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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-革命軍編
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四十七話 殺戮帝国

(ひと)(ふた)()ィ―――」


 真っ先に言葉を作った。


()ォ、(いつ)ゥ、(むう)ゥ、(なな)ァ、()ァ、(ここの)ォ、(たり)ィ! ―――布留部(ふるべ)由良由良止(ゆらゆらと)布留部 (ふるべ)


 ひふみ祝詞を紡ぎ、今までにない神格を呼び寄せる。胸の内の暴力的な衝動。それを言葉にする事は出来ない。ただあるのは破壊への想い、そして愛。悲しい。ただただ悲しい。こんなくだらない事で人を殺さなくてはならない事実に心が痛む。彼らには未来があった。紡ぐべき物語があった。だがそれはもうありえない、幻想として砕け散ってしまった。もはや叶わない願いなら、全てを破壊し、そして救ってやるしかない。


「災厄の化身よ、叢雲の龍よ。水害とし、神代を恐怖に落とした神よォ、汝の力をここへ、畏み畏み申ォォす!」


 それに―――神格が答えた。自らの背後に、巨大な幻影が、或いは影が出現する。それは現代では水害の神格化された存在であると言われる、八ツ首の災厄。英雄に討たれてなおその名を轟かせ、信仰を得る神代の怪物。振り上げたカルマ=ヴァインの属性が神格の属性に染まり上がり、この瞬間だけは魔剣が全く別の力と存在を得る。それを理解しつつ神格を剣に宿すように、剣と共に神格の一撃を放つ。


「―――天叢雲(あまむらくも)八岐大蛇(やまたのおろち)


 刃が振り下ろされるのと同時に、剣を基点に八つの水流が刃として空間を疾走し、その直線状にある存在を全て切断した。その水流はもはや神代の金属でさえも両断する最強の刃、触れられるのであればなんであろうと切り裂くであろう、古代からの恐怖。怒りと悲しみ、そして目の前に発生した大量の死、それを供物として呼び寄せられた八岐大蛇の力が蹂躙する。避ける事も防御する事も出来ない。閃光の速さで駆け抜けた水斬は一気に四十人ほど斬り殺す。それをそのまま横へと引っ張る様に薙ぎ払う事でキメラと化した者達の胴体が切断され、体が吹き飛ぶ。接触した者はたとえそれが水斬の端であろうと、肉体を大幅に抉られ、致命傷となって死滅する。百人ほど殺したか。そう思った直後、その数を埋める様にキメラが雪崩込んでくる。そこにはキメラだけではなく、純粋なモンスターの姿まで混ざっている様に見える。


「ヒュー! やるねぇ、こりゃあ俺も負けてらんねぇわ。仕事しってねぇってどやされたくないしな」


「なら喋る前に殺してやるが良い」


 八岐大蛇が消えて行くが、それによって切り開かれた道に一線の赤が走る。焔が直線状に走った直後、そこから炎の手が伸びる。まるでその炎が異界への扉の様に作用しているようで、炎の腕が亡者の様に敵を掴み、それを引きずり込む様に炎の中へと掴んで、持って行く。そうやって灰も残さずに勝手に攻撃を開始する。同時に炎が爆撃の様に輝き、広範囲に爆熱と衝撃を叩き込んでいる。戦場、それも対多数という状況だとやはり、この女が圧倒的に輝く。その殲滅力は他の何よりも素晴らしく輝く。殺し、燃やし、そして炎に巻き込まれて死んでは広がって行く。


 疫病の様に広がる炎はひたすら虐殺を行うのに適している。誰かしら独りでに燃え移って広がる。それだけの事だが、殺す、或いはダメージを生み出すという事を考えるのであれば、これほど有効な属性も存在しない。炎は確かに創造を生むが、それでもその比率は圧倒的に破壊へと偏っている。故にキャロライナが放った爆炎は場所を指定しており、互いの位置が重ならない様に指定されている。爆炎が重ならない事、そして炎が燃え広がる事、それを計算された放たれた破壊は広範囲に炎を撒き散らし、業火による地獄を生み出す。苦悶の声が合唱の如く響く。


 その中へとレストが入り込んで行く。


「ヒャッホーゥ! バンザーィ!」


 すれ違うだけで死体が生み出される。レストの両手を確認すれば、その指の間に、かぎ爪の様にナイフが握られているのが見える。すれ違いざまにそれを急所にひっかけ、抵抗もなく沈め、そして抜ける。それだけで敵は死んで行く。あまりにも力量が違う。それだけの話だ。どんなに体が硬くても、圧倒的技量の前にはそれを意味をなさない。殺すという一芸に特化した男にとっては硬度は意味をなさない、故にキメラであろうと人であろうと気にはせず、そのまま通り過ぎて殺すだけ。そうやって通り過ぎながら殺す為、通り魔。そう、そう言うスタイルで殺している。ただ、その動きは敵が殺到するのと同時に熱を失い、更にアクロバティックになって行く。


 生命が消失されて行く為に、レストの存在が人間として捉えられなくなって行く。生命がない。それはつまり死体と同じ―――物体と同じ、道端の石と変わる事のない存在になる。そんな存在に意識を向けるのは、達人とも呼ばれるほどに気配に対して敏感ではないと正しく見る事が出来ない。故に、ただ通り過ぎるだけで死んだという事さえも理解できずに、ドンドン死んで行く。それは最初はナイフで行われ、今度は発動した、気配の存在しない影魔法が床一面を刃の様に覆い、通り過ぎる相手を解体して行き、


 動きが加速する。体がドンドン黒く染まって行き、全身そのものが影となり、すれ違いざまに体から伸びる影の刃が周囲の存在を切り刻む。


「ヒィ―――ヤァ―――ッハァ―――!」


 叫びながら両手に握られる刃の形をしたナイフが的確に急所を切り裂いて解体する。最小限の労力で殺すのではなく、完全に殺す事を決定させるために、必ず両断という形で殺しきる。それもキャロライナの炎によって燃えていない場所へと向かって接近し、逃げようとする者から迷う事無く殺して行く。燃え広がる炎は殺す為だけではなく、追い込む為の物でもある。


 そうやって地獄が形成される中で、刃を振るい、そして呼ぶ、


「救われぬ者達に救済を―――ヴァルキリー」


「死の先を行く者達よ! 我がエインフェリアよ! 集え、我が号砲の下に!」


 魔法陣を砕いて出現するヴァルキリーはレギンレイヴであった。そうして登場した彼女が槍を振るうのと同時に、その背後から十数の半透明な姿が出現し、その姿はドンドン色濃く、そして密度を増して行く。


「何百年ぶりの出勤だこりゃあ」


「ぼやいてねぇで出番だ、戦うぞ」


「戦争だ! 戦争の時間だ! 戦うぞ、戦うぞ、戦うぞォ!!」


「ヴァルキュリヤ・レギンレイヴ、エインフェリアと共に参上! 行くぞぉ―――!」


 前進するレギンレイヴに合わせ、英霊達が前進する。一瞬でトップスピードに到達した英霊達が正面から敵の集団とぶつかり、そして敵のみを完全に吹き飛ばした。泣き声と悲鳴の中に、英霊達の叫ぶような笑い声が聞こえる。狂った時の中でひたすら毎日戦女神と共に鍛錬を重ねてきた英雄たちが、武神達がその長剣を、大剣を、弓を、槍を、盾を、斧を、杖を、それを振るって一瞬で敵をひき肉へと変えて行く。


「殺せ! 殺せ! 殺せ!」


「闘争の時よ! 皆殺しにしろ!」


 キメラ化した人々の虐殺が更に加速する。体から消費される魔力が加速される。意識を持って行かれそうなのを堪え、意図的に体を衝動に任せる事で、それで精神的衝撃を上回る。意識が業に侵食されて行くのを理解しつつ自分の意思を保ち、そして、


 刃を振るう。


「―――!」


 一瞬だけ目視した閃光が切り払いと共に消えた。完全にキャロライナの背後から襲い掛かって来たその存在、それを直感と経験任せの一振りで退散させ―――二撃目が来る。全く視界に映らないそれを予測と経験で再び切り払う。硬質な金属の感触で切り払えた事を理解する。その主を求めて敵を探すが、


 周囲には大量の肉片と血と死体が”舞っている”状態だった。爆炎や衝撃、それを受けて大地に叩きつけられたはずの物体が地面から跳ね上がっているのだ。これが地上であればそんな現象は発生しない。だがここは地下、そして密閉された空間。震動は金属製の床を伝達する。故に、肉片や血が空へと飛んで舞う、そんな吐き気を催す様な光景が繰り広げられる。


「狙われてるぞキャロ!」


「心得ている。此方側からも来た」


 片目をキャロライナの方へと向ければ、彼女へと向かって異形の剣士が死体を解体しながら向かって来るのが見える。腕が四本、骨格に直接金属が生えた様な姿でありながら、その金属の鎧には生体的な目が何十と生えている。それは四本の腕で握る剣を使い、


 キャロライナの炎を切り裂いて迫ってくる。


「だが通さないんだな、これが」


 それを横からレストが蹴り飛ばし、すれ違いながらに全ての眼に影のナイフを突き立てた。その姿を炎が貫き、蒸発させた。


 だがそれはただ一体に過ぎない。数は大きく、ヴァルキリー達の奮闘によって減った。だがそれでも、まだ大量に出現しているというものが事実だった。これだけの数がここに存在したか? そう疑うのも一瞬、感じる悪寒に斬撃を三連撃繰り出す。


 目の前でナイフが五本砕けるのを認識しつつ、肩と太ももに一本ずつ、キャロライナへと向けて放たれたそれを庇う為に喰らう。ち、と舌打ちをしつつ、血霧の中へと隠れる存在を眼で追おうとし、そして止める。相性の悪い相手がいるらしい。となると、そういうのは後回しにしてしまえば良い。それよりも対処してしまえる事に対処する。


 無限に出現し続ける敵のからくりをカルマの経験から憶測を立て、そして判断する。


「召喚陣を破壊しろ!」


 レギンレイヴの片目をジャックする。それを通して、一瞬で召喚陣の位置を把握させ、薙ぎ払わせる。爆裂と共に魔法陣が吹き飛び、”どこからか”召喚されていたキメラやモンスターの流入が完全に停止する。それと共に、レギンレイヴとそのエインフェリア達も役割を果たす。消えて行く姿を追いかけている暇はなく、二刀形態へと変化させたカルマ=ヴァインで血霧の暗殺者からの襲撃を抜ける。


「チッ、やるな」


 レストの声からして、どうやら強敵と―――血霧の暗殺者と同クラスの存在と相対しているらしい。レストからの支援は期待できないな、と思いつつ印を組もうとした瞬間、


 ナイフが面を制圧する数で襲い掛かってくる。


 舌打ちしながら斬撃を絡ませるように振るい、衝撃波として面を殴りつける。そのまま反撃しようとした瞬間、キャロライナへと向けてナイフが投擲されるのを感じるが、


「いい加減にしてもらおうか」


 それキャロライナが縮地で飛び上る事で回避し、ノーアクションで天井が炎で覆われる。天井を覆った炎はそれから豪雨となり、天から炎の雨を降り注がせる。僅かに炎に対して耐性を持つのであれば痛みを伴うものではない。実際、魔剣によって侵食され、その”呪い”で強靭になってる肉体と、カルマに近づいているこの肉体では炎の通りが悪くなっており、全く通じない。レストも完全に影化しており、炎は体を貫通するばかり―――ここにいる上位キメラ種も通じはしないだろう。


 だが血や肉片はそうでもない。


 散乱していた血や肉片がそれによって清められ、蒸発して行く。そういう細かい障害物であれば関係なく浄化、蒸発させられる。それによって戦場は一瞬で腐臭溢れる環境から炎の舞う、清浄な地域へと清められる。そしてそれによって、血霧に隠れていた暗殺者の姿が見える。それは獅子の鬣の様な金髪を持つ、青のツーピースドレスの女だった。他のキメラと違い、明確に人の姿を残してはいるが、


『姿が見えれば殺せるわよね』


 見えた姿へと踏み込む。ナイフが投擲されるが、その初動が見えているのであれば、先程とは環境が全く異なる。二刀の刃を大剣の状態へと戻しつつ、片手で印を組みながら切り払う。隠れ蓑というアドバンテージが消失した今、攻撃に対する対処は遥かに楽になり、


「太! 極! 陣ンッッ!」


 万仙陣を飾る陣の一画が戦場に広がる。その効果は単純にして明快、仙人が足を縺れ、倒れる。それはつまり、”全ての力が失われる”という事を意味する。故に血霧の暗殺者から力が失われる。投擲されるナイフは速度がゼロになる。跳躍する力は消え、大地から足を離せなくなり、下へと向かって落ちて行く。移動しながらの発動であるため、太極陣は直ぐに砕ける。だがその前に暗殺者の下に到着し、


 刃を振る。


「チィ―――」


「―――ふ、フフフフ、アハハハハハ―――」


 発情した牝の表情で狂う様に笑っている。


 太極陣が切れるのと同時に、指の間に挟まれたナイフを避け、その時に使用した踏み込みの足、それに暗殺者の尻尾が引っかかる。犬の様な尻尾は此方を動かす事はないが、彼女の体を動かすには足る力はあった。それで髪を切る程度に被害を抑えた暗殺者が、再び逃れる様に跳躍し、


 彼女に背を向け、


 視線を展望室へと向ける。


 彼女から離れ、そして距離を取る瞬間を待っていた。


「おぉっとぉ」


 完全にキャロライナも自分もフリーになっており、レストが妨害をさせない様に、一瞬で滑り込む様にカバーに入る。


「ディーフェンス! ディーフェンス! そしてオフェーンス!」


 その瞬間に左手で印を完成させ、そしてキャロライナも髪に炎を纏わせる。そうやって両者で完成させた術を叩き合わせ、そして融合させ、制御権を此方で受け、そして引き出す。


「来たァれィィ、天照ゥ大神ィィィ!!」


 白髪に、白いぼろぼろの着物姿の女が静かに、そしてゆっくりを出現する。まるで一人だけ、隔絶された時の中で生きる様に、その足の歩みは遅い―――だが他の生物の数千倍は早く、それを目視できている事はやはり、違う法則が渦巻いているという事に違いはない。誰も反応できず、誰も動くともできず、気付いた者はそれを見ているしかない。


 完全に支配された世界の中で、伏せていた顔を、天照大神は持ち上げ、一滴の涙を流す。


「外道、死すべし」


 閃光が一瞬で展望室を襲った。あらゆる素材を、防壁を、法則を、現象を無視し、太陽の熱が全てを蒸発させ、後になにも残す事もなく消滅させた。圧倒的力と暴力。それこそが主神という存在を飾るに相応しい言葉。しかし、それも結局は神の気まぐれに過ぎない。主神なんて存在は気に入らなきゃ出現しない。看過できない状況じゃきゃ出現しない。自己中心的な存在の見本と言っても良い。故に天照大神が出現したのも、この様な非道を許す事が出来ないという理由でしかなく、それ以外の理由で召喚しようとしても、力の一部を使わせる程度降臨することなどないだろう。


 太陽の光が消えるのと同時に消えた天照。殲滅した展望室から視線を外し、背後へと釣り変えれば、そこにはレストの姿しか残っていない。完全影化も解除されており、影化を解除したその姿は真っ赤に血の色で染まり切っていた。その片手には首の折れたあの金髪の血霧の暗殺者が握らており、それを床にレストは投げ捨てる。


「多少はやるって感じだけど、殺せねぇって訳じゃねぇな。これぐらいなら奇襲されても対処できるな」


 そう言った直後、首が折れた状態で暗殺者が動いた。ボロボロのドレスと体を引きずりながら一直線に此方に跳躍し、


 呼吸の間に張り込み、首から胴体、そして足へと斬撃を流す様に三分割して解体した。後ろでバラバラになって倒れる音を聞きながら、刃を振るい、魔剣から血を剥がす。視線を周りへと向けると、キャロライナが炎で焼き払ったとはいえ、酷い光景が広がっている。地獄の様な風景を目にして、胸に上がる感情は、


 ”勿体ない”だった。


『だいぶ進んだわねー』


 カルマの声に反応し、手が滑る様にステータスの確認へと向かう。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:63

  体力:64

  敏捷:62

  器用:70

  魔力:66

  幸運:58


 装備スキル

  【魔人:35】【創造者:35】【明鏡止水:35】【支配者:35】

  【血戦血闘:36】【高次詠唱術:30】【魔剣保持者:20】【侵食汚染:24】

  【咎人:25】【業の目覚め:25】【剣聖:17】【聖者:17】【斬打突花:19】

  【英雄喰い:13】


 SP:43


 【咎人】と【業の目覚め】がかなりがっつり、と言えるレベルで上昇していた。どちらもその理由は良く解っている。今、目の前で大量の人間を殺した事、そして同時に衝動を抑えなかった事だ。それが原因で間違いなく両スキルは上がってしまい―――そして侵食率も上昇している。最適化深度二割、まだまだ始まったばかり、という所だが、一割を超えて髪が伸びたりしているのだから、別の変化を警戒すべきなのかもしれない。強くなるのは良いが、自分を見失わないように気を付けないといけない。まぁ、強くなるのはいいのだ、強くなるのは。


「さて……どうするか」


 ステータスを消しながらそんな事を呟くと、レストが肩を揺らす。


「何をするって……そりゃあ普通はここら辺で資料の探索とかを行うもんだけどな。あとは捕虜を捕まえて尋問とか、なんで俺達の侵入がバレたとか……まぁ、もう出来ないけど」


 視線を展望室だった場所へと向ける。もはやそこには溶けた残骸しか残っていない。もう既に冷えて固まってはいるが、何かが調べられるようには一切思えない。ただ通路は見える。故に跳躍し、展望室のあった場所へと一回の移動で接近し、通路の中を覗き見る。その先には通路が続いており、下へと潜って行くのが見える。おそらくはあの牢獄の大部屋、そのどこかと繋がっているのかもしれない。いや、今思えば牢獄、というよりは実験場に近い感じなのだろうが。ともあれ、ここを調べて益になりそうなものはない。


 大体の敵は皆殺しにしてしまった今焦る理由は―――ある。援軍やらでもし、十三将クラスが到着すれば、流石にこの疲労では殺される確率が高い。となると素直に脱出するのが一番に違いない。ふぅ、と息を吐き、鬱々として自分の中の空気を掃き出し、軽く左手で自分の頬を叩く。頬に血を感触を感じるが、それを無視して気分を入れ替える。


「んじゃ、脱出前にここ爆破するぞ」


「お、待ってました! 職人芸を期待しているぜ」


「放火は得意だ、まずは任せろ」


「俺も爆弾を設置するか」


 カルマ=ヴァインを納刀しつつ、両手で印を組む。まずは天井を突き破って青竜が降臨する。次のまた違う所から天井を突き破って朱雀が出現し、壁を粉砕しながら玄武がゆっくりと、部屋全体を揺らしながら出現し、そして床、というかもはや地下から飛び出す様に白虎が出現する。それぞれに手を向けて指示を出す。


「青竜はあっち、朱雀はあっち、白虎はあっちの方で、もう玄武は解ってるよな?」


 吠える様に四聖獣が応答し、壁や天井を粉砕しながら去って行く。もうこれだけでこの施設終わりなんじゃないかなぁ、と思えるが、この鬱々とした気分を完全に吹き飛ばすには、色々とネタが足りない。つまりネタ成分を補充する時がついに来た。そう、ついにヴァルハラの神々の悲願を達成する時が来たのである。


「カモン! ロッキィ―――!」


 召喚し、優男の姿が見えた瞬間、背後から掴み、一言もしゃべらせる前にジャーマンスープレックスで頭を鋼鉄の床に中に埋める様に叩き込む。幸い、白虎が穴を開けてくれたおかげで埋める為の穴には困らない。ロキを埋めたところで氷魔法で密封し、そして横で別の作業を行ていたキャロライナへと視線を向ける。片膝と手を床に着ける様に待機していたキャロライナは立ち上がりつつ、銀色の比率が多くなっている髪を揺らす。


「研究所各所に連鎖爆破する爆弾を仕込んでおいた。これで破壊を起こせば、研究所全体に連鎖して爆破する様になるだろう」


「職人の仕事は早い。なお俺に破壊工作の技術はない」


「はいはい、それじゃあ青竜さんが穴を開けてくれたんでそっから脱出するか」


 上へと視線を向ければ、大穴があいている。素早く印を結べば、それに反応して幻狐が出現する。七本の尾を揺らす幻狐の姿はもはや軽自動車サイズは存在する。その背中に飛び乗り、キャロライナとレストが尾の上に座り、まるで重さを感じさせない跳躍で一気に青竜の開けた大穴を通って、上へと向かう。


 上へと移動する合間、ちらりと背後へと視線を向ける。


 荒れ果てた実験場の姿に、軽い違和感を覚える。


 何かが足りない。そんな気がする。


『暗殺者ちゃんの死体じゃないかしら』


「は? ―――あ」


 カルマの言葉通り、金髪の暗殺者の姿を探しても、その姿が見つからない。確実に両断した覚えはあった。なのにまさか、まだ死んでいなかったのだろうか。だとしたらなんという生命力だろうか、呆れる他ない。しかし、ここまで来るともう何もできないだろう。そう思い、視線を外して前を見る。


「お―――い―――」


 下から声が聞こえるが、それをガン無視して地上部分へと戻り、そのまま粉砕された壁を抜け、そして研究所の敷地を囲う壁の向こう側へと飛び越える。そうやって研究所の外へと出てきて離れたところで、


「さよならロッキ爆弾起動」


 そして爆発した。


 凄まじい爆破が発生し、連鎖する様に連続で爆発しながら四つの巨大な爆発がキメラ研究所を襲う。完全にダンジョンレイプの状態に移行しているが、爆発は終わらない。十、二十、と連続で爆発し、地上に建築材等を吹き上げる様に爆発を繰り返しながら、大地へと姿が沈んで行く。


「いやぁ、やっぱ派手にやるのはいいなぁ……」


「やはり爆破解体と放火は心が躍るなぁ」


「これこそロキの有効活用」


 友情を感じ、三人で軽く握手を交わしつつ、満足げに崩壊したキメラ研究所跡地を眺める。これでキメラ研究所は消えたわけだが、


「……ここだけ、って訳じゃねぇんだよな?」


「あぁ、キメラ研究所自体は複数存在する。今潰したのはそのうち一つで、レジスタンスが捕縛されているって言われてた場所なだけだ。ぶっちゃけキメラ研究所自体は複数あるし、今回召喚陣から流入しているのを見れば、どっかと繋がってる―――いや、間違いなく繋がってるわ。それなりの数を虐殺したからしばらくは”仕入れ”に忙しいだろうし、動きが派手になりそうならルートを辿ってみるぜ」


 ま、とレストは言葉を置く。


「おたくらとの共同戦線、楽しかったぜ。また機会があったら楽しくやろうや」


 そう言ってレストは背中を向けて荒野へと向けて歩きはじめ、影を纏い、その中へと沈んで行く。その姿が消える一瞬、その体から狼の耳と尻尾がはえたような、そんな気がした。見間違いかもしれないし、重要な事でもない、影の中へと消えてしまったレストの姿を見てから、視線を外し、再び研究所へと視線を戻す。そこでたくさん殺した事を、その無念を胸にしっかりと刻む。


 殺した分だけ生きなくてはならない。


 殺した分自分は輝かなくてはならない。


 殺せば殺した分だけ、その魂と業を背負って行く。咎人として両足を大地につけ、生きる事を強いられるのだ。故に罪科を重ねても前へと進む必要はある―――思考が過激に加速される。それを意思の力で踏みつぶしながら、関係ないと頭の中で叫ぶ。背負う魂なんてここには一切存在しない。我は我、彼は彼。そんな風に背負う様に考えれば潰れるのは自分でしかない。忘れろ、阿呆め。


「なんつーか、助けに来たのはいいけど、結局は失敗っつーか、何か中途半端な結果で終わっちまって不完全燃焼だな」


「ふむ、まぁ、そんな事もあるだろう。さて、一応追われているかもしれないからランダムに移動を繰り返し、外で一泊し、そして帰還するという形だったな」


「直ぐに戻ってつけられていた場合悲惨だしな」


 元々それに関しては相談済みであり、そして合意している。故に特に言い争う事もない。軽く息を吐きながらキメラ研究所に背を向け、インベントリの中から周りの風景に合わせたマントを取り出し、それを被る。キャロライナも同じ様なマントを取り出しており、それを被って風景に参れるようにしている。キメラ研究所から逃れる様に、歩き去って行く。


「そう言えばキャロライナって髪の毛が赤くなったり銀色になったりするよな」


「私は精人だからな、気質や属性に影響されているだけだ。本来は銀色なのだが、炎の属性が高まったりすると赤く染まったりする訳だ。ただ属性とは関係なく感情が高ぶったり、すると属性よりも種としての形に引っ張られ、髪色が銀に引っ張られる。普段は意図的に調整してグラデーションやら混ぜたりしているのだが―――」


 マントの端から見えているキャロライナの髪色は銀色だった。


「見ての通り昂っているからな」


「まぁ、確かに興奮はしているよな」


「もしノリで今夜襲い掛かってしまったらすまんな」


「冷水をしこたま出すから勘弁してくれよ……」


 冗談やら軽い言葉を交わしつつ、レジスタンス拠点へと戻る為に必要な行動を開始しつつ、キャロライナと他愛のない会話を繰り広げる。警戒しつつもそうやって言葉を交わしあい、時間を潰しつつも、感じる事は多く、そして理解できる事もあった。


 帝国の闇は深い。


 まだ、帝国の闇の底は見えていなかった。

 フォウル君の侵食は続く。研究は続く。戦いは終わらない。俺の愉悦も終わらない。ロッキの爆破も終わらない。フォーエバーロッキ、グッバイロッキ。


 露骨にエロい話に持って行くのは嫌いなんだ。ネタならいいけど。

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