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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-革命軍編
53/64

五十三話 軍艦強奪作戦

 徐々に曇っている空から雨が降り出す。


「ち、雨かよ畜生、やだなぁ、雨は」


「あぁ、そう言えばお前次交代か」


 ジェナス・フリーマンは休憩室でそうだ、と同僚に頷きを返しながら視線を窓の外へと向ける。そこでは広いポートが存在し、巨大な風船にくっついた機械、の様な姿をした飛行船が鎮座している。そこへと物資を運び込んだり、点検を行ったりで忙しく動き回っている姿が多く、主砲や副砲のチェックで更に時間は伸びるだろうなぁ、と経験ながら思う。ただアレだったらまだ温かい、濡れない場所で作業できるから良い。そうジェナスは思う。ジェナスの働く場所は軍艦ルタレスとは全く関係のない所、この軍事基地の警備という任務だ。そしてゲートガード、つまりは門番の役割を果たすジェナスは、この雨の中で文句も言わずに立っていなくてはならない。


 いくら帝国性のバトルスーツが保温性に優れ、防水加工が施されている品であろうと、それと雨に濡れている事への不快感は話が違う。そもそも泳げないジェナスからすれば、冷たい水を浴びるという事に対して軽い恐怖を覚えるのだ。帝国には温水を浴びて体を洗えるシャワーが存在するからそれはいいが、プールだけは駄目だ。アレは溺れる記憶を呼び覚ましてしまうから、ジェナスはどうしても好きになれなかった。


 故に、ジェナスの機嫌と気分は急降下していた。ただ末端の兵士であるジェナスがサボれる訳がない。特に現在この基地で任務違反を行おうとする馬鹿な存在なんていないだろう。勿論、ジェナスだって人並みの欲望という奴があるが、粛清されることを考えれば黙って任務をやった方が遥かに良いに決まっている。休憩室で吸っていた煙草を口から離し、それを灰皿に捨てながら、インベントリの中をチェックする。


 ジェナスのインベントリの中には魔導銃用のマガジンの他には、携帯食料、そして暇な時に食べたり噛んだりする為のガムやチョコレートが用意されている。飴なんかも舌の上で転がしていればよい暇つぶしになる。重要なのはそれを食べる瞬間を見られない様にする、という事だ。これぐらいのお茶目はバレても許されるだろう、と個人的にジェナスは考えていた。


 そうやって任務へと赴く準備を進めつつ、ジェナスの同僚がジェナスへと声をかける。


「そういやさ、お前、あの噂を聞いたか?」


「ん? 噂って?」


「王国の国王様直々に皇帝陛下を殴りに行くんだってさ」


「ぷっはっ、ないない、流石に王国でもそこまではやらねーよ」


 同僚の話を笑い飛ばしながらジェナスは立ち上がると、時間を確認した。外で雨の音が強まるのに不快感を感じつつも、予め出しておいた干し肉を口の中に放り込み、それを時間をかけた噛みながらヘルメット、プロテクター、と帝国兵の標準装備を装着し、ライフル型の最新式魔導銃を両手で持つ。時間は交代の時間、少し前だ。今から歩いて行けば到着する頃には時間通りになるだろうと、経験から換算しつつ同僚に片手を上げて挨拶をする。


「んじゃ行くわ」


「おう、いってらっしゃい。終わったら一杯ひっかけようぜ」


「お、悪くねぇな」


 そう思うと少しでも仕事に張りあいが出てくるな、と思ったところでジェナスは休憩室から出る事にした。遺跡からの技術を流入して作られた鋼鉄製の軍事基地、その床に鉄板の仕込まれた軍靴の音を廊下に響かせ、歩く。雨が降っている外では、誰もが忙しそうに軍艦ルタレスの整備を行っている。それもそうだ、近いうちに帝国は王国と戦争を繰り広げる。帝国が個人の戦闘力で王国に負けているのは周知の事実だ。だからこそ、帝国は利用する。


 奪った文化を、知恵を、知識を、そして戦争し続ける事で得たノウハウを。


 帝国の歴史は過去に大きな四敗をしてしまったご先祖の尻拭いの為に生存競争を強いられる過酷な歴史である。聖女の威光のおかげで無事な聖国、個人の武勇と圧倒的戦闘力で魔物を駆逐し、今もなお最強の軍隊を保有する王国とは違い、帝国は苦労した。そして苦労した故に、使える物は何でも使うという考えが生まれ、三国一の技術力を手にした。飛行船の操作技術、飛行船そのものを保有しているのは現在、帝国だけだ。


 軍艦ルタレスだって”軍艦”なのだ。最低限十三将クラスの攻撃を受けても一撃で沈まない様に設計されている。それだけの金と、技術と、そして労力が注ぎこまれている。その労力は王国は武の研鑽等に注ぎ込んでいるが、それを安定して行えるだけの環境が帝国にはなかった。必要なのは代を積み重ねる事によって研ぎ澄まされて行く武ではなく、誰でも使え、そして即座に戦う事が出来るようになる武器の存在だった。故に帝国は遺跡からの技術を抽出し、それを利用して魔導銃や飛行船、空中城等の存在を生み出してきた。


 こうやって、武器さえ握り、使えれば簡単に人も魔物も殺せる国、帝国が出来上がったのだ。


 その恩恵のおかげで自分は今、生きていられるのだとジェナスは思っている。三国で最も技術力が発達しているが故に、魔法が使えない、魔法の限界が低い一般としての生活で、病気とかになった場合は地味に帝国の保有する技術が役立ってくる。たとえば増血とか、保温とか、本当にそういう細かい所だが、魔法ではどうしようもない所を埋める技術力がある。


 そのおかげで生き延びた、という者は少なくない。


 魔法には頼らない医療に関しても帝国がリードを取っている。魔力というリソースが消耗される中で、そのリソースを消費せずに治療する方法は大事だ。それだけじゃなくても大怪我の治療等を行う場合、”正確な状況”を理解していないと変に治療され、腕が曲がったまま繋がるなんてこともある。


「ま、戦争なんてない方がいいんだけどな」


 誰にも聞かれない様に注意しながらそう呟き、通路を抜けて、基地の入口に出る。そこから外を眺め、大降りしている雨に灰色の空を眺め、いやだなぁ、と心の中で嘆いた。それでもジェナスが躊躇うのも一瞬だけ。口ではどんなことを言っていようが、ジェナスもまた訓練された帝国の兵士。体は自然と覚えさせられた事を自分の機嫌等と関係なく行う。スーツが完全に密閉され、雨が入ってこない事を確認しながらジェナスは外へと踏み出した。


 大雨であるために雨音が響き、周りから多くの音を奪う。視界もそれに続く様に一気に悪化する。暗くなっている訳ではないので、ヘルメットに付随している暗視モードを起動しても意味はない。警備をするには面倒な状況だ、そんな事をジェナスはぼやきつつ雨の中を歩き始める。その足取りは確かであり、真っ直ぐと基地の敷地とその外の境界、つまりは正面ゲートへと向かっている。他の基地同様十数メートルはあるであろう巨大な防壁に囲まれている基地は唯一、空と正面ゲートのみが侵入方法となっている。故に、ちゃんと警備をしている人間が必要となってくる。


 とはいえ、ジェナスも馬鹿ではない。自分は”立っている”だけでいいと理解している。警備の本命は帝国が遺跡から解読した、機器による熱源や生命、魔力探知だ。それを通して侵入者や怪しい人間を判別する様にしているのだ。だからジェナスの様な警備兵の役割は、機械ではカバーできない直感的部分になるのだが、


 こんな雨の中では、そんな感覚も働かない。嫌な日だ、としかジェナスは思えない。実際、嫌な日だった。ジェナスが軍事基地で働けば働く程、末端として戦争が近づいている事実と、そして自分がそこに駆り出されるという事実に理解させられる。実家から離れ、そして王国と戦わなくてはならない。勿論、ジェナスは祖国の勝利を疑ってはいない。だが疑念はある。


 ―――帝国が侵略する必要はあるのだろうか。


 豊かではない、だが十分に贅沢して、生きていられる。そういう国だ、帝国は。どん底から這い上がって復活したのだ。なのに、これ以上戦争を続ける必要はあるのか? 皇帝の言葉が絶対である事に違いない。だが、皇帝は狂っている。今の帝国の民は皇帝に対して絶対に忠誠を抱く事が出来ない。一部の狂人や”愛国者”を抜きにすれば、難しい話だ。


 ジェナスも疑問に思っている一人だ―――疑問に思ったところで無意味だし、何かをするわけではないが。


 ジェナスは同時に思う。


 レジスタンスの様な自殺志願者集団は、絶対に頭がおかしいと。


 そんな事を考えている内に正面ゲートへと到着する。それに合わせて雨の中立っていた警備の兵の肩を叩き、敬礼を取る。


「交代の時間だ」


「了解した。雨が降っているけど頑張れよ」


「ありがとな」


 軽く言葉を交わしてから位置を交換し、門の内側、そのすぐ横に立つ。場所としては鉄柵の様な門の直ぐ内側で、門の向こう側がしっかりと見える立ち位置だ。そこでジェナスは立つと、背筋を伸ばしたまま銃を握り、動きを止める。口の中に放り込んでおいた干し肉をゆっくりと、少しずつ噛み千切りながら立っている時間を消化する事にする。幸い、今日は視界が悪い。素早く食べれば、雨やチョコレートを食べてもばれないだろう、なんて事を考え、


「うへぇ、霧が出てやがる。湿気が更に酷くなるじゃねぇか」


 ぼやきながら視界の中、薄く広がる霧の存在に対して苛立たし気に呟いた。雨のせいでいつも以上に魔導銃の手入れを念入りにしなきゃいけないというのに、この上霧まで出るとなると更に面倒になってくる。早く家に帰って、妻の顔でも見たいものだ、なんて事をジェナスは考えていると、


 霧の中に薄い人影を見る。影の中に紛れる様に誰かが一人、此方へ、門へと向かって歩いてきている。こんな時期に軍事基地に来るような輩にまともな相手はいない。それだけは確かだ。ただもしかして、何らかの重要人物かもしれない―――十三将辺りは普通に歩いてきたり、跳躍で移動するのでここら辺、早まって射撃すると自殺に繋がりかねない為、霧で姿が確認できない中、銃を構える。


「止まれ! 止まらなければ撃つ!」


 霧の中の姿が止まる。だからと言って敵ではない、というわけではないのだが。寧ろ敵である可能性が上がった。自分の上司とかであれば、銃ぐらいは避ける。だから止まれ、と言われても止まらずに接近して来るだろう。何かおかしいが、それが強者である生き物。


 それをジェナスは良く知っている。


「所属と目的を言え」


 ジェナスが銃を構え、そう叫んだ声に対して、言葉が返ってくる。


「俺は―――」


 言葉と共に手が霧の中の影の腰へと向けられる。そのアクションと同時にジェナスが容赦なく引き金を引くが、放たれた弾丸は霧の影をすり抜けて遠くへと消える。クソ、と叫びながら声を上げようとし、ジェナスは自分の喉から声が出ない事に気付く。喉を抑えながら両膝を大地につける瞬間、男の声が聞こえた。


「―――レジスタンスだよ」


 そう言って引き抜いた短剣が大剣へと変貌し、それを大地に突き立てた。それに反応する様にその背後に人影が出現する。何時の間にか影の横に浮かぶように立っていたもう一つの影は多くの影が出現するのと同時に消える。この霧は雨に乗じた作為的なものか、そうジェナスが理解した瞬間、その意識は闇へと向かって溺れる様に落ちて行く。どうしようもない事実がジェナスから力を奪って行く。レジスタンスの襲撃。それを口に出して叫ぶべきなのだが、


 それを行う力がジェナスにはない。


 それでも、


 この後の展開を恐れるジェナスではなかった。


 最後の勝利を疑うのは、どちらも一緒なのだから。



                  ◆



「進めぇ―――!!」


 キャロライナの声がする。大規模召喚術で近くに待機させておいた、レジスタンスの戦闘要員総員導入した最終作戦が決行された。マグリア軍事基地の正面ゲート、それを爆炎がつつんで一瞬で吹き飛ばし、蒸発させる。そうやって生み出された大穴を抜けて、レジスタンス数百人が戦闘を行うために、軍艦ルタレス奪取の為に行動を開始する。それに合わせ、刃を振るい、軌跡を描き、そして陣を空に刻み、


「来い! ヴァルキリー!」


「戦場! 闘争! 闘志! 魂! 血が! 絶叫が! アタシを呼ぶのさぁ―――!」


 雪崩込むレジスタンスに合わせ、スルーズが出現する。その姿に合わせる様にその背後には十数人の英霊の姿が出現し、スルーズが吠えながら切り込むのに合わせて一気に前進し、襲撃に気付いた帝国兵を容赦なく肉塊へと変えて行く。雪崩込むレジスタンスの背へと向けて言葉が放たれる。


「必要以上に破壊するな! 逃げる者と降参する者は捨て置け! 目的は軍艦ルタレスのみ! それ以外は捨て置け! 与える損害も受ける被害も最低限に押しとどめろ!」


 その言葉に咆哮が返ってくる。吠える様な言葉、そして戻ってくる凄まじい戦意に、笑みを浮かべながら自分も役割を果たす為に前に出る。雨の中、それを貫通して降り注ぐ雷鳴が、スルーズの戦いが軍艦のある場所からドンドン外れて行っているのが解る。おそらくは戦場を変えるか、もしくは陽動を引き受けてくれているのだろう。スルーズがその役割を果たしている内に、軍事基地の敷地内へと自分も飛び込む。先に雪崩込んだレジスタンスの仲間が活路を開いている。それに合わせ、敵に接近する事無く、敷地の横を抜け、軍事基地内のエアポートへと走って向かう。


 中庭とも言える位置へと移動すれば、そこには巨大な軍艦が鎮座しているのが解る。巨大な飛行船はタイプで言えばファンタジーモノで見る様な、大きな風船でうかんでいるような、そんな外見をしている。しかしそれに装着されている金属の部分は、実に未来的なデザインを施されている。小さい機銃や副砲が大量に設置されており、巨大な主砲も装着されているのが見える。素早く進入口を探そうと視線を巡らせていると、発砲音が聞こえ、


「おっと」


 何時の間にか横に立っていたダイゴがそれを切り落とした。悪い、と視線で伝えながら再び軍艦へと視線を向け、そして入口を見つける。其方へと向かって走れば、それを邪魔する様に帝国兵が立ち、銃撃して来る。


「任せなさいって」


 言葉と共にリーザが姿を消し、群れる帝国兵の正面に出現する。ジャケットの裾をはためかせながら振るうワンツーはそれだけで五人殴り飛ばし、そこから繋げるコンビネーションで更に六人が引き金を引ける前に宙を舞う。しかも全員、たったの一撃で気絶する様に手加減されている。改めて、頼もしく感じる二人の姿に笑みを浮かべながら、追いついて来たトモと四刀流、二人と一緒に半ば、護衛されるような形で軍艦の中へと入り込む。


 入り込んだ瞬間、出迎える弾丸の連射をダイゴとリーザがフルブロックし、攻撃の合間を縫い、一気に接近して相手を潰す。そのまま止まる事なく全員で前進し、素早く戦闘を終わらせるためにもルタレスの操縦室へと向かう。後続の仲間達も雪崩込む様にエンジンルームなどの要所へと向かい、抑える為の行動を開始する。


 そうやって決死の思いで、敵を排除しつつ軍艦ルタレスの操縦室へと到着する。追ってくる様に後ろからやって来たキャロライナがルタレスの操縦パネルへと飛びつき、スイッチを押し、システムを起動させる。ルタレスの各所に光が、満ちて行き、


 ―――そして消える。


「―――!?」


「どうした?」


「待て、今調べている」


 キャロライナがそう言ってルタレスの操作に戻るが、ルタレスが再び光を得る事はない。それはまるで、


「―――燃料が入っていない。これでは飛ばせないぞ」


「はぁ!?」


 それは驚愕の言葉だった。燃料が入っていない。こんな状況なのに、だ。そもそも今はほぼ戦時だと言っても良い状況。そんな状況で軍艦ルタレスから燃料を抜く意味なんてない、というか王国との戦いがすぐそこに見えているのだから、何時でも飛ばせるようにしておくのが重要、というか当たり前の事だ。軍艦もまた戦力の一部なのだから。だからそれを前もって燃料を抜く、という行動は、


 此方の行動を予測し、そして備えているという行動に過ぎない。


「―――マジか」


 ルタレスの操縦室から窓の外を眺める。正面、そこにはルタレスの前に立つ様に、三つの姿が見える。二人の男と、そして一人の女だ。男は全身を青い鎧に包まれた、四十ほどの姿に見える。いかにも古強者、という風格を持ち、一目で怪物的だと解る存在感を放っている。


 女の一人は帝国軍の黒い将校用軍服、形はキャロライナと似た様な物を着ている女だった。長い髪を持ちながら軍帽を被り、腕を組み、見下すような視線を此方へと向けてきている。


 まだ二人の存在は見た目はまともだが、三人目は違う。三人目の男、或いは男に見える存在は頭が存在せず、頭のあるべき場所に軽く浮かぶジャック・オ・ランタンを浮かべ、その中に紫炎を燃やしている。肩に担ぐように大鎌を握っており、全身を黒革のコートで包んでいる―――が、頭同様、その下にある筈の肉体は一切存在せず、何も見えない様に思える。


 ただ、この三人は共通として凄まじい威圧感と不吉を孕んであり、そしてその存在感が触れざる絶対強者である事を示していた。そう、この三人は知っている。資料として調べられ、そして覚えている。


 帝国十三将―――氷雪の覇将ゼッケンバルト、死界領劫ヴァレリー、そして冒涜者ジャック。帝国十三将に属する三人の姿だった。どれにしたって基本的なステータスが90台に突入している超人の中の超人、世界を見ても数えるほどしか存在しない絶対強者。それが、三人も揃っていた。それを目撃し、そして軍艦の燃料が存在しないという点を繋げ、理解する。


 ―――予測されていた、と。


「逃げろ―――」


 誰かがそう放ち、逃げようと足を動かそうとしたところで、足元が凍っている事に気付く。自分は透過してそれを回避するが、他に関してはキャロライナの炎が間に合わない。正面、三人の将が攻撃を繰り出す為に腕を持ち上げる姿が見える。それを妨害する為にも、全力で声を飛ばす。


「スルゥ―――ズゥ!!」


 音を、時間を、そして順番を無視し、スルーズが降臨する。攻撃を繰り出し終わっていた動作の前に出現する様に順序を捻じ曲げ、放たれた死と氷を、スルーズが正面からミョルニルで殴り砕く。それで現界用の魔力を消費しきったのか、スルーズの姿が消えて行く。このレベルの相手であれば”召喚解除”が間違いなく行えるだろう。単発型は通じても、常時召喚型は間違いなく送り返される。それを理解した所で、攻撃を止める為に前へと踏みだし、刃を振るう。


 それに対応する様にゼッケンバルトが前へと飛び出す。振るわれるレイピアの一撃を回避しながら斬撃を三線、首と心臓と頭を切り落とす様に繰り出す。しかし感触が悪い。舌打ちを吐きながら横へ飛べば、ゼッケンバルトの体が凍り、そして再生するのが見える。あぁ、そういうタイプか、と思いながら視線を横へ向ければ、ジャックのデスサイスが振るわれるのが見える。


 透過して回避するも、激痛が全身を駆け抜ける。


『直接魂に攻撃を仕掛けているわ、透過は無理よ』


「クソッ、撤退―――」


 言葉を言い終わる前にゼッケンバルトが接近し、大地と、ルタレスと、そして環境を絶対零度へと凍らせながら突き進んでくる。振るわれるレイピアは人を一瞬で凍らせ、そして即死させる力が乗っている―――キャロライナを氷系に特化させたような、そのような感覚を得る。ただそれを確かめる前に、レイピアを切り払い、大きく後ろへと飛びのく。


「燃えろ!」


 回避と同時に炎の奔流がゼッケンバルトを飲み込まんと放たれる。振り返る事なく氷壁を盾として出現させ、接近戦をゼッケンバルトは無言のまま、踏み込み挑んでくる。その鋭さは凄まじく―――此方に匹敵している、或いは超越していると言っても良い。純粋な剣術では相対ギリギリ、ここに魔導を組み込まれると殺される。それを短い時間で確信し、キャロライナが撃ち込んだ炎で距離を稼ぎながら叫ぶ。


「総員、撤退しろぉ―――!」


 作戦は失敗。何よりもまずは十三将を相手に即死するしか選択肢のない仲間を逃がすしかない。そう思い叫ぶが、軍事基地各所から悲鳴が上がる。怒号が悲鳴へと変わって行き、血の臭いが空気に混じり始める。


「いやぁ、作戦決行! これが俺達が見据える希望だ! ひゃはっはっはっは! いやぁ、バレてるってのに自信満々に来ちゃってお前らのその姿本当に滑稽だったぜぇ。ホント楽しませてくれたからお前らの魂をコレクションして未来永劫愛でてやるよ」


 カボチャ頭が嘲笑する様にそう叫んだ直後、ルタレスの操縦室から飛び出したダイゴ、そしてトモがその姿に向かって突撃し、姿を連れ去って行くように吹き飛んで行く。吹き飛びながらも、その嘲笑は響く様に続き、


 そちらに意識を持ていった一瞬の内にゼッケンバルトが刺突剣をのど元に当てていた。


 即座に透過しながらゼッケンバルトの体をすり抜け、その背後に出現して刃を振るおうとするが、振るおうとする体が硬く、鈍い事に気付く。それを無視して繰り出す斬撃は何時もよりも精彩に欠け、振り向きながら対応されてしまう。そうやってゼッケンバルトと切り結び、弾いた瞬間にキャロライナが炎で援護を入れる。相性的にありえない筈だが、


 炎が僅かに氷、ゼッケンバルトに届く前に砕け散る。


 その様子をステップで距離を取り、片膝をつきながら眺める。


「……まさかバレてたとは」


「こうも作戦が失敗続きだと私としても些か自信を失うのだが」


 横に出現したキャロライナがゼッケンバルトを睨みながらそう言う。軍事基地各所では悲鳴が続出している。その対処に動きたい所だが、十三将を野放しにした場合、冗談ではなく全滅する。他のプレイヤーやレジスタンスの仲間の努力を祈るとして、自分達は十三将の相対をしないといけない。最低限、二人であれば逃げる事もなんとかなる―――かもしれない。


 他の十三将の相手をする為に、仲間がばらけている事を理解しつつ、視線をゼッケンバルトへと向ける。蒼い鎧姿の氷将は普通よりも長く、そして太い刺突剣を構えつつ、ヘルムのないフルプレートのアーマーを装着している。そのイメージは”将軍”という言葉がしっくり来る―――ただしその存在自体が人間を超越している、と言っても過言ではないのは確かだ。確実に殺せる斬撃を放ったにも関わらず、ゼッケンバルトの体は氷となって、繋ぎ合わされ、再生した。急所を貫くのみであれば即座に再生する様な不死タイプの敵、


 跡形も残す事なく消し去るのが一番の手段だが、ゼッケンバルトの様な十三将クラスに入ると、当たり前の様に警戒と対応策を保有している故に、どうしようもなくなってくる。


「貴様らは―――」


 ゼッケンバルトが口を開く。


「―――憐れだ。同情もしよう。国を思うその心は理解は出来る。同意もする。されど、手段は間違っているとしか言えない。貴様らも、殿下も陛下が後継者を指定するまで待つべきであった。そうすれば勝機も出るものだっただろうに。故にこんな事になる。陛下は全てをお見通しである―――この件も、陛下が一言命令したにすぎぬ」


「……」


 ゼッケンバルトの言葉には黙る事しかなかったが、カルマは納得する様な言葉を浮かべる。


『成程ねぇ。その皇帝ちゃんってのがどれだけなのかはわからないけど、噂通りの人物なら英雄でも育てようとしているのか、欲しがっているのかしら。”英雄であれば土壇場で逆転を狙う”ってのを逆に取った、という感じかしら。まぁ、はた迷惑である事に変わりはないんだけど―――』


「ちげぇねぇ」


『殺さなきゃねぇ』


 魔剣を両手で握り、肩に担ぐように構える。何時でも踏み出せる状態を維持しつつ、視線をまっすぐ、ゼッケンバルトへと向ける。短い銀髪の男はその身に絶対零度の冷気を纏いながら油断する事無く刃を構え、何時でも殺せる領域を生み出しつつあった。ゼッケンバルトの生み出す冷気がその周辺の雨、そして濡れた大地を無差別に凍らせて行くのを眺め、この”雨”という環境は、ゼッケンバルトを凶悪化させているという事を理解する。


 作戦が失敗し、撤退しないと仲間がドンドン殺されて行く。その事に焦りを感じつつも、目の前の相手をどうにしかしないといけない。


「……イケそうか?」


「雨のせいで火力が落ちるなんてことはないから安心しろ。ただ、解らんな」


 二対一。それは自分達とゼッケンバルトが戦う状況。人数差で此方が有利だが、基本的な能力にはゼッケンバルトに分がある。といっても、ゼッケンバルトだけが相手ではない。十三将は他にも二人存在する。


 あちらが此方の仲間を始末して合流した場合、此方が確実に殺される。その前にゼッケンバルトを殺し、何処かと合流しなくてはならない。


 しかし、それを邪魔する様に帝国の守護者が立ちはだかる。


「―――十三将が一人、ゼッケンバルト参る」


 この時点で―――レジスタンスの壊滅は確定した。

 レジスタンスは壊滅するまでがお約束だからなぁ


 というわけで中編の最終部は十三将との戦いだよ。ついに明らかになるマジキチ共。果たしてパッパは間に合うのだろうか。


 次回はロックな戦闘曲でもかければテンション上がるかも。

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