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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-革命軍編
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五十五話 勝利と敗北の代償

 ―――虚無式四刀聖剣グランドクロス・オブ・全裸。


 それは間違いなく四刀流の命を対価に発動する一発ネタであり、そして同時に大量の破壊を無差別に巻き起こす、最終兵器でもあった。虚無化の解放、≪聖剣解放≫≪生命転換≫に攻撃力強化スキル、それを全て注ぎこみ、破壊力だけを追求して自爆という形で収束、発散させる。それによって浄化と破壊と虚無化の光が四本の聖剣分発動され、凄まじい破壊と消滅を次の瞬間には生み出す。自爆、そう行動を捉えるなら馬鹿な行動だと思うかもしれない。なにせ、その規模が規模だ。全力解放を暴走を交えて行っている。


 一番最初に消えるのが服、という点である意味すさまじい器用さを披露しているが、


 仲間を巻き込むほどの爆発、それは間違いなく馬鹿と言える行動だろう。


 ただ、この状況に置いて、それは間違いなく生き残るために最善の状況だった。


 まず始めに―――ジャックが逃亡した。


「あばよぉ―――! 馬鹿には付き合わないのが一番さぁぁ―――!」


 奇行よりもまず、ジャックが見たのは虚無属性の波動と、そして聖剣の神聖属性の浄化能力だった。他の十三将だったらまだ耐えられるかもしれない。だが、霊体という属性を保有しているジャックの存在は聖剣を相手するには最悪すぎる。それが四本同時に放出となると、防御などは意味のないレベルで浄化される。故に四本の聖剣を器用に握る男が上に上がったのを目撃した瞬間からジャックの迷いのない逃亡が開始した。これが最初の出来事だった。


 これが軍事基地における戦闘の最後の流れ、その最初の動きとなった。


 ジャックの迷いのない逃亡によって一番得をするのは誰でもない、ジャックと戦っていたダイゴとトモの存在になる。もはや追いつける事のない速度で逃亡を開始したジャックを追撃するのは逃げ出した瞬間に諦めている。その判断力と経験が二人にあり、その姿が自由となる事で、他の二組へと合流する事が可能となる。


 聖剣と虚無が輝き、破壊が生まれ、超規模の自爆が開始する。


 ゼッケンバルトとヴァレリーが戦闘を放棄する。


 ―――そして、虚無の破壊を消し去る為の行動を開始する。


 忘れてはならない。戦場は結局は軍事基地であり、飛行船なんてものを整備する他にも、基地としての機能を維持する為に数百人、下手すれば数千人の戦闘員と”非戦闘員”が出撃待機の状態で存在している。戦時前という事もあり、今、基地に詰めている人の数は多く、だからこそ、十三将として、帝国守護者として、引く事ができない。元から十三将の保有するスキル、≪帝国守護者≫と≪愛国者≫は、


 帝国の民を、その生活を守ろうとする矜持から生まれたスキルだ。


 四刀流の生み出した自爆は、それは基地全土を味方ごと巻き込む最悪の規模となる。その爆破に対して、ゼッケンバルトと、ヴァレリーは強制的に動くハメになる。ここで二人が見逃す事があれば、彼、彼女の前で戦闘に巻き込まれて死ぬ者が大勢いる。覚悟して戦っているのは良い。だがエンジニアやコック、働きに来ただけで、そういう覚悟を持っていない者はどうする? これが王国だったら民が何時でも戦い、死ぬ覚悟を抱いているから無視し、敵の迎撃などに移るかもしれないし、守る事もありだ。選択肢が広がる。だが帝国の教育は王国程武に狂ってはいない。故に、守らなくてはいけない。十三将としての義務と矜持が、彼らの動きを強制的に突き動かした。これを見過ごせば帝国の守護者として、失格、自殺すらしてもかまわないのだから。


 勿論、それを四刀流は狙ったわけではない。純粋に戦闘を観察し、目立ち、ネタになり、そして有効になる攻撃手段を考えた結果、この方法になっただけであって、仲間を巻き込むのだってそうしなければ勝てないという考えから来るものだ―――最悪、最強格の二人であれば見てから逃げられる、とも計算して行われている。


 しかしその予測は外れ、真っ先にジャックは逃亡し、そしてゼッケンバルトとヴァレリーが迎撃に入る。


 ―――それを見過ごす程、愚かな存在はいない。


 故にジャックの逃亡、ゼッケンバルトとヴァレリーの迎撃から続く様に、聖剣の解放がまた別の場所、トモから発生する。空間を閃光と浄化で満たす必殺の大砲とも表現できる一撃は、広範囲を光で染めて消し去る。それがヴァレリーとゼッケンバルトを横から消し飛ばさんと飛来し、氷結しながら光が即死する。それに合わせる様に飛来する刀が真っ直ぐゼッケンバルトの顔面に突き刺さり、その顔を粉砕する。


 それでも二人の動きは止まらず、


 そして一打目の本命が発生する。


「―――ハッ、殺った」


 ヴァレリーが背を向けた瞬間に、時間を与えられたリーザが今までにない程の力を籠め、生命力を燃焼させ、本当の意味で完全燃焼する。もはや光が燃え上っていると言える状態のオーラを纏い、壁を蹴り、空を蹴り、一瞬でヴァレリーに到達する。それがヴァレリーが即座に迎撃の体勢に入るが、溜めと落ち着く時間を与えられた分、瞬間的にリーザがヴァレリーを上回り、


 自身の拳を砕く様な形でヴァレリーを殴り飛ばし、建造物を倒壊させる。


 その瞬間には虚無と聖剣の光に到達したゼッケンバルトが空間を凍結させ始めるが、


 同時に、準備を完了させたフォウルとキャロライナの合成された魔法陣がたった一つの存在を召喚する。そうやって再び、何時かぶりに召喚された褐色の王は時間という概念を容易く踏みにじりながら片手で太陽弓を握り、構え、そして被害を殺そうとするゼッケンバルトへと視線を向ける。


「容易いな」


 そう言って魔王殺しの一撃ブラフマーストラ・サルンガが放たれる。超高熱の破壊の一矢。それが空間を焼きつかせながら直進し、一瞬でゼッケンバルトの防御や反応を超えて命中する。その攻撃は一瞬でゼッケンバルトを飲み込み、そしてその存在自体を消し去る為に蒸発させる。理想王ラーマ。その魔王殺しの逸話はあまりにも有名である。


 複数の腕と頭を持つ魔王ラーヴァナは苦行の果てに神の干渉を否定し、不死性を手にする事ができた。それで数多の神々を相手に戦い、蹂躙してきた魔王ラーヴァナを、理想王ラーマは太陽弓サルンガで奥義ブラフマーストラを放ち、たった一撃でその不死性ごと殺した。


 故に、神話は再現される。


 ゼッケンバルトの保有する能力、信念、覚悟、思いで、願い、行動を無視してゼッケンバルトが即死する。ゼッケンバルトが守護の為に生み出した空間凍結が自爆を一時的に凍結するが、それは長くはもたない。数秒で崩れ去る運命。これこそが脱出の最終チャンス。故に判断は素早く、フォウルが両手で印を組み、召喚術を一秒にも満たない時間で完成させる。


「朱―――」


 呼び出した直後、


 戦闘中、常に機会を狙っていた存在が、漸く斬撃を走らせた。


 十三将がいなくなって、心に余裕ができた瞬間、逃げるという瞬間、召喚するというタイミング、全員の呼吸のリズムが揃った、この瞬間、


 最初から戦闘に参加せず、殺す機会だけをずっと狙っていた暗殺者が動く。意識と呼吸の間、という永遠にも思える刹那を歩く様に駆け抜け、片手で握るナイフをゆっくりと、フォウルの背後へと回り込み、そして首に手を回す様にして、心臓目掛けて一直線に刃を振り降ろす。タイミングとしては絶対にはずす事の出来ない至高の瞬間、絶対に殺せるというタイミング、


 鋭い斬撃がナイフを弾いた。



                  ◆



「―――雀ゥ!」


 感覚が体に戻ってくるのを感じながら、思考が高速で回転する。十三将を一人殺すまでは良い。あと一人、ヴァレリー、アレは感じからしてまだ生きている。捕虜に取れれば最善だろうが、そんな余裕はない。それよりも四刀流全裸爆弾が爆発寸前の状態になっている。おそらく完全開放されるまでには十秒もいらない。寧ろゼッケンバルトという術者が死んでいるのにまだ効力が残っている事の方が恐ろしい。最初から彼が本気で戦っていたら、死んでいたかもしれない。


 本当に運が良かった。加速させる思考の世界の中で、そう考える。


『咄嗟に腕だけ借りたけど、限界が近いわよ』


 ―――解ってる……!


 切り払った拍子に視線、片目が背後へと向けられている。そこでナイフを切り払われ、膠着したような態勢でゆっくりと整える様に姿を戻すのは、あの金髪の暗殺者―――キメラ化したニグレドの存在だ。恐ろしい、本当に恐ろしい。彼女が戦場にいる事は最初から気付かなかった。殺される、その瞬間まで自分は一切察知する事ができなかった。生き残ったのはカルマが呼吸をわざと”外していた”こと、そして彼女が咄嗟に腕の制御を利用した事にある。おかげでギリギリ助かった。この状況で一対一で勝負すれば間違いなく勝てるし、抑え込む事も出来る。だがその場合、自分は必然的に基地に足止めされる。帰還する事ができなくなってしまう。


 見る。


 キメラ化されたニグレドはまるで別人の様な姿をしている。


 獅子の鬣の様に地面に届きそうなほど長い金髪。垂れている様な犬の耳に、上下でセパレートのツーピースドレス、その腹部分で繋がっておらず、露出しているタイプだ。背中も多分だが大きく開いている、上のパーツが胸を支える様なタイプであるため、おそらくそういう形になっているはずだ。青一色のツーピースドレスはその金色の髪に良く似合う。しかし、彼女の眼に映っているのは情欲の色だ。そう、情欲、発情している。


 彼女は嬉しそうに此方を眺め、発情しているのだ。クソが、と内心で吐き捨てる。それ以上その姿を見せるな、冒涜するな、と叫びたい。


 ―――我慢ならねぇな。


 殺意が胸の内を一色に塗りつぶさんとするのを、抑える声がある。


『ここで斬っても回収する余裕がないわよ』


 冷静な、カルマのその言葉に心の中で頷き、唇を噛み千切り、そして本来の時間に思考の加速を戻す。


「あぁぁぁぁぁ―――!! くそがぁ―――!!」


 空から降りて聞いた朱雀が一瞬で抱えられる仲間を、つまりは十三将の相手をしていた仲間達をその爪と嘴と背で回収し、一気に基地から逃げる様に逃亡する。飛び移った朱雀の背の上で、凄まじい速度で遠ざかって行く基地の姿を眺める。数秒間、そこから逃げ出す姿や絶望する姿を眺めていると、


 無色に歪曲し、閃光が生まれた。


 基地を中心に発生した光が虚無に飲まれて行く。無色の波動、あるいは色のない光とも言える者は基地をその中心から蝕んで行き、全てを消し去って行く。ゆっくりと消えて行くその光景を朱雀の背の上から眺め、噛み千切った唇から流れる血を吸い、そして吐き捨てる。


「……糞」


 敗北。それを認めるしかなかった。


 全裸が全裸聖剣アタックをしていなければ、それは完全敗北となっていた。



                  ◆



 そうやって基地の消滅から逃れ、一時間ほどが経過する。荒野の岩場に身を隠す様に、生き残った仲間達と座り、そして無言で時を過ごす。生きてはいる。それは間違いがない。だが大敗である事実は変わらない。十三将を一人、いや、破壊の規模からしておそらくヴァレリーも巻き込んで殺せたはずだ。二人、十三将を二人も殺せたことは快挙であるに違いない。帝国全体の戦闘力が激減をする意味でもある。ただ、彼らが誰かを守ろうとする姿勢を利用して殺した、という恰好は限りなくダサかった。


 結果として、やったことは過激派と同じ事なのだから。


 それでも、そうしなくては死んでいた。その事実がどうしようもなく心に重くのしかかる。言い訳はしない、してはいけない。生き残った以上、結果が全てであり、言い訳するのは殺した相手に対して失礼なのだから。それでももっぱらの心配は果たして、あのキメラニグレドは逃げ切れたのだろうか? という疑問だ。彼女のあの異常進化されている身体能力であれば、逃げ切れる様な気はする。


 とりあえず、口から言葉は出ない。誰もが黙っている。そういう時間は必要だった。


 だから誰もが黙り、何もしゃべらず、先程までの出来事とを整理しようとし、これから何が起きるのか、何をするべきなのかを冷静に考える。少なくとも、そうやって思考を動かし続ける事が最善であると理解できるからだ。だから軽く頭で整理する、今日、今、この状態へと繋がる流れを。一体何故、こんな状況になってしまったのか、と言うのを。


『ぶっちゃけると”何も悪くはなかった”というのが答えよ。そもそもこの作戦って急きょ内容を変更してたった数日で組んで実行した超電撃作戦じゃない? それを看破して事前に手を打っておくとかもはやただの知将を相手にしている訳じゃないわ。化け物よ化け物。私の時代にもいたわ、こういう奴。”なんとなく”で次の行動が解る奴とか、調べ過ぎた結果相手の気持ちを理解するに至った気持ちの悪い奴とか、極まったキワモノって奴よ。理論やら法則やらを無視して、自分好みの展開に運命を塗り替えるって感じの連中、英雄や勇者という存在になりがちだけど、こういう風に一国の王になられると物凄い厄介よね』


 カルマの時代にもしっかりといたらしい。しかし、確かにそうだ。この作戦が露見する可能性は存在しなかった。たとえアジトにスパイがいて、その存在に作戦がバレたとしても、その情報が帝都に届くまでには数日が必要となる。そしてその作戦の準備が整えられるまでもまた、数日という時間が伝達と配備で必要になる。リアルの現代の様に、電話という便利な装置が存在しない、最速でも竜か鳥に乗って飛行するしか手段がないのだ。だからバレる事はなかった。


 ただ、相手が此方の想定したものよりも遥かに化け物だった、という事だ。


 まぁ、最低限軍事基地と軍艦は潰せたのだろう。これで王国側の勝率が上昇したと考えれば―――考えなければ、やってられない。ここで得た何かがあると思わないと、とてもだがやってられそうにない。そう、今回の件、犠牲者があまりに多すぎる。敵にも、味方にも、その大半は犠牲者という言葉が連なる。


「……なぁ、今回、一体何人生き残ったか解るか?」


 その質問に数秒の沈黙の後で、キャロライナが答える。


「私達の同志は三十人足らずだ、私達は含めなければな。戦闘員が根こそぎ殺されてしまった、これではもはやレジスタンスに作戦継続能力はない、壊滅したとしか認める事ができないな」


「……糞! 俺がもっと早く聖剣を放っていれば!」


「たぶんぶっぱしてもあの時は回避されてたと今では思うけどな。俺も修練が足りねぇって事か。霊体殺しの方法をちっと勉強しておくか」


「あー……この手で直接殺せなかったのは残念だったけど、成長を感じさせる一戦だったわね。また十三将クラスと戦えればまだまだ成長できそうな感じはするのよね」


「ふむ、確かに成長は感じるな。やはり格上との死合いは研鑽を積む上では重要な事だな。鍛錬だけではどうしようもない修練の扉を開いてくれる」


「天賦の才組はホントどうしようもねぇな」


 キャロライナとリーザの業を感じ、皆で軽く笑う。と言っても、やはり、誰もが疲労と失敗を感じている為、少々笑いは弱い。それでもまだ、誰も心は折れていない。そう、今、この場で明確に心が折れている者はいなかった。それだけが真実だった。これだけ敗北しても、それでもまだ戦う事への意思はあった。それはそれぞれで違うかもしれないが、共通として”このままでは終わらせられない”という気持ちが何よりも存在しているのだ。それに、


 ニグレドの事もある。


 キメラ化したニグレドは本来の彼女の面影が欠片も見当たらない程に別人だ。背格好だって十五歳程だし、青で上下で別々のパーツに分かれているのツーピースドレスなんてニグレドだったら目立つから、と絶対着る事はなかった。犬耳に尻尾なんて生やしてしまって、今までにはなかったあざとさが物凄い勢いで上昇しているとしか考えられない。


 そう言えば胸はどうなんだろう。増えたのだろうか。もっと良く確認しておけば。いや、次回は斬るついでに触って確認しておこう。戦闘中の不慮の接触だから事故扱いだ。仕方がないね。


『えっちー』


『えっちー』


 健全な二十代児の反応なのでしょうがない。男からエロと煩悩への欲望を消せるとそもそも思っているのか。個人的には割と胸は大き目な方がタイプなので、そこらへん電波でも受信して大きめになってないだろうか。こう、強化キメラ実験的に。止めよう、これ位以上はカルマとミリアティーナの無言の視線が辛い。


 まぁ、そんな馬鹿な事を考えていると気力が戻って来た。


「しっかしアレだな、ホント四刀流に助けられたわ。アレがなかったら俺達今頃死んでるぜ」


「あぁ、でも徐々に全裸になって消えて行く姿に助けられたくなかった。今からでも憤死しそう」


「良く考えろよ。十三将は全裸に虚無られて死んだんだぞ。アレは一生消えない傷を負ったんだよ……」


「あぁ……」


 帝国十三将、死因は全裸。これはもはや守護者とか何かとか言っている場合じゃない。この汚名をどうにかして返上しないと一生の笑ものになる。こう考えると四刀流の登場と共に逃亡を迷う事無く開始したジャックの行動が一番正しかったと思わないでもない。実際、ここで一番被害が少なく済んだのはジャックの存在だけなのだから。死のうと、生き残ろうと、どちらも酷いダメージを受けている。


 しかし、帝国十三将、改めて強敵だった。この戦闘で相手が本気になっていなかったのは解っていた。全裸虚無落とし辺りから本気になったのは見えたが、それでもその状態で直接戦ったわけではない。彼らも、こんな戦闘中に背中を見せればどうなるのかを、理解しなかったわけではないだろう。それでも、背を向けて守りに入ったのが事実だ。殺されると解っていて、


 あの二人は矜持を選んだ。それは、実に尊い選択肢であり、精神の高潔さは何よりも尊重され、愛するべき輝きだった。そう、掛け値なしに素晴らしい心だと賞賛するしかない、それが彼らの行いだった。死が待っている。無駄であると解っている。それでも誇りや矜持を選ぶ。それが十三将という存在であり、彼らが生きているという意味で持ったのだから。


『ヒートアップしているわよ。色々、確認した方がいいんじゃないかしら?』


 カルマに言葉を挟まれ、少しだけ冷静になる。カルマの言う事も解る。ゆっくりとステータス画面を呼び出し、それを表示させる。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:64

  体力:66

  敏捷:65

  器用:72

  魔力:70

  幸運:61


 装備スキル

  【魔人:48】【創造者:44】【明鏡止水:48】【支配者:46】

  【血戦血闘:45】【高次詠唱術:42】【魔剣保持者:26】【侵食汚染:26】

  【咎人:35】【業の目覚め:30】【剣聖:24】【聖者:23】【斬打突花:27】

  【英雄喰い:20】


 SP:66


 やはり、と言うべきかなんというべきか、凄まじいぐらいにステータスとスキルが成長していた。もはや50台のステータスは存在せず、全てが最低で60を突破していた。スキルに関しても各所で目覚ましい成長が見られる。ここしばらく鍛錬を重ねていたのもそうだが、十三将という大物の殺害成功に対して、システム的に大きな経験値が発生したのかもしれない。そのせいかは解らないが、大きく魔剣関係のスキルも上昇している。が、その成長は上位系スキル程ではない。最近、薄々感じていたが、この魔剣系統のスキルはもしかして上位スキルではなく、最上位系に入るスキルかもしれない。しかもこれで本来の性能ではない当たり、まだ変異の可能性を残していると考えられる。まぁ、成長は成長だ。カルマの剣、全てを切り裂くあの斬撃は今でもまだ練習中なのだ。これで習得効率が上昇し、覚えやすくなったと思えばよいだろう。


「……ふぅー。とりあえずネガネガの時間は完了するとして、もっと建設的な事を話ていこーか。とりあえずキャロライナの話、というかカウントが確かであればこちらの残った戦力は三十数人ってレベルになるんだろ? ここからの戦闘活動というのはもう不可能だ。散発的なゲリラやテロだったらなんとかなる―――あのキメラ研究所みたいにな? ただ本格的な攻略作戦とかになるともう無理だと思う」


 その言葉にトモが頷く。


「継続的な作戦遂行能力が人員、マンパワーで決まるからね。人数が減ればそれは組織としての力の減退を意味するしね。だから大規模な作戦を行使する力はない。というか今回みたいに”あ、予測してたんで”ってのをやられると、ホントどうしようもなく詰みになるから、それが現在のヤバイ所なんだよね。このままレジスタンスを継続するなら間違いなく人員の募集や戦闘員の再編を行う必要があるんだけど―――」


「―――それでは間に合わんな」


 キャロライナの言葉に頷く。そしてそれに続けるようにリーザが話す。


「だって王国は出陣準備を始めたんでしょ? 次の日にはもう進軍しているわよ。帝都までは一ヶ月、転移門が破壊されていると想定してね? だけど強行軍で時間を短縮して二十日、厳選して十五日ってぐらい突撃して来るかしら。それまでにレジスタンスが到底力を取り戻せるとは思えないもの。ぶっちゃけ、穏健派は詰んでる」


 あまり認めたくはない事実だったが、それでも理解しなくてはならない事だった。”穏健派”としてはもはや再起不能、時間も足りない、そんな状態である事は間違いがなかった。故にこれから、どうするべきか、それを考える事が何よりも重要だった。とはいえ、それも難しい話だ。詰んでいると言っても良い状態でこれからどうするべきかなんて、考えようがない。そもそもキャロライナが建設的な案を即座に出せていない時点で察するべきなのかもしれない。


 これ以上は活動不可能かもしれない、という事実を。


「……とりあえずは拠点に戻るか。流石に拠点まで襲撃されているって事はないだろう?」


「帝国と王国の国境上にあるから、一応は狙われ難い場所にある。とはいえ、本気になったら間違いなく潰すだろうが……あぁ、一旦拠点へと戻って休もう。とりあえず、考えるのはその後でにしよう」


 その意見に反対する者はいなかった。立ち上がった所で、ちょっと待て、と引き止める声があった。視線を声の主、つまりはダイゴの方へと向ける。全員の視線を受け止めたダイゴは、手元に浮かべていたホロウィンドウから視線を持ち上げ、そしてそれを此方へと向けてくる。


「……とりあえず良いニュースと悪いニュースがあるんだけど、どっちが良い?」


「良いニュースからで」


 迷う事無くそう答えたリーザに対してそっか、とダイゴは呟き、頷く。


「んじゃ良いニュースからバラすと、なんと十三将が更に追加で三人ほど死亡しました! やったぜ! どんどんぱふぱふー!」


 ダイゴが一人で拍手し、そして場を盛り上げようとするが、その流れで大体、なんとなく、何が起きたのかを理解してしまった。片手で顔を覆い、静かにダイゴの続ける言葉を待つ。


「で、悪い方となるとな?」


 ダイゴは言葉に一泊間を置いた。


「―――過激派レジスタンスが数人だけ残してほぼ全滅したってよ。過激派レジスタンス、その構成員のほぼ全てと引き換えに三人殺したってよ。この報告もインしている連中からじゃなくて死んで外から書き込んでいる連中の報告だよ」


 ―――帝国の変革を求める二大組織、それが本日、完全に消え去った。


 それがダイゴの報告だった。

 MVPは全裸。やらなきゃ勝てなかったという。後キメラロリ? は割と趣味をぶっ込んだ感が。


 ともあれ、これで中編が終わりです。次回から帝国編の後篇、最初から最後までクライマックスな感じに突き進んでいきますよ。勿論ハッピーエンドを目指して。


 そこ、ハッピーエンドあるの? とか首かしげない。

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