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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
14章 そして幕を開ける、勇者にとって一番長い夏休み

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第189話 盗賊モードの魔王に、迫る黄金の勇者



 ――余は、さらに古書……〈巫女〉の護衛が記した『日記』を読み進めていた。



 恐らく歴史の表には出ていないだろう、その〈呪〉を祓う旅路の記録は、それ自体なかなかに興味深いものだが……。


 きっとこれは、仮に世に発表したところで、創作と断じられてしまうのであろうな。




 ……いや、今はそんなことを考えている場合ではないか。


 問題は、〈世壊呪(セカイジュ)〉についての情報がどの程度記されているか、だが……。




「……む……これか……?」




 終盤に差し掛かってようやく、ここ広隅(ひろすみ)の地の話とともに……〈大いなる呪〉についての言及がされ始めた。



 広隅の〈霊脈(れいみゃく)〉が特殊なもので、流れるチカラもまた大きいこと――。


 その〈霊脈〉が穢れることで、溜まった強い〈呪〉が、一つ処に流れ集うこと――。


 それがときに〈呪疫(ジュエキ)〉なる存在として現出し、世に害を為すこと――。



 そして――。



 〈霊脈〉の穢れが一つに集まり、やがて顕現する〈大いなる呪〉……。

 世を破壊せんばかりのチカラたるそれが、〈世壊呪〉と呼ばれること――。



 〈聖鈴(せいりん)の一族〉の〈巫女〉が、究極的にはそれを祓う役目を負っていることも――。




「つまり、やはりシルキーベルは……。

 その名からしても、〈聖鈴の一族〉とやらに連なる〈巫女〉ということか」




 しかし……実のところ、それはさして重要でもない。



 〈聖鈴の一族〉が何者であれ、そもそもシルキーベルがそうした役目を果たすべく行動しているのは、すでに明白な事実だからだ。


 加えて、〈霊脈〉と〈世壊呪〉についても、ほぼ、これまで分かったことの事実確認に近い。



 数百年前から、確かな事実として〈世壊呪〉が存在していたのだと、その裏付けが出来たと思えば決して無意味などではないのだが……。




「ふむ……やはり、こちらの役に立つ情報など、そう上手くは手に入らん――か……?」




 若干の落胆を覚えつつ、最終盤となる1ページをめくった……そこには。










     *     *     *




「……こっちで間違いないと思うんだけど……」



 ハイリアを探して、白城(しらき)さんに教えてもらった方に進むと……。


 予想通り、神社から見ても社務所から見ても、裏手にあたる場所に出た。



 さっきからハイリアのスマホに、一応、何度か電話したりメッセージを送ったりしてるんだけど……気付いてないのか電池切れか、反応はない。




 いや、それどころか……ハイリアどころか、辺りにはまるで人気がなくて。


 すぐ近くでお祭りをしているのがウソみたいに……本当に、静かだった。




 そこは境内でありながら、神社を囲む鎮守の森に飲み込まれかけているような場所で……いかにもな古木が、堂々と立ち並んでいる。



 ヘタにこれ以上進んだら、怒られそうだな……。



 なんて、ちょっとおっかなびっくりになりながら――僕はそんな場所で見つけた建物の方に足を向ける。



 どうもそれは――古い蔵、というか……。


 いや、神社だから……宝物殿?



 まあとにかく、そんな感じの建物みたいだ。



 どっちにしても、部外者がおいそれと入れるようなものでもないと思うけど……他には人のいそうな場所もないし――。




 まさかね、といぶかりながらも……。


 僕は、近付く足を速めた。









     *     *     *




 日記の巻末近くのページ、そこには――



 著者自身の手によるものか――簡素ながら絵図付きで。


 〈巫女〉が〈世壊呪〉に対して最後に行うものだという、〈祓いの儀〉とやらのことが書かれていた。



 そして、さらにページをめくれば――


 どうやら、〈世壊呪〉には、その証となる紋様が現れるらしく。

 その紋様の図柄までが――。




「……うむ……」




 まず、〈祓いの儀〉とやらが、この世界における一種の魔術式なのだとすれば……。


 それを解析し、参考にすることで、亜里奈(ありな)の中の〈世壊呪〉としてのチカラだけを消し去る――そんな術式を、新たに構築することが出来るやも知れん。



 そして〈世壊呪の証〉なるものも、その紋様に何らかの魔術的な意味があるようなら、それを解読すれば、先の術式構築の手助けになるはず――。




 ついに、有用な情報に行き着いた――それは喜ばしいこと、なのだが。




「………………」



 今、鏡を見れば……きっと余は、まさしく、苦虫を噛みつぶしたような顔をしていることだろう。




 ――〈祓いの儀〉の説明の一部と、〈世壊呪の証〉だという紋様のほぼすべて……。



 肝心要のそれらが描かれた部分が、ものの見事に焼けて失われていたからだ。




「……まさに、がっでむ……というやつだな」



 聖霊めが良く口にする一言が、思わずタメ息とともにこぼれる。



 しかしそれでも……これが重要な情報であるのは確かだ。



 何とか出来る限り読み解いてみれば――まず〈祓いの儀〉は、絵図を見る限り、今日の神楽にかなり流用されていることが分かる。


 特に最後、〈世壊呪〉をまるで天に送るかのように、両手を高々と掲げる動作などは、まさにここに描かれている通りだ。



 そして――〈世壊呪の証〉という紋様。



 それは、読み解くも何もあったものではない、ほんの一部分しか残っていなかったのだが――。




 余はその一部分を、思わず……。


 魅入られたようにしばし、時間を忘れて見つめてしまっていた。




「これは……。いや、まさかな……」




 その、ほんの僅かな一部分が。



 余の良く知る紋様と、酷似している――そんな気がしたゆえに。










     *     *     *




 ――宝物殿らしきものに近付けば……その扉には、大きな南京錠がかかっているのが見えてきた。



 ……まあ、それはそうか。


 中に収められているのが、本物の宝物か、ガラクタなのかは知らないけど……鍵がかかっているのは当たり前ってやつだ。



 じゃあやっぱり、ハイリアはここじゃないのか……。



 そんな、これもまた当たり前のことを考え――。



 でも、まさか――ってヘンな緊張感があったせいか、ついホッとした僕は……。


 こうして探してる間に、入れ違いにみんなのところに戻ったのかと、確認するのにスマホを取り出して。



 ――はたと、動きを止める。




 今、確かに……。うん、間違いない。


 宝物殿の中で、何かが動く気配があった……!




「…………」



 それを知覚して、改めてそろりと入り口の側まで近付いてみれば――。



 扉の南京錠は……。

 ただ、引っ掛けられているだけだった。



 つまりは――錠が下りてない。


 鍵が、かかってない……!




 ……まさか……。

 まさか本当にハイリアが、この中に……?




 あまりよろしくない想像が、そんなはずは……と打ち消そうとも、微かに脳裏を過ぎる。



 ……けど、どうする……?




 ――ひと思いに、扉を開けるかどうか。




 そんなわずかな躊躇いのあと、とっさに――


 こうすればはっきりするかもと、手の中のスマホで、ハイリアに電話をかければ――。




 ――ピリリリリリッ!




「――――っ!」




 すぐ近くで、電子音が鳴り響き……同時に。



 宝物殿の扉が、内側から開かれて――!




「……おや? 君は……」


「――え……?」




 扉の奥の暗がりから……。


 怪訝そうな表情をした、宮司のお爺さんが――姿を現した。



「……どうした(まもる)――と、なんだ、こんな近くにいたのか?」



 そして、続けて……。


 宝物殿の横手の陰からは、スマホを耳に当てたハイリアも。



「えっ……?

 宮司さんに、ハイリア……こんなところで何を……?」



 思わず口を突いて出た、僕のそんな間の抜けた問いかけに……。



「うん? 私は、祭事の道具を取りに来ただけだが……」



「余は……神社というものが珍しくてな。

 夢中になって散策しているうちに、この先の方まで行ってしまっていた。

 さすがに奥まで立ち入りすぎたかと、戻ってきたのだが――」



 宮司さんに続いて答えたハイリアが、すまん、と苦笑混じりに謝りながら……。


 僕からの着信履歴が表示された、スマホの画面を見せてくる。



「つい先程、これに気が付いてな。

 折り返して連絡しようとしたところに……今のお前の電話だ」



「――はあ……そっか。

 まあ、何にせよ良かったよ――見つけられて」



 キミが泥棒なんかしてなくて――という、もう一つの『良かった』は呑み込んで。


 僕はハイリアに、そろそろ次の神楽が始まるからと、捜していたことを告げる。



「……む。それは……手間を掛けたな」


「もう、ホントにね。

 これで、もっと奥の方にまで迷い込んでたりしたら、危なかったよ……。

 次の神楽に間に合わないところだ」



「うむ……そうだな。

 まったくもって本当に――危ないところ、だった」




 そして――。



 僕とハイリアは、揃って、お騒がせしたことを宮司さんに詫びて――。




 足早に……どころかダッシュで、みんなのところへと戻るのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] ふう、危ないところだったぜ…… まんまとちょっとハラハラしちゃいました! 南京錠とかスマホの着信音とか、小道具の使い方が上手いです!! 基本的に心情描写しかしない私は、見習うべきですね!(←…
[良い点] 緊張感が伝わってきて素敵です☆彡 >――そんな気がしたゆえに。 おお!? 伏線ってやつですね!? もちろん気になりますとも ( ˘ω˘)
[一言] ふううううう!!! 手に汗握りましたよ!! ステルスゲームをやってるような感覚になりました!! ……いや、とか言っときながら、あまり私はステルスゲームはやったことないんですけど(←)。 三國…
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