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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-血戦編
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六十三話 一つの終わり

「はぁ―――っはっはっはっはっはっは―――!」


「はははは―――ひ、は、はははははぁ―――!」


 笑いながら殴る。たったそれだけなのに、それは破壊的を超えて怪物的だと表現する事しか出来ない死の塊だった。殺す為に前に出る王国の国王であるアルガンの動きは早い。踏み込んだ、そう理解できる瞬間には懐へと到達し、神速の拳が正面から打ち砕く為に振るわれる。理解する必要もなく、アルガンの拳には必殺級の破壊力が込められている。拳を防御をしようと思えば、その瞬間に粉砕されてしまう。そういう技術と極限の身体能力が備わっている。王国における最強の肉体、そして最強の戦士。その拳に触れて生存出来る人類は存在しない。


 ―――それを正面から帝国皇帝ゼファイルは受けた。


 それも受け流す様にではなく、顔面で。


 ばかだ。馬鹿の所業だ。破壊神の一撃を受けて生存できるとでも思っているのだろうか―――否、生存できる。そうとしか考えていないから実行した。成功した。そしてやり遂げた。能力が上昇しても生物としての強度が上昇する訳でもない。それでも、ゼファイルは理不尽を起こした。一撃必殺の拳に耐えるという理不尽に。そこに一体どれぐらいの技術が、魔術が、スキルが込められているなんて人には測れない。ただ一つの結果として、ゼファィルは笑みを浮かべ、笑い声を響かせながら耐え、


 そして同じく必殺拳でアルガンを殴り返した。これもまた受ければ必殺は確定してしまう頂点の拳。アルガンも、そしてゼファイル人類という種族で見るなら、頂点に君臨している最強の存在である事は言うまでもない。下手な動き、余計なアクションを入れれば逆に戦闘が膠着し、殺すのに時間がかかる。ではどうするのか―――話は剣聖が剣を振るうのと一緒だ。正面から殴り倒す。それだけの話だ。


「はぁーっはっははっはっはぁ―――!!」


「ひひひ、はははは―――あーっはっは!」


 笑い声を響かせながら再びアルガンとゼファイルの拳が同時に決まる。互いに放った全力の拳は互いの肉体へと衝突し―――相手を砕く前に拳を砕く。血だらけになって血の軌跡を描く拳を更に握り締め、再生しながら両者は振るう。そうやって互いを殺す為に攻撃を放ち、その肉体を殺して行く。特別な大魔導なんてものは一つもなく、純粋に肉体と拳と根性任せの一騎打ち。


「―――」


 それにカリウスが介入を果たそうとする。既にカリウスは致命傷を受けており、戦闘の続行は死を意味する。だがそれ以上にこのまま戦い続ければ間違いなく自分の王が死ぬと、それを本能的に、予知染みた勘で理解してしまったからだ。自身の命と引き換えであれば流れを変えられるかもしれない。そう思いカリウスが動き出した瞬間、


 別の影がカリウスを殺す動きで背後から奇襲を仕掛ける。即座に反応したカリウスが殺し返す為に動き、


「一対一とか甘いんじゃぼけぇぇぇ!! ぎゃははははは―――!!」


 煙管を口に加えた竜仙人がカリウスの拳を受け流し、そして失血と致命傷の影響で鈍ったその体、心臓を拳で押し抜き、もう片手で首を折る。そうやってカリウスを完全に殺害に成功する。流れは決まった。もはやだれにも崖を落ちてゆく流れを変える事ができない。


「―――ははは、私の死神は―――」


「ちげぇなぁ! お前の死神はそこのガキ共だよ! そのガキ共が血路を開いたから、絶対の死中に活を見出す事を諦めなかったから、だからこそ今という結果と未来が待ち受けているんだよ。俺達はそれに便乗しただけでしかねぇ。利用しただけでしかねぇ。漁夫の利を頂きに来ただけだ。だから褒めるならガキ共にしな―――俺はその致命傷にトドメを叩き込みに来ているだけだからなぁ―――!!」


 宣言と同時に拳がゼファイルを穿ち、その衝撃が体を抜けて行く。吐血しながら笑い声をゼファイルは響かせる。


「私の―――私の努力は無駄ではなかったのか―――!」


「うるせぇ! 知った事か! 娘が嫁に行けなくなったらどうすんだよ! 死ね!」


 拳と拳が交差し、肉を穿つ。その力はアルガンの方が強い―――カリウスの懸念した通り、フォウル達との戦いが致命傷だった。余裕と表現しても良い戦闘だったが、それでも少なからず損耗が発生する。疲れているからこそ力を発揮できる、なんて都合の良い事はない。同じ究極のレベルに立っている者同士が戦った場合、より余力を残していた者の方が勝利する。それはシンプルなだけに絶対の法則で、互いに拳をよけようともせず、叩き込みあうこの戦いにおいては勝者は決まっているのも同然だった。竜仙人が参加するまでもない。


 ―――死者は決まっていた。


 度重なる拳撃でアルガンもゼファイルも、その体は自分の拳が砕けて溢れた血と、相手の肉を砕いて得た返り血で赤くなって行く。それでも回転率はアルガンの方が高くなり、そして砕けて行くのもゼファイルに傾いて行く。死の加速は止まらない。顔面へと叩きつけられた拳はその後、胸へ、肩へ、心臓へ、ベアナックルが叩き込まれる。それでも、血に濡れて行きながらゼファイルは笑う。それは敗北の中でありながら、勝利を謳う様に。


「間違っていない、私は間違ってはいなかった! 最後の最後だからこそ証明された! 人は、僅かな希望と幸福で生きられるのだと! その先を目指せるのだ! 希望を引き寄せる力を持っているのだと!」


「虚しい叫びだな。死ねば終わりだろうに」


 ゼファイルの言葉を終焉させるようにアルガンの拳がゼファイルの体を―――心臓を貫いた。大量に吐血しながら唇を音もなく動かし、全ての生命を祝福しながらゼファイルは死んだ。ゆっくりと拳を心臓から引き抜くと、その死体が倒れて行く。そうやって倒れ、死んだゼファイルの肉へと竜仙人―――グラウが近づき、死亡を確認する。首に、胸に、頭に触り、霊視を行い―――そして虚空を砕く様に拳を振るう。


「ほんじゃ大将、魂砕いたでよ。肉も心も魂も死んでらぁに、完全に帝国皇帝様も終わりっチュー話でよ。おめでとう大将、んでおめでとう坊主、帝国は本日でおしまいだぁ―――! ぎゃーっはっはっはっはっは! はぁ、まさか帝国の終わりを身近で見れるたぁ思わなかったでよ、いいもん見せてもろぉたわ」


「魂まで砕いたって事は反魂も魂使役も警戒しなくていいな。後は肉体をアンデッド化されない様に、利用されない様に完全にすり潰して浄化埋葬すれば完璧だな。やっぱ爺さん連れてくると後の処理が楽でいいわ」


「便利ってだけで俺ぁを連れだすのも大将だけじゃのぅ。全く馬鹿みてぇな王国男児よ!」


「実際便利だし―――っと忘れてた。おう、無事か」


 アルガンが振り返りながら視線を向けるのはレジスタンスで唯一意識が残っているエドガーの姿だ。その視線に一瞬だけビク、っと反応してしまうが、いましがた父を殺した怪物が目の前にいると知れば、誰でもそう反応するものだろう。でもそれ以上恐れる事もなく、エドガーは素早く考え、そして胸を張り、軽くだけだが頭を下げる。


「―――皇帝の打倒にご協力頂き誠にありがとうございました、国王陛下。救援がなければ間違いなくこの場にいる私を含めた全員、助かる事はなかったでしょう」


 いいのいいの、とアルガンが砕けた手を振りながら返答する。


「元々帝都内に”草”を放ってたし、近いうちに勝負があるのだろうからそれに便乗するって計画は立ててたし、こっちもこっちで利益があるから行動をとったってだけだよ。ま、多少他にも心配があったわけだが……それに関して話すのは野暮ってもんか。とりあえず、お前が今、この城にいる最高権力者である事で間違いないな?」


「えぇ、私がおそらく、この城で生き残っている最高権力者です」


 アルガンとエドガーが視線を合わせ、アルガンが笑みを浮かべる。


「帝国頂戴」


「無理です」


 アルガンの言葉にエドガーは正面から、勇気を込めて無理だと答えた。今、この場で一番強い力を持っている存在が誰であるかを語る必要はない。それをエドガーも理解している。それでも無理だ、とエドガーは答えた。反骨心から来るものではなく、エドガーは力なく、ほとんどの戦いを見る事しか出来なかった。元々玉座にしたって誰かに渡すつもりでいた。


 ―――だけど戦いを見てしまった。


 みんながエドガーの為だけに、死力を尽くし、そしてこの未来を生み出した。絶対に勝てない相手に勝利する為の未来を手繰り寄せた。そんな事をされて心が動かされない冷血な男ではない。胸には炎が滾っている。


 おそらく、初めて本当の意味での皇族としての自覚がエドガーに生まれた時でもあった。


 エドガーの視線をアルガンは正面から受け止め、軽く頭の後ろを掻き、倒れている娘の方へと視線を向け、そしてエドガーへと視線を向ける。その心中で短い葛藤があったのは確かだったが、エドガーの姿を見て溜息を吐き、玉座の間だった空間で、もはや残骸しか残っていないその部屋へ、背を向けて歩き出す。


「後で部隊を置いて睨ませておくから、それまでにどうするか決めておけよ」


 エドガーがそれが温情だと気付くのは数秒後だった。去って行くグラウとアルガンの背中姿に、見た以上の大きさを感じつつ、その場に膝を折って座り込む。


「―――あーあ……結局負けちゃったかぁ……」


 レジスタンスの敗北。作戦の失敗。それは間違いのない事だった。倒れている仲間達の姿を見て、それでもそれを成功だと言い張る事は絶対にできない。そう、レジスタンスは敗北し、その利を奪う様に王国は動いたのだ。こうやって自分に与えられたのは強者からの温情、それをエドガーは悔しさに噛みしめながら溜息を吐き、そして立ち上がる。殺されて死体となったゼファイルの姿へと近づき、そして持ち歩いていた短刀を取り出す。


「……結局は最後の最後で負けちゃうんじゃないかなぁ、とは思ってたのに、こんな終わり方だったなんてね……あっけないよ、あまりにもあっけないよ。一体、決めてきた覚悟や努力って何だったんだろうな……」


 エドガーが突入を決意し、実行しなければこうやって殺す事は出来なかった。それが王国の言うべき言葉だ。だけど全力を尽くし、そしてなんとかここまで状況を進め、そして敗北してしまった敗者からすればそれはただの結果論であり、慰めでしかないのだ。結局の所死者はこっちの方が圧倒的に多くだし、そして敗北し、奪われたという結果しか残らない。それでいて、温情さえ与えられている。


 情けない。あまりにも情けない。


「―――ま、それでも生きているならやらなきゃ……駄目だよな……」


 呟き、


 振り上げた短刀が死体に突き刺さり、


 首が落ちる。


 ―――そして、短い様で、長い戦いは王国の介入によってあっさりと終焉した。



                  ◆



 皇帝が討たれ、一日が経過する頃にはその話が帝都中に広がった。


 それを達成したのは王国であり、王国が暗殺という手段で戦争を発生する前に終わらせた、という話が広がった。それは皇帝が討たれた直後から不自然に―――即ち帝都に予め潜まされていた密偵や草の類によって広められた話だった。普通であれば誰も信じない様な話ではあるが、帝都の上空を浮かんで以来、一度も傷を受ける事がなかった帝都・空中城、それが落下し、尚且つ完全に破壊されていた。その姿を見て、帝国の終焉を幻視した者は決して少なくはない。故に皇帝が討たれたという凶報が帝都内に響いても、混乱はなかった。もとより”暴君”という言葉が似合う支配者であったため、誰もが思っていた。


 あぁ、この日が来たのだと。


 そして喜んだ。


 影の立役者たちには興味はなく、誰が殺したのか、何が起きたのか、それを気にするものは少ない。重要なのは今までの様な生活をする必要はなく、今までよりも華やかな生活を送る事ができる、という事にあった。誰もが倒れた暴君の事よりも、明日の我が身の方を気にしている。当たり前だ―――狂信者はいても人望はない。それが今までの帝国の皇帝という存在だったからだ。


 故に治安維持という名目で王国の部隊が帝都内に入ろうとも、止める者は一切いなかった。寧ろ歓迎したすらいた。頭を討たれた事で完全に動きの停止した帝国軍を警戒しつつも、王国が帝都へと侵入し、


 そして人々の目に見える形で戦いが終わった、という事が伝わる。



                  ◆



 ―――一番最初に感じたのは白と柔らかさだった。柔らかく、そして暖かい感触がすぐそばにあると。眠気が支配する脳を覚醒させながら目を開こうとする。目を開けた直後に入ってくる光がまぶしくて、直ぐに目を閉ざしてしまう。が、それに慣らす様に二度、三度と瞬きを繰り返し、漸く目を開く。そうやって目を開いて確認した所で、天井が見え、そして首の下にやわらかい枕と、そしてベッドシーツの感触がある。あぁ、死んでいない、生きているのか―――どういう形にせよ、戦いは終わった。その虚しさと感慨を胸に抱きつつ、右腕に感触がある為、視線をそちらへと向ける。


 長く伸びきった金髪の女が下着姿で右腕に抱き着いている。しっかりと話さない様に胸と、そして股の間に挟んでいる為、そのまま引き抜こうとしても抜けないだろう。故に右腕だけ透過させ、体をすり抜けさせ、そのままゆっくり、こっそりとベッドの中から抜け出し、ベッドの横に立つ。木でできたフロアは素足で触れるには少し冷たく、足元に視線を向ければ、そこにはスリッパの姿が見える。それに足を通しつつ、自分の姿をその場で確認する。


 髪の毛はまた伸びて、ぼさぼさのままだが黒い部分よりも白い部分の方が多くなっている。体も、体格が少し小さくなったような、そんな気がする。ただ前よりは動かしやすい、そんな気もする。魔法を使ってまで鏡を生み出す気にはなれず、自分の服装が決戦時の服装のまま、ただ上着は取った状態になっている。となるとどこかにブーツ等が置いてある筈だが、今はそれを探さなくてもいいだろう。


 システムウィンドウを開き、そして血戦からどれだけ時間が経過したかを確認する。


「……丸一日か……あ?」


 声が大分変ってきている。まぁ、五割も侵食が進めばそんなものだろう。そう思いながらカルマを求めて軽く自分の中を探せば、


『あ、起きた? おはよー。丸一日も寝ていたけどこっちで肉体の様子は監視できているし、特に心配する事もなかったわねぇ』


『おそよー』


 元気そうな二人の声に安心し、軽く息を吐きながら改めて自分の状況を確認する。体のコンディションは良い、完全回復していると言っても良い感じだ。最後に覚えているのは皇帝パンチを食らった即死しかかった事だが、今、周りへと視線を向ければ小さなベッドルーム……どこかの一室にいる様に見える。間違いなく空中城の中ではないと解る。それにしては血の匂いが少なすぎるからだ。空中城に刻み、染みついた血の匂いはもはや引き剥がす事ができないレベルにある。故に、ここはどこだ、そう思って近くの窓から外の光景を眺める。


 見えてくるのは豪邸の庭だった。その景色に首を傾げ、戦いの後でどこかに運ばれたのだろうか、そう思ってもう少し外を観察すれば―――奥の景色に、崩れた空中城の姿が見える。ここは帝都の貴族街、おそらくはそこにある屋敷の一つだろうと判断し、眠ったままのニグレドを放置し、部屋の出口へと向かって歩く。


 扉を抜けて出てくるのは豪邸に相応しい通路だった。右へ、左へと視線を向けるが、どちらへも通路が続いており、どちらへと進めばいいかが解らない。だが人の気配を求めれば、左下の方から人の気配を感じる事ができる。其方へと向かってあるけど、下へと続く階段を見つける。音を立てずに階段を下りて行けば、階段の横に扉を見つける。


 そこを抜けた先には、食堂が広がっていた。


「あ、おーい、こっちこっち」


「起きたか」


「おはよう……ってもう昼過ぎなんだけどな」


 食堂にいたのはリーザ、キャロライナ、そしてエドガーに給仕の姿だった。片手で挨拶をしながらリーザの隣の席に座り、軽く息を吐く。エドガーもキャロライナもリーザも生きているし、二階からはニグレドとダイゴとトモの気配も感じる―――つまりは全員生きている、という事になる。いや、全員というのは”親しい”人物達の事だ。足りてない気配がある。他にも最終決戦に付き合った面子はいた。ただ単純に別の場所にいるという可能性もあるのだが、とりあえず運ばれてきた紅茶を受け取りつつ、


「えーと……お疲れ様? なんか若干状況が飲み込めないんだけど」


「あぁ、戦いは終わったよ。我らの奮闘は報われた―――王国という介入と暗殺を通して陛下が討たれた事でな」


「うっわ……」


 そんな言葉を零しながら視線を横のリーザへと向けると、頬を膨らませながら紅茶のカップを握っているのが見える。彼女としてもどこか不服な部分があるのかもしれない。軽く横からその頬を突いて膨らませていた頬を潰し、紅茶に口を付けながらそれで、と言葉を置く。それ以上何か言う必要はない。此方の知りたい事を相手は解っている筈だ。


「……まぁ、とりあえず帝国は代替わりしたよ。暫定トップは兄―――と言っても数週間後にはまた変わっているんだろうけどね。王国としては降りかかった火の粉を事前に握りつぶしているという感覚が強いらしく、帝国を積極的に支配するって気持ちはないらしい。ただ今後、帝国が王国に襲い掛かってくる事はない様に、帝国を王国の属国扱いにし、そしてある程度軍部の縮小化、非人道的な研究の完全停止だってさ」


「ま、妥当な線と言っちゃあ妥当な所か……俺達の扱いは?」


「得になし。リーザだけならアルガン陛下の使いが来て、一回顔を出せってだけ」


「別に心配されているんじゃなくて寂しいから話がしたいってだけよ。無視で問題ないわ、無視で」


 生き残ったのだからもうちょっと優しくしてあげてもいいんじゃないかなぁ、と思わなくもないのだが―――まぁ、それはリーザの家庭の問題だ、自分が口を出す様な事じゃない。この紅茶、美味しいな、そんな事を思いながらしばらく、何かを話すわけでもなく、無言で時を過ごす。嵐の様に駆け抜けてきたこの帝国での戦いの日々、負けて気絶している間に全ては終了してしまったらしい。何とも、


「あっけないもんだなぁ……」


「まぁ、実際あっけないものだな。私も生き残れるとは一切思わなかったし」


「つか全員が死兵化している状態で戦っているのに生き残っているって奇跡だからな」


 戦いは終わった。それは間違いがない。これから帝国は新たな未来を見出す為に先へと進んで行くのだろう。それは間違いなく祝福すべき事なのだろう、なにせ、今まで国を覆っていた暗雲は祓われ、そして明るい未来がすぐそこまでやってきているのだろうか。だけど何故だろうか、今、ここにいる自分達は、あの戦いの時にあったような高揚感やワクワクした気持ち、燃え上がる様な熱血を感じられなかった。


 燃え尽きて、不完全燃焼の様で、何か、致命的なものを逃してしまった、そんな感じさえあった。


 ―――そう、迷子になったような、そんな感じだった。


「ま……ダイゴとニグレドの治療が少々面倒らしいわ。まだ一週間ぐらいは安静にしなきゃ駄目って話ね。トモの方はそこまでひどくはないから、明日か明後日には復帰可能らしいわよ」


「同志達も漸く帝都へ戻す事ができる。喜ばしい事だ」


「そっか」


 そう答えつつも、


 やはり、胸のもやもやは晴れない。


 何か、何かを見逃している、そんな気がしてならなかった。だがそれでも、


 帝国の戦いが終わったのは事実だった。

 あっさりとした終わりに見えますが、延々とバトルして盛り上がるのが一つの戦いであれば、あっさりと終わってしまうのもまた戦いなのです。帝国での戦いは終わった様に見えて、じつはまだ……?


 というわけでまた来週

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