき、初めて、凛太郎(りんたろう)が言っていたコイツらの声に触れて――そのとき、感覚的に理解したこと。


 それは、この〈呪われた鎧〉に宿るのが……かつてアルタメアで、世界を救うべく〈勇者〉を目指し、そして、道半ばで倒れた者たちの――。


 行き場のない、無念の想い……その魂の集合体のようなもの、ということだ。


 ……で、どうやらコイツら、今にも死にそうな俺を、新たなメンバーとしてスカウトするつもりらしいが――。



(……悪ぃが、お断りだ。

 あいにくと、俺はまだ生きていて――。


 そして、生きている以上、やらなきゃならないことがあるからな……!


 お前らと仲良く死んでやれるほど、ヒマじゃねえんだよ――っ!)



 邪魔をするな、って意味も多分に含めて、心でそう言い放ち――。

 俺はまた、弱々しくも手に力を込めて……身体を起こそうとする。


 そうして、当然のように失敗しても――。

 それでももう一度、また一度と……愚直に。


 気を抜けば、コイツらの『声』が無くても意識が持っていかれそうになるのを……必死に、堪えながら。



『……やらねばならぬこと……。

 それは……かの〈勇者〉の後を追うことか……?』


(そうだよ……!

 俺はアイツを――(まもる)を、このまま行かせるわけにはいかないんだ……!

 だから、邪魔をするなって――)



『……では、なおさら……。

 我らと、一つになるのが良かろう……?』



 必死に抗う俺に――顔を近付け、その耳元で囁くようにして。

 響きは胸クソ悪いのに、妙に甘くも聞こえる……そんな『誘い』が、投げかけられる。



『……あの〈勇者〉が、認められぬのだろう?

 捨て置くわけには、ゆかぬのだろう……?

 このまま死ぬわけには、ゆかぬのだろう……?


 ならばこそ……我らと一つとなるがいい。


 そうすれば、我らがチカラを貸してやろう……。

 命の灯の消えかけたお前に、再び戦うチカラを与えてやろう……!』



 ……感覚なんて、ほとんどないが……。

 俺の口角が、わずかに持ち上がったことぐらいは……分かった。



(へえ……?

 そうすりゃ俺は、正真正銘の――〈魔剣士クローリヒト〉ってわけだ。

 もうお前らの〈呪い〉やら妨害やらを気にすることなく……。

 いや、それどころか、そのチカラを恩恵に得て戦うことが出来る――と)



『……その通り……。

 お前だけでは、かの者に敵わずとも……。

 我らと一つになり、そのチカラを得れば……勝てるやも、知れぬぞ……?

 倒せるやも、知れぬぞ……?』



(なるほど、ね……。

 あの衛を――エクサリオを倒すためには、か……)



「…………けん、な…………」



 もうムリかと思ってたけど……俺の喉は、まだ動いた。


 自然と、その想いをちゃんと声に出して吐き出していた。



「ふざけん、な……っ!

 ンな『強さ』なんて、な……! クソっくらえ、なんだよ……!


 ……俺はな、衛を――倒しに、行くんじゃ……ねえ……!


 〈世壊呪(セカイジュ)〉の亜里奈(ありな)を、守る、ためにも……!

 そして、アイツを……衛自身を、助ける、ため――守るため、にも……!


 ただ、止めに、行くんだ――ケンカに、行くんだ……!

 アイツの、過ち――そのものとな……!


 ……なのに、お前らの……その、歪んだ『強さ』を、受け入れ、たら……!

 意味が、ねえ……だろう、が――ッ!」



 ムダに声に出したことで、ますます息がツラくなった――けど。

 その分、俺自身の気合いは、鼓舞されたってもんだ……!



 そうだ、これは『ケンカ』の延長線上――!


 なら、一番大事なのは……気合いだろ……!



 負けた、って諦めなきゃ……負けにはならねえんだよ……!

 ムリって投げ出さなきゃ……まだ先はあるんだよ……ッ!



『……では……そのまま、死ぬか?

 それでも、我らは構わぬぞ……?

 お前が、我らと一つとなるのは……間違いない、からな……?』


「死なねえ、よ……俺は……ッ!」



 俺は、必死に、手で地面を突くと――。

 頭の中に響く、この『声』を消し飛ばす勢いで――ありったけの力で、吼える……!



「死ぬわけには……いかねえんだよ――ッ!

 俺が死ねば、アイツは……俺を手に掛けたことに、なっちまうだろう、が……ッ!


 そんなことには、しねえ……絶対に……!

 アイツを、後戻りの出来ないところまで……行かせる、わけには……いかねえ……っ!


 だから――立ち上がら、なきゃ……いけねえんだ、よ……っ!


 ――誰も、犠牲になんて……しない、ために――ッ!」



 身体は、依然として、ほとんど感覚がない。

 命がほとんど流れ出したみたいに……今にも凍り付きそうなほど、寒い。


 だが――俺はまだ、生きている。

 ツラい、苦しいって感じる程度には――生きている。



 そして、生きている以上は…………諦める、なんて道はない――!



「お前たちが、目指しても、なれなくて――そして、認めない、〈勇者〉……。

 ……あいにくだが、な……。

 ンなもん、は……俺だって、どうだっていいんだ、よ――っ!


 だけど、な……!


 誰かを、助けたい、守りたい、って……!

 お前らも、その『想い』で、〈勇者〉を……目指したんだろう、が……っ!


 なら――っ!

 グダグダウジウジと、くだらねえこと、言ってねえで……黙って、見てやがれ……っ!


 たとえ、お前らの、理想とする――〈勇者〉じゃなくとも……!


 俺が――答えを、見せてやる……ッ!

 お前らの中に、カケラでも残ってるだろう……『想い』の、その答えを――見せてやるッ!!!」



 声は――かすれていた。

 俺は言い切ったつもりだが、ほとんど声として形になってなかったかもしれない。


 だけど――俺は、その勢いで、腕を……立てた。

 ほんのわずかでも……この身体を、起こしてやった。



 そうだ…………!

 まだ、ここからだろ…………っ!



『………………。

 それが……お前の、意志、か…………』



 未だまともに見えない、闇ばかりの俺の視界……。

 その中に浮かんでいた、人影の一つが――冷たく言い放ち、俺のもとに近付いてくる。



「――――っ…………!」



 そうして――。

 思わず身体を強張らせた俺に、手を伸ばし――――。



「…………え?」



 そっと…………俺の身体を、支えた。



『……やはりだ。間違いはなかった――。

 私は、この者にこそ……〈勇者〉の輝きを見た。


 私がかつて、求め、憧れ、願った――真なる〈勇者〉の輝きを』



『そう、私もだ――。ああ、思い出した……!

 私は、〈勇者〉だから、なりたかったわけではないのだ――』



 続けて、また一人が……俺を支える。



『……ただ、助けたかった、守りたかった……。

 どうにもならないと諦めずに、手を伸ばし続けたかった――!』



『そうだ、私は――』


         『ああ、私は――』


 『私もだ――』


   『その想いこそが――』



 また一人、さらに一人、二人、三人と――やがて、すべての人影が。

 その、多くの手が……ぬくもりを感じる手が、次々に、俺を支えていく。


 そしてそのぬくもりは――じんわりと、俺の身体中に染み渡って……。



『ああ……我らは……我らの総意として、お前を認めた。

 お前にこそ、我らが求める、真なる〈勇者〉の魂を見た――。


 ゆえに、我らはお前に返そう――我らが奪ってきた、お前の命を。

 そして、我らはお前に託そう――我ら自身の、この魂を。


 ……さあ、立て――――我らが〈勇者〉よ……!


 お前のその、言葉の通りに……!

 我らが『想い』、その先の答えを、希望を……見せてくれ――っ!』



「!? これ、は……!」



 支えられた手の平から伝わっていたぬくもりは――やがて、焼け付きそうなほどの熱となって、俺の身体を駆け巡る。



 それは――〈生命〉そのものの熱だ。



 そしてその圧倒的な奔流は、今にも凍り付きそうだった俺を暖め……隅々まで、活力を与えてくる!

 消えかけていた〈生命〉が……溢れ返ってくる……!



「う……おおおおッ!!!」



 それに合わせて俺は、ヒザを突き、改めて自分のものだと実感出来た身体に、全身に力を込めて――気合いとともに立ち上がった。


 そうして、胸元に目を落とせば……。

 衛に貫かれたあのキズも、その痛みも、〈鎧〉が修復されていくのに合わせて消えていき……。


 いや、それだけじゃない――。


 これまで、この装備の〈呪い〉として、俺にいくつもの枷のようにまとわりついていた感覚までもが……すべて、消え去って。


 それどころか……。

 身体には、これまで以上の、さらなるチカラが漲っていて……!



 あの『声』の言った通りに――。

 多くの魂が、俺を、支えてくれているのが……分かった。



「……認めた――か……」



 俺は、視界の隅にあった、戦いの最中に衛に飛ばされ、落ちていた仮面を拾いあげ――けれど被り直さず、そのまま仕舞い込む。


 そして――視線を上げ。


 空、黒雲が渦を巻いている方向を真っ直ぐに見据えながら……胸元に。

 この〈鎧〉そのものに――そっと、手を当てた。



 心からの感謝と――そして、『覚悟』を以て。



「……ありがとうな。

 真なる〈勇者〉ってほどかどうかは、ともかく……。


 ああ、見せてやるさ――。

 誰をも犠牲にはしない、一番良い未来を――希望そのものを……!


 この俺が――必ず!」






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― 新着の感想 ―
[一言] 怒られるかもしれませんが、相手が強大ならば、私は汚れた力でも使っていきたい派です (;^_^A 上手く言えないんですけど、全ての力を結集しないと勝てないならやむを得ないだろうみたいな発想です…
[一言] 呪いの装備、実は親切設計……! いやーもともと、製作者あたりも、呪いとかにする気ではなく 『真の勇者以外は受け付けません』 的な意図だったかもしれませんねえ……。 志半ばでたおれた勇者たちも…
[良い点] 呪いの装備が裏返るとか、予想だにしなかったですが、ダークヒーローなままの見た目で真の勇者、という展開がこれまたカッコいいですね! というか、間咲さんが上手いこと言いすぎて、良い感想が思い…
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