*ある日の平折 にゃーん②
以前、第81話 第3章-どうしたらいい?『*凛の想いの向かう先』 の後書きに書いていたssをベースにして書いたものです。
ある日、学校から帰ってきた平折は、自分の部屋の鏡を前に唸っていた。
「うぅぅ~……」
鏡の前に映るその姿は、いつもと違って左右に三つ編みのおさげにされている。
それは小柄な平折にとても良く似合ってはいたのだが、当の本人はどこか納得いかない様子である。
「んっ!」
ふんす、と鼻息を荒く気合を入れた平折は、三つ編みをほどき、今度は左右で結い上げツインテールにしていく。
それも小柄な平折にとても良く似合ってはいたのだが、当の本人はどこか納得いかない様子である。
しばらく鏡とにらめっこをしたかと思うと、今度はため息を吐いた。
(こ、子供っぽい……)
それは密かに平折が気にしていることでもあった。
同年代の女子に比べ、平折は背も小さく華奢だ。胸も……AAランクという貧乳界の猛者でもある。
自分が周囲に比べ、普段おどおどしている性格も相まって、どちらかと言えば幼く見られてしまうのがコンプレックスだった。
なによりこの容姿のせいで、3カ月しか違わない同級生の義兄に、まるで年下の様に扱われている気がしてならない。
もっと堂々と隣に並びたい――だが幼少期よりずっと牛乳の裏切りにもあっている。大豆製品にも望みを託してはいるが、状況は芳しくない。
背や胸に反映されないのみならず、乳脂肪分が皮下に余力を蓄えようと、下腹をぽっこりさせてくる油断のならない奴でもあるのだ。
せめて髪型でも……と思い、ポニーテールやハーフアップも試してみるも、背伸びしている子供の様にも見えてしまった。
いっそ子供っぽい髪型をすれば逆に大人可愛くなるのでは……と思って試していた平折であったのだが、牛乳の様に裏切られた結果であった。
「むぅ~……」
涙目になった平折は、かつて昴の部屋で見つけた紳士御用達の本を取り出す。
『女子大生家庭教師のイケナイ個人授業』
表紙には黒髪ストレートのお姉さんぽいキャラが描かれている。
……今の平折と似たような髪型だと思う。
もしかしたら、この本の中には、大人っぽく見える仕草とか描かれているかも……
そう思った平折は、初めてその中身を開いて読んでみた。
「……っ?! にゃああああぁあぁっ!!!!」
中身もまだまだお子様だった平折は、その過激な内容に(紳士本的にはソフトなのだが)驚いて声を上げてしまった。
正直、昨今の少女漫画でもそう言った表現はされているのだが、平折は漫画よりもゲームにのめり込んできたクチなので、こういう方面に耐性がなかった。
「にゃっにゃっにゃっ……」
こんなのイケナイ、と思いつつも、読み進める指が止まらない。
自分の口から変な声が漏れているが、気にする余裕も無い。
めくるめくイケナイ展開がなされる官能の世界に、思考がどっぷりと埋没していく。
(お、女の子の方からそんなっ?!)
平折はあり得ない、と思いつつも、でもこれは漫画の中の話だからと、それはそれと割り切って読みふけっていく。お姉さんから攻めていったハズなのに、話数が進むにつれ、いつのまにか攻守交替してしまった時には、興奮から感極まり「に゛ゃ-っ!」とひと際大きな声を上げてしまった。
そんな時だった。
「……平折?」
「~~~~っ?!?!」
ドアを叩かれ声を掛けられる。
平折にとってそれは、完全に不意打ちだ。
どたばたがっしゃん、慌てた平折は鏡や紳士本を床に落としてしまい、それを慌ててベッドの下へと隠す。心臓は未だに高鳴ったままで、顔も凄く赤くなっている自覚もある。
「さっきから猫の声が……あと、夕飯作ったけど、どうする?」
「……た、食べる」
「あと顔赤いけど、風邪か?」
「ち、違っ……」
その日は夕飯の時は、羞恥でずっと顔が赤くなっていた平折だったが、昴にはいつもの事と流されてもいた。












