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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-血戦編
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五十六話 終わりから始める

 足取りは重くても、止まる事はない。一度折れる事を知った心は次に折れる事ができない。誰もが挫折を味わっている人生、経験して乗り越えたのなら、所詮その程度の事。もう膝を折る事はないのだ。だから全員で再び離れた位置へと移動し、そこから転移アイテムを消費し、穏健派レジスタンスの拠点へと戻ってくる。拠点から少々離れた位置に転移しても、拠点から立ち上る生活の煙が、拠点が健在である事を証明していた。その事にふと、安堵を覚えている自分がいた。あぁ、そういえば過激派が壊滅した、なんて言葉を聞いていたのだ。そりゃあ不安になるに違いない。


 なぜなら、過激派はその本体だけではなく、アジトや拠点までが同時襲撃されたのだから。その結果、生き残ったのは僅か数名。それを生き残ったプレイヤーの一人が情報として掲示板に書き込んだ。隠すメリットが一切存在しない情報である為、愚痴半分に掲示板に叩きつけられていた。過激派のトップである”姫”と、そしてその護衛数人を残して過激派が全滅したと。


 まぁ、十三将クラスが襲撃したのだ、これは当たり前と言える部類だろう。それに三人ほど道連れに出来たと考えれば、かなり健闘したほうではないかと思える。実際、此方も二人殺すのに壊滅したというのが事実だ。威張れる事実ではない。溜息をつきそうな結果になんとか堪えつつも、これからの事を相談すべき相手は一人、


 エドガー殿下、一人だ。


 歩きながら見えてくる拠点の様子を眺めていると、風に乗って拠点内の雰囲気が伝わってくる。遠巻きに感じるのは失望、そして嘆きの色だ。そう、今回の作戦では大量の仲間が死んだ。それも少し前まで一緒にご飯を食べ、生活していた仲間だ。ほんの少し前まで肩を組んで、歌って、酒を飲んで―――そんな風に同じ時を過ごした仲間が、もう二度と帰ってこない。その喪失感が哀しみを生み出す。しかし、それらとはまた別に、他の色を気配に感じていた。記憶と経験からそれがなんであるかを理解し、そして口から呟いた。


「……浮ついている?」


「みたいだな。良く解らないけど女の臭いを感じるぜ」


 ダイゴの言葉に一斉に全員がダイゴの方へと振り返る。その動作に一瞬だけダイゴがビビるかのように後ろへと下がるが、直ぐに足を止めて肩を振る。


「解り難い事かもしれないけどよ、娼館とか娼婦の所へと行こうとする男ってのにはな、独特の気配があるんだよ。浮ついてるってよりは”期待”って感じの気配がな。なんかそういう気配を感じるってだけの話だよ」


「娼婦狂いは格が違うなぁ」


「褒めんなよ」


 リーザの制裁ボディブローが決まったところで拠点の入口へと近づく。此方に漸く気付いた門番が、走りながら近づき、若干涙目ながら手を握る、手を振ってくる。


「おかえりなさい! 良くぞご無事に戻ってきました! 壊滅したと、そして足止めに残ったと聞いた時はもう……!」


「そういう言葉は良い。それよりも一体何が起きている、この気配は何だ」


 キャロライナの言葉にハッ、と表情を作った門番が背筋を伸ばし、敬礼をしながら口を開いた。


「―――アレクサンドリア皇女殿下が僅かな手勢と共に訪問しております」



                  ◆



 ―――アレクサンドリア皇女。それこそがエドガーの妹であり、レジスタンス過激派のリーダー。その血はエドガーよりも遥かに濃く、父である皇帝の素質を色濃く受け継いでいると言われている。その証拠に、凄まじいカリスマと采配で過激派レジスタンスを指揮し、今日という日まで組織を維持してきた。その最大の不幸は帝国が戦争という事に向けて、レジスタンスの排除を本格的に始めた事だろう。間違いなくそれはレジスタンスという組織の崩壊を進める一因だったに違いない。


「だけどな、事実は違うんだよなぁ、これが。別にクソ親父はレジスタンスが邪魔だとか思ってないんだよ。あの頭の中がイカレてるクソ親父はな、こう考えているんだよ”お、最近息子や娘と遊んでやれていないな、じゃあそろそろその人間強度テストしよっか”って程度にしか考えてないんだよ。それに十三将が死のうが一切関係ないんだよなぁ、どうせ十三将ってカリウスとロベルナ以外は全員オマケの様なもんだし。まぁ、つまりホントご苦労様。私もお前らもな。クソ親父のおもちゃでしかなかったのさ所詮は」


 そう言って、四つん這いのエドガーの上に座る少女の姿があった。


 場所は穏健派レジスタンス地下拠点、何時もの会議室に、アレクサンドリア皇女がいるという話を聞いて全員で真っ先に向かった会議室、そこで待ち受けていたのは四つん這いでアレクサンドリアらしき少女の椅子になっている穏健派レジスタンスのリーダーの姿だった。白いドレスに銀髪を持つ、十四、十五程の少女は足を組んでエドガーの背の上に座っており、傲岸不遜な表情を浮かべていた。成程、確かに、とは思う。王者に相応しい風格という物をこの少女は兼ね備えている。エドガーには一切存在しないものだ。


 と、会議室の端へと視線を向ければ、そこでは空気に成ろうと頑張っているレストの姿があった。片目で視線を向けると、小さく手を持ち上げて手を振り返してくる。どうやら元気にやっているらしい。少なくとも知っている顔が死んでいないのは良い事だった。正面の少女、アレクサンドリアに対して即座にキャロライナが臣下の礼を取る。


「アレクサンドリア皇女殿下、ご無事でしたか」


「あぁ、クソ親父がそろそろ吹っかけてきそうな気配がしたから、一番重要な戦力だけ引き抜いて逃げてきたよ。クソ親父の性格的に考えてそろそろかな? とか思ってたらマジで来やがったわ。まぁ、本当は二十人ぐらいいたんだけど、逃亡ルートにロベルナの奴が待ち構えていたせいで八人までに減っちまったよ。クソが、スカウトするのと信用を勝ち取るのに一体どれだけ苦労したと思ってんだよあの老害は!」


「心中お察しします。あ、殿下、水をお持ちしましょうか」


「最初のリアクションそれかよォ!」


 そう叫ぶエドガーは四つん這いの状態から一切動かないので、白い眼を向けられるだけだった。


「待てよお前ら。もしかして俺がちょっとした趣味でこんな事をやっていると思っているのか? ―――残念だったな、趣味だよ!」


「はい、解散! 今日は寝て明日集合で!」


 意外にもそう言ったのはトモだった。その表情を見れば、やっぱり疲れてたんだろうなぁ、と言うのが良く解る。若干青筋を浮かべている所がポイントかもしれない。そんな訳で手を叩くトモの動きに合わせて、全員が息を抜きながら出口へと向かって歩き始める。


「待て! 待って! 半分冗談だから待って!」


 半分だけかよ、という呟きは直ぐに消えた。エドガーはそのままだが、小さい暴君は足を組んだままエドガーの上に座り、腕を組み、そして引き止める様な気配を放っていたからだ。その後方へと視線を向ければ両手を合わせて軽く頭を下げるレストの姿が見える。どうやらレストはアレで、仕事には結構熱心というかちゃんとやるタイプらしい。


「まぁ、つまりはなんだ―――こっちが壊滅したから合流しようとしたらこっちも壊滅してたとかな、ホント笑えないわ。しかもそれでいてこっちのアジトを襲わないとかホントいい趣味してるよな。これって”合流して頑張って、ギリギリ再建できる背景は残しておくから”って事だろ? っつーわけで不本意ながら逃げる場所はここしかないし、目的を果たす為にはここに頼るしかない。だからここからレジスタンスを立て直すぞ。っつーわけでだ―――」


 そう言って、場を仕切り始めようとするアレクサンドリアの言葉を遮る様に、キャロライナが口を開く。


「失礼ですがアレクサンドリア様、私達はエドガー殿下の仲間であり、アレクサンドリア様の部下ではありません。殿下がそう命令なされたのであれば従いましょう。ですが、私達は貴方の命令に直接従う事はありえません。ですので何かを成したいのであれば、先に殿下を通してください」


 キャロライナのその言葉にめんどくさげにアレクサンドリアが言葉を吐く。


「あぁ? まぁ、確かにスジとしちゃそれが正しいけどよ……ぶっちゃけ面倒なんだよなぁ、忠義とかルールとか。こっちの方が優秀なのになぜか人望は昔から兄の方が上だよな、家族の中では味噌っかすの様な存在なのによ。まぁ、尻尾を振るだけの犬じゃないって解っただけ満足しておくか。あー……アレだ。とりあえず過激派っていうかもう残党しかいねぇけどな、合流するわ。しばらく休んだりなんかでおとなしくしてるから用事があったらパシリに―――」


 そこでレストを指差す。


「―――に通しておけ。んじゃあな」


「俺、一応暗殺者と殺人鬼として雇われたんだけどなぁ……」


 エドガーの背から降りたアレクサンドリアは背後にレストを連れ、会議室の外へと去って行く。その言動、行動、そして巻き起こした出来事はまるで嵐の様だった。突然登場し、散々好き勝手言って動き回って、それで一人で納得して満足して去って行った。本当にいったい何だったのだろう、彼女は。とりあえず次見つけたらアレは態度を修正しておいた方がいい気がする。あと言葉遣い。


 そんな事を思っている間に、エドガーがまるでいい仕事をしたかのように立ち上がりながら額の汗をぬぐっていた。お前その表情していてもさっきまで見せていた無様な姿は一切消えないから、とは言いたいとこだったが、黙っておく事にする。おそらく、レジスタンス壊滅の件で誰よりも心を痛めているのは、戦闘に参加するだけの実力さえなく、指揮するだけの頭もなく、ここで待っている事しか出来ないエドガーなのだろうから。


 まぁ、その事を考えると、少しは手心を加えたくなる。


『容赦はしないけどね!』


『きちくー』


 人の中でミリアティーナにおかしな言葉を教えるのは止めなさい。変に育つから。


 ともあれ、軽く呼吸を整えて心を落ち着け、壁に寄り掛かる形で視線をエドガーへと向ける。部屋にいる全員の視線を受けているエドガーは少しだけ言葉に詰まる様な仕草を見せるも、頭の裏を掻く。


「あー……その……遅れちゃったけどお帰り。いっぱい逝っちまったけど、それでも無事に帰ってきてくれて嬉しかったよ」


「何キャラじゃねぇこと言ってるんだこいつ」


「辛辣ゥ!」


「そりゃあ戦ってるんだから何時か死ぬのは当たり前だろ。死んだら死んだで弔う事とその死にどうやって報いるかを考えるのが重要だって事で。ウダウダグダグダ考えている暇があったらその分、次はどうやって勝利するか、どうやって確殺するのか、その方法を考えて速やかに実行するだけだよ。浸るのは別にいいけど、それでパフォーマンス落とすなよ、って話だけどな」


「王国って怖い」


 まぁ、王国の凄まじい考え方はともあれ、リーザの考え方は賛同できる。アレコレ言ってうだうだしているよりも、次の一手を考えて、そしてその行動で仲間の死に報いるというのが、一番自分達、というか今までの行いに対して報いる行動となってくる。ただ、結局大事になってくるのは総大将であるエドガーの気持ちだ。それを言葉にしてキャロライナが伝える。


「我々は戦いますよ、殿下がまだ戦いを挑むというのであれば、即座にでも。もういい、と言うのであればこれでレジスタンスは終了です。我々は殿下の下に集い、そして戦ってきました。アレクサンドリア皇女殿下ではありません。カリスマも、戦闘力も、賢さもない、そんな殿下の為に戦おうと思ったのです。数人はたぶん、アレクサンドリア皇女殿下に勧誘され、離れてしまうでしょうが、ここにいる我々は、まだ負けたつもりはありません―――命令さえあれば即座に動けます」


 その言葉と共に、エドガーを除いた全員が闘志を見せる。そう、このまま負けるつもりなんて一切ないのだ。このままにしておくつもりはない。だが形としてはエドガーとして従っている。


 いや、違う。


 この無能にほどなく近い馬鹿がリーダーだからこそ、今までこの穏健派レジスタンスは存在したのだ。手段を選ぶとか言う馬鹿馬鹿しい連中。この男以外がトップだったらもっと早い内に手段を選ばなくなっていたかもしれない。単純に、戦闘員が大幅に潰れて壊滅状態なのに、それでも逃げ出す者がいないのはきっと、


 彼の不思議な人望なのだろう。自分も、こいつの為なら、とは思えている。


『いるのよねー、昔から不思議と人望のある人って。そういう人に限って能力はないけど、能力のある人間を惹きつけるというか、なんか好かれるのよね。良く解んないけど好感度が無条件でプラスでもされているのかしら。システム的に考えて』


 ニコポとナデポが存在する……? その割にはエドガーに対するボディタッチはタッチというか物理的なチェックな感じで非常にセメントになっている気もするのだが、そこらへんはどうなのだろう? まぁ、それはそれとして―――エドガーの表情を見れば、彼も彼でこのまま終わらせるつもりはない、と言うのが伝わってくる。初めて見る、獰猛な肉食獣の様な笑みに少し驚きつつも、エドガーは全員の視線を受け、言い返した。


「じゃあ、ちょっと親父の顔面に一発叩き込もう。勝つのはもう無理でも、それぐらいなら出来るよな」


 エドガーの言っている事は割とむちゃくちゃだ。今のレジスタンスにそれだけの力が残っているとは思えない。それでも、組織のボスがやる、と言ったのだ。だったらそれを実行する構成員の仕事であり、役目だ。不本意ながら、今の自分は穏健派レジスタンスの一員なのだ。だとしたらエドガーはこの時点では自分のボス、逆らう理由は存在しない。


『たのしそー』


『子供ねー』


「と、いうわけでだ! レジスタンスはこのまま続行という方向で進めるぞ! もう遅いからな! 言われても絶対やめねーからな、レジスタンス! 全裸でハニトラしたって止めないからな! こう見えてハニトラ対策訓練受けてるからな! あ、すいません、真面目に喋ります。ですからそこでフレイヤ召喚しようとするのホント止めてください。ガッツポーズ決めた瞬間には事後になっているので、ホント勘弁してください」


「とりあえず殿下の懇願と決意に関しては放っておいて―――実際の所、この状況でどうにかする手段は存在するのか?」


 キャロライナの言葉に全員が一斉に黙る。レジスタンスを継続するのは良いが、それでも問題はこの先、どうするかという事にある。


『そうねぇ、少数精鋭という形で遂行できる任務であれば間違いなく問題のない面子と人数なのよね。お姉さんも基本的にめんどくさい魔王とかの相手は夜中忍び込んで暗殺という手段を取ってたし。お姉さん的にはやっぱり、ちょっと離れた場所でテロりながら暗殺で数を削るって言うのがいいと思うわよ? 正面から勝負を挑むのは馬鹿のやる事だしね。あー……でも空中城に敵将がいたら暗殺もできないか。面倒な構造ねぇ』


 カルマの物騒な話を脳内で留めて置きつつ、意見を零す室内の仲間へと視線を向ける。


「うーん、帝国内部に散っているウチの密偵や草を集めようかしら? 集めれば多分数百人ぐらい余裕で集まるだろうし。あー、でも戦争始めたら行動開始するし邪魔になっちゃうか。ごめん、今のなしで」


「ここは市民の反戦感情を煽るのはどうかな? フランス革命等を見れば支配者に対する不満が高まった時、レジスタンスの垣根を超えて民衆が立ち上がり、一斉に支配者層へと刃を向けるろいう事態が発生したじゃないか。……あぁ、そっか、その為に見張りの兵士とかいるんだ。そうだよね、そこらへん上手くガス抜きさせてるから爆発してないんで存続しているんだ、帝国……。こっちも今のはなしで」


 リーザとトモが提案しようとした事を途中で穴に気付き、否定する。まぁ、そう簡単に案が浮かぶとは思えない。何せ、作戦の基本とは、


『数よねー。どんな時代だって戦術や戦略の基本となるのは数よ、数。数を揃えればとれる手段は増えてくる。そのまま力に直結する、やっぱり数は大事よ。昔にはね、一撃で千人殺す事ができるぞ、って自慢する魔王がいたのよ。まぁ、実際そうやってバッサバッサ殺してたんだけどね? 結局国家間で連合組んで数十万からの兵士や傭兵を投入した面制圧で一気に圧殺したんだけどね。千人殺されたら転移魔術で殺された部分を埋める様に即座に投入、悪夢の物量戦だったわね』


 もはや別ゲーとしか表現する事の出来ない話がそこにあった。ともあれ、そんな風に頭を悩ませていると、あぁ、そっか、とダイゴが呟く。


「馬鹿みてぇ。こっちの尺度で考えすぎだろ。もうちょっと柔軟になれよ俺。スキルと技術と人員が揃ってるなら出来るわ」


「ん? どういう事だい?」


 ダイゴの言葉に全員が視線を向ける。その視線を受けたダイゴが自信満々に胸を張る。そして悪戯小僧が浮かべる様な笑みを浮かべ、言い放つ。


「―――俺にいい考えがある」



                  ◆



 ダイゴの立案した作戦、その内容は”気が狂っている”としか表現の出来ない内容だった。それはおそらくキャロライナやエドガー、リーザでは絶対に考える事の出来ない概念の話だ。これは現代という社会で教育を受けた自分達だからこそ理解し、思いつく事の出来る作戦だった。キャロライナやリーザ、エドガーは半信半疑という様子だったが、誰よりも教育でその概念を教わった自分、トモ、そしてダイゴは可能であると良く理解している。


「この作戦なら間違いなく空中城へと乗り込む事に成功する事ができる。まぁ、幾つか修正しなきゃいけねぇ点があるのは確かだし、あのリトルプリンセス自身はいらねぇけど、部下の方を借りる必要はある。だけどここにいる面子の能力を考えるまず間違いなく可能な筈だ」


 自信満々にそれを言ってのけるダイゴの態度を改めて凄いと思ってしまう。この男、なんだかこっちに来てから妙に世界観に適合しているというか、いつも以上に冴えている様な部分がある。まぁ、こういう提案が出てくる以上、それはそれでいいのだが、”なんだかなぁ”と思ってしまう自分もいる。リアルを知っているだけに、この世界での差異になんというか、微妙にもにょるところがある。そう大きな事じゃないのだが。まぁいいや、後で殴ろう。そう決めたところで、


「―――ダイゴの作戦で現在必要としているものを軽く纏めよう。まずは大量の魔力。これに関しては作戦参加メンバーのものをなるべく使いたくないから、どっか別の場所から調達して来る必要がある。俺が思いつくのは魔力のバッテリー、或いは戦闘にしていない人の魔力を使う事。んでもう一つ、小さい暴君の部下を使用する許可だな。乗り込める数が多ければ多い程良いに決まっている。だから、あの皇女から部下を借りる許可。まぁ、そのまま黄泉路へ旅立っちゃう可能性もあるんだけどな」


「現実は厳しい」


「ハハッ、聖国にいたころとは死生観が全く違う……!」


 トモが困惑するのも仕方がない。聖国の戦闘力や死生観と言うのは”ライトファンタジー”風なのだ。ちょっとお城や教会の奥を覗き込めば”お帰りなさいダークファンタジー”な状況が繰り広げられているらしいが、全体的に一番真っ当なファンタジーをやっているのは聖国らしい。盗賊を殺す時は出入り口を塞いで放火し、奇襲して殺すのが基本とか、魔物の巣は入口を埋めたり水を流し込んで窒息や溺死させるのが当たり前なのはあくまでも帝国や王国だけらしい。そう、ステータス60台ある相手を二人掛かりとはいえ、40台で殺す事が可能なのは王国だけなのだ。


 相変わらず他の国と比べると狂っている王国の戦闘力。リーザのご先祖様ってもしかして鬼かなんかではないのだろうか。


 まぁ、聖国も聖国で色々めんどくさいのだが、王国や帝国程ではない。帝国の様に凄まじいエネミーの数がオートでトレインしながら接近して来るような事はなく、王国の様に殺されたら環境に適応する様に進化して来るような事もない。人と人のつながりが面倒な国であって、ああいう環境で殺しに来るような場所ではないのだ。それでも邪龍が封印されていたり、魔王が存在していたりと、割とフリーダムにやっているものだと思う。


 なお戦闘力が帝国や王国に匹敵していないのに、今も侵略されずに残っているのは相応の理由が存在するが、それは今は関係ないので思い出すのは止めておく事とする。


「―――なおこの作戦が一度始まれば”戻り”は存在しない。空中城から脱出する事はほぼ不可能であって、一方通行な自殺でしかない。だけどこれが達成できた暁には、おそらく歴史で初めて、空中城に突入成功した稀代のキチガイって事で永遠に名が教科書に残るぜ」


「やべぇ、ワクワクしてきた」


「教科書の中に”稀代のキチガイ、エドガー”って残るのか……アリだな」


「教科書に名を残すってのは憧れるなぁ」


「これだから男どもは」


「まぁ、希望が見えてきたのだ、水を差す必要はなかろう」


 女どもが煩い。今、男子たちはロマンと無茶という二つの男らしさの前に心を結束させているのだ、そこに茶々を入れないでほしい。


 じゃあ、とそこでリーザが口を開く。


「男子たちの誰かに交渉を任せようかな?」


「こっち見るんじゃねぇよ!! お前がやれよ!」


「はぁ!? 俺ボスだし! 偉いから命令する事しかしねーのよ! お前ら部下だろ! やって来いよ!!」


「何言ってんの偉い奴から交渉するのが当たり前だろ!?」


「お前が作戦の発案者だろ!? お前が行って来いよ!!」


「馬鹿言うなよ! 俺の交渉能力があると思ってるのかよ勇者くぅん! 勇者くぅん! 煽る為だけに二回言いました」


「お前ェ!!」


 ―――殴り合いを開始し、真っ先にエドガーを床に沈める。残った三人で殴りあいながら、女どもの声が聞こえる。


「男の友情なんて所詮こんなものね」


「何故壊した」


 妙に感慨深そうなリーザと困惑するキャロライナの声が鍵室に響きつつも、


 過激派と合流した穏健派レジスタンス、


 その最後の挑戦が始まる。

 果たしてダイゴくんの作戦を見抜ける人はいるのだろうか。


 というわけで過激派と合流、リトル暴君が出現しましたがこのタイミングだからちょい役じゃねーの? と思いつつ帝国編も最終章へ。後がないと取り繕う必要もないので、はっちゃけてるなぁ、と思いつつ、さぁ気合いれっぞな感じで。

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