六十話 狂愛の刀道
歩けば歩く程重圧が増して行く。
まるで深海の底を歩く様なプレッシャーが体に伸し掛かる。ホールを抜け、奥へと進めば進むほど、今までその存在を察知できなかった事がおかしい程に重いプレッシャーを感じる。それだけ、隔絶された気配が通路には充満していた。背後、ホールから鳴りやまない鉄の音と爆破音が聞こえる。フォウルがおそらくは戦闘を続けているのだろう。だからこそ、前に進まなくてはいけないのだが、息ができない様な、そんな感覚がある。だが慣れている感覚でもある。少なくとも、この重圧は生まれてから良く知っている。
王者の纏う風格だ。気を抜けばショック死、或いは窒息するだけの存在感。それだけだ。意図して抑え込まないと、他人を殺してしまう、それだけの威圧感。それが垂れ流しにされているだけだ。父のを浴びて、慣れていなかったら或いは、という事だろうが、残念だが王族である自分にはプレッシャー程度をはねのける訓練が施されている。故に、懐かしさすら覚える威圧感だった。ただ、それが他の二人にも適応されるかどうかはわからない。振り返りながら視線をキャロライナとエドガーへと向ければ、予想通り苦しそうな表情を浮かべているのが見える。ただ、行動できないというレベルではないらしい。エドガーは納得した様子を浮かべている。
「そっか、王女だっけ」
「バーサーカーっぷりから忘れがちなんだけどね」
「自分でそれを行ってしまうのはどうかと思うのだがな」
キャロライナの正論が突き刺さるが、それを無視して歩き出す。進めば進むほど圧力は増え、心を折りに来る。その空気を感じるが、慣れ親しんだ王宮の気配を感じ、思わず笑みがこぼれる。それでも、走って前へと進めないのはやはり、相手が試す様にその気配を放っているからだろう。それでも、噛みしめる様に一歩一歩を踏み出す。自分の様に慣れていれば汗一つかかずに平気だが、エドガーやキャロライナは多少汗を掻いている様に見える。故に二人の前に立つ様に歩き、奥へと進み、
階段を上った先、漸く到着する。
それは少々薄暗く、広い部屋だった。一番奥に玉座が存在し、そこに足を組んで座る、飾り気のない男がいる。美男子、と表現するのが正しいような男だ。短い金髪は軽くウェーブがかかっており、翡翠色の瞳はまるで宝石の様に希望に満ち溢れている。だが、その身に纏われる威圧感、生物として圧倒する存在感は違う。人外、という領域を踏み潰している。選ばれた人間の中でも選ばれた存在。そうとしか表現できない異質さが男にはある。希望、愛、勇気、それを抱える瞳とは別に、その存在感は人々に不安と絶望しか与えない、魔王の素質を持っていた。
その横で、何事もないかのように控える赤い鎧の存在―――カリウスもまた、怪物的であると表現するしかないだろう。だがその暴威も美男子と比べてしまえば、霞む様に思える。そう、真実、この美男子は怪物さえも超える。稀代の天才と呼ばれる存在を片手で殺す様な、そんな圧倒する力と精神力を持ち合わせている。それを見て、思わず笑みを浮かべる。
―――ダディとどっちのが強いんだろう。
それが判断できないレベルの相手である事は確かだった。
歩き、十歩の距離まで近づくと、僅かにカリウスが此方へと気配を向けてくる。それが止まれ、のサインなのだろう。この二人を同時に相手して、五秒以上生存していられるイメージが存在しない。故に大人しく、従う様に動きを止める。が、何時でも逃げられるように拳を握りしめ、準備だけはしておく。そこまで近づくと、凄まじい威圧感に呼吸が苦しくなってくるが、それでも自分よりも苦しんでいる存在がいる。それが解って、前に出てきたエドガーの盾になる様に移動する。直ぐ横には同じように立つキャロライナの姿がある。
「なんかこんな情けない姿だけど久しぶり父さん。個人的にはアレクの方が先に殴り込むかと思っていたけど、先にこうなっちゃったよ」
「そう卑下する事はないぞ、エドガー。元々ここに誰かが来るのであれば、お前が最初になると信じていたからな。確かにお前は兄弟の中では誰よりも平凡で才能のない男だったが、私とは違って人を惹きつけるものを持っている。私は人を血統、力、地位でしか縛る事は出来ない。ここにいるカリウスでさえ、決して私個人ではなく、”私という皇帝”しか見ておらんからな。我が子に対してこれを言うのは少々恥ずかしいものだが、嫉妬さえするところもある」
故に、送りたい言葉がある、と皇帝は言った。
「良く頑張った。流石私の息子だ。いや、私の息子である事なんて関係ないな、お前はお前として頑張って、そしてここへ到達するという事実を達成したのだ。おめでとう、エドガー。この空中城は浮かび上がって以来、侵入されたことがない。半端な暗殺者であれば城内の者が、強行突破であれば将が、そうやって全て到達前に撃滅してきた。まさか真上を取って対応できる前に侵入するとは、思いもしなかった。私はその努力と覚悟を認め、愛したい」
「悪いな、けど父さんさ、俺、そういう言葉はどうでもいいんだよ。ぶっちゃけ俺自身はほとんど何もしてないしな。俺よりも頼りになる人達におんぶに抱っこでここまで来ているし、俺の成果とか恥ずかしくて言えないわ。まぁ、俺が集めた結果なんだろうけど、それでも多少そういう事に対しては恥ずかしさが先立つとか―――あぁ、何言ってんだ俺」
「焦るな、時間はあるのだ、ゆっくりと言葉を選んで話すが良い。私は逃げたりしないよ、エドガー」
そう言ってエドガーに視線を向ける皇帝の視線は慈愛で溢れている。この男は本気でレジスタンスを潰そうと計画したのに、心の底からこうやってここまで到達したエドガーの存在を愛おしく思っている。いや、話しかけているのがエドガーというだけで、共通の感情を自分達にも向けている。ありていに言えば気持ち悪い、それが自分の感想だった。これだけやっておいて成功したらおめでとう、お前は凄い、そうやって手放しに褒める。馬鹿か、阿呆なのか、それとも白痴なのだろうか。
愛という物の示し方が徹底的に間違っている。
―――帝国の皇帝は”皇帝”という生物であり、人ではない。
それは自分の父にも当てはまる。父は”王”であって人ではない。だが彼は人を理解している。それ故に、人間らしくあろうと頑張っている。ただそれを統治という部分から抜いて。この男は取り繕う事さえしていない。それが父との決定的な違いだ。皇帝という生物である事を誇りに思い、それを歪める事をしようとしない。それをそのままあり方として肯定している。なるほど、怪物的であればあるほど、この男に魅せられるのかもしれないだろうと思う。
「それに王国の姫もはるばるここまで御足労頂いておいて、まともな歓迎をせずに申し訳ない。本来であれば盛大な歓迎をするべきなのだろうが」
「いやいや、構わないわよ。私って確かに姫ではあるけど、継承権は投げ捨てるつもりだし、今のパーティー気に入っているからそのうち海を越えて冒険したり、ダディ殴り倒す予定とか作ってあるからね、歓迎だとか立場だぁ、とかめんどくさいものは何時か全部処理してポイしたいわけよ。まぁ、そこの凡人と一緒って訳じゃないけど、やっぱ面倒よねぇ」
「さり気なく人をディスるの止めませんか」
「殿下は凡人ですからねぇ……」
「援護射撃が援護するべき相手に突き刺さってるよ!」
軽いコントに皇帝がクツクツと笑い声を零す。
「成程、その様子を見ると割と楽しくやっていたようだな、心配するまでもなかったか? ……ん? なんだその表情は。もしかして私が心配していなかったと思っていたのか? 流石にそこまで人でなしではないよ。まぁ、子を作った親として少々心配だったりするのではあるのだが……まぁ、人並み程とは言えないか。これも悲しき業だ。何かを思えば思う程正しくある事は出来ない」
そう、狂信を超えた領域でこの男は、常に何かを想っている。
「悲しいなぁ、私はただ思い出してほしい、それだけなのだが―――」
「それを口に出さずに実践するのが失敗なんだよ。説明なしで実行しても暴君なだけだろ」
エドガーのド正論が室内に響く。その言葉に皇帝が頷く。
「正論だ。まさに正論だが―――正論である事に果たして価値はあるのか? そもそも正しい事である事に価値はあるのか? ”誰かに言われたから”や、”それを誰もが思っているから”という程度の理由で自分の価値観を決めるのか? 誰もが奴隷が悪い、だから奴隷は悪いものだ、そう思うのか? だったら法律はどうだ? 好き嫌いは? 愛は? やりたい事は? それらを加味してから考えよ、正論である事に価値は存在するのか?」
そんなもの、
「時と場合による、としか言えません陛下」
キャロライナの言葉に皇帝が頷き、同意し、答える。
「あぁ、そうだろうな―――お前がそう思うのであれば、だろう? そう、結局はその程度の話でしかない。法律が絶対的に正しいならそもそも私が正義になるだろう? レジスタンスが組織されているのも結局は広義的な正義ではなく個人に基づく主張を貫いた結果、意思が集っているのだ。だとしたら正論である事に意味はないと思わないか? 基本的なモラルの話をするなら、そもそものモラルがどうやって生まれているのか、という話になる。だとすればそのルールを根本から形作る法律側が正義ではないか?」
「子供の駄々みたいな理屈だぁ……!」
「あぁ、馬鹿みたいな話だが、それで動いているのが私だよ。論破する事も、理解する事も不可能。できるのは黙って従うぐらい。私に同志はいない、王とは孤独なものだ。まぁ、それも他者から差し伸べられる手を蹴り飛ばした結果なのだがな―――さて」
さて、と言葉が置かれた。その言葉を境に、皇帝から放たれる威圧の類がもっと攻撃的なものに変わる。それを身じろぎする事もなく受け止めつつ、正面から視線を向ける。
「ではお約束として言わせてもらおうか―――良くぞ来た! 良くぞ到達した! 私こそがこの帝国の皇帝だ! ここまで来たことに感動を覚えた故にその願いを聞き届けてやろう! さあ、好きな事をなんでも言え!」
その言葉にエドガーが答えた。
「―――まだ一回も親子喧嘩をしたことがないんだ、初めての親子喧嘩としゃれ込もうぜぇ―――!」
そう言ってエドガーが踏み出した瞬間、大笑いを響かせながら皇帝が立ち上がり、
次の瞬間始まった親子喧嘩は開幕コークスクリューでエドガーが吹き飛ばされて終了した。
◆
「お前のせいでなんか面白そうな状況を逃している気配がするんだよ! 死ね! 死ねキチガイカボチャ! 早く逝けよオラァ!!」
「キチガイ具合ならお前の方が負けてないだろ!! 無視して先に進めよぉ―――!」
「ハッハァ―――!!」
叫びながら刀を横薙ぎに振るう。その動きに合わせてデスサイスを弾き、そしてジャックとの間に距離が生まれる。それと同時に叩き込まれてくる魔力の弾丸を踏み込むで事で後ろへと流しながら、ジャックを殺す為に素早く刀を戻して三連続の斬撃を叩き込む。頭、胸、そして足があるべき場所に斬撃が走り、分割される。だが次の瞬間には再生し、自分の体を切り裂く様に放たれるデスサイスが振るわれる。横へと飛び越える様に回避動作をしながら、その動きを邪魔しようとする兵士の首を刎ね飛ばし、左手で死体を掴んでジャックの方へと押す。
飛翔するデスサイスに体を叩きつけ、その動きを鈍らせている間に体勢を整え、踏み込む瞬間を生み出す。
「お前に罪悪感とかないのかよ!」
「敵を殺して何が悪い!」
「これだから王国はぁ!」
ジャックが苛立つ様な声を放ちながらデスサイスを振るう動作に合わせ闇の手をホールに存在する影から伸ばしてくる。攻撃動作を即座に退避の動作に合わせ、ステップを踏む様に縮地法で素早く、しかし縦横無尽に駆け巡りながら回避動作に入る。超高速の戦闘方法術。音速の領域には到達しないが、それでもそれが人間の知覚の限界に挑む速度である事実に変化はない。物質が出せる速度の限界に近い、その動きは肉体に反動というダメージを生むが、
「は、はは―――楽しいよなぁ! ジャックくぅーん!」
「お前俺になんか恨みあるのかよ!」
「特にないから遊んでるんじゃねぇかぁ!」
「お前ほんと真正のキチガイだな! キチガイが言うんだから相当なもんだよ!!」
そう言いながら―――ジャックは”嗤い”始めた。今迄は此方がペースを掴んで戦ってきた。その理由は簡単だ。徹底的に相手のリズムを崩し、そしてジャック対策に霊体破壊の虚無属性付与を覚えたからだ。一撃でジャックを殺せる訳ではないが、何十発も叩き込めばジャックが霊体を破壊され、強制的に祓われ死ぬ、或いは成仏する。だからこそジャックは前回は取らなかった、防御という行動を取っている。それだけでも一歩、討伐に近づいていると言える。いや、今、この空中城で誰よりも、
十三将の討伐という状況へ近づいているのは自分である。その自負はあった。
「八艘飛び! なんつってなぁ!」
縮地を繰り返し床、壁、天井、そして帝国兵の体を足場に使って縦横無尽に移動する。フォウルと比べれば荒く、そして重みの存在する動きだ。あのカルマの記憶とかいうのは本当にチートだ。反則臭い。出禁されろ。だがそれを見たおかげで、こうやって理想の技術を自分の中で作り上げて行くことができる。イメージが形へと変える事ができる。それが、
楽しい。楽しくて笑いが止まらない。
そもそもジャックとはまともに戦わないタイプのキャラクターだ。その戦闘方法は禁術と精神汚染。徹底的に相手の心を折り、破壊し、そして魂を冒涜する存在。それが長所であり、絶対的強さを誇る理由。どんな存在だって心に傷を持っている。特にこんな世紀末な世界であれば、誰かしら苦労や挫折、或いは理想を抱いている。故にそれに漬け込んでジャックは相手を蹂躙する。それに特化しており、それに強く、それを利用してきた。
だけど自分みたいに頭がアッパラパーで現代社会でトラウマとは無縁でヒャッハーしているだけの生物はそういう理論が全く通じないので、話にならない。
ジャックはその長所を一切戦闘に使う事ができずに、戦う事を強いられている。
それでも魂冒涜者は嗤う。それに合わせて自分も吠える様に笑う。
死に一直線、馬鹿やるなら笑わなきゃ損。
「死ねぇぇぇぇ―――!!」
「お前が死ねよぉ―――!」
狂笑を響かせながら兵士の死体を互いに生み出し、血と肉を周囲に回せながらも、再び正面から激突する。振るわれる絶死のデスサイスを体に掠らせるように回避しながらも、正面から虚無の属性の乗った太刀を叩き込む。真っ直ぐ正面から叩き込んだ刃はカボチャ頭に食い込むと、その半ばで動きを止め、
頭から溢れ出す亡者の腕によって掴まれる。
「キモイんだよお前!!」
刀から素早く手を離しながら後退し、近くの兵士の首を掴み、技量でへし折りながらそれを盾にする様に引きずり、弾幕や追撃からの盾として使い捨てる。そうやって体の動かし方、首のへし折り方、リーザやフォウルが割と気楽にやっていたのだ。じゃあ自分にも出来ない理由はない。そんなテンションで実行したら見事達成した。
「やったぜ」
「何がだよ!!」
「俺って凄い!!」
「頭のイカレ方がかなぁぁぁアアアア!?」
大体あっている。そう叫びながら着地する場所にいた兵士の頭を踏み抜き、粉砕しながら体を蹴り上げ、その肉をデスサイスの刃に突き刺し、鋭い刃の代わりに肉を鈍器の様に叩きつけられる。それによって痛みを受けながらも後方へと弾き飛ばされ、壁に着地する。その瞬間に縮地で右側の壁へと移動する。先程まで足場にしていた壁を見れば、そこからは血の槍が付き出ているのが見える。この部屋に連れ込んだ大量の兵士は手勢ではない。
リソースだ。
認識した瞬間、戦場が一気に変質する。
「―――あー……じゃあ、普通に殺っか」
部屋にまき散らされている悍ましい量の血が刃や武器となって一気に襲い掛かってくる。縮地で即座に移動しながら逃亡するも、気持ちの悪い音を立てながら肉塊が床を這いずり回り、壁に引っ付き、大部屋の全てを肉塊で包もうと動き始める。触れたらヤバイ、いや、一秒以下の接触であれば触れられても大丈夫だな、と直感的に判断する。
天賦の才とも経験とも違う、
闘争の才、戦闘勘。それで判断し、インベントリから刀を二本射出する様に取り出し、それに属性を乗せて速度を乗せ、縮地で蹴りながら移動し、退避する。まるで弾丸の様なありえない速度を得た刀がジャックへと向かって飛翔し、回避されて壁や床に突き刺さる。カウンターに叩き返される影と魂の弾丸を大きく回避しながら、部屋の中央へと跳躍する。
「あ、し、ば、確保ぉ―――!」
両手いっぱいにインベントリから刀を取り出す。予めフォウルに作らせた耐久重視の量産品。粗悪品ではないが、所詮は魔術で生み出された品、耐久力は低くいという点が残っている。だが虚属性を乗せた状態であれば、肉塊の侵食に対抗する為の即席の足場として使用できる。故にそれを部屋中へと投擲し、壁や床へと突き刺す事で足場を確保する。
「ま、潰すんだけどね」
血と影が床、壁から出現し、乱舞する様に噛み砕く。それで着地の場を失いそうになるが、
砕け散った破片を足場に、超高速で縮地の移動を行う事で直接触れる事を回避し、その勢いのままカボチャ頭に蹴りを食らわせる。これに属性は乗っていない。だからノーダメージではあるが、相手が受けてくれた、体勢を崩したという事に意味はある。そこから追撃で懐に仕込んでいた短刀を突き刺す為に蹴り飛ばした姿に即座に追いつく。だが開いたスーツの下から霊の手が槍の様に伸びてくる。即座に無事な床を蹴り、横へと飛んで回避する。
「逃げてちゃ変わんねぇぞぉぉぉ!!」
「うるせぇぇ!! キーモーイーんーだーよー! 死ね! 死ね!」
「お前がうるせぇんだよ! お前が死ね!! 早く死ね!!」
―――あ、今、同じレベルの罵りあいしている。
最高にレベルの低い言い争いをしていると自覚しつつも、ジャックに対してダメージを入れる決定的なチャンスが段々と遠ざかって行くことを理解する。ジャックが本来得意とするのは搦め手、精神攻撃の類である事は理解しているが、それでも弱いという事はありえない。プライドはない、危険を感じれば直ぐ逃げる。命が大事。魂を弄ぶ。外道で下種で屑だ。だが、それでも弱くはない。いや、帝国十三将という位置にある存在が、あの皇帝を守護する存在が搦め手のみを手札にここまで来たなんてことはありえない。
つまり、普通に戦えるし、
普通に戦っても絶望的な相手であるという事だ。
「もっと真正面から斬り合おうぜカボチャァァァァアア!」
「一々叫ばないとだめなのかよお前はよぉ!!」
それでも心地よい殺意を浴び、殺意を叩き返しながら狂笑を響かせながら接近し、刀を二刀流で握り、振るう。デスサイスの動きは本格的に戦う事を専念し始めたのか、その鋭さと速度は格段に上昇している。先程まで切り払えた斬撃は刀に食い込み、その鋼を断とうとするようになっている。端的に言って、状況は絶望的と言える状況に傾いている。それでも笑い声は消えない、消せない、消したくはない。
この闘争の瞬間が楽しく、生を感じているのだから。
故に闘争心が更に燃え上がる。実力の差は解っていても笑みが生まれ、笑い声がどうしようもなく漏れだす。リーザじゃないから、天賦の才じゃないから戦いながら成長する、なんて器用な事は出来ない。フォウルの様に後付の経験値も存在しない。リーザが経験値が10倍入りやすいキャラで、フォウルはプレイヤーが攻略本を片手に操作しているキャラなら、
自分は、たぶん、乱数を見切って戦うタイプだと思っている。
だからなんとなくで理解する―――どう動けば良いのかを。
「ハッハァ―――!!」
叫びながら斬撃をカボチャ頭に叩き込む。切り裂いた跡から怨霊が溢れ出し、環境汚染が始まる。立っているだけで精神を削り、凌辱し、幻覚を見せる冒涜的な密室が生み出され始める。しかし、それは結局の所、心か、精神力の弱い人間、或いはどこか傷を抱えているような人間ではないと通じない。自分の様に極まりきった馬鹿には一切通じない。たったの一度も笑い声を止める事無く、溢れ出す怨霊を素手で掴み、握り潰し、
穴の中へと刀を突き入れ、串刺しにする。
「がっ―――」
初めてジャックの漏らす苦悶の声に歓喜の声が出そうになるが、次の瞬間には痛みを感じて横へと吹き飛ばされていた。視線で衝撃を追えば、魔力弾ではなく壁から伸びる肉塊がハンマーのような鈍器となって襲い掛かっていた。
いや、そもそも人の姿はもはや自分と、そしてジャックの姿しか残っていない。残っていた兵士、息の残っていた者は何時の間にか肉塊に食われ、その仲間となっていた。外道が、と言葉を口の中で転がしながら血反吐を吐いて、体勢を整え直しながら壁を蹴る。壁に触れるのは一秒以下の時間。移動する為の手段を全て縮地に限定する。そうやって幾何学模様を移動の軌跡に描きながら、再びジャックのデスサイスとぶつかる。押し負けながらも斬撃を受け流し、短い距離を連続で、縮地で移動しながらすれ違いざまに斬撃を叩きつける。
「キャッホゥ!」
「なんで俺がツッコミに回らなきゃいけないんだよこいつ……!」
「人生守ったら負けだからなぁ」
「そこで真顔になるんじゃねぇ―――!」
そう言いつつも、ジャックがこの戦闘を、殺戮を楽しんでいるのは間違いのない事実だった。その声には明らかに楽しげな笑いが混じっているからだ。それは己も同じ。
しかし、圧倒的に地力が違う。直感と閃きで最善手を選び取るも、それでも実力が圧倒的に違う。
相手よりも技術で上回ろうとも、それを素のステータスで追い抜かれる。故に先出しして追い抜かれるという事態が発生し、徐々に体が削られ、そして弱って行く。肉塊、血、影、怨霊、それらの禁術や魔術を含めて面制圧攻撃は全て切り払いながら虚無属性で消し去り、無効化している。だけど当たり前の様に”戦闘の基礎”と言える部分が自分よりも遥かに高いレベルで完成されている。ただの外道ではなく、諦めなかった外道。
屑でも外道でも悪人でも、強い奴は強い。
そして強い奴は死なない。
諦めずに地味な鍛錬を続けた者は強くなる。それは本人の性格や背景関係なく。
ジャックは外道である。ジャックは魂を冒涜する悪人である。ジャックが死んだ方が大衆の為である。
だからどうした。この外道は鍛錬を欠かさず重ね、努力してきた。諦めなかった。
だから物語のお約束の様に、
光が闇を照らすというご都合主義が微笑む事はない。
跳躍し、加速し、回避し、斬撃を叩き込み、そして独りで連携を重ねる。それでも圧倒的に体力が違う上に強さ自体が違うのであれば、
必殺のタイミングが確定で生み出されてしまう。
肉塊を避け、その先の足場から離れ、血の雨を潜り抜け、デスサイスを回避する。
そうやって最善の回避ルート、最高の攻撃ルートは、
―――撒き餌としては最上級のものであり、強者を殺す為に常套手段でもある。
目前に不可視の刃が迫った。
天賦の才>皇帝さま キャロりん リーザさん カリウスくん
特別な血統>皇帝さま リーザさん エドガーくん
バトルセンス>皇帝さま ダイゴくん カリウスくん
超経験>フォウル(カルマ) カリウスくん
英雄素質>皇帝さま カリウスくん トモくん
超精神力>皇帝さま ダイゴくん カリウスくん
これで大体上位二名の怪物的な所が理解できると思うの。あと一番モブっぽい親友ポジが一番壊れキャラという可能性




