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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-革命軍編
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四十九話 四刀流無双

「スパイは見つけた。とりあえず拷問して情報は吐かせた。やっぱり過激派に此方の予定や行動を売ってたらしいわ。こう考えると俺達が潰れてないのは過激派の慈悲なのかもしれねぇな。過激派ってか妹の。まぁ、そんな訳で今までの計画が全部筒抜けって訳よ! 俺達のアイデア、見事にパクられている感じだぜ! やったな! ……どうしようこれ」


「という風に殿下が錯乱しているので、新しく作戦を打ち出すのが私の仕事です」


 拠点地下、作戦会議室には再び人が集まっている。そこには前回の会議で出席した人物たちの姿があり、そこから一人だけ足りないところを見ると、該当の人物がおそらくスパイだったのだろう。今頃、悲鳴を上げる為の喉が潰されていなければいいのだろうが、割と拷問とかには容赦しない世界なのできっと恐ろしく酷い目にあっているだろう。


 ともあれ、黒板の前に立っているのはキャロライナだ。


「ではぶっちゃけましょう。監獄の襲撃に先を越されたのでマンパワーが補充できません。つまり作戦を執行するだけの力が我々にはなくなりました。今後の事を考えるなら地道に戦力増強を行うのがベストではありますが、それを言える状況でもなくなっていました。その原因は過激派が此方の作戦を模倣してきたことにあります―――つまり飛行船奪取の空中城テロを行おうという魂胆です。まぁ、我々がやるよりは手段を選ばないあちらの方が成功率が高いでしょう。ですが―――これで本当に良いのでしょうか? 舐められたままで終わっても良いんでしょうか?」


 その返答待つ必要がないこの部屋の中にいる者は全て戦意に満ちている。それにレジスタンスにしたって、手段を選んでいる穏健派なんて”変わり種”やって来た連中なのだ。この程度で心が折れるなら最初から穏健派レジスタンスに等来ていない。


「ですので、連中の裏を掻きます」


 息を飲んだ中で、キャロライナが発言した。


「―――建造中の最新式の飛行船は諦め、軍艦ルタレスを強奪します。爆弾に関しては改めて皆さんの許可が必要となりますが、おそらくは魔石を使わずに再現する事ができます」


 キャロライナの発言に一瞬で会議室が湧き上がった、それを抑える様に軽く床を足でタップし、会議室に静寂を取り戻す。


「ありがとうございます。それでは説明させていただきますが、現状、建造中の新型船は間違いなく過激派によってマークされており、魔石の洞窟も警備が増員しているでしょう。この状態ではどちらの調達も不可能だと断言する他がありません。ですので、発想を変えて代替できるものでやってしまいます。丁度今でしたら軍艦ルタレスが整備中で空港に停泊しているのが解りますし、魔石の爆弾のロジックを研究班が解読してくれました。故に魔石よりも遥かに強力な道具を利用する事で数を質で補います」


 手が上がる。どうぞ、というキャロライナの声に質問が飛んでくる。


「ルタレスの強奪……可能なのか?」


「穏健派を全員動かす必要が出てきますが、強奪し、そのまま直接空中城へと向かうコースであれば間違いなく今の戦力で行けます。逆に言えばルタレスは大きすぎて隠す事や逃げる事には適していません。強奪して体勢を整える、なんて事を考えてたら間違いなく潰されて負けます。ですので作戦が一度開始されれば、もう引く事は出来ないと認識してもらって結構です」


「次の質問いいか? 魔石の代わりの材料ってなんだ」


 その答えにキャロライナが即答する。


「―――聖剣と魔剣を使用します」


 どよめきが広がった。


「元々触媒としては最上級の力を保有するのが魔剣と聖剣という存在です。故に儀式という形で魔剣と聖剣を媒体にロジックを刻み、現象として発生させます。聖剣と魔剣で陣を描き相乗させれば空中城の結界を粉砕する程の力は出せる筈です。この場合、此方が受ける被害は聖剣や魔剣の一時的な弱体化程度です。勿論、これには所有者たちからの許可と協力を得る必要がありますが、現状魔剣と聖剣を保有しているレジスタンスは私達だけになります。故にこれは使うべきアドバンテージだと判断しています」


 言い切ったキャロライナにエドガーが頭を下げる。


「ありがとうキャロライナ……っつーわけでだ、これがウチの参謀の見解って奴だ」


 そう言ってエドガーは椅子から立ち上がり、周りの視線を自分に集中させる。


「もう解ってるかもしれないけど、俺達穏健派ってのは手段を選んでいるからクソザコ集団なんだよ。ウチのド貧乳の妹のいる過激派連中はホント手段選ばねぇよ。だから成果をだして、帝国と王国の戦争を遅らせる事に成功してるってもんだ……まぁ、俺もできたらそういう規模の作戦をやってみたいけどさ、出来るのはちまちまと隠れながら弾圧されている連中を助けたりとか、ちょっくら支援したりとか、ほんとそんなもんよ」


 だけどな、


「俺だって帝国を救いたいわけよ。俺の国だしな。んで、この規模でできる事が限られているってのはよーく解ってる。結局数が戦争を決めるからな。キャロライナとかがどんなに強くても、千人も殺しゃあ疲れてくるし、まぐれ当たりする弾だって出てくる。そうやって強い奴ってのは徐々に削られて死んでくわけだ。俺はそんな光景は見たくはねぇし、やらせるつもりもない」


 だけどな、


「出来る事があるなら、やるっきゃねぇだろ。その為にいるんだからよ、レジスタンスなんて名前を引っさげて。俺にその力はないけど、必要なもんを持っている奴らがお前で、そして力を貸してくれれば俺達で出来るってのは良く解ってる」


 だから、


「力を貸してくれプレイヤー。俺、勝ちたいんだわ。妹にも親父にも。俺と俺の仲間がこの帝国で一番かっこいいし、強いって事を証明させてくれよ」


 到底、頼む様な態度ではない。だけど、それは、その言葉は何よりもエドガーの真摯な言葉だった。口から吐かれた事全てが本物であり、そして一切の迷いはない。それだけだが、胸を打つものがある。皇子として生まれなかったらアジテーターとして生まれるべきだった、と思わせるぐらいには言葉が、そして喋り方が上手かった。ただ一つ、エドガーは勘違いしている。


「最後まで付き合う気がなかったら、まだこんなところにいる訳ないだろ」


 最後までやり切るつもりだから、わだかまりがあっても穏健派レジスタンスにいるという事を決めているという事、


「俺の聖剣四本が最近ストライキ気味でなぁ、ちょっと喝を入れるついでに爆破に参加させてくれよ」


 そしてここにいるのはそういう馬鹿ばかりなのだ。


「俺の力で何かを―――まって、ちょっと待って、聖剣がストライキって何事」


 トモの困惑する言葉に迷いのないサムズアップを向けるのは四刀流の男だった。まぁ、お前しかいないだろうな、という感想を抱き、良し、と頷く。


「っつーわけで軍艦パクって特攻しようぜ―――!」


「イエァ―――!!」


 物凄い軽いノリで作戦が決定された。


 否、こんなノリじゃないとやっていけない、それだけの話だった。勿論、自棄になっているというわけではないが、穏健派レジスタンスには既に”次”というものが存在しない。後がない。


 だったら、取り繕うだけ意味がないのだ。



                  ◆



「皆様ようこそおいでくださいました。解読、研究班のトップを担当させて貰っているマクスウェルです」


 拠点地下の研究室へと会議の後で到着する。そこへと向かったのは自分を含め三人、穏健派レジスタンスで唯一魔剣、或いは聖剣を保有するメンバーだ。普通に魔剣や聖剣を使っている自分達だが、やはり聖剣や魔剣は相当レア物らしく、一本でさえ見る事は難しい。それもそうだ、その大半は国によって管理され、然るべき使い手に手渡されて管理されているそうなのだから。故に今、こうやって六本も同時に揃っている光景は一種のありえないと表現しても良い状況だそうなのだ。


 白衣姿の初老の男、マクスウェルはそう教えてくれた。


「第一魔剣なんてものは好んで欲しがる者はいませんし、聖剣にしたってほとんどが聖国によって管理されていますからね、手に入れるにしたって大分手に入り辛い環境になってしまいました。一介の研究者としては是非とも調べてみたいものですが、それはまた今度にするとしまして、今は協力して貰いますがねぇ。いいでしょ?」


 グイ、っといきなり顔を寄せてくる姿に顔をそむけるが、その為に来ているのだ。


「勿論、協力しますよ。その為に俺達が来たんですから」


「うわぁ、聖剣使いさん超爽やか。モテそう」


「娼館ヒーロー聖剣使いさん」


「カモすぞ」


 四刀流とトモの背後でハイタッチを決めながら、腰からカルマ=ヴァインを抜く。それに倣う様に他の二人もそれぞれの武器を抜き、それをマクスウェルが急いで片付けたテーブルの上に並べる。それを一歩離れた所で、まるで脳内に焼き付ける様にマクスウェルが眺めている。


「……いやぁ、これは圧巻ですねぇ、約一本だけ邪悪な気配で溢れていますけど」


「お姉さん邪悪じゃないもん!」


 出てきた怨霊を裏拳で壁の向こう側へと叩きだす。それに一切気頓着する事無く、マクスウェルが白衣のポケットからモノクルとチョークを取り出し、部屋の隅から黒板を引っ張り、そこに数式等を書き込んで行く。どうやらこの世界、魔法や法則の解析には普通に数学や化学を使っているらしい。本当に妙な所でリアリティが酷いと、相変わらず思う。


「えぇ、えぇ。とりあえず軽い説明ですが、例の魔石爆弾は魔石という無属性に対して疑似的に”虚無属性”を再現する事であらゆる物質の強度や特性を無視して破壊を起こす武器を作ったというわけです。まぁ、魔石はそのままの状態だと無属性どころか、属性という概念すら保有していませんからねぇ、えぇ。虚無等の属性も比較的に再現しやすいです。まぁ、これ自体はアプローチとしては前々からあったわけですが」


 そこでマクスウェルが動きを止め、体を捻りながらポーズを決める。


「あ、寝ちゃ駄目ですよ。私、人に難しい話を聞かせる事に快感を覚えるタイプ何で」


「変態じゃねーか」


「昔は研究所で素敵な研究室にいたんですけどねー、お偉いさん相手に3時間ほど意味もない解説と続けた結果キレられて首になっちゃいましたよ。まぁ、常時上から目線で物理や化学の基本を織り交ぜての講義でしたんだけどね、やはりハゲる法則に関して教えて注意し続けたのが悪いんでしょうかねぇ」


「残当としか言いようがないなぁ……」


「良い空気吸ってるなぁ」


 まぁ、本題に戻っちゃいますよ、とマクスウェルが疑問形で言葉を投げてくる。


「えーと、つまりですね? ん、トイレ行きたくなってきたぁ……! 中断していいですか?」


 流石に裏拳を入れる。ついでにモーニングスターを創造し、それを振り回し始めたところでマクスウェルが命乞いを始めるので、解放する事にする。


「ジョークですよ、ジョーク! いや、まぁ、そんな訳で真面目な話をしますとね? この魔石爆弾が他の虚無属性の爆弾と全く違うのは変換効率から来るものなんですよ。与えられたリソースに対しての虚無への変換効率が驚く程高い。ここ、これ見えますか? 魔石の内側に立体的に数式と魔術式を交差させるように組んでいるんですよ。全部五種類の魔術体系、そしてそれを融和させるための数式が刻まれれているんですね。いやぁ、これを考えた人はもう、本当に天才ですよ」


 それじゃあ、と言葉を置く。


「何が難しいか、って話をしますね? って言うのも虚属性は”存在しない”って属性なんですよねぇ、これが。えぇ、存在しない状態です。それって簡単じゃね? って言う無学な人間が多い訳ですが、そうじゃないんです。何もない状態ってのはありえないんです、何もない虚空を指差した所でそこには目でとらええる事の出来ない塵が、そして酸素が存在する。ね、何も存在していないことなんてないでしょ? 属性を持たない状態だって虚属性じゃなくて無属性扱い。まぁ、更に複雑な属性で言えば魔神とか神格とかあるわけだけど特殊すぎるからそれらは全てスルーして、重要なのはこの虚属性はその性質故にエミュレートする事が物凄い大変で、魔術としても再現するのに相応の苦労が必要とされることなんですよねぇ」


 そこでマクスウェルはポーズを決め、


「ついて来れてますか……!」


「こいつウザイ」


『面白いキャラはしているわよね』


 それに関しては全面的に同意するしかなかった。ただマクスウェルは話を続ける。若干熱が入っているようで、しっかりと此方を見ている辺り、トリップだけはしていないから良かったとも言える。


「ともあれ、これで虚属性という属性がどれだけ特異であるという事を理解してもらえたと思う! ちなみに生物として先天的に得られる属性でレアなのは虚、聖光、星、幻、暗黒に時空の属性になるんだがね! このレジスタンスで言えば聖光はそこの勇者君が、虚属性はお侍君が、星は王国の王女様持ってたりするんだよね! ここら辺風とかいうホントクッソつまらない普通な属性を持っている内の殿下はホント皇家の出がらしだよね」


「殿下を死体蹴りするの止めましょうよぉ! 泣いている殿下もいるんですよ!」


「泣く前にノックアウトすればすべて解決。いやいやいやいや、そういう話じゃなかったねぇ。えーと、つまり虚属性は一部の特異属性と比べて再現が難しい為に、物凄い労力と変換効率の悪さが目立つという属性なんだよ。しかし、あの魔石に刻まれていた”式”は今までのそれを大幅に改善する方法だった。いやぁ、全く見た事のない数式だから驚かされたよ。正しく天才の所要って奴だねぇ」


『それ、きっとフォウル君の世界の仲間が持ち込んだ数式なのね』


 それで技術的ブレイクスルーが発生してしまったのだ。他の二人とも視線を合わせる事で同意し、そしてマクスウェルに視線を戻す。


「あぁ、だけどね、この私の方が更に天才なんだよねぇ。つまり解読し、解析するついでに改良する案を見つけちゃって、魔石以外にも適用する方法を見つけ出したってわけなんだよねぇ。まぁ、あまり難しい話を君達凡人にしたところで―――ステイステイ! 徹夜でちょっとテンションがおかしいだから許して! 九時間寝たけど」


 容赦のない腹パンがマクスウェルを床に沈める。そのまま三人と怨霊一人で床に沈んだマクスウェルの姿を眺め、復帰するまでの数分間を何もせず、無言で待つ。腹を抑えながら立ち上がったマクスウェルは小鹿の様に足を震わせている。


「ふ、ふふふ―――何も言い返せないねぇ……! これ以上追撃の腹パンが来る前にさっさと説明させて貰うけど、数式やら術の組み合わせ、その効果を説明しても難しいだろうし、効果で言えば”物凄い効率で虚属性を出力する”という事だと思えば良いよ。ただ媒体とする道具の耐久を物凄く要求するから、自分の属性が虚属性ではない限り魔力を食われるし、やっぱり魔剣や聖剣級の不壊属性を持っていなければ辛い」


 しかし、


「”空想の第三者に虚無を観測させる”という方法を取らせれば”虚無が、虚属性が存在する”という状態を生み出す事が出来る。これを行える存在を暫定的に悪魔と称する事で、この方程式を”マクスウェルの悪魔”とでも名付けよう。行われるのは君達の魔剣、聖剣を虚無属性に変換させる事を観測させる事。それを通して力を全て虚無の力へと変換し、あらゆる現象を無視して侵食、対消滅を行う事で空中城の破壊、侵食を行う―――オーケイ?」


 マクスウェルのサムズアップを受け、三人で視線を見合わせ、そして頷く。


「センセー! つまり空中城が落とせるって事っすね!」


「……イエス! そうですね!! マクスウェルの悪魔って名前かっこいいでしょう!!」


「かっけぇ!」


 人生、妥協も大事だよなぁ、と思った瞬間だった。



                  ◆



 魔剣や聖剣という武器、いや、兵器は”完成されている”という領域にある為、基本的には改造する事や機能の変更を行う事は出来ない。ただ、少しだけ干渉する事や加える程度の事であれば、今の技術力でも可能らしい。魔剣や聖剣の製造技術が失われて久しく、それでもその程度の事が出来るだけの技術は復活した。故に刀身に塗り込む様に式を刻む事で、一回限りの爆弾として使用する事が出来るようになるらしい。まぁ、それは完全に研究室のやる事で、難しい事は解らない。ただカルマ=ヴァインを預けても、


『お姉さんはいなくならないのよ』


 まぁ、魔剣とそして自分に取り憑いている様な存在なのだから、驚きはなかったのだが。ともあれ、カルマ=ヴァインは研究室に預けられた。しばらくは魔剣なしで戦闘を行う必要があるが、それに関しては得物を創造すれば切れ味と硬度以外では一切の問題がないので、良しとしておく。それに良い武器を使っていると、それに頼り気味になってしまう。カルマとの特訓ことを考えておくと、純粋に技量だけを伸ばす為に魔剣を一度手放して戦うのも悪くはない選択肢だと思っている。


「しっかし」


 地上に戻ったところで、四刀流の彼が口を開く。


「これってメインストーリーなのかなぁ」


「君はそれよりも手放す時に聖剣が七色に輝いていた事態に対してもっと深刻に考え得るべきじゃないかな。握り直したらストップの意味で赤い閃光を出しまくってたんだけど、なんで君の聖剣はそんなに多芸なんだ……?」


「メインストーリーか―――」


 この世界がゲームである事を考えれば、メインストーリーがある様には思える。が、これが本当にメインストーリーなんて言えるのだろうか? 言ってしまえばアレだ、メインストーリーにしては展開が早いし、そして規模が軽い様に思える。この世界にはもっと深淵に潜む怪物が存在する。それこそ皇帝や国王よりも強い、そんな怪物が存在しているのだ。


『魔王や邪龍がその最たる例よねぇ魔王なんかは各国で協力したのに一人で軍隊を蹴散らす様な怪物だったし、邪龍に関しては文字通り世界が終りかけたとか。今、フォウル君の記憶を借りて言葉を選ばさせてもらうなら、”調整を間違えたバランス”とでもいう奴かしら』


「魔王に邪龍なんてまで存在するのかよ」


「その厨二ソウルを疼かせるキーワードは一体」


 四刀流が目を輝かせながら此方へと視線を向けている。自分で説明するのも面倒なので、近くの空間に手を伸ばし、そしてぐっと手を掴む。


『ひゃぁっ!?』


 掴んだ。


「そぉい!」


 そのまま虚空の中からカルマの霊体、その足の部分っから引っ張り出し、その姿を二人の前へと持ち出す。空中で回転するカルマが若干焦ったような姿を見せながら姿勢を安定させ、此方へと視線を向けてくる。


「普通に呼べば出てくるのに!」


「普通に呼び出したら負けかなぁ、って」


 幽体への物理干渉ができる事もテストしたかったし。そんな訳で普段着姿のカルマを位相空間から引きずりだすと、二人は驚いたような表情を浮かべてフリーズしているのでその間にカルマを指差す。


「我が魔剣に宿りしポンコツの精」


「違います。お姉さんは魔剣カルマ=ヴァインに宿る怨霊よ! と言っても何も恨んでないんだけど! 魔剣が生み出される前からの出来事を記憶しているから結構なんでも知ってるわよ! えっへん」


「……流石魔剣聖さんというか、うん、やっぱり魔剣聖さんの周りって面白い事ばかり起きているよね。なんかズルイ。まぁ、聖剣四姉妹の境遇に比べればそこまでじゃないんだけどな!」


「お前の聖剣だろ!! いい加減普通の扱いをしてやれよ」


 四刀流はそこでやれやれ、と肩を振る。


「いいかな―――あの聖剣は四つで一セットの仕組みなんだ。柄の底を繋げる事でダブルセイバーが二本という形になり、また変形する事で合体させ、一本の大剣にだって変化する事もできる。男のロマンだ。素晴らしい機能。夢の中で涙ながら訴えられた内容だ。だ! け! ど! ネタで使ってる方が遥かに楽しいんだよなぁー。今度聖剣コプターで空を飛んでみるから練習に付き合ってくれよ」


「もう既に泣かれてるじゃねぇか!!」


「懇願されてるよ!」


「まともな人に抜いて貰ってお姉さん幸せ者だって気づけたわね。こんな記憶収集したくないわ……!」


 なんというか、もはやこう、同情とかそういう感情しか抱けなかった。かつて、ここまで悲惨な目にあった聖剣が存在したのだろうか。闇落ちとかならそこそこ存在するらしいが、まともに使ってくださいと夢にまで出て懇願するのはおそらく、歴史の中を見ても快挙ではないかと思う。おめでとう四刀流、間違いなくお前はこの世界の歴史に名前を残した。それもおそらく、誰もが目をそむけたくなるような方法で。もはや王族相手に全裸で殴りかかる様なシチュエーションじゃないと超えるインパクトはない様に思える。


 ―――こいつならあり得そう。


『否定できない』


 四刀流は化け物か、いろんな意味で。


「ってそうじゃない。話が脇道に反れまくったや。なぁ、なぁ、魔剣聖さんに聖剣使いさん。ちょっと今、時間ある? 何もないってならちょっと話に付き合ってほしい、というか話があるんで付き合ってください。でもノンケです」


 最後の一言は間違いなく余計なのだが、特に否定する理由もないので、聖剣使い共々、軽くオッケーを出すと、んじゃ、と四刀流が言う。


「実はさ、少し前からこっちに……つまり穏健派のな? 内部にいるプレイヤー調べたりアンケ取ってたりしてんだよ。基本的にお前らどうしてんの? どういうプレイがいいの? とか何がしたいん? とかさ。んで今までやってきたことと今の状況比べてどう思ってる? って感じに聞くと全員こう言うんだわ、”楽しい”って。やっぱアレどぁ。これがメインストーリーであれ、そうじゃなかれ、集団で何かをやるって感じのに俺ら飢えてるんだわ」


 その気持ちは解る。実際、普通のRPGではなくMMORPGの類に手を出すのはゲームを通じた”交流”を求めているからだ。MMOというゲームジャンルは努力をすればするだけ、その努力が反映されていながら、自分以外の存在、生きている存在の協力が不可欠であるという事だ。そういう存在との協力を通して一緒にいる、努力している、通じ合っている、そういう感触を得るのがMMOの醍醐味でもある。VRMMOというこのゲームのジャンルは、それを受け継いでいる。圧倒的なリアリティにリアルな登場人物達、そしてそこで頑張るプレイヤー達。NPCと協力するのもいいが、やはり大きな目標へと向かって、プレイヤー達が団結する事、それが一番楽しい。


「まぁ、そんな訳で結構皆やりがいを感じている訳だけど、これ、作戦が成功しようと失敗しようとレジスタンスの解散と同時に俺らもバラバラになっちまうだろ? それってなんか勿体ないし、折角こうやってつながった出会いをそのまま放置するってのもアレだし、レジスタンスに参加しているプレイヤー連中でクランを組まない? って感じの話をしてるんよ」


 クラン、それは他のゲームで言うギルドの様な集団だ。特定の目的を持った人たちが集まり、集団としてそれを達成する為に協力する。そういう考えで良い。パーティーを更に大きくした、という認識でも問題ない。それがクランという集団。フレンド相手だとメッセージが遅れる様に、クランとなると共有のチャットみたいなのが行え、何処にいてもクランメンバーどうしで意見の交換などが行える。


 まぁ、そこらへんは多くのMMOとあまり変わらないシステムだ。今更思い出すような内容でもないだろう。重用なのはクランに自分達を誘ってきている事だ。


「いいのか?」


「いや、寧ろ聖剣使いさんとか魔剣聖さんとか歩くだけでイベントに遭遇する様な面白系の人達を囲って俺達でイベントに特攻しようぜって感じの流れだから。っつーわけで、クランの結成を考えているけど、どうよ!」


 そう言ってポーズを決める四刀流の姿を見てから隣のトモを見る。そこで数秒だけ考える。


「……ウチのパーティーメンバーと話を通して、あの二人と……あと一人、そいつからオッケーが出れば問題ないかなぁ」


「こっちもパーティーに相談する必要があるけど、それさえクリアすれば面白そうだし、一切問題ないね」


「マジか? やったな! 帝国滅ぼした次は聖国か!」


「帝国は滅ぼさせないために戦ってるって事を思い出せよ!!」


 ツッコミと共に笑い声が響く。こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ笑っている。そんな気がする。


 冷静に考えると、穏健派レジスタンスは追いつめられている。襲撃でもされれば再編が不可能に近いというレベルで。それは単純に過激派、そして帝国軍との兵数、戦力差から来る問題だ。だけれど、それでも、


 後がないからこそ、笑う。笑い、本気でふざけ、本気で達成するべきなのかもしれない。


 とりあえずは、


 こうやって馬鹿をやっている間は特に責任感や全滅の気配はない。心は軽く、そして闘志で燃え上がっている。解っている、胸の業はきっと、落ち込む様な事を自分には二度と赦しはしない。それでも良い。


 この先に、道があるのなら。

 タイトルで解るギャグ回。四刀流の人はホント頭おかしい。


 そして支援絵を頂きました。URLと詳しくは活動報告にのせたので、是非ともそっちの方を確認お願いします。ホント素敵な物を頂いたので。


 モウカエッテコナイカコ……

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