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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-血戦編
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五十七話 進める準備

「―――ほほう、空中城を相手に最終決戦を挑むから兵を貸せと? アレか、お前、頭に蛆が湧いているな? 馬鹿じゃねぇの? あ、いや、冗談とか侮辱している意味じゃなくてマジで馬鹿じゃねーの、って言ってるだけだから、気にするな。事実、馬鹿だからさ。お前、特攻に付き合せろって話を聞いて”うん、私兵士貸すよ! こいつ殺していいよ!”って出すと思ってるのかよこのキチガイめ。そんな事しか言えないんだったらとっととレジスタンスの残党をこっちに寄越せよ、こっちは再編してクソ親父殺すつもりなんだから。今なら王国を巻き込めば大乱戦で近づけるんだぞ? 空中城に突撃するなんてダイナミック自殺よりもチャンスがあるわ」


「こいつ、殴っていか」


「ステイ。間違ってないんだからステイ」


 目の前には小さな暴君―――アレクサンドリアが存在する。ひときわ大きなテントの奥、何処から持ち出したのか豪華な椅子が設置されており、そこに足を組む様に座っている。口が悪い。アレクサンドリアの事を説明するならそれが一番わかりやすい。カリスマはあるし、美しいし、可愛いし、綺麗ではあるけど―――やはり口が悪い。いや、抵抗のないものであればそれこそ一瞬でアレクサンドリアに”飲まれる”かもしれないが、自分やエドガーはそういう精神的な事柄に関しては恐ろしく強い。エドガーは血筋として、


『まぁ、中に私とミリアちゃんがいるからねー。精神干渉とかの類は基本的にあっちへぽい、しているのよね。だから基本的にカリスマとか威圧とか殺気とか、そういうのを理解しても飲まれるようなことはありえないから安心して話し合えるわよね。まぁ、ついでに媚薬とかの効果も殺しているんだけど』


 最後の一言絶対に余計だったろ。というか媚薬を盛られるシチュエーションとか一度でいいから経験してみたい。うっ、体が熱い……! とかそんな感じのってどう考えても十八禁。これ以上はミリアティーナへの悪影響が酷いので思考をカットアウトする。思考をくだらない事から目の前の状況へと向ける。話を簡単に整理すれば、こうなる。


 ダイゴの作戦が成功した場合、空中城内部へと突入成功する。


 この時、突入できる人数は突入手段故に、人数が制限される。おそらく多くても二十人ほど、いや、もっと少なくて十五人ほどが限度になる。この空中城へ突入する十五人は、出せる戦力の最高戦力であってほしい。一方通行の戦いとはいえ、負ける気は毛頭ない。空中城へと突入したらそれで勝利する気ではあるのだ。だから最高の戦力が欲しいのは当然の帰結だ。


 まぁ、それを否定するのは当然だ。


 なにせ、アレクサンドリアの部下たちは彼女が金を出して雇った傭兵でもあり、護衛でもある。


「いいか、馬鹿な兄とその馬鹿な部下に教えてやろう。私は賢い。そして兄は賢くない。いいか? これが世の中の絶対の真実であり、そして覆す事の出来ない絶対の法則なんだよ。つかさ、よーく真面目に考えてみ? こんな場所で護衛を減らすとか正気? 一応言っておくけど私、美少女だぞ? 護衛減らして襲われる事の原因になったらどうするんだよ。いや、私一人でも十分強いけどさ。それとはまた話が別なんだけど誰が好き好んで部下を死なせに行かせるんだよ。っつーわけでハイ、出口はあちらでーす」


『聞く耳持たないわねー』


 出口を指差すアレクサンドリアの背後で、吐血している男と、そして頭を下げている別の男の姿が見える。吐血している男の事が無性に心配になってくるのだが、大丈夫なのだろうか。きっと大丈夫なのだろう。そう思っておこう。とりあえずは少し時間を空け、また後で交渉にアレクサンドリアの所へ訪れるしかない。アレクサンドリアのテントの外へと出て、頭の後ろを掻きながらエドガーと共に離れる様に歩き始める。


「聞く耳持たねぇなぁ」


「そうだなぁ。まぁ、アレクの奴はかなりの自信家だからな。ぶっちゃけ他人にどうこう言われるよりも、自分が言ってやらせた方が何でもかんでも上手く行くって思ってんだよ。実際そこまで間違ってはいない。皇族って血筋をみりゃあ解ってくるだろう? それにアレクの奴は家族以外では基本、ほとんど失敗した事はないからねー。挫折とかからは無縁のもんよ」


「あぁ、増長しちゃったんだ」


「んや、違う」


 そこは増長しちゃったパターンではないかと思ったが、違うとエドガーは足を止めながら断言し、説明する。


「アレクは賢いんだよ。挫折は知らないけど、それでも増長はしていない。っつーのも、自分がどんだけ本気になっても永遠に勝利する事の出来ない存在がいるって事を魂の底で理解しちゃったからなんだよ。心が折れないこっちとはまた別の話、挫折はしていないのに屈服しているんだ。だから変な風に歪んで、固まっている。まぁ、それでもまともな方なんだけどね! まともじゃなきゃレジスタンスとかやらない!!」


「あぁ、うん。はい」


 エドガーにその話をされて、そして最も身近にいる赤髪の王族を思い出す。リーザの思考の仕方とかは物凄い王国流をストレートにぶち抜いている感じなのだが、それにしては人としての考え方が恐ろしくまともだったりする。いや、そうだ、そう考えると物凄いレアな存在に思えてくる。リーザは物凄い”真っ当”なのだ。強いし、そして考え方もぶっ飛んではいるが、”王国の人間”として見ればそこまでおかしいものではない。エドガーの様にどこか屈折していないし、アレクサンドリアみたいに歪んではいない。


 そもそもからして、王族なのにプレイヤーの存在すら知らなかった。何故だろうか?


『教育方針とかじゃないかしら? 重要そうに見えて特に意味のなかった事なんてあるし、あんまり深く考えない方が精神的に良いわよ。特に今は作戦の為に考えなきゃいけない事が色々とあるんでしょ? だったらそちらに集中しておきなさいな。お姉さんの特技は斬ったり解析したりする事ばかりだから、あんまり交渉とかでは役に立たないわよ? 大人のミリアちゃんはそこらへん結構得意だったけど』


『宗教弾圧ー! 聖典否定! 神性蹂躙! 教徒は並べてギロチンへー!』


 明るいトーンで物凄い言葉が飛び交っていた。偶にこの子が恐ろしくなってくるというかなんでもいいから綺麗に育ってほしい。精神的にとキャラ的な意味で。現状、その可能性が限りなく薄いのは自覚している。


「っと、まだ曇っているか」


 見上げた空は曇天に覆われている。壊滅から一日が経過したが、雨は止んでも雲は消えない。空気に残る湿気が近いうちに来る雨の再来を告げていた。その思考に割り込む様にそうだなぁ、とエドガーが声を零す。


「数日後には嵐だってね。その時に乗じれば間違いなく成功するだろうってダイゴ君が言っていたねぇ」


「アイツ真正のキチガイだわ。俺やリーザでも多少はマシだよ、アイツと比べると」


 リアル彼女放置してネトゲに入り浸る上に娼婦通いを続けているんだからちょっと理解できない領域で。まぁ、今度ログアウトしたときにでもちょっと注意でもしておこうか、と心の中で決めておく。それはそれとして、交渉の糸口を見つけないと、突入した所で人手不足が目に見えている。いや、突入する”だけ”なら人員を借りる必要はないのだ。ただそこから更に皇帝の顔面に一撃、叩き込むとなるとやはり、最高ランク味方が必要となってくる。十三将の真似ではないが、強い奴がチームを組んで一緒に戦うのはやっぱり強いのだ。


 数の暴力。数を薙ぎ払える奴がやれば更に強い。


 そういうわけで、どうしてもアレクサンドリアの部下たちを此方側に弾き込みたいのが現状だった。


 エドガーと並んで歩き、拠点の食料配給所近くのベンチテーブルに座り、エドガーの対面側に座る。そこで軽く頬杖をつく。


「つーか、そもそもなんで俺が交渉の担当しているんだよ。こういうのってキャロが担当だろ」


「だけど仕方ないじゃないか。キャロは発案者であるダイゴと煮詰める為に相談中、リーザ王女はそもそも交渉スキルとかをほとんど持っていない、トモ君に限っては生き残った戦闘員の中から作戦に参加できそうな強者を選別させている。となると自由に動かせるのはアレクを良く知っている自分と、そして基本的になんでもできる万能タイプの君だろう」


「そうなんだけどなぁ」


 気づけば何時の間にか万能タイプになっていた。


『正確に言うとメインが召喚と剣であって他の事も出来る、なんだけどねー。強くなれば強くなる程敵対する存在の種類とかは増えるから、ある程度のサブウェポンや別の攻撃手段、技能を磨いておかないといけないのよね。というわけで、強くなればなるほど出来る幅が特化型であろうと増えるのは当たり前よ。傭兵とかも交渉能力がないとお金をだまし取られたりするしねぇー。やっぱ大事よ、色々と出来る事は』


 その大切さは解るが、せめて練習する時間や考える時間が欲しかった。おかげでアレクサンドリアと一回交渉し、そして失敗してしまった。だからここで一回冷静に話を整理しよう。そう思ったところで、茶色に近い黒い液体の注がれたマグカップが二つ、食糧配給所の担当によって運ばれてきた。


「お二方、ホットココアです。最後まで応援していますので諦めないでください。我々はどこまっでも付き合いますからね」


「ありがとう」


「期待に応えるよう頑張るよ」


 ありがたくホットココアを受け取りつつ、真面目な表情を作り、そして考えを纏める。


「―――交渉術の基本はギブ・アンド・テイクだ。欲しいものがある、なら相手の欲しいものを提供して、それで互いを補い合う。現状、立場としては”此方の方が上”である事を忘れてはいけない。アレクサンドリア皇女が転がり込んできたのであって、俺達はアレクサンドリアの合流を許した。その形を見射失ってはいけないと思う」


「それ、ちょっと酷くないか?」


「いんや、これは必要な事だよ。そこらへんをハッキリさせてないからあの暴君は尊大な態度を取る事が出来るんだよ。簡単に言うとエドガーの態度を理由にレジスタンス全体が舐められている状態なんだよ、今は。立場をハッキリしない、エドガーが許すから、自分はエドガーよりも賢く、そして偉いから。だからこの男とその組織には礼を尽くす必要もない。まぁ、軽く考えて今はこの状態だ。皇女様だって別に礼儀の出来ない女じゃないだろ?」


「あー……うん。そう言えばちゃんとカリウスとかに対しては礼儀ある発言や行動を取ってたな。そっか、舐められてたかぁ……気楽にやろうとするのも考えものだなぁ」


 まぁ、交渉とはそういうものだ。態度や立場、もしくは保有する技術や背景というものが影響して来るのだ。それで武器に、どうやって自分の意見を通して最善を掴みとるか、それが重要な事なのだ。とりあえず、一番重要なのは自分達が欲しいもの、そしてアレクサンドリアが欲しがっているものを理解する事だ。両天秤にその二つを乗せ、そして計測するのだ。どうやって此方に軍配を上げるか、を。ホットココアを飲んで体を温めつつ、脳の回転を頑張る。あいてゃかなりめんどくさい人物だ。良く考えて、しっかりと決断しないと逆に喰われる。


「じゃあまず最初に―――アレクサンドリア皇女が欲しがっているもの、必要としているものを確認する事から始めようか」


 それなら解る、とエドガーは言う。


「アレクが欲しいのは”玉座”だよ。それがアレクの最終的な目標。他の兄弟とかはどうでもいいから、親父をぶっ殺して玉座を奪いたい。レジスタンスにでもならなければそんな機会は永遠に回ってこないから、民と生活と国の事を考えたうえで、反旗を翻したんだよ。まぁ、一応民の事は考えているんだよ、アレでも。まぁ、それでも玉座が欲しいという欲望が先行しているけど。それでもアレクが皇帝として降臨すれば今までよりは生活は良くなるんじゃないかな? 親父みたいなことは絶対にやらないだろうし」


「となると暴君の目的は皇帝の座の簒奪―――そしてその確実な手段の確保になるだろうよ」


 ふむ、と呟く。アレクサンドリアとして考えれば、彼女の欲しがっているものは解りやすいとも言える。彼女が欲しいのは”力”なのだ。或いは組織力。何をするにしたって人員と資金。これが必要になってくる。王国が攻め入ってくるという状況で、皇帝が表に出ない理由はない。そこを利用して討つ、というのがアレクサンドリアとしての理想だろう。ただ、穏健派としては戦争が開始し、兵と兵がぶつかった場合、大義の一つが失われてしまう。だから、此方として重要なのはその前にケリを付ける事だ。


 そう、穏健派は戦争が完全に開始してしまえば、存続している理由がないのだ。


 つまり、解散しても構わない状況になる。


 それに現在、戦力的に考えて王国の方が優勢だ。となると、ここで自分達が失敗しても、その道を引き継いでくれる存在がいるとして、此方は最低限空中城を落とすだけ落とせればよいのだ。そしてダイゴの作戦が成功すれば、間違いなく空中城へと突入する事は出来る。あとは内側から破壊すればいいだけの話―――考えがまとまる。


「見えてきたな、及第点が」


「え、マジか」


「情報一つ一つ並べて整理すれば流石にな。俺も別に完全な脳筋って訳じゃないから、そりゃあ解るもんは解るわ。しっかりと見据えて考えればそこまで難しい問題でもなかったしな。まぁ、要求が見えているだけ可愛いもんよ」


「んで、どうするんだ?」


 簡単な話、とまずは前置きをする。


「アレクサンドリア皇女が欲しいのはレジスタンスと言う形だ。簒奪した場合に、その組織が正当性を持つからだ。暗殺とかで殺して”私がやった”って宣言しても話になんねーからな。思想に共感して共に行動する同志がいる事をアピールして漸く意味が出てくるんだわ。まぁ、ここら辺は関係ないか。とりあえずアレクサンドリア皇女はレジスタンスという組織と名前が欲しい訳。んで、先に確認を取るけど、この作戦の後にはもう、戦闘行動を行う力はないし、失敗すれば間違いなく次の行動の前に王国との戦争が来る―――これが最後の作戦になるって事で理解していいよな?」


「お、おう。勿論! 勝っても負けてもこれで最後だ!」


 だったら行けると判断する。


「作戦後のレジスタンスを書面で確約してアレクサンドリアに売りつけるんだよ。それと引き換えに彼女の部下の権利を一時的に此方で預かる―――まぁ、傭兵って形が一番妥当な線じゃねぇかなぁ? そうやって借り受けるんだよ。まぁ、レジスタンスは完全にアレクサンドリア皇女のモノになっちまうけど、予めこのままアレクサンドリア皇女と共に戦うか、或いは穏健派の終焉としてレジスタンスから去るか、その自由選択をそれとなく流しておけば勝手に作戦後にレジスタンスから抜けるやつが出てくるから、それで大幅に弱体化してアレクサンドリア皇女の強化を心配する必要はないだろう」


 レジスタンスとは自分の意思が、抗うという心が意味を作る組織だ。そこに嫌がる人間を無理やり留めて置いても回転効率が下がるだけだ。エドガーがそれとなく”抜けても問題ない、悪くはないという言葉を流しておけば、それが自然に広がり、作戦後に抜ける人が増えるだろう。個人的な予測が正しければ、九割方はそれでレジスタンスを止めるだろう。元々、王国との戦争の前にケリを付ける為に集まったのがこの穏健派というものなのだろうから。だからレジスタンスという組織がアレクサンドリアに渡ったとしても、レジスタンスという組織は次の瞬間に瓦解する。彼女には悪いが、過激派が復活すれば帝国側だけではなく、王国側にも巻き込まれて被害が出るのが見えている。


 直接的にはなくても、乱戦を形成した結果巻き込まれて死ぬ、なんてザラにあるのだ。だったら最初から不良品を押し付けるつもりでやった方が良いに違いない。


「……お、恐ろしい事を考えるんだね、君は。それも魔剣の知識なのか?」


「いんや、カルマさんはどっちかというとバリア斬ってそのまま寝込み狙って暗殺しようぜ派。正面から戦うのは馬鹿だから忍び込んでジェネレーター破壊して空中城を落としたら、それに乗じて暗殺するのが一番確かだって」


「改めて生きている時代が違うって理解させられる」


『おばあちゃんじゃないもん!』


『ばばあ!』


『言ってはならない事を……!』


 脳内で喧嘩を始める二人の事はさておき、軽くアレクサンドリアと交渉した場合に関する勝率を計算する。まず間違いなく此方の要求は通るだろう。それに関しては必ずと言って良い。何故ならアレクサンドリアの周囲の部下は、そのほとんどがギルドや傭兵から引き抜いた強者達だからだ。極論、金でどうにかなる連中は金で補充すれば良い。アレクサンドリアが装着しているアクセサリの一つでも売れば、雇うだけの金額を入手する事が出来るだろう。彼女もそれぐらいは予想に入れてくるだろう。重用なのはその後の話だ。一体アレクサンドリアはその後の部分についてどこまで話を入れるつもりなのだろうか、という事だ。


 ……難しい。やはり交渉とかはキャロライナみたいな頭の良い奴に任せたい。


「思いつくのはそう難しくはないんだよなぁ、難しいのはその思い付きを言葉として、興味を持つ様に放つって事で」


「頼むよー、頼るしかないんだからー」


「話術はお前の担当だろ!! 喋ろよ!!」


「か、考えるのは苦手だから」


 そこで声を震わせてどうするんだよ。寧ろ指導者が頭を使えなきゃどうするんだ、と。まぁ、エドガー自身は皇帝になる気がないのは眼に見えている。おそらく、全てを終わらせたらアレクサンドリアか、或いはまともな兄弟のどれかに皇帝の座を譲るのだろうと思っている。実際、それが帝国を統治する上では一番当たり障りがないんじゃないかと自分も思っている。


「とりあえず交渉内容はこれで決定かなぁ? あとは他の皆の頑張り次第か……どうなってんだろ」


「確かトモが生き残りの中から空中城内で戦って即死しない面子を選抜しているよ。最低限上位スキルを習得していて、メインの能力値が60超えていないと参加すらできないんだっけ? これだけでもかなり人数が制限されてくるけど、対十三将を想定するとなってくると更に面倒になってくるなぁ」


 十三将。全部で五人ほど減っているが、それでもまだ半数以上生きている。それに十三将で最強と言われている二人、カリウス、そしてロベルナがまだ生きている事を考慮すると、まだまだ盤石と言っても問題ないだろう。帝国十三将最強の二人組、彼らに関する資料を思い出す。当たり前だが、有名人だ。有名であればあるほど、その戦闘方法や手段は記録として残されるし、調べやすくなる。


 まず最初にカリウスだ。純粋な武力と暴力における最強。≪天賦の才≫を保有し、尚且つそれを極限まで鍛え上げ、”一切の流派や形に染まる事がなかった暴力”がカリウスになる。人間という名前の魔物。それが一番近いと言われている。その攻撃手段は実にシンプルで、何でもやる。召喚も、格闘も、剣術も、魔法も、戦闘に関する行動であれば選ぶ事なく何でもやり遂げる。故に調べる事や対策する事そのものが不可能である。その実力も他の十三将二、三人分、或いは三、四人分は存在する。そして十三将一人一人が一騎当千の化け物である事を考えると、もはやその実力がどうにもならないと言われているのは良く理解できる事だ。王国における最強の武人、”武神”の称号を得た三人に匹敵する実力を保有していると言われているのは帝国内ではカリウスのみになる。


 なお皇族や王族は完全にジャンル違いなので話にならない。


 そして二人め、ロベルナ―――この人物はネクロマンサーになる。王国で戦ったアレとは比較にならない、”質”タイプのネクロマンサー。


 ロベルナは死んだ十三将の魂を使役する。


 単純にして凶悪。死者の魂を使役するという外観は悪いが、ロベルナが使役している魂はジャックのとは違い、ロベルナと契約し、死後、帝国の為に戦う事を誓った戦士の魂だ。故に、単純にロベルナは十三将という戦力を保持している。勿論、それにデメリットがない訳じゃない。それだけの強者を召喚するのに必要な手順や制約、そして消費魔力を考えると全てが召喚できる訳ではない。精々同時に三人や四人、しかしそれぞれが一騎当千の猛者をそうやって自由に入れ替えながら戦えることを考えると、恐ろしい程までの実力が発揮できるという事は理解できる。なおセオリーは術者であるロベルナを最初に殺す事だが、


 魔法使いが近接戦出来ないのは聖国ぐらいである。十三将クラスとなると、近接戦闘もかなり高いレベルで出来ていると考えた方がいいだろう。


 この二人以外の十三将であれば一対三という状況にさえ持ち込めれば殺せる自信がある。いや、殺せなくてはならない。しかしこの二人が相手となった場合、


 戦闘せずに、壁となって、囮となって時間を稼ぐ仲間が必要になる。そういうレベルの相手だ。十人や百人単位ではどうしようもなく、圧倒的数の暴力で殺しに行くのが正解の様なレベルだ。暴力は更なる暴力によって駆逐できる―――それを用意できるなら、という言葉が付くのだが。


 まぁ、今の環境だと”称号持ち”が出現した場合、二人で一人抑え込む、という当たりが限界だ。


 ―――今回の作戦は、エドガーを皇帝の所へと送り、一撃叩き込ませるのが目的だ。


 可能であればそのまま皇帝を殺害し、内乱を終結、王国との戦争も止める。それが理想だ。だが理想だけでは上手く行かない。常に最悪を想定して動かなくてはならない。だから、場合によってはエドガーだけを皇帝の所へと届ける、という事も考えなくてはならない。それはそれで中途半端だが目的達成だ、いや、しかし、


『もうほとんど自己満足と言って良い領域に入っているからね、今の貴方達の作戦というか状態は。でもお姉さん、自分の目的の為に馬鹿を本気でやる子達はだぁーい好きよ? 本気の馬鹿程愛おしいものもないわ』


 カルマの言う通り、今は完全に自己満足で動いているようなものだ。


 ―――常識的に考えて、この状況から戦況をひっくり返す事は不可能だ。


 それこそ直接皇帝vs国王、戦争の結末は俺達の勝敗で決めようぜ! 的な頭のおかしい展開が始まらない限り。カルマの昔話というか記憶を見ている限り、昔は暗殺して国を滅ぼすのが主流だったらしいが、現代でそんな手段に出る事はないと思う。


 ないと思いたい。


 流石の王国でもそこまで気が狂っていないと思いたい。


 一応リーザに聞いておこう。


「ま、皇帝の顔面にボスの拳を届けるってのは俺達が意地でも通してやんよ。もうここまで来たら徹底的にやらないと―――というか一回は想定外の事態に慌てるツラを見ないと気が収まらねぇ。あと個人的ん空中城のデザインがかっこいいから地に落としたい」


「完全に犯罪者の考え方」


『でもでも、ああいうデカくて浮かんでるものを地上に落とすのって楽しいわよね? あと苦労して積み上げたものを壊す瞬間とかちょと背筋がゾクゾクってしてエクスタシー感じないかしら?』


 解らなくもない。苦労してきた分、それを壊す事に対する背徳感が存在する。誰かが苦労して作り上げたものを一瞬で崩壊させる―――確かに物凄くて楽しそうだ。


『でしょでしょ?』


 ただ邪悪である事は間違いがないのでNGで。


『あぁん』


 完全にカルマに体内を間借りされている事に慣れてしまったなぁ、とどこか悲しく思いながらも、ホットココアを飲み終わる。暖かい液体が体内に染み渡り、そして活力で満たした所で良し、と言葉を吐いkながらベンチから立ち上がる。


「飲み終わって元気が出たし、そろそろ交渉再開すっか」


「え、もう?」


「ちっさい暴君だってアレで終わりだと一切思ってないだろ。寧ろアレで一回突っぱねて、此方の方が立場が上だ、って感じに示したかったんじゃねぇか? まぁ、それはこの先話しあえば解って来る事だろう。とりあえず、時間が足りないからできる事からサクサクと終わらせよう」


「ういっす。まぁ、頑張るっきゃないか」


 そうだな、とエドガーに答えながら再び、アレクサンドリアのテントへと向かって移動を開始する。


 レジスタンスでの時間も、終わりに近づいてきているなぁ、と思いつつ。

 というわけで軽い交渉フェイズ。情報整理とかを含めて、作戦前のパートはおそらく次話で最後。


 それが終わったらいよいよお待ちかね、血戦ですよ。果たして、NPC側は何人死ぬのかなぁ。

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