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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-革命軍編
50/64

閑話 狂気は明日の夢を見るか

 ※本日二話目注意

 ―――それは考えた。


 実験体が欲しい、と。


「あー……ん? やっぱ駄目だな。弱い。肉体的に強度が足りねぇ。どんな強い奴を使ったとしても肉体が現象に耐えられなくて絶対に”2回”は死んじまうな。別に1回ぐらいは蘇生すりゃあそれで済む話なんだろうが、他の研究者共がクッソうるせぇんだよなぁ、蘇生は禁忌だとかなんだとか。ばっかみてぇ。そこらへんで魂汚染や精神改変にリスポン起こりまくってるってのに蘇生禁止と来たもんよ。馬鹿ばっかじゃねーの。ま、しゃーねぇな。所詮はNPCだし。俺達と同じ様な考えを持つ事は不可能だから無理を言っちゃ駄目なんだよなぁ、可哀想に」


 そう言って、白衣姿のプレイヤーは心の底から同情の息を漏らし、


 手術台の上で死んでいる死体から視線を背ける。血まみれの手術台の上の姿は綺麗に傷一つ存在しない全裸の男の姿があるが、それはももはや動く事のない、完全な死体だった。死体に対する興味を欠片も抱かない白衣のプレイヤーは声を上げる。


「おい、ゴミ処理。これを失敗作の所へ持って行ってくれ。どうせ腹を空かせている頃だし、おやつぐらいにはなるだろ」


「ハッ」


 部屋の外で待機していた帝国兵が手術室の中へと入り込み、手術台に固定されていた男の死体を回収すると、それを運んで行く。部屋の端へと移動し、冷蔵庫から牛乳のパックを取り出した白衣のプレイヤーはそれを一気に傾けて自分の喉に流し込む。そうやって冷えた液体で喉を潤しつつ、叫ぶ。


「ぷ、はぁ! やっぱ牛乳は聖国産が最高だなぁ! 帝国はメシが不味いのがどうにかならねぇかなぁ。イギリス並だぞおい。まぁいっか。成果を出している間は聖国や王国のもんを取り寄せてくれるし。あぁ、リアルでもこんな感じに取り寄せて喰う生活ができればなんて素敵なんだろうなぁ……まぁ、夢を語ったところでしょうもねぇな。オラ、とっとと次の実験体を運べよグズ」


 白衣がそう叫ぶと、扉が開き、ストレッチャーの上に乗った男が運ばれてくる。患者服姿に包まれており、眠っている様に目を閉じている。その姿を見て白衣がまた男かよ、と舌打ちを響かせる。


「戦ってるのは男ばかりだってのは解るんだけどよ、こう、萎えるんだよなぁ、男ばかりだと。やっぱ女を自分好みに改造するってのが一番楽しいのにさぁ。あぁ、でもなぁ、女を好き勝手改造するとどうしても趣味が先行しちまうんだよなぁ。そうすると詰め込みすぎで死んじまうし。やっぱ妥協しないといけないのかねぇ。オラ、手術台の上に乗せてとっとと出ろ。見せもんじゃねぇぞ」


 帝国兵たちは黙々と言われたことをこなし、そして手術室から姿を消す。それを見ていた白衣が良し、と空っぽになった牛乳のパックをごみ箱の中へとダンクする様に捨て、そして手術台の上の実験体へと近づく。まだ、普通の人間である。だけど、これから人間である事を止める、そういう存在だ。鼻歌を歌いながら煙草を口に咥え、そして両手にゴム手袋を装着する。


 それで準備が完了する。


「さてさて、今度を何を混ぜてみるかねぇ」


 そう言って脈絡もなく、白衣が手を伸ばし、それが手術台で眠っている男の顔に振れ―――沈む。まるで透過しているかの様に皮膚を貫通し、そこで顔に埋められているパーツの一つ、目を握り、抜く。治療の魔法や複数の生産系スキル、それを同時に鼻歌交じりに制御しつつ、男は抜いた目玉を投げ捨て、そして手術代の横にセットされている道具類から別の生物の目玉を取り、それをまた手を透過させるようにして、目玉を埋め込む。


「良ーし良し、入ったなぁ。じゃあこっから始めるか」


 そう言って白衣は目玉を引っ張る様に力を広げ、目玉の属性、その細胞を広げる様に汚染させる。目から目へと汚染を広げ、そこから顔を、首を、そして体を目玉の元々の生物の属性と細胞、特性に汚染させる。そこから更に心臓や肝臓、胃、指、そう言ったパーツの”中身”を交換して行く。そうやって見た目での変化は一切なく、体の中身を全く別の生物へと挿げ替えて行く。慣れた手つきで素早く行い、人を合成魔獣(キメラ)へと変える姿は熟練の冒涜者としか表現ができなかった。


「んー、マンティコアの眼、リーザードマンの心臓、ワータイガーの金繊維にルーガルゥの鼻、デスマンティスの鎌を爪に―――ありゃ」


 そこまで汚染し、混ぜ合わせたところで、急に眠っていた男が痙攣し始める。それを見ていた白衣の男がゆっくりと動かなくなる姿を見て、そして溜息を吐く。


「あー……やっちまったなぁ。また詰め込みすぎたわ。アレだな、やっぱ安定させるとなると数は絞った方がいいな。アレもコレも、と欲張りすぎるとロクな事にはならねぇわ。っつーことは、もっとテーマとかを絞てやるべきか? でも”ぼくのかんがえたさいきょうのせいぶつ”的なの育成シミュレーション的に考えてロマンなんだよなぁ、やっぱやるならでかくカンストを目指したい所だし。つかそうだよ、他の連中が俺と違って雑魚いのを量産してるんだから、俺は好き勝手ありゃあいいんだ。はい、正当化完了。はーい、グズのみなさーん、お仕事ですよー」


 扉向こうの帝国兵を呼び出し、そして白衣がそれを運ばせる。そうやって再び一人きりになった部屋の中で、悩ましい事を考える様に足と腕を組んで手術台の上に座り、そして悩む。悩む様な姿を見せる。


「……やっぱ最上級のキメラを作るには素体がある程度熟練した存在でありながら、それがプレイヤーである必要があるな。スレで見る”聖剣使いさん”や”魔剣聖さん”辺りが素材として捕まえられれば間違いなく最強のキメラを作れるって自身があるんだけどなぁ。プレイヤーなら殺しても蘇るし、死んでいる間に細胞を馴染ませて作業すれば蘇った時に拒否反応はでねぇし。今迄出来上がって来た成功体もやっぱプレイヤーだしな。っつーことは、ヤッパプレイヤーを探させるように命令するっきゃねぇか。モブじゃどうしようもねぇし」


 あーあ、と言いながら息を吐く。


「ブラックな職場だけど楽しいので私は幸せです!! ……うん、まぁ、幸せだよな。モブの命をどれだけ消費しようがモブで済むし、プレイヤーも潜在的な敵でしかねぇから、どっちにしろ問題ねぇわ」


 うん、問題ない。そう言ったところで、扉が音もなく開かれる。帝国兵であれば最低限はノックする。侵入者なら自分は殺されるな、なんて事を考えていると、


 部屋の中に入って来たのは赤い鎧姿のだった。その姿を知っている人物であれば、誰だってその存在に畏怖を抱くであろう、帝国の守護者。それが扉を開けていた。その姿を見て、白衣は驚きながらも歓喜の表情を見せていた。


「お、おお―――!? カリウスの旦那じゃねぇか! うひょー! 超レアな人キタァ―――!」


 興奮しつつガッツポーズを決めている白衣を無視し、部屋に入ったカリウスは部屋の中央、手術台まで移動し、そこで肩に気配も生命も存在しない、物体と化している”者”を置く。それを見た白衣が口笛を吹きながら手術台から飛び降り、振り返って眺める。白衣の姿には明らかに興奮があり、そして熱がある。その姿を表現するなら、”夢を追いかける少年”という風に表現するのが一番正しいのだろう。少なくとも、下種の類の感情を、


 運び込まれた少女の姿の死体に対しては抱いていない。


 輝く、透き通るような眼でその死体を確認し、


「暗殺者ちゃんの死体じゃねぇか! 待望の! 女の! そして! プレイヤーの! 死体! 死体! デッドボディ! カーカス! コープス! すげぇ、すげぇよカリウスの旦那よぉ! どうやってこんな素敵な物を手に入れたんだよ! 俺超ハイになっちまうよ! あ、今落ち着くから安心して」


 深呼吸を白衣は繰り返し、そして自制心を総動員し、カリウスの目の前で作業を開始する醜態を何とか抑え込む。それに白衣は誰かの視線に晒されながら作業をするのを嫌う。彼にとって作業は一種の自由な時間の様なものであって、誰かに見られたり指示される事は冒涜されているような行動なのだ―――それ自体が冒涜的な行いであるのだが。


「カリウスの旦那、こんな下っ端の研究室へなんの様でございましょ」


 漸く落ち着いた白衣の姿を見て、赤い鎧がその鋼の下から声を響きだす。


「……陛下は貴君の”夢”に期待をしておいでだ。故に励み、そして成果を数日中に提出せよ。それを運用する」


 カリウスがそう言った直後、再び手術室の扉が開く。直後、ストレッチャーの上に何人かの死体が乗せて運ばれてくる。それを見た瞬間、それがプレイヤーの死体であると白衣は理解し、そして思う存分弄って改造の出来る素体が増えた事に、心の底から歓喜の声を漏らしそうになった。それを抑えながら、カリウスへと視線を向ける。


「こ、これはどうしたんですか旦那ぁ!?」


「見分け方を覚えた。それだけだ。貴君は忠誠を以って職務に励め。数日後、使いの者が受け取りに来る。それまでにある程度の成果は用意しておけ」


「勿論! 勿論ですよ! うっほお―――! 徹夜だ! ログアウトなんざしてる場合じゃねぇ! お兄さん頑張っちゃうぞぉ! ひっひっひっひっひ」


 部屋の外へと出て行くカリウスの姿をもはや視界に収める事はなく、白衣の男は狂喜する様に笑みを浮かべ、笑っていた。


「いやぁ、やっぱ帝国は素敵だわ。あ、暗殺者ちゃん、ゴメンネ? 君は最後の方に回すから。何せ、トッププレイヤーを実験体に使うのは勿体ないからね! えーと、指を握って適当にこう動かせば……お、ステが出た出た。これで……うん、お前雑魚だな。じゃあまずお前からプレイヤーの限界ってのに挑戦してみっかっなっ!! とりあえず限界を知ればそっからどれだけ出来るのか解るし、それを纏めつつ集大成に向けてレッツ! スタート!」


 興奮した様子で黒髪の暗殺者の頭を軽く撫でると―――その死体を手術台の上から部屋の隅へと投げ捨てた。


 ―――これがニグレドという一人の女の地獄の始まりだった。


 ―――治療で強制的に蘇生時間を早められ、


 ―――感想を聞きだす為に自白剤と痛み止めのみを適用し、


 ―――煩ければ薬を適用してあやふやにし、


 数日間、終わる事のない地獄を逃げる事もできずに経験する事となる。


 それでさえ、まだ入口だった。


 そうやって、人としての形を失った、数日前の出来事だった。

 サクサク閑話をぽいっちょ。これは本日2話目なので前話を今すぐチェックだ!!


 閑話なので何時もの半分程度で。


 なお活動報告のチェックも忘れちゃ駄目だぞ!!

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